映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

スポットライト 世紀のスクープ

2016年04月26日 | 洋画(16年)
 『スポットライト 世紀のスクープ』を渋谷Humaxシネマで見ました。

(1)本年のアカデミー賞の作品賞と脚本賞を受賞した作品というので、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、「事実に基づく物語」(based on actual events)との字幕が出て、まずは1976年のボストン市警11分署の夜の場面となります(注2)。
 分署には、取り乱した女性や拘留されたゲーガン神父とか司教らがいて、地方検事補がやってきたものの、ゲーガン神父がやったことについて司教が女性を説得して(注3)、それで話がついたのか、立件されないことになって(注4)、司教と釈放されたゲーガン神父とが分署を出て車に乗って立ち去ります。

 次いで、2001年のボストン・グローブ社の編集室。
 記者スチュアートの退職パーティーが開かれています。
 まず、部長のベンジョン・スラッテリー)が簡単に挨拶した後、「スポットライト」チームのリーダーのロビーマイケル・キートン)が引き継いで挨拶します。
 「スチュアートの退職は、私にとって特に辛い。20年か?彼が、ポーカーで20年負けてくれたおかげで、私は子供を大学に行かせることが出来た。月曜日には新任の局長が来るそうだ」云々。

 パーティーで出たケーキを持ってサーシャレイチェル・マクアダムス)とマットブライアン・ダーシー・ジェームズ)が「スポットライト」の部屋(注5)に入ると、マイクマーク・ラファロ)が電話で、「警察が嘘をついていることは知っている。知りたいのは真実だ」「その話は我々向きじゃない」「うちで扱うにはネタが弱い」などと話しています。



 その後週末に、ロビーは新任の編集局長のマーティ・バロンリーヴ・シュレイバー)と会います。マイアミからやってきた局長の机の上にある『バンビーノの呪い』(注6)という本をロビーが見咎めたのに気がついて、局長は「ボストンを知ろうと思って」と言い、さらに「君はボストン?」と尋ねます。
 それに対しロビーが「記者の多くは地元出身者」と答え、局長が「ニューヨーク・タイムズの傘下に入っても?」と訊くと(注7)、ロビーは「何も変わりません」と答えます。
 さらにロビーは、「自分は選手兼監督。我々の仕事はベン部長に報告しています。今は次のネタ探しをしているところ。取材期間は2ヵ月程度。そして、1年間連載されます」などと、自分たちの仕事のあらましを話します。

 この局長が、ゲーガン神父の事件をモット掘り下げるべきだと編集会議で指示したところから、「スポットライト」チームが動き始めて、次第に事件の全容が明らかになってきますが、さあ、どのような展開になるのでしょうか、………?

 本作は、2002年にボストン・グローブ紙の特集記事欄「スポットライト」に掲載された衝撃的な記事を書いた4人の記者の行動を、事実に基づきながら描いた作品です。巨大権力であるカトリック教会を相手にして、牧師たちの犯したおぞましい犯罪を暴こうとするだけに、様々な圧力がかかってくるものの、それらをはねのけて記事掲載に至ります。なかなか緊迫感あふれる映画に仕上がっていますが、カトリック教会の存在が身近でないことや、また、記事掲載がもたらす影響の実際について映画では充分に取り上げられていないことなどもあって、邦題の副題にある「世紀のスクープ」というにはイマイチの感じがしました。

(2)「スポットライト」チームが教会を巡る事件(注8)に取り組むことになったきっかけは、上で書きましたように局長の指示によるものですが、局長自身は、ゲーガン事件をめぐる女性記者のコラムを週末に読み、同事件に関する記事の新聞掲載が不十分だと思ったことによっています。
 「スポットライト」チームは、マイクが、この事件を取り扱っている弁護士のガラベディアンスタンリー・トゥッチ)と接触して、ボストンのロウ枢機卿が事件を把握していることを証する文書を探し出そうとします。



 また、サーシャやマットが被害者のヒアリングに当たり、加えて被害者団体SNAPのサヴィアノニール・ハフ)とか、神父の性犯罪を長年研究してきた元神父のサイプなどの話を聞いたりしながら、事件の核心に迫っていきます。
 とても地味な描写が続きますが、「スポットライト」チームの誠実な仕事ぶりが実に巧に描き出されていると思いました。

 ただ、本作における4人の記者の行動は、映画『大統領の陰謀』における2人の記者のように、自分たちで新たに問題を見つけ出してそれを白日のもとに晒すというものではなく、むしろ、従来から各種の調査が進められ、訴訟も起きている事件について、それらに携わっていた人達の手を借りながら、著名な新聞のコラム記事にまとめあげて大々的に公表するというところに意味があるように思われます。
 それはそれで価値は高いと思えるものの、今少しインパクトが弱いような気もします。

 また、いま少し申し上げれば、
イ)より噛み砕いて説明して欲しいところがあるように思いました。
 例えば、専らクマネズミの理解力のなさによっているのでしょうが、マイクが追求する文書は、事件を裏付ける非常に重要なものとされているにもかかわらず、いかなるものなのかがよくわかりません。誰がいつどんなことを何のために書いたものなのでしょうか?なぜ封印されている(sealed)のでしょう?
 そして、最終的には、ガラベディアン弁護士からのサジェスチョンによって、それが裁判所の記録保管所にあって今や公表されていることがわかるのですが、どうしてそういうことになるのか、よく理解できませんでした(注9)。

ロ)最近見た『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でも感じたことながら〔同作に関する拙エントリの(2)をご覧ください〕、本作で取り上げられる4人の記者(同作でも、主要な登場人物は4人です!)の猛烈な働きぶりはよくわかるものの、彼らのプライベートな面があまり描かれていないように思いました。



 確かに、マイクが妻と離れて一人住まいをしていることや、サーシャは妻の仕事に理解のある夫がいたり母親と同居していたりすることなどがわかるとはいえ、私的な面で描かれているのはせいぜいそのくらいではないでしょうか(注10)。
 そんなことに時間を取り過ぎると、とても2時間の枠内には収まらなくなってしまうでしょうが、劇映画として幅が狭いような気がしました。

ハ)記事掲載がもたらした影響については、ラストの字幕で映し出されるものの、実にあっさりしていて、拍子抜けしてしまいます(注11)。
 局長が、「個別の神父の事件を取り上げるだけでは、従来同様個人的な出来事になってもみ消されてしまう。上の指示ですべてが行われている。標的は教会組織」とさらなる事件の追求を求めたのですから(注12)、出来上がった記事がどんな影響を及ぼしたのか、具体例を描き出すなど、もう少し本作で取り上げても良さそうに思います(注13)。

(3)渡まち子氏は、「アカデミー賞という冠がなければおそらく注目をあびない、映画ツウ好みの地味な映画なのだが、その質の高さは作品を見れば必ず分かる。不正や理不尽が横行するこの世の中でも、懸命に立ち向かう人間がまだいるのだと教えてくれる作品」として80点をつけています。
 渡辺祥子氏は、「ここにはペンは剣よりも強いことが信じられる人々がいる。ちょっと古い? でもこれが報道に携わる者のあるべき姿だ」として★5つ(「今年有数の傑作」)をつけています。
 稲垣都々世氏は、「枝葉をばっさり刈り込んだシンプルでストレートな脚本。過剰なサスペンスを盛り込むことなく、地道に調査を続ける記者たちをじっくり追いかけることで、画面に緊迫感をみなぎらせる。真っ当な素材を真っ当に描く、実直で慎み深い知性を、この映画は持っている」と述べています。
 藤原帰一氏は、「デジタルニュースとともに購読者が減少し、新聞経営は苦しくなりました。他方、世論を煽るポピュリズムは広がるばかり。…社会正義を求める新聞が過去のものとなったかのような現状です。現実が無残だからこそ夢を見たくなる。せめて映画の中でマスメディアの夢を取り戻してください」と述べています。



(注1)監督・脚本は、『扉をたたく人』のトム・マッカーシー
 そして、撮影監督がマサノブ・タカヤナギ(『ブラック・スキャンダル』も)。

 なお、出演者のうち、最近では、マーク・ラファロは『フォックスキャッチャー』、マイケル・キートンは『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、レイチェル・マクアダムスは『誰よりも狙われた男』、リーヴ・シュレイバーは『ジゴロ・イン・ニューヨーク』、ビリー・クラダップは『パブリック・エネミーズ』(フーバー長官役)、スタンリー・トゥッチは 『ランナウェイ 逃亡者』で、それぞれ見ています。

(注2)冒頭の場面は、暗い中でいろいろの人が出入りしたりして、クマネズミには充分に把握できませんでした。

(注3)司教は、ゲーガン神父を教区から異動させるから今後こういうことは起こらないなどと言って、女性を説得したようです。

(注4)その時、分署には地方紙の記者一人しかおらず、すぐには外に漏れなかったようです。

(注5ボストン・グローブ紙の特集記事欄「スポットライト」を担当する記者4人(ロビー、マイク、サーシャ、マット)のための部屋。リーダーのロビーには個室が設けられています。4人の記者は、日頃、この部屋で仕事をします。

(注6)本書は、ボストン・レッドソックスにまつわる呪いの話を取り扱っているようです。

(注7)ボストン・グローブは、1993年にニューヨーク・タイムズに買収されましたが、2013年にボストン・レッドソックスのオーナーに売却されています。

(注8)本作が取り扱う事件の概要については、Wikipediaの「カトリック教会の性的虐待事件」の項の「アメリカ合衆国」が参考になります。

(注9)ガラベディアン弁護士が、「自分の申し立てに相手側が反対する申し立てを行ってきたので、自分の申し立ての正当性を主張するために問題の文書を添えている」とマイクに漏らしたことから、マイクが悟って裁判所の記録保管所に走ることになるわけのようですが。

(注10)局長は、日曜日にも会社に出勤しているようですから、おそらく独身なのでしょう。

(注11)せいぜい、ボストン大司教区では249人の神父らが性的虐待で起訴されたとか、2002年12月にロウ枢機卿はボストン大司教職を解任されたといったことぐらいです。
 なお、最後に、児童への性的虐待が判明した地域名がずらずらと映し出されますが(劇場用パンフレットの最後のページに記載されています)、アジアではフィリピン(5地域)が挙げられているものの、日本や韓国は挙げられてはおりません(日本でも、欧米と同じような組織が設けられているようですが、いったいなぜなのでしょう?)。

(注12)ロビーも、探し求めていた文書が手に入ったためにすぐに記事にしようと焦るマイクを抑えて、「今のままではゲーガン神父の事件だけとなって、司祭が謝罪して終わってしまう。この際は、ヴァチカンまで届く記事にする必要がある」と言って、多数の神父が関与していたことの裏付けを求めようとします。

(注13)あるいは、アメリカや欧米の人々にとっては周知の事柄であり、いまさら描くまでもないのかもしれません。
 でも、劇場用パンフレットに掲載されている町山智浩氏のエッセイ「『スポットライト』の後、何が起こったのか」では、その影響が広範に及んだことがかなり詳細に、そして興味深く述べられています。



★★★☆☆☆



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10 コメント

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TBありがとうございます。 (すぷーきー)
2016-04-26 20:15:33
最初は、4人の記者も被害に遭った人達のことを考えているようには見えませんでした。
調べていくうちに、加害者の多さ・規模の大きさを知り、闘志が出てきたのかなと思いました。
虐待が判明した地域名の多さが衝撃でした。
Unknown (クマネズミ)
2016-04-26 21:30:47
「すぷーきー」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、本作の最後に映しだされる「虐待が判明した地域名の多さが衝撃」でした。
タダ、どうして、アジアではフィリピンだけが記載されていて、日本や韓国の記載がないのか、よくわかりませんでした。
Unknown (atts1964)
2016-04-27 08:34:13
事実を描いた作品とは知っていましたが、もう少し脚色があると思って観ていました。
ただあらゆるところを削ぎ落し、チームの取材から真実をスクープすることに絞って映画が作られていて、それはまじめに作られていると感じました。
こちらからもTBお願いします。
Unknown (クマネズミ)
2016-04-27 20:32:24
「atts1964」さん、TB&コメントをありがとうございます。
本作は、おっしゃるように、「それはまじめに作られている」と思います。ただ、劇映画ですから、記者のプライベートな面をもう少し描き出しても良いのかなとは思いました。
Unknown (ふじき78)
2016-09-11 09:00:03
> カトリック教会の存在が身近でないことや、(略)、邦題の副題にある「世紀のスクープ」というにはイマイチの感じがしました。

日本では神父、牧師、坊主、神主、どれもそんなに子供と密接に関係しないから、宗教方面ではこの事件は起こりづらそう。
なので、小学校の校長先生の6%が少年少女に性的なイタズラをしており、それを教育委員会が組織的に隠していた、みたいな事件ではないですかね。そんな事あったら学校なんか行かせられない。社会崩壊が起きかねない。アメリカさんはキリスト教が根っこの所で強いので、同じくらいの衝撃があったのだと思いますよ。

主人公たちの家庭にまではあまり興味ないよ、というのが今回のでも私は一緒です。
ただ、私見ですが、仕事にのめり込む度合いがひどいほど(家庭にいつかないほど)家族関係が希薄というグラデーションは出来てた感じがする。

キートン>ラファロ>マクアダムス>髭
Unknown (クマネズミ)
2016-09-11 21:10:22
「ふじき78」さん、コメントをわざわざありがとうございます。
日本でこの種の事件が「学校」や「寺院」などでも起きないのは、「教師」や「坊主」が一般に配偶者を持っているからではないでしょうか?これに対し、カトリック教会の「神父」は妻帯していないようですから、こうした事件が起こってしまうのではないでしょうか?
また、『トランボ』や『ニュースの真相』では、主人公の家族のことが描かれていたことが、映画に深みを与えていたように思えるのですが?
Unknown (ふじき78)
2016-09-11 22:28:59
「ニュースの真相」は未見です。
「トランボ」のタイトルはトランボ本人とトランボ一家も含んでる気がします。トランボ個人を描くためにトランボ一家を描く事は必要だった。ただ、家族の中でも描かれるウェイトに格差があって、妻と長女以外はあまりエピソードとして描かれていません。それはトランボを描くのにこの二人のエピソードだけで充分だったという事でしょう。デート中止しか描かれず、その後、それがどうなったかも触れられない可愛そうな長男。
「スポットライト」はチームの物語でチームは4人、家族を描くとしたら、別居した妻や子供を事件と関係なしにあまり描くのも何なので、同居人がいるレイチェルと髭の子供の話くらいのエピソード量で適当だったと思います(そこが主眼ではないし、家族を描かなければ人間が描けないとは私は思ってないので)。
Unknown (クマネズミ)
2016-09-12 20:49:49
「ふじき78」さん、再度のコメントをありがとうございます。
おっしゃることはよくわかります。
ただ、『トランボ』は、例えば『トランボ―10人の脚本家達―』といったタイトルの下で描き出すことも可能であり、そうなるとチームの物語になるでしょうし、トランボの家族の話は後退してしまうでしょう。
逆に、本作についても、『スポットライト―ある女性記者の物語』などとして、例えばサーシャ(レイチェル・マクアダムス)に焦点を当てて描き出せば、『ニュースの真相』におけるメアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)のような感じになったのかもしれません。要すれば、どんな種類の映画を面白いと感じるかは(家族関係を描写したほうがいいのか悪いのか)、鑑賞者の趣味の問題なのかもしれません。
Unknown (ふじき78)
2016-09-13 00:21:25
ホラー映画を見ている中で「家族など皆殺しにしてしまえ」と冷静に思ってしまう俺の狂った血が!
Unknown (クマネズミ)
2016-09-13 05:44:21
「ふじき78」さん、再々度のコメントをありがとうございます。
確かに、『ファインディング・ドリー』などを見ていますと、なぜそこまで家族愛にウエイトをおいた描き方をするのか、ドリーはむしろ自分の相手を見つける歳になっているのではないか、などと茶々を入れたくなってしまいます!

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