巣窟日誌

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異端パワー あるいは本のタイトルのつけ方

2004-04-21 19:57:34 | 日記・エッセイ・コラム
ある1冊の本が出版されるときに、その本のタイトルや文体は誰がどのような判断に基づいて決めるのだろう。

去年の今頃、わたしは共著の『異端パワー』を日本経済新聞社から出版する直前で、最終校正をしていた。

この本に関しては、満足度は25%ぐらいだ。実はわたしも、共著者でわたしの大学院の師である林吉郎氏(以下、「きっちょむ先生」と呼ぶ)も、絵や図がもっと入った「経営の本」らしからぬ本を作りたかった。文体としては、もう少し著者らしさが出た文体にしたかった。

でも、日経の「新しい経営シリーズ」の一つとして出るからには、文体も体裁も同シリーズの他の本とそろえる必要があった。

さて、出版直前に大問題となったのはタイトルだ。タイトルに「異端」の文字を入れることにこだわったのは、編集者だった。最初は『異端児が変える組織』とかいう、タイトルを提案されたと思う。

わたしは「異端」の言葉が、わたしたち著者が意図するものと違うものを連想させるとして、反対した。が、編集者としては、本の内容が地味だったために、日経の読者層に売るためには、インパクトのあるタイトルをつけなければならないと考えてくれたに違いない。

彼は「異端」ということばにこだわり、最終的には編集者の希望を受け入れ、編集者の提案する『異端パワー』となった。このタイトルで妥協しない限り、遅れに遅れていた出版がさらに延びることになってしまう恐れがあった。きっちょむ先生もわたしも、これ以上この本に関わっていては、他の事ができないと感じて、いい加減にカタをつけたかった。

実はその段階では、出来上がった原稿の中に、「異端」という言葉は、ただの一つも入っていなかった。タイトルに「異端」の字があるのに、本文にその言葉が一回も出てこないのは、おかしいだろう…ということで、きっちょむ先生は、あわててゲラ刷りの中の「異質」の文字のいくつかに赤を入れ、「異端」の文字に直した。

日経が狙う層には、『異端パワー』というタイトルこそが、相応しいものなのだろう。他のタイトルだったら、もっと売れ行きが悪くなったかもしれない。(大学院時代の仲間たちから「かわいそうに。あのタイトルは、著者が考えたものであるはずがない」と、出版後に同情されることになったが。)

アマゾンにこの本のレビューを書いてくれた人がいて、「『異端』とすることに抵抗を感じた」という記述があるのに、苦笑してしまった。そう、実は著者のほうが「異端」とすることに、抵抗を感じているのだから、レビュアーが感じるのももっともなのだ。

それから、本のカバーにあるMaverick Shiftという英文は、英語としては正しくない。通訳や翻訳をやっていた手前、変な英語は使いたくないので、あらかじめわかっていれば削除したのだが… カバーデザインのPDFファイルを見せてもらったときは、あの英語はなかったのだ!

とはいうものの、本当は編集者には感謝している。なにしろわが道を行く著者が2人もそろっているので、著者の意向だけに任せていたら、本は永遠に形にならなかったかもしれない。伊藤さん、ありがとう。