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神様はバリにいる

2015年01月30日 | 邦画(15年)
 『神様はバリにいる』を渋谷TOEIで見ました。

(1)堤真一尾野真千子が出演するというので映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭は、バリ島の海岸の絶壁から海に身投げしようという女性の姿。
 靴を脱いで崖の先端に進むと、帽子が飛んでいってしまいます。
 そこへオートバイに乗った男がやってきて、「そんなとこじゃだめ、地価が下がるから」と言います。
 女は「わかりました」と答え、別の場所に。
 でも、「そこもだめ」と男に言われ、更に別の場所に移って「だったらこの辺で」と崖下を見て、気絶して倒れてしまいます。

 男は女を豪邸に連れて行き、その家の主に会わせます。
 その家の主が、アニキと皆に慕われる男(堤真一)。



 女は、日本で事業に失敗して借金まみれになり、自殺するためにバリ島にやってきた祥子尾野真千子)。



 彼女をアニキに引き会わせたのは、眼科医のリュウ玉木宏)。



 リュウはアニキに「彼女の話を聞いて」と言うと、アニキは「20字以内に簡潔に言え」と答えるので、祥子は「自殺の名所を知りませんか?」と尋ねます。
 これに対してアニキは「おもしろいな。でも取りあえずは乾杯だ」と盃をあげます。
 祥子は、「こんなことをしている場合じゃないのに」と言いながらも、出されたワインが美味しいのでどんどん飲んでしまい、そして酷い二日酔で目が覚めると………?

 本作は、日本で事業に失敗した女が、自殺する場所としてバリ島を選んでやってくるものの、そこで超大富豪の日本人と出会い、いろいろなアドバイスを受けている内に自殺を思いとどまり前向きに歩いてこうとするお話。
 ほぼ全編をバリ島で撮影したとのことで、明るい南国のとても綺麗な映像をバックに、超大富豪に扮する堤真一がオヤジギャグ(注2)を連発するなど、総じてコメディタッチで描かれています(注3)。

(2)とはいうものの、本作は、バリでの撮影という点がどうにか買えるだけの作品に過ぎませんでした。
 例えば、
イ)アニキが様々の場面で宣うお言葉を有難く拝聴する祥子ですが、単に不動産の値上がりによる棚ボタの利益によって財を築いたに過ぎないように見えるアキニが、意味のある経営哲学を語れるはずもないように思われ(注4)、実際に語っている内容もありふれたものばかりです(少々言い過ぎかもしれませんが)。
 例えば、「失敗したら明るく笑い飛ばせ」とか、「世界は縁で回ってる」や「常識を疑え」など。

 ただ、自分を追って日本からやってきた杉田ナオト・インティラミ)から逃げ回る祥子(注5)の姿を見て、アニキが「君の会社がダメになったわけがわかった、お客さんを満足させていなかったのだ」と言って、「大切なのは、相手を自分のことのように満足させるべきだということ」と宣うのは、なかば冗談としても、まあ説得力があるかもしれませんが(注6)。

ロ)なにより、祥子は、こんなアニキやそのソバにいつもいる眼科医のリュウなど錚々たる男たちに取り囲まれているにもかかわらず、どの男からも言い寄られず、始終彼女につきまとうのは日本からやってきた杉田だけ(注7)。



 特に、本作では滝壺に裸で飛び込むシーンをわざわざ設けながら、尾野真千子のバストの下を厳重に隠すというのでは、一体何のためにあんなシーンを撮ったのかと甚だ訝しく思いました(注8)。
 そして、そんな祥子の姿を見ながらも、アニキには何の感情も湧き起こらなかったのでしょうか(注9)?

ハ)挙句の果ては、アニキが夢の実現とするのが、幼稚園(注10)やサッカー場の建設。
 バリ島の海岸の大規模な開発を行っているアニキにしたら、こんな事業はお茶の子の筈にもかかわらず、その建設のゴタゴタが本作のクライマックスになるとは、期待はずれもいいところでした(注11)。
 それも、ゴタゴタ騒ぎとなるのは、建設の現場監督をしているアデ(注12)が、建築の変更手続きを怠っていたためというのでは(注13)、あまりに些細過ぎる出来事です。

(3)渡まち子氏は、「バリ島で成功した日本人実業家アニキと、彼との出会いで変化・再生していく人々を描く「神様はバリにいる」。実話がベースだが全体的に過剰演出」として55点を付けています。



(注1)本作の原案は、クロイワ・ショウ著『出稼げば大富豪』(現在、バリ島に実在する日本人の大富豪の「アニキ」こと丸尾孝俊氏のほぼ実話の物語、とされています:未読)。
 監督は、『幕末高校生』の李闘士男

(注2)初対面の祥子に向かって、「お主の胸はタランティーノ」と言うたぐいの。
 最後の方では、祥子も、幼稚園建設が上手く行かずに落ち込んでいるアニキに向かって、「私日本に帰ることにしました。今のアニキは全然タランティーノや、失礼しマックス」と負けずに言ったりします!

(注3)俳優陣について、最近では、堤真一は『土竜の唄 潜入捜査官Reiji』、尾野真千子は『ニシノユキヒコの恋と冒険』、玉木宏は『幕末高校生』で、それぞれ見ました。

(注4)実際の「アニキ」は、上記「注1」で触れた記事によれば、「バリ島での従業員は5000人以上で、現地関連会社29社を所有。東京ドーム170個分の土地、そして、自宅は27軒」とのことで、棚ぼたで得たお金を元手にして事業を営んで大成功した人であり、抜群の経営手腕を備えていて、なおかつ独特の経営哲学をも持っていることでしょう。
 でも、そのプロセスが映画では全然描かれませんから、アニキが話す内容に見る方はちっとも説得されません。

(注5)杉田は、祥子が営んでいた婚活会社が開催した婚活パーティーで彼女を見初めて、それ以来彼女の後を付け回していたようです。彼女の方では杉田のことを歯牙にもかけず、アニキにも「ストーカーです」と断言します。

(注6)さらに祥子はアニキに、「自分としては、会社を完璧にやってきた。でも、不景気のせいで、部下たちにも裏切られ、莫大な借金が残った」と説明します(実際の借金の額が800万円と聞いて、アニキもリュウも「安っ!」と絶句しますが)。これに対してアニキは、「周りのせいにしたから会社が潰れたのでは!」と宣います。祥子はあくまでも「周りのせいでした」と言い張りますが、アニキの言うことも半分はあたっているでしょう。

(注7)杉田は祥子に、「日本に一緒に帰って、破産手続をやり直しましょう。アニキとは付き合わない方がいい。あの人がやっているのは、成金の自己満足に過ぎません」というのですが、映画の中では、ある意味で正論でしょう。

(注8)尾野真千子には、『真幸くあらば』における有名なシーン(例えば、こちらのインタビュー記事)があるので、こうした作品でわざわざ脱いでもらう必要はこれっぽっちもありませんが。

(注9)アニキには妻がいるのでしょうか?
 祥子は、アニキの家に複数の女や大勢の子供たちがいるのを見て、「いったい何人の妻を持っているの?」とアニキに問いただしますが、アニキは答えません。
 あとで、孤児などをあずかっていることはわかるものの、妻の件ははっきりしません。

 また、リュウには恋人・香奈菜々緒)が学生時代にいたのですが、現在は単独でバリ島の子供たちの目の治療にあたっています(リュウは、インドネシアでは白内障のため目が見えなくなっている子供が多いことがわかり、ボランティアで治療を続けています)。

 アニキとリュウとが祥子のそばにいながら何らのアプローチもしないのは、アニキとリュウとがホモ的な関係にあるからだとみなさざるを得ないのですが、はてどんなものでしょうか?
 なにより、リュウは、祥子をオートバイに乗せて自分の家に連れて行くのですが、その際に「自分は君に何の興味も持っていないから、安心して」と言うのですから驚きです(尾野真千子はそんなに魅力のない女性なのでしょうか?)。

(注10)アニキは、「今、自分の家で子供たちを預かっているが、もう限界」と、幼稚園建設の理由を説明します。

(注11)クリフォード・ギアツの『ヌガラ』を読んだりして、行ったことはありませんが、バリ島には関心がありました。無論そんな本に従うことなど不必要であり、また観光案内的な“御当地物”も御免被りますが、本作はせっかくバリ島でロケを行ったわけですから、もっとバリ島の社会の内部に入り込んだ物語にしてもらったら、という感じが残りました。
 〔まさか、『ヌガラ』で議論されている“劇場国家”を踏まえて、上記(3)で触れている渡まち子氏が言うように、本作が「過剰演出」になっているわけではないとは思いますが〕

(注12)アニキが当初大金をつかむことになった土地を分けてくれたのがこのアデ。アニキは、得たキャピタルゲインの半分をアデにあげるのですが、彼はそれを賭け事で全部スッテてしまい、再びアニキが工事現場監督として雇い入れている、ということに映画ではなっています。

(注13)劇場用パンフレット掲載の「STORY」では「信用していた部下のアデさんがアニキを裏切る事件が起こる」と述べられていますが、“裏切る”とは言い過ぎのように思えます。



★★☆☆☆☆



象のロケット:神様はバリにいる


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4 コメント

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尾野真知子好演! (atts1964)
2015-02-02 13:56:21
下調べなくいきましたが、結構テンポ良く、俳優さんたちが嵌っていた作品でした。
バリ島に行きたくなる作品で、アニキのペースでずっと行くかと思いきやの事件発生、最期までぐいぐいでした。
こちらからもTBお願いします。
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Unknown (クマネズミ)
2015-02-03 23:03:29
「atts1964」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、本作は、割合と「テンポ良く、俳優さんたちが嵌っていた作品」ではないかとも思いますが、拙エントリの(2)で申し上げたような理由から、クマネズミにはとても「最期までぐいぐい」というわけにはいきませんでした。
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Unknown (ふじき78)
2015-02-14 09:44:55
尾野真千子さんは映画やテレビドラマで何回か見て「まあ、実直に可愛いな」と感想を持ってたのですが、この映画の彼女には惚れないな。何か不幸を我が物にして弱音ばっかり吐いている。近くにいると疲れそうだ。
一方、アニキが出てるシーンは風通しが良くて面白い。尾野真千子を貶してアニキを褒めたからと言ってホモではありません。

アニキの教えの部分は確かに生きてない。経営にしてもそうですが、実学やエピソードに教えが付いてくる形じゃないと机上の空論にしか見えないでしょう。大富豪に対するトラブルが子供が手伝って完成出来てしまう幼稚園の建設ってのは確かにないわあ。
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Unknown (クマネズミ)
2015-02-15 07:29:51
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
尾野真千子は今が旬で、様々な映画に出演して色々な役を演じるのはいいのですが、『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』における“ガサツな関西女”役といい、本作の祥子役といい、おっしゃっるように「惚れ」ることは難しいですね。やっぱり、「実直に可愛い」を演じてもらいたいものです。
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