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ヤング≒アダルト

2012年03月08日 | 洋画(12年)
 『ヤング≒アダルト』を日比谷のTOHOシネマズシャンテで見ました。

(1)最近、洋画は「TOHOシネマズシャンテ」でしか見ていない感じで、映画館の入口に掲示してある公開中作品のポスターからすると、どれもクリアしてしまっています!銀座周辺にはたくさん映画館はありますが、丁度こちらの趣向にあった作品が選ばれて公開されていることの他に、このところできるだけ渋谷近辺で見ようとしているために(平日の帰りができるだけ遅くならないように)、こんな結果になるのかもしれません。

 そんなつまらないことはサテおき、この映画の主人公メイビスシャーリーズ・セロン)は、大層魅力的な37歳ながらも、変に自己中で何でも自分の思い通りになると考えている、端から見ると実に鼻持ちならない嫌味な女性。
 彼女は、高校卒業後、ミネソタ州にある故郷の田舎町を出て、大都会(同州のミネアポリス)へ行き、ゴーストライターとして活躍しています(注1)。
 そんな彼女のところに故郷の田舎町から、子供の誕生パーティーへの招待メールが届きます。それも、彼女が高校時代に付き合っていたバディパトリック・ウィルソン)から。



 バツイチのメイビスは、現在、セックスフレンドに事欠かないものの、きちんとした恋人はおらず、このままで行くと独り身を通すことになりかねないとの危機感もあり、さらには、高校時代抜群だったその魅力は未だ十分残っているとの強い自信にも裏打ちされて、ここは一つバディをその妻ベス(注2)から奪ってしまおうと考え、故郷に戻ります(注3)。
 サアどんな騒動が持ち上がるのでしょうか、……?

 といっても本作は、コメディ一辺倒というシロモノではなく、仲間から暴行されて下半身が不自由になってしまったクラスメイトのマットパットン・オズワルト)も登場して(注4)、むしろ生真面目にお話は展開していきます。



 それも、現在、ゴーストライターとして書き続けている小説の最後の方の展開とシンクロさせながらのストーリの描き方は(注5)、なかなか面白いと思いますし、日本でいうなら一旗揚げようと上京する若者の姿とダブりますが(注6)、こんなにやたらと自己を押し出す女性は、日本はもとより米国だってなかなか見当たらないのでは、とも思いました。

 本作は、女性から見てもとんでもないと思うような女性を描いていますから、特に男性のクマネズミにとって理解云々という話に直ちにはならないものの、もう少し抽象的に捉えてみたらどうかな、例えば、権勢をふるえたのはそれなりのポストに就いていたからなのに、自分の実力によるものと勘違いして、定年でポストを離れたにもかかわらず、昔の職場にやってきて威張り散らしている昔の上司の姿(かつての部下は下を向いて冷笑しています)をメイビスにダブらせてみたら、あるいは面白いかもしれないのでは、と思ったりしました。

 主演のシャーリーズ・セロンは、『あの日、欲望の大地で』以来ですが、なかなか難しい役を十分説得力のある演技でこなしているなと思いました。



 なお、こんな役を引き受けるものですから、彼女は、次作の『スノー・ホワイト』で、白雪姫ではなく“邪悪な女王ラヴェンナ”の方を演ずる羽目になるのでしょうか(デモ、実際にも36歳では、白雪姫は無理というものでしょう!)?

(2)本作の主人公メイビスは、元々アルコール依存症気味ですし、さらにまたコーラの大ビンを、時と所を考えずにガブ飲みするなど、かなり荒んだ生活を営んでいます。
 でも、体形が気になる年頃なのでしょう、TVを見ながら体操をしたり、今回のお里帰りの際も、バディとのデートの前には何度もエステに行って“おめかし”に余念がありません。
 特に、バディの子供の命名式のパーティー出席に当たっては、絶対に彼を自分に取り戻すのだとの決意のもと、ツイードスカートと白いブラウスの上にカーディガンを羽織るという格好で、あまつさえ赤ちゃんへのプレゼントとして「ゲップタオル」まで持って現れます(注7)。



 こういったあたりはクマネズミにはなかなか理解が及びがたいものの、脚本家ディアブロ・コディとか衣装デザイナーなどの細心の注意によっていると思われ、なかなか興味をひかれるところでもあります。

(3)前田有一氏は、「「JUNO/ジュノ」がそうであったように、監督、脚本家、主演女優の誰が欠けてもうまくいかなかったであろう作品。「ヤングアダルト」は、その奇跡のコラボレーションが再びうまくハマった傑作である」として80点をつけています。
 渡まち子氏は、「まったく成長しないヒロイン像が新鮮な「ヤング≒アダルト」。美人女優のセロンが演じるからこそ説得力がある」として70点をつけています。




(注1)原題の「Young Adult」は「少女向け小説」という文学ジャンルを表していて、メイビスは、そのジャンルの小説(『花のハイスクール』)のゴーストライターです。
 なお、アメリカの場合、ゴーストライターの名前が表紙の裏に小さく記載されていることが、この映画を見てわかりました(でも、それだったら、ゴーストライターともいえないのではないでしょうか?)。
 また、田舎の町の書店で、自分がゴーストライターとして書いた小説本がうず高く積まれているを見て、メイビスが「サインしましょうか?」と書店員に尋ねると、彼は「返本できなくなるので困ります」と答え、メイビスを怒らせます(仕事の方でも、メイビスは、どうやら厳しい局面に立たされつつあるようです)。

(注2)バディの妻ベス(エリザベス・リーサー)は、同じ町の子持ち主婦3人とでバンドを組んで、ドラムスを担当しています。町のバーでそのバンドが演奏した曲目は、なんとメイビスがバディと昔よく聞いたもので、今回メイビスが故郷に戻る車の中でもその曲をかけていたのです!きっと、バディがベスにその曲を教えたのでしょう。すると、メイビスの立場は、……?
 実は、その演奏を聴いていたメイビスは、一度は唖然とするものの、自分の魅力が負けるはずがないとの自信で戦いに挑みます。でも、……。
 なお、このサイトによれば、ここで取り上げた曲は英国のTeenage Fanclubの“The Concept”とのこと。

(注3)故郷の町に戻って早速バディに電話を入れ、「すぐに出てこない?」と尋ねたところ、それはできないと断られ、結局、翌日の6時に、バディの指定する場所で会うことになりました(翌日も、すでに来て待っているかなとレストランを見回しても、彼はまだ到着していませんでした)。
 こんなところから、察しが良ければ、自分が介入する余地がなくなっていることにすぐに気がつくはずです。でも、自分のことだけを考えているメイビスには、事態を客観的に見る余地などもとよりあるはずもありません。その結果、……。

(注4)メイビスが故郷の町に到着した夜(バディとは会えません)、メイビスは、食事をするために入ったバーでマットと遭遇するのです。
 高校時代には、メイビスの眼中に彼のことは全く入っていなかったので、すぐには判別できませんでしたが、話していくうちに次第に分かってきます。そして、彼が、誤ってゲイだとして体育会系の者に酷い暴行を受けて、それ以来、身体障害者になっていることも(現在のところ、家の小さな醸造所でバーボンウイスキーを作っています)。
 マットは、メイビスの話を聞いて、「過去は過去だ、君は大人になっていない、他人の幸せを壊しに来た」と非難します。それは正しい見方なのですが、どうやらマットは、高校時代からメイビスに強い憧れを抱いていたようなのです。それで、……。

(注5)メイビスが書いている小説の主人公が恋するライアン(“永遠の恋人”としてなんとか引き留めねばと思っています)は、ラストに至ると、海にヨットに出て遭難して急死してしまいます。そして、主人公は、「外に飛び出すのだ、その町に別れを告げて、これからが人生のスタートなのだ」と思いますが、まさにメイビスの心境そのものなのでしょう。
 でも、マットは一夜の良い思い出を受けとったものの、バディは、追い詰められたメイビスから、いたちの最後っ屁 のごとくに重大な事柄をみんなの前で公表されて、いくら昔のこととはいえかなり傷ついたのではないでしょうか(妻のベスだって)?にもかかわらず、そんな人達を故郷に残し、自分だけは元の都会に戻って心機一転で新しい船出とは、メイビスも随分とノーテンキなものだという感じもしますが?

(注6)『アフロ田中』!

(注7)ここら辺りは、このサイトを参照しました。





★★★☆☆





象のロケット:ヤング≒アダルト


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4 コメント

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Unknown (KLY)
2012-03-13 01:25:18
前田氏は今年の代表作をあっさりと越える80点をつけているのですね(笑)
それはそうと、演技派シャーリーズ・セロンならではの上手い芝居に、脚本がまた良くできているなと思いました。
鼬の最後っ屁のシーンは、バディは仕方ないと思うのですよ。男だしそもそも出来るようなことをしたのだし、何より付き合っていた当時ならそれは別に悪いことじゃないし。だけど今の奥さんには可哀想ですよね。理屈では解っても感情では割り切れないものがあるでしょうし。
ただ私は好きな人の子供を身篭ってでも流産してしまったというメイビスの深い哀しみも解る気がするのです。いや、もちろん流産した気持ちは解りませんけど、それがずっと心に後遺症を残すほどのものだということはありえるのではないかと。だからと言って彼女のしたことを肯定するつもりはサラサラないのですけどね。逆に言うと、あの告白がなかったら、私の中では彼女はただの心を病んだヤバイ女で終わっていたと思います。
最後に、この作品の記事なのですがどうしてもTBが飛ばないのでgooに問い合わせたところ、私の記事のURLに禁止ワードが含まれていると言われました。多分「adult」じゃないかと想像するんですが…。今更記事を別に立て直すわけにもいかないので、今回gooブログの皆さんには申し訳ありませんがなしということでお願いします。
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鼬の最後っ屁 (クマネズミ)
2012-03-13 06:25:24
「KLY」さん、わざわざコメントをありがとうございます。
メイビスが流産を告白するシーンについては、「あの告白がなかったら、私の中では彼女はただの心を病んだヤバイ女で終わっていた」とされるKLYさんのお考えはよく分かりました。
ただ、クマネズミとしては、いくら「心に後遺症を残すほどのもの」としても、20年ほど前の酷くプライベートなことを今更みんなの前に持ち出すのか、という感じになって、「いたちの最後っ屁」とエントリの「注5」で申し上げたところです。
なお、ファンタジーが余り好きではなさそうな前田氏にとっては、本作は「今年」どころか“今世紀”を代表する傑作なのかもしれません!
また、「記事のURLに禁止ワードが含まれている」とTBが飛ばないとは知りませんでした。クマネズミのブログの「禁止ワード」には“adult”を入れておりませんから、あるいは「gooブログ」自体が設定しているのかもしれません。
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Unknown (ほし★ママ。)
2012-03-21 20:45:35
彼の奥さんはもちろん、両親まで居るところで
あんな告白を始めるなんて、どんだけ嫌な女なんだろうと思ったものの
ラストは何となく応援してしまっていました。
それは、マットがいい感じに「常識人」を代表して
言いたいことを言ってくれていたからかな~と。
 
と言いつつ、きっとメイビスはこれからも
そんなに変わらないんだろうなと思ったり。
 
白雪姫の魔女役も、気になります♪
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やっぱり (クマネズミ)
2012-03-22 05:28:20
「ほし★ママ。」さん、TB&コメントをありがとうございます。
確かに、「マットがいい感じに「常識人」を代表して言いたいことを言ってくれてい」ましたが、さらには翌朝にその妹が、私を一緒に連れて行ってと言いながら、いろいろメイビスのことを賞賛したこともあって、針の振れが元に戻ったのかなとも思われます。
でもやっぱりああいう人は「そんなに変わらないんだろう」と思いますが。
何にせよとにかくシャーリーズ・セロンが素晴らしく、おっしゃるように次作「スノー・ホワイト」が見たくなってしまいます!
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