映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ヤギと男と男と壁と

2010年09月04日 | 洋画(10年)
 予告編を見て面白そうだなと思い、また千原ジュニアがこの映画の邦題をつけたということもあって、『ヤギと男と男と壁と』をシネセゾン渋谷に行ってきました。

(1)何よりこの映画には、驚いたことに、『マイレージ、マイライフ』のジョージ・クルーニー、『クレージー・ハート』のジェフ・ブリッジス、『ウディ・アレンの夢と犯罪』のユアン・マクレガー、そして『ビヨンド the シー』(2004年)以来のケヴィン・スペイシー(注)といった超豪華俳優が結集しているのですから、ストーリーがいくら荒唐無稽でリアリティが乏しくともかまわない感じです。

 そのストーリーですが、イラク戦争が勃発してその模様を取材すべく、ジャーナリストのユアン・マクレガーは、ジョージ・クルーニーと一緒に、クウェートからイラクに入って砂漠をジープに乗って進みますが、道中、ジョージ・クルーニーから、以前所属していた米軍の「超能力部隊」(エスパーで構成される“新地球軍”)の話を聞き出します。
 彼が語るところによれば、「超能力部隊」はジェフ・ブリッジスがたちあげたもので、所属する兵士は、空に浮かんでいる雲を消す能力、誘拐犯の居所をも探し出す遠隔視力、見つめることで相手を倒してしまう「キラキラ眼力」、壁をすり抜ける力などを身につけようとしていたとのこと。
 その後紆余曲折があって、結局、ユアン・マクレガーとジョージ・クルーニーは、砂漠で立ち往生してしているところを、ケヴィン・スペイシーが指揮する “新地球軍”に救出されます。

 映画には様々の超能力らしきものが登場するものの、どれもあまり見栄えがしません。それもそのはず、たとえば空に浮かんでいる雲を消したとしても、砂漠では何の意味もありませから(むしろ逆効果でしょう!)。
 中でこれはといえるものは、ヤギをも倒すジョージ・クルーニの「キラキラ眼力」でしょう。でも、ケヴィン・スペイシーが率いる部隊は、どうもそれを悪用しているようで、その駐屯地には、たくさんのヤギが倉庫で飼われています。そればかりか、薬物実験を施されているイラク人と見られる人たちが、密室に閉じ込められてもいるのです。
 これでは、“新地球軍”の基本思想である“ラブ&ピース”に反するとして、ユアン・マクレガーとジョージ・クルーニーは、部隊が保有するLSDを飲料水に混ぜることによって兵士たちを酩酊状態に陥れて、この駐屯地を解放してしまいます。

 結局のところ、“新地球軍”によるジュダイ計画などと言ってみても、壮大な無駄としか思えず、そうだとすれば、それを描き出しているこの映画自体も、超豪華メンバーが出演してはいるものの、何だかなーという感じになってしまいます。

 ジョージ・クルーニーは、ヘリコプターに乗って飛び立ってしまいますが、とどのつまりは行方不明となり、ユアン・マクレガーは、米国に戻って見聞したことを本にします。それで出来上がった著書が、この映画の原作本であるノンフィクション『実録・アメリカ超能力部隊』ということなのでしょう。
 原作が“ノンフィクション”で「実録」ならば、直ちに例の“true story”と来るところながら、ラストでユアン・マクレガーが壁をするりと抜けるのを見ると、やはり……。

 この映画は、あまり変な意味付けなど与えずに、ジョージ・クルーニーといった容貌も貫禄も超一流の俳優たちが、真面目腐ってバカなことを演じている様を無心に楽しむべきなのでしょう!


(注)そういえば、ケヴィン・スペイシーは、『月に囚われた男』でコンピューターの音声を担当していました。

(2)この映画を見たのは土曜日の夕方で、自宅に帰ってTVを点けてみたら、たまたま、フジテレビの「めちゃイケ」で「真夏の超能力頂上決戦エスパーVS イケメン3番勝負」という企画をやっていました。
 メタルアーティストDaiGoがスプーン曲げを披露するのに対して(注)、コメディアンのエスパー伊東もそれに対抗する超能力を発揮して勝負するという内容です。
 元々お笑い番組ですから、DaiGoのスプーン曲げは絶妙であるものの、エスパー伊東の超能力には笑ってしまいました。
 特に、3番勝負の最初にエスパー伊東が挑戦したのが「壁抜け」なので、見てきた映画との余りのシンクロに驚いてしまいました。ただ、「壁」と言っても段ボールで、それもフォークで人型を刳り抜いて通り抜けようとし、実際には刳り抜きが不完全なため、体当たりしたエスパー伊東は、映画におけるホップグッド准将(スティーブン・ラング)のように段ボールに跳ね返されてしまいましたが!


(注)日本でユリ・ゲラーのパフォーマンスによって「超能力ブーム」に火が付いたのは1970年代の中頃ですから、まだそんなことをやっているのという感じですが、当時のものよりも随分と洗練されているのには驚きました。
 なお、このサイトには、スプーン曲げの方法の一つが記載されています。


(3)映画評論家はこの映画に対してはマズマズと言ったところです。
 前田有一氏は、「おそらく本作が真にやりたかったことは、米軍にそうしたリベラル思想(ベトナム戦争敗戦のトラウマによる反動)が入り込んだ結果、平和主義志向になるかと思ったら、逆にそうした考え方を殺人に利用されてしまった点を強調することにある」が、「個人的にはそうした主張をもっと前面に押し出し、シニカルにまとめてほしかったという気持ちは残る」として60点を、
 渡まち子氏は、「地球上から争いごとをなくすための超能力部隊の奮闘がコミカルかつアイロイニカルに描かれるが、結局は、最新テクノロジーも怪しげな超能力も、すべては戦 争に使われてしまうという、シニカルなメッセージも透けて見えた。演技達者がズラリと揃うが、なぜか女っけはなし。ちょっと不思議である」として60点を、
 福本次郎氏は、「いい年した大人があまりにもばかばかしい事象に真剣に取り組 む姿にこっけいさをにじませ、その半面、珍奇な信念の先に生みだされるパワーは美しさすら感じさせる。映画は自信を失った新聞記者が奇天烈な男を取材する なかで、疑うより信じる力で真実を見い出していく過程を描く」として60点を、
それぞれ与えています。


★★★☆☆


象のロケット:ヤギと男と男と壁と