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巣窟日誌

お仕事と研究と私的出来事

朝日のM・デルの写真にみるエグゼクティブの写真の撮られ方

2004-06-05 15:25:55 | 異文化コミュニケーション
本日(2004年6月5日)の朝日新聞be(土曜版)のビジネス版に、デルの会長であるマイケル・デル氏の記事が出ていた。記事の内容はともかく、わたしが目をとめたのは、beの1面の出ていた、彼が写っている写真のポーズだ。

さすが、アメリカ人。

ビックカメラ有楽町店にて、デルのコーナーのディスプレイ台の上に腰を掛け、2台の自社パソコンを肘掛代わりにして微笑んでいる。いくら30代だったとしても、日本人の経営者にあんなポーズはなかなかできない。日本人があれと同じポーズをとって新聞にバーンと載ったら、翌日その企業には「商品台の上に座るんじゃねぇよ!」と、クレームの電話の数本は入るのを覚悟しなければならないだろう。

一般的にアメリカ人のエグゼクティブは、リラックスした雰囲気をかもし出している写真を撮られるのが好きだ。会長や社長であってもファースト・ネームで呼ばれるのを好む国なだから、フレンドリーな姿勢を示したほうが良いと考えているのかもしれないし、リラックスした雰囲気で写っている方が、当人の自信を示すことができると思っているのかもしれない。

エグゼクティブではなくても、アメリカ人の人物の写し方には特徴がある。

まだ、デルが日本で売られる前、アメリカ本国向けのパンフレットのなかに、「デルのコンピュータは世界中の顧客に選ばれている」ことを示すリーフレットがあって、そこには世界何カ国かのユーザーの写真と、インタビューに基づく記事が載っていた。その中に日本人のユーザーの写真もあったのだが、これが「やっぱりアメリカ人には、こういう写真が受けるんだねぇ。」「でも、日本ではつかえないけどねぇ。」と、そのリーフレットをみた日本人誰をも、言わせるようなものだった。

どういう写真だったのかというと、ビジネススーツを着た日本企業のエグゼクティブと思しき人物(けっこう素敵なおじさまで、実際に一流企業の管理職の肩書きと名前が書かれていた)が、どこかの神社の長くて急な石段の真ん中で腰をかけているというものだ。写真のアングルは石段の正面(つまり彼の正面)だ。正面を向いて石段に腰をかけている彼のポーズといえば、両膝が離れており、足首の前で足を交差している。彼の顔には大きな微笑が浮かび、その膝の上ではデルのノートパソコンが開かれており…

おいおい、どこの日本人がスーツ着たまま、神社の石段に腰を下ろしてノートパソコンなんか開くかよ。そして、どうしてこの日本人は、日本人が撮った写真ではありえないほど、こうも大げさに微笑んでいるんだよ。

おそらく、神社の長い石段は、アメリカ人にとって、日本的情緒をあらわすのに最適なものだったのだろう。そして、モデルになった日本人エグゼクティブの大きな微笑みも、アメリカ人向けのドキュメントには必須だったのだろうと思われる。普通の日本人の微笑では「東洋人の意味のないニヤニヤ笑い」に解釈され、読む者に誤解を与える可能性があったのだから。しかし、その写真は日本人の眼からは、明らかに文化のミスマッチに見てた。

それにしても、朝日新聞のマイケル・デルの写真をみて「マイケルも老けたなぁ」と思う。わたしがデルに会ったのは日本市場参入のときだものね。きっと自分も当時よりは相当老けているんだろうなぁ。他人の老いをみて自分の老いを知るとは、このことだ。

さて…と、フェイササイズだ。


MSの「インターコネクト」:電子名刺は何をできるか

2004-05-28 19:01:14 | 異文化コミュニケーション
<マイクロソフト>電子名刺交換ソフト 今夏に発売へ

 マイクロソフトは27日、同社のビジネスソフト「オフィス」シリーズの新製品として、電子メール機能を使って名刺の交換ができる「インターコネクト2004」を今夏に日本で発売する、と発表した。ビジネスの場で名刺交換の習慣が定着している日本向けに企画、開発されたもので、海外での販売も検討するという。(毎日新聞) [5月27日20時36分更新]


ビジネスにおいて、これほど名刺交換が盛んなのは、日本独自の習慣だ。海外で出版される「日本人とビジネスをする方法」を書いた本には、日本人とのビジネスにおける名刺の重要性が必ず強調されており、名刺の受け渡し方がきちんと書かれている。加えて、こうした本の中に書かれている「名刺はいつもきれいな状態を保つこと」、「折れ曲がったり汚れたりした自分の名刺を相手に渡すのは失礼だ」という日本人から見ればごく当たり前のことも、日本人と取引しようとする外国人ビジネスマンにとっては、非常に重要で貴重な情報になる。

日本に出張し、顧客企業にあいさつ回りをしようとする外資系企業の重役たちは、あらかじめ日本支社や日本法人に頼んでおいて、片面は英語、もう片面は日本語(つまり自分の名前をカタカナにしたもの)のバイリンガル名刺を大量に作ってもらう。日本市場を重要視していることを証明したければ、「名刺は会う人間全員に必ず渡すこと」が、そして「渡す名刺に日本語も入っている」ことが、「日本市場に配慮している証」のひとつになりうるからだ。

さて、国内の話だ。数年前まだ会社勤めをしているとき、社長が突如として採用を決め、前触れなしにいきなり中途入社してきた男性がいた。彼は朝礼で自己紹介が終わるやいなや、「男は名刺がなけりゃあ、仕事にならないんだよぉ。直ぐに作ってくれよう!」と、騒ぎはじめた。突然の入社のため、名刺の用意ができていなかったのだ。(この男性には後日談がある。入社3日目にして退社したのだ。社長はお怒りだった。「名刺代の無駄だー!!」)

「名刺がなければ仕事ができない」というのは、よく考えれば道理に合わない話だが、一理はある。名刺は日本ではビジネスにおいて重要な役割を果たしている。名刺を持っていればその人物を、「その組織に所属する/名刺どおりの肩書きを持っている人間」として信用する傾向にある。だから、名刺がないと、彼はあいさつ回りすらできなかったのだ。考えてみれば名刺は作るのが簡単で、偽造するのも簡単なのだから、こんなカードをもっているという事実をもって相手を信頼するというのは、奇妙な話だ。

3年前、参院選の比例区の候補を手伝ったときに、その候補の所属する派閥の有力な衆議院議員のパーティーがあった。候補は「今夜の○○先生のパーティーでは、名刺配りをするから」と、わたしを呼び出した。

県議の娘という政治家の家柄に生まれ、赤ん坊のころから選挙を見て育ってきたその候補は、当然のようにパーティー会場の出口で、出てくる人出てくる人すべてに、深々とお辞儀をしながら、ものすごい勢いで名刺を渡していた。わたしもそれにならいものすごい勢いで「○○でございます。よろしくお願いします。」と低姿勢で名刺を渡しまくった。多分一晩で600枚ぐらいは渡したと思う。それまで、ずっと企業で仕事をしてきたわたしは、名刺とは1枚1枚ていねいに交換するものだと思っていたので、この「腰は低いが、配るスピードはサラ金のティッシュ」のような名刺配布法には、強烈なカルチャー・ショックを受けたものだ。

で、これが何の役に立ったかというと、よく分からない。ほとんどの人間は受け取った名刺を2度と見なかったはずだからだ。強いていえば「ていねいなお辞儀をしながら、必死になって名刺を渡している低姿勢の」候補の姿を見せて、好印象を抱かせる機能はあった。

電子名刺の交換が普及すれば、名刺代の無駄は減りそうだ。しかし、名刺の交換は、単に自分の所属の情報を書いた紙を交換する行為ではない。「あなたのために時間をさいてわざわざ訪れた私」を強調したり、「ていねいなお辞儀をしながら自らを名乗って、自分に対する好印象を抱かせたいとき」に使える便利な道具でもある。電子名刺にはこの機能はない。

さて、電子名刺は、名刺に関する日本の習慣の一部を変えうるだろうか? それとも、新しい「電子名刺交換文化」とでもいえるものが、日本に生まれるのだろうか?


おいしすぎるぞ、藤田田語録

2004-05-16 18:25:00 | 異文化コミュニケーション
明日の3科目の授業のうちの、1科目のテーマは「グローバル化」の功罪だ。グローバル化といっても範囲が広すぎるので、とりあえず「食」のグローバル化に絞ることにした。

日本マクドナルドの創業者、藤田 田(フジタ・デン)氏の藤田田語録は、いつ読んでも噴飯ものだ。さぁ、明日の授業で使ってやるぞ。

1970年代は、超国家企業の時代である。マクドナルドこそ、典型的超国家企業であり、マクドナルドの全社員はアメリカ人でも日本人でもないマクドナルド人間、すなわち世界人である。われわれは世界人の企業として、まずは自己のため、さらに世界のために働かねばならない。 (1973年3月)

私たちのビジネスは、人間の味覚という実に微妙なものを相手にしている。それは気候や風土、民族の多様性を越え、いつ、どこで、誰がやっても、同じ笑顔で、同質の味を提供できる。私たちはマクドナルドのハンバーガーという普遍性を備えた「文明」を売っているといってもいい。(1979年1月)

必要なことは、国際化である。明治以降、食の分野では国際化が遅れている。ハンバーガーは、世界中にある国際商品。日本人がハンバーガーに馴染むことから、本当の国際化がはじまるのだ。日本食を食べないと力が出ないというが、それは単なる習慣を錯覚しているにすぎない。(1985年1月)

新しい食文化のイノベーターとして、ハンバーガーは、日本人の食生活に完全に定着した。「日本の若者を金髪にしよう。食を通じ世界に伍していける真の国際人を育成できれば」の願いは、昨今の若者の著しい体位の向上を見れば、その仮説の正しさが実証されつつあると確信します。 (1991年1月)


今こそ消されてしまったが、これがちょっと前まで日本マクドナルドのウェブサイトに「藤田田語録」として堂々と載っていたのだから、たまらん。授業だけで使うには、おいしすぎるネタだ。(肝心のマクドナルドの商品のおいしさはというと…)

そして、語録にはないが、しっかりと私自身も聞いてしまった次のセリフも、明日の授業のハンドアウトに載せよう。

うちのハンバーガーをマズいと言うのはゴリラかチンパンジーです。(2001年7月 JASDAQ上場に際して)


うわ~。わたしは喜んでゴリラかチンパンジーになるぞ。



モンドランゴはエスペラントに代わり、国際共通語になりうるか?

2004-05-10 23:02:07 | 異文化コミュニケーション
国際コミュニケーション論の授業で、「国際共通語としての英語」というテーマで学生に発表してもらった。

学生代表で張さんが頑張ってくれて、授業はスムーズに進んだ。彼女は「国際共通語」になりうるものとして、人工言語エスペラントを取り上げた。まず、これは予想通りだ。

ところが、彼女ははネットの日本語サイトのほか母国語の(つまり中国語の)サイトも調べて、エスペラントに代わりうる国際共通語として、人工言語の「大同語」なるものを、どこからか調べだしてきた。

この「大同語」なるものはわたしには初耳だ。張さんが配った中国語のウェブサイトのプリントアウトには、「エスペラントより国際共通語としてふさわしい」とある。なになに? これを自称研究者のわたしが知らないとは、かなりまずいかもしれない。そう思って、家に戻って必死になって調べると…

大同語は中国語で「世界大通語」「大通語」とも呼ばれる。アルファベット表記(あるいは原語表記)はMondlango ("world language" の意味) または、Ulango ("La Universa Lango" の略で "The Universal Language" の意味) だ。

エスペラントにも欠点がある。(詳細は「エスペラントの欠点と反論」を参照のこと。)このMondlangoは、エスペラントの長所は利用しながら、エスペラントがもつ欠点をなくすべく、複数の人間がかかわって創った言語だということ。その中には中国人もいるので、中国語の長所も利用したらしい。

ちなみに "Mondlango" でググったら、1730件もヒットした。International Mondlango Assocation (日本語に訳すと「国際モンドランゴ協会」とでもいえようか)の英語サイトが結構詳しい。このサイトでは日本語でMondlangoの簡単な説明をしているページもあるが、機械翻訳のようで…惜しい。

日本のエスペラント研究については、日本エスペラント学会がある。「でははぜ、日本モンドランゴ学会(「日本大通語学会」もありうる)がない?」と思ったら、この言語が作られたのは、2002年7月と新しかった。

モンドランゴ。これから日本に入ってくるかもしれない。

ちなみに、授業では「『英語支配』といわれようと、国際共通語は英語が現実的で妥当」という意見が圧倒的だった。

(張さん、ありがとう。)


英文履歴書

2004-04-29 13:28:42 | 異文化コミュニケーション
修士課程時代の友人発行しているメルマガに、「英文履歴書の行間」というタイトルで、ここ数回原稿を書いている。内容は、市販の英文履歴書の本では、あまり扱っていない部分に関してだ。

実は英文履歴書といっても、それを読むのがネイティブの外国人とは限らない。英文を出させても審査するのが日本人という場合はかなり多いし、英文履歴書を提出させる真の目的は様々だ。(単に採用側が国際派を気取りたいだけのために、英文の履歴書を応募者に求めることもある。)そのため英文履歴書を見る採用者の視点には、しばしば日本人独自の視点というものが入ってしまい、英文履歴書のセオリーどおりにつくると、かえってドツボにはまることも… という話を中心に展開している。

「ネイティブ視点では完璧な英文履歴書だけれど、日本市場という特殊な事情も考えるとちょっとまずいかも」という履歴書は、結構ある。同様に、「保守的な日本人採用者の受けはよさそうだが、ネイティブの目にはとまらないだろう」というものもある。

さて、今回は書類選考をATS(Applicant Tracking System = 応募者追跡システム)というソフトウェアが行なう場合に提出する、eResumeレクトロニック・レジュメを取り上げた。日本の転職市場を考える限りeResumeはあまり必要ないかもしれない。しかし、外資系(特にIT指向の高い米国系)企業への転職後に、その企業の人事から提出を求められる可能性がある。それに、メルマガ読者の多くがIT関連企業にいるため、ATSの特徴を説明しておくのも、何らかの時に役に立つかもしれないと考えた。

とはいえ、eResumeに対する国内の転職市場でのニーズの薄さを考えて、サクッと短く終わらせたかったのに、連載を2回分使ってしまった。おまけに、2回目はeResumeの書き方のルールを列挙したため、いつもより原稿が長くなってしまい、発行人にはかなりの迷惑をかけてしまった。す、すみません。

次回は初心に戻って、「Functional Resumeの真実」だ。短くまとめるぞ!

このメルマガ「B-zine」が読みたい人は、発行人の加藤さんへ。メルマガ内のわたしの文体は、読者にやさしい「です・ます」調で、このブログの突き放したような書き方とは異なる。5月27日には新宿のホテルで読者の集いもあり、わたしも参加することになっている。