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ゲーテの恋

2011年11月19日 | 洋画(11年)
 『ゲーテの恋~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~』を新宿武蔵野館で見ました。

(1)この映画は、『ソウル・キッチン』や『ミケランジェロの暗号』で大活躍のモーリッツ・ブライブトロイが出演し、さらにゲーテの『若きウェルテルの悩み』を下敷きにしている作品でもある、というので見に行ってきました。

 ただ、この映画では、モーリッツ・ブライブトロイは主役ではなく、ヒロインのシャルロッテ(以下は、愛称のロッテとします:ミリアム・シュタイン)を、主役のゲーテアレクサンダー・フェーリング)と争うケストナ―参事官(裁判所である帝国高等法院の事務方)を演じています。



 ある時、教会で歌うロッテの姿を見て、ゲーテは一目惚れしてしまい、とうとう肉体関係を持つまでに至ります。



 ですが、実は、ゲーテの上司に当たるケストナ―参事官が(注1)、以前からロッテに目を付けていたのです。
 ロッテの父親も、ケストナ―参事官とロッテが結婚すれば、その財力で貧しい自分たちの家族を救ってくれると踏んでいましたから、2人の接近を喜んでいます(注2)。
 そうこうするうちに、ケストナ―参事官は、彼女と婚約をしてしまいます(注3)。
 もちろん、ケストナ―参事官は、ゲーテとロッテとの関係を知らなかったのであり、さらにまた、ゲーテも、その祝賀パーティーに偶然に出くわして、初めて厳しい事態を認識します。
 サテこの事態は、どのようなエンドに繋がって展開していくのでしょうか?

 『若きウェルテルの悩み』というゲーテの著書の出版、及びそのストーリーなどを実に巧みに絡ませ、当時(18世紀後半)の風景などもCGを使ったりして蘇らせつつも、その実、現代風な味付けも怠らないという、なかなか面白い出来栄えの作品です。

 特に、本作では、ゲーテというよりも、奔放かつ思慮深いロッテの描き方が興味を惹きます。
 愛するゲーテを最初に城の廃墟に引き込むのも彼女ですし、牢屋にいるゲーテ(注4)のもとに出かけて行って、ゲーテに、自分を諦め作家として生きるよう強く勧めるだけでなく(注5)、ゲーテから受け取った『若きウエルテルの悩み』の草稿を、独断で出版社に持ち込んで出版してもらったりします(注6)。



 また、ロッテの父親も、娘から実はゲーテを愛していると告げられると、ケストナーとの結婚について強いことを言えなくなって悩むというのも(注7)、まだまだ家父長制のもとにあった当時からすれば、随分と優しい性格づけがなされているように思われます。

 ただ、期待したモーリッツ・ブライブトロイについては、至極真面目な法律家に扮しているために、それほどの活躍がみられないのは残念ですが。

(2)本作と、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』とを比べてみると、後者の場合、ゲーテはあくまでも狂言回しであり(ヴィルヘルムという名前になっていますが)、ウェルテルから、ロッテに対する恋の悩みなどを打ち明けている書簡をもらって、それを公開すると同時に(第1部)、事件の顛末を述べる(第2部)という形になっています。

 これに対して、本作では、ゲーテそのものがロッテに恋をするという形に改められ、ピストル自殺するのは、帝国高等法院で彼の同僚であるイェルーザレムなのです(注8)。
 イェルーザレムは、人妻との恋に落ちたものの、彼女が夫のもとに戻ると絶望の余り自殺してしまいます。
 でも、それではインパクトが足らないと見たのか、本作においては、ゲーテもピストル自殺を試みますが、むろん実行するまでには至りません。

(3)渡まち子氏は、「映画には、18世紀のドイツらしい美しい田園風景や、素朴だが魅力的なコスチュームなど、いかにもヨーロッパ映画らしい気品があふれている。主演のアレクサンダー・フェーリングは、ハリウッド映画にも出演するドイツ人俳優だが、誰もが知る母国の偉人をはつらつと演じていて魅力的だ」などとして60点をつけています。
 福本次郎氏も、「直接顔を合わせるか手紙だけが気持ちを伝える手段、そんな当時の空気が、舗装されていない泥だらけの道やろうそくの炎しかない夜に象徴されていた」などとして60点をつけています。



(注1)ゲーテは、詩人を目指していましたが、父親の命で弁護士となるべく、フランクフルトの近くのヴェッツラーにある帝国高等法院の実習生となっていました。

(注2)ロッテの家は、母親が1年前に亡くなったばかりで、たくさんの弟妹をロッテが母親代わりに面倒を見ています。

(注3)ケストナー参事官が、プロポーズの仕方が分からないというので、ゲーテはアドバイスまでするのです。

(注4)ゲーテは、ケストナー参事官から決闘を申し込まれ、実際に彼に向けてピストルを放つのですが、その途端に、決闘を禁止する法律に触れたとして牢屋に送り込まれてしまいます。
そして、本作では、その牢屋にいる間に、ゲーテが『若きウェルテルの悩み』を書き上げたことになっています。

(注5)ロッテはゲーテに会うと、いきなり平手打ちをして、「あなたが死ねば私が喜ぶとでも思っているの!」となじった上で、「ケストナーを愛している、学位をとって出世するのは彼。ただ、ウェルテルは天才。彼と私とはいつも一緒、でも物語の中で」などと言います。

(注6)その本が洛陽の紙価を高めたために、ゲーテは、6ヵ月後、父親の尽力で牢屋から釈放されてフランクフルトに戻ると、一躍、時代の寵児としてもてはやされることになります。

(注7)ロッテが「愛がない人と結婚するの」と言うと、父親は「時が解決する」と説得する一方で、ケストナー参事官に、娘はゲーテをまだ愛しているようだ、と打ち明けたりします。

(注8)劇場用パンフレットに掲載されているドイツ文学者・池内紀氏のエッセイによれば、こちらが事実のようです。




★★★☆



象のロケット:ゲーテの恋


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