『ブルーバレンタイン』をTOHOシネマズシャンテで見てきました。
(1)この映画は、タイトルからすると若い女性向きのたわいもないラブストーリーなのかなと敬遠していたところ、実は悪くない作品だと聞き及んで、見に行ってきた次第です。
実際にも、話の中身自体はよくあるものと言えそうですが、大層入念に描き込まれていて、クマネズミにとっては拾い物でした。
映画は、看護師の妻のシンディ(ミシェル・ウィリアムズ)と、ペンキ塗り職人の夫のディーン(ライアン・ゴズリング)、それに娘のフランキーとからなる3人家族を巡るお話。
よくありがちなことですが、夫の方は、ちゃらんぽらんに仕事をしていて、朝からビールを飲んでいる一方、妻の方は朝早くから夜遅くまで病院で働いています。
そうしたところ、愛犬が、閉まっていなかった檻の外に出てしまって、車に轢かれて死んでしまうという事件が起きます。妻のシンディからすれば、夫のディーンが家にいるのだから、犬のこともよく見ていて欲しいと思う一方で、ディーンの方は、妻が檻の鍵に注意しなかったとなじる始末。
これは些細な事件にすぎないように見えながらも、実のところこれまでも、二人の間にはかなりすきま風が吹いていて(ディーンは、この生活で良いと思っている一方で、シンディはモット飛躍したいし、夫にもモット働いてもらいたいと考えています)、むしろ二人の関係を象徴する出来事ともいえるでしょう。
要すれば、結婚10年目くらいの倦怠期を迎えた夫婦なのです。両者とも目立った欠点はないものの、なんとなくしっくり来なくなっているわけです。
そこで、ディーンは、事態を立て直すべく、強引に妻を誘って郊外のラブホテルに行きます。でも、事態は却って悪化してしまいます。
そういった現在時点の話の展開の合間に、結婚当初のいきさつが回想シーンとして何度も挿入されます。
若い時分からシンディは、頑張り屋で医師になるべく勉強していた一方、ディーンは、高校も満足に卒業せずに、そのころは引越業のアルバイトをしながら日銭を稼ぐ暮らし。元々二人は不釣り合いだったわけながら、シンディは、ディーンの中に自分にないものを見つけたのでしょう、一息に結婚に突っ走ってしまいます。
ただ、日常生活の積み重ねである結婚生活に入ると、やはりそのアンバランスなところが目立ってきてしまい問題となってくるようです。
ついに、ディーンは、酒に酔った勢いで、シンディが働く病院で騒ぎを引き起こし、結局は離婚に至ってしまいます。
どこにでも転がっている他愛のない話の展開ながら、ディーンを演じるライアン・ゴズリングは、結婚してから大分経過した現時点を、髪の毛を剃ったり肥満気味の体型にしながら巧みに演じています。
またシンディを演じるミシェル・ウィリアムズも、瑞々しい若さ溢れる学生時代と生活に疲れた現時点との差をうまく演じ分けていて、全体として見応えがある作品だなと思いました。
(2)丁度4月29日に、イギリスのウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式の模様が中継された折りでもあり、また最近映画『婚前特急』を見たこともあって、映画でディーンとシンディが結婚に至る展開には興味を惹かれたところですが、他方で、『Somewhere』などからも離婚も随分と一般化しているのだな、と思わされます。
特に、『Somewhere』では、子どもが重要な役割を演じています。
また、『まほろ駅前多田便利軒』でも、瑛太は、子どもを死なせてしまった自責の念から逃れられなくて、離婚してしまっているのです。
この映画においても、ディーンとシンディには娘がいて、ディーンはそのフランキーをことのほか愛しているようです。
ただ、娘はディーンの実の子どもではなく、シンディが結婚前に付き合っていた彼氏との間の子どもであって、そのことはディーンも承知の上。逆に、だからこそ彼は、フランキーの面倒をよく見て、むしろフランキーとの時間を多く取りたいが故に、ちゃらんぽらんにしか仕事をしていないのです。
であっても、シンディは、もう一緒にはいられないとして、ディーンに離婚を告げ、ディーンも二人の下を去ってしまいます。
もしかしたら、『Somewhere』は、この後のディーンとフランキーの関係を描いたものとなっているのかもしれません。むろん、ディーンは、ジョニーのように有名スターではなく、フェラーリを乗り回すことなどあり得ないでしょう。
ですが、映画のラストのままシンディと別れてしまったら、やはりフランキーに心のよりどころを求めることになるのではないか、と思わされました。
(3)渡まち子氏は、「夢中で愛し合った過去と、生活に押しつぶされそうな現在、そしてある決断の末に何かが始まる未来へ。一組の男女の気持ちの移ろいを、残酷で美しい時間そのものを主人公にして物語る作品だ」として65点を付けています。
★★★☆☆
象のロケット:ブルーバレンタイン
(1)この映画は、タイトルからすると若い女性向きのたわいもないラブストーリーなのかなと敬遠していたところ、実は悪くない作品だと聞き及んで、見に行ってきた次第です。
実際にも、話の中身自体はよくあるものと言えそうですが、大層入念に描き込まれていて、クマネズミにとっては拾い物でした。
映画は、看護師の妻のシンディ(ミシェル・ウィリアムズ)と、ペンキ塗り職人の夫のディーン(ライアン・ゴズリング)、それに娘のフランキーとからなる3人家族を巡るお話。
よくありがちなことですが、夫の方は、ちゃらんぽらんに仕事をしていて、朝からビールを飲んでいる一方、妻の方は朝早くから夜遅くまで病院で働いています。
そうしたところ、愛犬が、閉まっていなかった檻の外に出てしまって、車に轢かれて死んでしまうという事件が起きます。妻のシンディからすれば、夫のディーンが家にいるのだから、犬のこともよく見ていて欲しいと思う一方で、ディーンの方は、妻が檻の鍵に注意しなかったとなじる始末。
これは些細な事件にすぎないように見えながらも、実のところこれまでも、二人の間にはかなりすきま風が吹いていて(ディーンは、この生活で良いと思っている一方で、シンディはモット飛躍したいし、夫にもモット働いてもらいたいと考えています)、むしろ二人の関係を象徴する出来事ともいえるでしょう。
要すれば、結婚10年目くらいの倦怠期を迎えた夫婦なのです。両者とも目立った欠点はないものの、なんとなくしっくり来なくなっているわけです。
そこで、ディーンは、事態を立て直すべく、強引に妻を誘って郊外のラブホテルに行きます。でも、事態は却って悪化してしまいます。
そういった現在時点の話の展開の合間に、結婚当初のいきさつが回想シーンとして何度も挿入されます。
若い時分からシンディは、頑張り屋で医師になるべく勉強していた一方、ディーンは、高校も満足に卒業せずに、そのころは引越業のアルバイトをしながら日銭を稼ぐ暮らし。元々二人は不釣り合いだったわけながら、シンディは、ディーンの中に自分にないものを見つけたのでしょう、一息に結婚に突っ走ってしまいます。
ただ、日常生活の積み重ねである結婚生活に入ると、やはりそのアンバランスなところが目立ってきてしまい問題となってくるようです。
ついに、ディーンは、酒に酔った勢いで、シンディが働く病院で騒ぎを引き起こし、結局は離婚に至ってしまいます。
どこにでも転がっている他愛のない話の展開ながら、ディーンを演じるライアン・ゴズリングは、結婚してから大分経過した現時点を、髪の毛を剃ったり肥満気味の体型にしながら巧みに演じています。
またシンディを演じるミシェル・ウィリアムズも、瑞々しい若さ溢れる学生時代と生活に疲れた現時点との差をうまく演じ分けていて、全体として見応えがある作品だなと思いました。
(2)丁度4月29日に、イギリスのウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式の模様が中継された折りでもあり、また最近映画『婚前特急』を見たこともあって、映画でディーンとシンディが結婚に至る展開には興味を惹かれたところですが、他方で、『Somewhere』などからも離婚も随分と一般化しているのだな、と思わされます。
特に、『Somewhere』では、子どもが重要な役割を演じています。
また、『まほろ駅前多田便利軒』でも、瑛太は、子どもを死なせてしまった自責の念から逃れられなくて、離婚してしまっているのです。
この映画においても、ディーンとシンディには娘がいて、ディーンはそのフランキーをことのほか愛しているようです。
ただ、娘はディーンの実の子どもではなく、シンディが結婚前に付き合っていた彼氏との間の子どもであって、そのことはディーンも承知の上。逆に、だからこそ彼は、フランキーの面倒をよく見て、むしろフランキーとの時間を多く取りたいが故に、ちゃらんぽらんにしか仕事をしていないのです。
であっても、シンディは、もう一緒にはいられないとして、ディーンに離婚を告げ、ディーンも二人の下を去ってしまいます。
もしかしたら、『Somewhere』は、この後のディーンとフランキーの関係を描いたものとなっているのかもしれません。むろん、ディーンは、ジョニーのように有名スターではなく、フェラーリを乗り回すことなどあり得ないでしょう。
ですが、映画のラストのままシンディと別れてしまったら、やはりフランキーに心のよりどころを求めることになるのではないか、と思わされました。
(3)渡まち子氏は、「夢中で愛し合った過去と、生活に押しつぶされそうな現在、そしてある決断の末に何かが始まる未来へ。一組の男女の気持ちの移ろいを、残酷で美しい時間そのものを主人公にして物語る作品だ」として65点を付けています。
★★★☆☆
象のロケット:ブルーバレンタイン