映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

「江戸の人物画」展

2011年05月05日 | 美術(11年)
 府中市美術館で開催されている「江戸の人物画―姿の美、力、奇」展に行ってきました(後期:4月19日~5月8日)。

 いつも大変興味深い企画展が開かれている府中市美術館ですが、今回は、特に人物が描かれている絵画を特集しています(注1)。
 中でも次の3点に興味を惹かれました。

(1)伊藤若冲の「蘆葉達磨図
 NHKTV番組「若冲ミラクルワールド」の第4回「黒の革命 水墨画の挑戦者」(4月29日放映)では、水墨画における若冲の超絶技巧「筋目描き」が紹介されていましたが(放送内容については、例えば、このサイトで)、この作品でも、達磨の衣にまさにその技法が使われていたので驚きました(注2)。




(2)曽我蕭白蝦蟇仙人図
 以前も同館で蕭白の山水画を見たところ、今回の展覧会でも彼の作品が随分と展示されていて嬉しい限りです。



 この作品は蕭白の「中国人物図押絵貼屏風」の中の一つながら(注3)、同時に展示されている秋田藩主・佐竹曙山の「蝦蟇仙人図」とも見比べることが出来るので、ことさら注目されます。
 というのも、佐竹曙山は、西洋の画法を取り入れた秋田蘭画を代表する画家の一人であり、この作品でも、仙人が人物画として実に正確に描かれている点が注目されています。



(3)石川大浪の「ヒポクラテス像



 江戸時代後期に、西洋流の医学を学んだ人々が、こうした画像を家に掛けて礼拝したようです(漢方医の神農や黄帝に倣って)。
 こんな慣習は、『解体新書』の改訂に携わった大槻玄沢が、西洋から入ってきたヒポクラテスの画像を入手したことが始まりとされています(注4)。
 そして、その『解体新書』の「解剖絵図を一人で担当した」のが、上記佐竹曙山と並び、秋田蘭画を代表する画家の一人の小田野直武なのです(注5)。


(注1)昨年1月に見た「医学と芸術展」に関する記事の冒頭に掲載した円山応挙の「波上白骨座禅図」が、今回も展示されています。

(注2)このサイトによれば、「筋目描き」とは、「墨の滲みと滲みがぶつかると、境目が白くなる。この性質を利用した技法のこと。本来は邪道とされるが、若冲はあえて作品に使用した」とのこと。
 なお、NHK番組では、藤原六間堂という画家が、この「筋目描き」を現代に復活させていることが紹介されていました。

(注3)同展の前期(3月19日~4月17日)には、水墨画による蕭白の「蝦蟇仙人図」が展示されていましたが、残念ながら見ることが出来ませんでした。

(注4)同展カタログP.72。
 なお、同展の前期には、渡辺崋山の「ヒポクラテス像」が展示されていましたが、これも見ることは出来ませんでした。

(注5)大城孟著『解体新書の謎』(ライフ・サイエンス、2010年)P.24。
 同書では、引き続いて、「直武の苦労は大変なものであったと推察する」とし、というのも、「日本画にはない①遠近法、②陰影法という西洋画の技法を十分に習得しないままに、『ターヘル・アナトミア』の立体的絵図を模写しようとした」からであるが、「しかし、こうした心配をよそに直武の解剖絵図は見事といえる」と述べられています(同書に関する科学哲学者・野家啓一氏の書評はここで見ることが出来ます)。
 なお、小田野直武の作品「西洋人物図」は、今回の展覧会でも展示されていましたが、前期なので見ることは出来ませんでした。