
『宇宙人ポール』を渋谷シネクイントで見ました。
(1)コメディタッチのSF物ながら、なかなか評判がいいというので、見に出かけた次第です。実際にも、実に楽しい作品でした。
イギリスからやってきたSF作家クライブ(ニック・フロスト)とイラストレーターのグレアム(サイモン・ペッグ)が、有名な「ネバダ州エリア51」を走っているときに、突然、ポールと名乗る宇宙人に出会ってしまいます。

ポールは、60年前の1947年に、ワイオミング州に不時着した宇宙船に乗っていて、その時にアメリカ政府に捕まってしまい、以来ズット秘密基地にいて、様々な面で人間を手助けしてきました。ところが、それも最終段階となって、いよいよポールの超能力を入手すべく、脳を解剖する予定が組まれ(注1)、そんなことになったら生きてはおれませんから、ポールは、基地内部の支援者の協力を得て、基地を逃げ出して元の星に帰ろうとしているというわけです。
後ろから、ポールを追跡する特別捜査官らが追っかけてくるので、クライブとグレアムの2人は、乗っていたRV車にポールを匿いながら、彼が目的とする場所(元いた惑星から救出隊がやってくる場所)に急ぎます。
特別捜査官のゾイルは、間抜けな部下2人を使って執拗にポールを追ってきますが、実はビッグ・ガイ(『エイリアン』のシガーニー・ウィーヴァーが演じています)の指令に従っています。

さらに、実は、……(注2)。
もう一人の追手は、クライブとグレアムと宇宙人ポールの3人が泊まったモーター・プールの経営者モーゼス。というのも、ひょんなことからポールの姿を見てしまったモーゼスの娘ルース(クリステン・ウィグ)を、口封じのために、3人は誘拐してきてしまったからです。
おまけに、モーゼスは熱烈なキリスト教ファンダメンタリストであって、宇宙人の存在はおろか、進化論なども信じず、それは娘のルースにも強烈に浸透しています(注3)。
そこで、ポールはルースの考えを破壊するだけでなく(注4)、見えなかった左目も治療してしまいます。
逃げるのがルースも加わって4人、それを追うのもモーゼスが加わって4人、それに……(注5)、というわけでシッチャカメッチャカになりますが、サア上手くポールは救出隊に遭遇でき、元の惑星に戻ることができるでしょうか、……。
こうした全体の流れの中で、細部の詰めも十分に行われている感じです。
例えば、グレアムとクレイブとの関係。2人は無二の親友ですが、イラストレーターのグレアムの方が、SF作家のクライブよりもオープンマインデッドな人物として描き出されています。
すなわち、宇宙人ポールに初めて出会った時、クライブの方は気絶してしまいますが、グレアムは、ポールの話に耳を傾けます。
その上、ポールを受け入れることに対して、目が覚めたクライブは余りいい顔をしません。
また、ルースは、クライブを差し置いてグレアムと恋仲になってしまいます。
グレアムに扮するサイモン・ペッグは、『ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル』でもユーモラスな役を演じていて、緊張感あふれる映画にとってまさに息抜き的な存在でしたが、この作品では本領発揮、『パイレーツ・ロック』で太ったDJ役だったクライブを演じるニック・フロストと、息のあった凸凹コンビを組んでいます。

(2)こんなことは申すに及ばないものの、全体的には、昨年見た『SUPER 8/スーパーエイト』によく似ています。
そちらでは、宇宙船が不時着したのは1958年とされ、また宇宙人の外見もマッタク異なっているものの(それに、そちらでは自分で宇宙船を作り直して帰還しますが、本作では救助隊がやってくるのです)、長期間拘束された宇宙人が、囲いを破って逃げ出して、元の星に帰還するという粗筋はほぼ同一です。
ということは、本作は、私のようにスピルバーグ・オタクではない者にも大層面白い作品ながら、スピルバーグのSF物などに造詣が深ければ深いほど様々な発見があるわけで(注6)、なおかつ、全体がコメディタッチで描かれているのですから、堪えられないに違いありません。
(3)渡まち子氏は、「逃避行スタイルのロード・ムービーは、映画ファンを夢中にさせるパロディと、小粋なセンスの感動が詰まった快作。何より、いろいろと問題はあっても、やっぱりアメリカという国への愛を表明する、勇気あるメッセージを感じるのだ」として75点をつけています。
(注1)宇宙人ポールに言わせれば、「長い間客だと思っていたら、実は囚人だった」わけです。
(注2)実は、ゾイル特別捜査官は、宇宙人ポールの逃亡を援助した基地内部の者であって、ビッグ・ガイの襲撃を撃退します。
(注3)ルースは、ダーウィンを神が撃っているところを描いたTシャツを着ていますし、ポールを見ると「悪魔!」と言って騒ぎ、果ては「アメージング・グレイス」を歌い始めます。
(注4)ポールは、『ツリー・オブ・ライフ』で描かれたようなビッグ・バン以降の宇宙の生成に関する情報を、念力でルースの脳内に注入するのです。
(注5)最後には、追手の元締めのビッグ・ガイがヘリコプターで現れますし、もう一方には、60年前に宇宙人が不時着するのを見ていたタラというお婆さんがいます。ポールの乗っていた宇宙船は、タラの愛犬ポールの上に不時着してしまったのです。それで、タラは宇宙人を助けますが、それを恩に着た宇宙人は、タラを伴って故郷の惑星に戻ろうとします。
(注6)たとえば、劇場用パンフレットに掲載されている町山智浩氏のエッセイ「眼からウロコの『宇宙人ポール』」をどうぞ。
★★★☆☆
象のロケット:宇宙人ポール
(1)コメディタッチのSF物ながら、なかなか評判がいいというので、見に出かけた次第です。実際にも、実に楽しい作品でした。
イギリスからやってきたSF作家クライブ(ニック・フロスト)とイラストレーターのグレアム(サイモン・ペッグ)が、有名な「ネバダ州エリア51」を走っているときに、突然、ポールと名乗る宇宙人に出会ってしまいます。

ポールは、60年前の1947年に、ワイオミング州に不時着した宇宙船に乗っていて、その時にアメリカ政府に捕まってしまい、以来ズット秘密基地にいて、様々な面で人間を手助けしてきました。ところが、それも最終段階となって、いよいよポールの超能力を入手すべく、脳を解剖する予定が組まれ(注1)、そんなことになったら生きてはおれませんから、ポールは、基地内部の支援者の協力を得て、基地を逃げ出して元の星に帰ろうとしているというわけです。
後ろから、ポールを追跡する特別捜査官らが追っかけてくるので、クライブとグレアムの2人は、乗っていたRV車にポールを匿いながら、彼が目的とする場所(元いた惑星から救出隊がやってくる場所)に急ぎます。
特別捜査官のゾイルは、間抜けな部下2人を使って執拗にポールを追ってきますが、実はビッグ・ガイ(『エイリアン』のシガーニー・ウィーヴァーが演じています)の指令に従っています。

さらに、実は、……(注2)。
もう一人の追手は、クライブとグレアムと宇宙人ポールの3人が泊まったモーター・プールの経営者モーゼス。というのも、ひょんなことからポールの姿を見てしまったモーゼスの娘ルース(クリステン・ウィグ)を、口封じのために、3人は誘拐してきてしまったからです。
おまけに、モーゼスは熱烈なキリスト教ファンダメンタリストであって、宇宙人の存在はおろか、進化論なども信じず、それは娘のルースにも強烈に浸透しています(注3)。
そこで、ポールはルースの考えを破壊するだけでなく(注4)、見えなかった左目も治療してしまいます。
逃げるのがルースも加わって4人、それを追うのもモーゼスが加わって4人、それに……(注5)、というわけでシッチャカメッチャカになりますが、サア上手くポールは救出隊に遭遇でき、元の惑星に戻ることができるでしょうか、……。
こうした全体の流れの中で、細部の詰めも十分に行われている感じです。
例えば、グレアムとクレイブとの関係。2人は無二の親友ですが、イラストレーターのグレアムの方が、SF作家のクライブよりもオープンマインデッドな人物として描き出されています。
すなわち、宇宙人ポールに初めて出会った時、クライブの方は気絶してしまいますが、グレアムは、ポールの話に耳を傾けます。
その上、ポールを受け入れることに対して、目が覚めたクライブは余りいい顔をしません。
また、ルースは、クライブを差し置いてグレアムと恋仲になってしまいます。
グレアムに扮するサイモン・ペッグは、『ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル』でもユーモラスな役を演じていて、緊張感あふれる映画にとってまさに息抜き的な存在でしたが、この作品では本領発揮、『パイレーツ・ロック』で太ったDJ役だったクライブを演じるニック・フロストと、息のあった凸凹コンビを組んでいます。

(2)こんなことは申すに及ばないものの、全体的には、昨年見た『SUPER 8/スーパーエイト』によく似ています。
そちらでは、宇宙船が不時着したのは1958年とされ、また宇宙人の外見もマッタク異なっているものの(それに、そちらでは自分で宇宙船を作り直して帰還しますが、本作では救助隊がやってくるのです)、長期間拘束された宇宙人が、囲いを破って逃げ出して、元の星に帰還するという粗筋はほぼ同一です。
ということは、本作は、私のようにスピルバーグ・オタクではない者にも大層面白い作品ながら、スピルバーグのSF物などに造詣が深ければ深いほど様々な発見があるわけで(注6)、なおかつ、全体がコメディタッチで描かれているのですから、堪えられないに違いありません。
(3)渡まち子氏は、「逃避行スタイルのロード・ムービーは、映画ファンを夢中にさせるパロディと、小粋なセンスの感動が詰まった快作。何より、いろいろと問題はあっても、やっぱりアメリカという国への愛を表明する、勇気あるメッセージを感じるのだ」として75点をつけています。
(注1)宇宙人ポールに言わせれば、「長い間客だと思っていたら、実は囚人だった」わけです。
(注2)実は、ゾイル特別捜査官は、宇宙人ポールの逃亡を援助した基地内部の者であって、ビッグ・ガイの襲撃を撃退します。
(注3)ルースは、ダーウィンを神が撃っているところを描いたTシャツを着ていますし、ポールを見ると「悪魔!」と言って騒ぎ、果ては「アメージング・グレイス」を歌い始めます。
(注4)ポールは、『ツリー・オブ・ライフ』で描かれたようなビッグ・バン以降の宇宙の生成に関する情報を、念力でルースの脳内に注入するのです。
(注5)最後には、追手の元締めのビッグ・ガイがヘリコプターで現れますし、もう一方には、60年前に宇宙人が不時着するのを見ていたタラというお婆さんがいます。ポールの乗っていた宇宙船は、タラの愛犬ポールの上に不時着してしまったのです。それで、タラは宇宙人を助けますが、それを恩に着た宇宙人は、タラを伴って故郷の惑星に戻ろうとします。
(注6)たとえば、劇場用パンフレットに掲載されている町山智浩氏のエッセイ「眼からウロコの『宇宙人ポール』」をどうぞ。
★★★☆☆
象のロケット:宇宙人ポール
それぞれの個性が生きて面白かったです。
サイモン・ペグの驚きの顔とか(鳥食った時の)見事でした