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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ヴィンセントが教えてくれたこと

2015年10月06日 | 洋画(15年)
 『ヴィンセントが教えてくれたこと』を渋谷シネパレスで見ました。

(1)評判が良さそうなので映画館に行ってきました。

 本作(注1)の舞台はニューヨークのブルックリン。
 冒頭は、主人公の初老のヴィンセントビル・マーレイ)が、バーで酷くつまらない冗談(注2)を話している場面。



 変わって、ヴィンセントの家のベッドルーム。
 妊娠しているロシア人ストリッパーのダカナオミ・ワッツ)とヴィンセントが体を重ねています。
 ダカが、突然、「動いた!蹴ってる、触ってみて」と騒ぎます。
 ヴィンセントは「起こしてしまってごめん」と言い、ダカも「このロクデナシのせいよ」と応じます。

 ヴィンセントはダカに金を支払おうとしますが、持ち合わせがごくわずかで、「分割払いはお断り」、「来週は2倍払ってね」とダカに言われてしまいます。



そ れで銀行に行って融資を求めるも断られ、預金を引き出そうとしても「112ドル14セントのマイナス」と素気ない返事。
 挙句に、バーで「もっと強い酒を」と頼むと、マスターに「やめときな、あんたのためだ」と断られてしまいます。

 それから、隣の家に引越しトラックが入ってきます。ところが、ヴィンセントの家の庭に植えられている樹木の枝を折ってしまい、その枝が彼の車の上に。
 トラックに同乗してきたマギーメリッサ・マッカーシー)が言い訳しにやってきますが、ヴィンセントは、自分の車の損害は引越し業者に求めると言いながらも、枝とフェンス(注3)を弁償するようマギーに要求します。



 これが、シングルマザーのマギーとその息子のオリヴァージェイデン・リーベラー)がヴィンセントと出会った最初の出来事。
 さあ、これからヴィンセントとオリヴァーらとの関係はどのように発展するのでしょうか、………?

 本作は、妻を介護施設に入れて一人で暮らしている老人のヴィンセントと、その隣の家に引っ越してきた12歳の少年オリヴァーとの交流を描いた作品で、偏屈で近所の人たちに嫌われているヴィンセントと、聡明なオリヴァーとのさまざまな会話などがなかなか面白く、さらに、いじめや認知症といった日本でも大きな問題となっている事柄(注4)が取り上げられる中で物語がコメディタッチで展開されていくので、見る者を飽きさせません。ただ、少々宗教色がかっている点に違和感を持つ向きもあるかもしれません(注5)。

(2)まず、ヴィンセントの隣に引っ越してきた少年オリヴァーが入学するのが、カトリック系の聖パトリック小学校。
 学校に行った最初の日に、転校生として担任の先生(クリス・オダウド)から紹介されますが、その後、先生から朝の祈りを先唱するよう求められます。でもオリヴァーは、「僕、ユダヤ教徒と思う」と答えます。すると、児童の間から、「私も」とか「私は仏教徒」、「神はいない」などの声が上がり、先生は、「私はカトリック。でもこの教室ではどんな宗教でもかまわない。みんなバラバラ」としながらも、「カトリックが最良」と言って、オリヴァーに朝の祈りを先唱するよう求めるのです。

 次に、授業中先生が「聖人ってなんだろう?」と尋ねると「エレミヤ」「聖ユダ」といった答えが返ってきて、さらに「最近の聖人を知らないか?」と質問し、児童の一人が「マザー・テレサ」と答えると、先生は、「そうだ。聖人というのは、世の中を良くしようと一生懸命働いた人だ」と言い、「今の時代にも身近なところに聖人はいる。探して報告すること」を宿題にします。
 そして、「私たちの周りの聖人」についての発表会において、オリヴァーが聖人として発表したのがヴィンセントなのです。

 何しろ本作の原題が「St. Vincent」なのですから、見る方も何かあるなと少しは身構えており、なるほどここに持ってくるために映画の中でいろいろ布石を打っているのだなとわかってきます(注6)。
 とはいえ、児童の父兄らが大勢見守っている発表会の会場にヴィンセントが姿を見せ壇上にまで上がるというのは少々やり過ぎのような感じがしますが、そして宗教色を感じてしまいますが、全体としてはとても感動的なシーンになっているなと思いました(注7)。

 加えて、最後のエンディングロールで、カセットウォークマンを耳にしたヴィンセントが、ガーデンチェアに寝そべって、ホースで周囲に水を撒きながら、ヘッドホンから流れるボブ・ディランの「嵐からの隠れ場所」に合わせてボソボソ歌っている姿が映像として流れますが(注8)、エンディングとしてこんな素晴らしいシーンが映し出されるのかと大層感動し、このシーンだけでも本作は見る価値があったとクマネズミには思えました(注9)。

(3)渡まち子氏は、「偏屈な中年男と孤独な少年との交流を描く「ヴィンセントが教えてくれたこと」。凸凹コンビの絶妙な距離感が最高」として70点をつけています。
 稲垣都々世氏は、「ヴィンセントだけでなく、登場人物は深刻な状況に直面しているが、みなコミカルで生き生きしている。皮肉たっぷりの笑いや、本人たちがそれと気づかずに発している負け組らしい自虐ネタで感傷など吹き飛ばしてしまう」と述べています。
 滝藤賢一氏は、「シリアスな問題を多く抱えた作品なのに、笑いに満ちているので逆に泣けてしまうんですよ」と述べています。



(注1)監督・脚本はセオドア・メルフィ
 原題は「St.Vincent」。

(注2)あるアイルランド人が、なにか仕事がないかと言うので、婦人が「ポーチ(porch)を塗る仕事がある」と答えたところ、2時間後その男が戻ってきて言うには、「終わりました。だけど、「ポルシェ(Porch)」じゃなくて「BMW」だったよ」。

(注3)実はフェンスは、ヴィンセントが自分で壊しておきながら放置しておいたもの。
 ヴィンセントはマギーに、「フェンスは20年物、車は30年物、木は俺よりも年取っている」とふっかけます。

(注4)オリヴァーは転校生として学校でいじめられますし、ヴィンセントの妻は認知症で介護施設に入っています。また、ヴィンセントは、ダフ屋のズッコテレンス・ハワード)が借金の取り立てに来た際に脳卒中で倒れてしまいます。

(注5)出演者の内、最近では、ビル・マーレイは『グランド・ブダペスト・ホテル』(ほんの少しの出番しかありませんが)、ナオミ・ワッツは『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、テレンス・ハワードは『プリズナーズ』で、それぞれ見ました。

(注6)ヴィンセントがダカを「夜の女」としてオリヴァーに紹介したり、オリヴァーを競馬場とかバーに連れて行ったりしたことなどが、すべてオリヴァーの発表の中でポジティブなネタとして生かされています(反対に、マギーが離別した夫に対して提起したオリヴァーの親権を求める裁判では、これらのことはネガティブな要素となり、共同親権となってしまいます)。

(注7)全く余計なことながら、オリヴァーの小学校での授業風景とか発表会の様子(映像を使ったプレゼンテーションといえるでしょう)を見て、最近の日本の学校での組み体操にからむ問題(例えば、この記事)などと比較すると、小学校と中学校の違いとか、普通の授業・発表会と運動会との違いなどがあるにしても、アメリカはズッと個人主義的であり、日本はズッと集団主義的だなと感じてしまいます(あるいは、この記事が関連するかもしれません)。
 例えば、『at Home アットホーム』で、授業参観の日に隆史が作文を父兄らの前で読み上げるシーンがありますが、オリヴァーの発表内容と比べたら、内容は随分と定型的な感じがします(尤も、オリヴァーの発表が特異なものであり、クラスメートの発表にも定型的なものがあるのかもしれませんが)。

(注8)このシーンの一部はこのURLで見ることが出来ます。

(注9)金欠病は相変わらずとはいえ、ヴィンセントの周りには、ダカと生まれたばかりの赤ん坊(父親が誰だかははっきりしませんが)、それにマギーとオリヴァーが集い、一緒に食事をするようになったわけで、まさに「嵐からの隠れ場所」に彼の家がなっているように感じました(ボブ・ディランの歌の歌詞は、例えばこのサイトで)。



★★★★☆☆



象のロケット:ヴィンセントが教えてくれたこと


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ラストシーン (pinewood)
2017-09-26 08:26:49
本当にラストシーンを見るだけでも佳い作品ですね!
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Unknown (クマネズミ)
2017-09-26 20:40:15
「pinewood」さん、わざわざコメントを有難うございます。
おっしゃるとおり、ラストのボブ・ディランの「嵐からの隠れ場所」を聞いているビル・マーレイは最高ですね!
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