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at Home アットホーム

2015年09月11日 | 邦画(15年)
 『at Home アットホーム』を新宿バルト9で見てきました。

(1)友人からの情報で面白そうだと思ったので、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭、主人公の和彦竹野内豊)が戸を開けると、そこは浴室で、男の子(隆史池田健斗)が倒れています。首輪が付けられ鎖で水道管に繋げられて監禁されています。
 和彦が「ここの子か?」と訊くと、その子は「うん」と答えます。
 さらに、「誰にやられた?母さんか?父さんか?」と訊くと、男の子が答えないので、和彦は「両方だな」と納得します。

 次いで、場面は、学校の授業参観の光景。和彦が隆史の父親として父兄の間にいます。
 先生が「森山君、発表してください」と言うと、隆史は立ち上がって、「ボクの家族」と題した作文を皆の前で読み始めます。「家族を紹介します。大きな桜の木の下に家はあります。……」

 場面は、食卓に座っている母親の皐月松雪泰子)、長男の坂口健太郎)、それに次男の隆史。
 長女の明日香黒島結菜)が帰ってきます。
 さらに、父親の和彦が「ただいま。ビールが飲みたい気分。今日は何?」と戻ってきます。
 皐月が「カレー」と答えて、一家全員で食事が始まります。



 明日香が「今日、どうだったの?」と訊くと、和彦は、お金とかクレジットカードなどを机の上に取り出します。
 皐月が「ご苦労様、ダーリン」と言うと、和彦は「プラス円山応挙の掛け軸がある」と言って、掛け軸を皆に見せます。
 すると淳が、「こういうのはダメ。現金だけ。危険なものは燃やす」と厳しく警告します。
 和彦は「これが本物だったら」と残念がるのですが。

 さあこれって一体どんな家族なのでしょう、………?

 こんな家族はとても実際に成立しそうにないのではという点を除いてしまえば(例えば、「性」の問題を無視すれば)、つまり現代のお伽話として受け止めれば、本作を楽しい気分で見ることが出来るのではと思いました(注2)。

(2)クマネズミに本作を紹介してくれた友人は、メールで、「宮部みゆきの長編小説に『理由』というのがあり、そこには本来、血縁のない人々が擬似家庭を営んでいたという前提があるが、本作の基礎もその意味で同様だ。ただ、物語をあまり深刻にしないという思惑があって、その分、筋書きがすこし雑な感もでてくる。だから、粗がたくさんあるが、受けとめ方を変えて、現代社会のなかでは、こうした擬似家庭のほうが住み心地がよい点があるのかもしれないと思わせるとしたら、結果がハッピーエンド的になるのも許容できる」と言っています。
 クマネズミも、『理由』は未読ながら、基本的にそのとおりだと考えます。

 ただ、ここで多少とも問題となるのは、「こうした擬似家庭のほうが住み心地がよい点があるのかもしれないと思わせるとしたら」と述べられていることであり、もっと言えば、果たしてこうした擬似家族がうまく成立するのだろうかという点ではないかと思われます。
 そのことを考える際に必要な観点の一つは性の問題ではないのでしょうか?

 本作で性が取り扱われていないわけではありません。
 むしろ、本作では、原作以上に現代の家庭内における性的な問題がクローズアップされているともいえます。
 例えば、長女の明日香は、父親から性的暴力を受けていて、絶望の余り鉄道自殺しようとしたところを皐月に救われたのです(注3)。

 とはいえ、それらは和彦らが構成することになった「森山家」における出来事ではありません。
 むしろ、本作の「森山家」では性的な事柄は話題に上らず、タブーになっているように見えます(注4)。
 ですが、「森山家」も家族である以上、性的なものは避けて通れないのではないでしょうか?
 一体、元々他人である和彦と皐月は、それに淳と明日香は、同じ屋根の下で暮らしているとしたら、どんな関係にあるのでしょうか?

 本作ではそこのところが回避されているように見えるため(注5)、なかなかおもしろい展開になっているとはいえ、現代のお伽話といった感じになってしまうのではないかと思えるのです。まあ、ファンタジーだとすれば物語を愉しめばいいだけのことですからり、そんなことを言い出したりしても、さらには「森山家」のメンバーが犯すいろいろな犯罪行為が放置されたままになっていることに対してことさら論ってみても、意味がなくなってしまいますが。

(3)渡まち子氏は、「擬似家族を描いた作品は過去にもあったが、それぞれが振り返りたくない暗い過去を背負った一家は、犯罪に手を染めながらそれなりに楽しく暮らしているというのが本作のユニークなところだ。もっとも、空き巣の父親と結婚詐欺の母親の稼ぎで生計が成り立つのか??学校はどうなってる??などのツッコミどころは多いのだが」として60点をつけています。
 小梶勝男氏は、「後半は家族愛が強調され過ぎて、物語がうそ臭くなってしまったが、偽の父親を演じる竹野内のどこか冷めた目が、「本物の家族」のうそ臭さも見抜いているようで、心に残った」などと述べています。



(注1)監督は蝶野博
 脚本は『ふしぎな岬の物語』の安倍照雄
 原作は本多孝好著『at Home』(角川文庫)。

(注2)出演者の内、最近では、竹野内豊は『ニシノユキヒコの恋と冒険』、松雪泰子は『謝罪の王様』、坂口健太郎は『海街diary』、長男・淳の実父役の板尾創路は『地獄でなぜ悪い』、淳が勤める印刷工場の経営者役の國村隼は『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』で、それぞれ見ました。

(注3)原作においては、親による育児放棄にために妹が死んでしまったことから、明日香は生きる気力を失ってしまって鉄道自殺しようとしたところに…、とあらまし書かれています(文庫版P.69~P.70)。
 隆史についても、空き巣に侵入した「家の柱に縛り付けられていた」のを和彦が救出した、とされています(文庫版P.69)。
 さらに、皐月については、「夫の暴力に疲れ果てて家を出た三十代半ばの女」と記されているに過ぎません(文庫版P.70)
 こうしてみると、原作においては、皐月、明日香、隆史の「森山家」以前のことについては、至極あっさりと述べられていることが分かります。

 これに対して、本作においては、「森山家」以前のことについて、ことさらのように様々なことが付け加えられています。
 明日香の父親の性的虐待もそうですが、隆史は、単に柱に縛り付けられていたというのではなく、ホラー映画「ソウ」のような状況に置かれているのです。また、皐月に対する夫(千原靖史)のDVも酷い有様です。
 なお、長男の淳の状況は、原作と余り変わりありませんが、原作では、両親から期待されている優秀な弟が存在しません。

(注4)ただし、原作では、皐月の結婚詐欺に関して、皐月が「どうせ、そろそろ(相手に)一発やらせてあげなきゃってとこだったし」と言うと、明日香が「そういうこと、中学生の娘の前で言う?」と突っ込み、それに対して皐月が「あら、中学三年なら、色々ご存じでしょうに」と受ける場面(文庫版P.26)などが描かれています。
 なお、原作では、続けて「寝るのは一度だけ。それが母さんのやり方だ」と淳が述べていて、次の「注5」の事柄にも関連しますが、和彦と皐月とは普通の夫婦関係にないことがほのめかされているように思われます。

(注5)ただし、原作では、ラストで淳と明日香が結婚したことになるために、一つの問題は解決している感じです。
 問題は、和彦と皐月の関係です。



 本作では、ペット店で、明日香を連れている皐月と、隆史を連れている和彦が出会ったことが描かれているだけです。原作でも、「あるとき、(皐月が結婚詐欺で)騙すために近づこうとした男には血のつながらない二人の息子がいた」(文庫版P.70)と述べられているに過ぎません。
 淳と明日香と隆史が家族の一員になることについては、ある程度の説明があるにもかかわらず、中心人物である二人に関しては一緒になる経緯がどうもよくわかりませんし、まして夜の「森山家」の様子など想像もつきません。
 ただ、原作においては、次のような場面が設けられています(文庫版P.53~P.55)。皐月を誘拐した男〔本作のミツル村本大輔)〕が、和彦らに皐月が無事なことを示そうとして、ノートパソコンの画面に全裸の皐月の姿を映し出します。ですが、顔が画面からはみ出ているため、和彦が「確かにあいつか?」と尋ねると、男は「女房の体見てわかんねえのかよ」と答えます。結局、「左の肘に見覚えのあるやけどの痕がある」ことで確認出来ましたが、わざわざこんな場面が描かれているところからすると、和彦と皐月の間には性的な関係が想定されていないようにも思われます。

 とすると、和彦と皐月は、他の場所に愛人を持っていることが考えられます〔最近流行りのセックスレス夫婦とも考えられますが、「淳坊は私のテクを知らないからね」と長男に言ってのける皐月(文庫版P.26)にそんなことはありえないのではないでしょうか〕。ただ、仮にそうであれば、「森山家」は、“家族”というよりも単なる同居人(それも、夜間は別の場所に移動してしまうような)の集合体に過ぎないものになってしまうのではないでしょうか?



★★★☆☆☆



象のロケット:at Home アットホーム

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2 コメント

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Unknown (ふじき78)
2015-10-06 01:16:42
うんまあ、セックスをしない家族がいてもいいんじゃないですかね。世間一般の幸せになる事が目標の家族と言うよりも、不幸にならない事が目標の家族という感じですから。避難場所や退避所でセックスはしないでしょ。

> 「家族を紹介します。大きな桜の木の下に家はあります。……」

桜の木の下には死体が埋まっているという。案外、みんな、死んでたりして。
Unknown (クマネズミ)
2015-10-06 21:32:20
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、「セックスをしない家族がいてもいい」のですが、それだと「家族」というよりも、むしろ同居人にすぎず、こうした雰囲気になり難いのではと思えました。
確かに、彼らが皆幽霊であれば、こうした物語も成立するのかもしれません。

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