孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

水資源をめぐる対立  インダス川のインド・パキスタン ナイル川のエジプト・エチオピア 生命線が断層線に

2018-01-21 22:09:35 | 南アジア(インド)

(【1月18日 WSJ】 エチオピアが国家発展を託してナイル川で建設を進める巨大ダム)

紛争や政情不安に陥っている国々の1億8000万人余りが飲料水を得られていない
言うまでもなく、人間は水なしには生きていけませんが、世界中で多くの人々が十分な、あるいは、安全な水を利用できない状況に置かれています。

その原因の一つは紛争・政治的混乱というきわめて人為的理由です。

****世界で1億8000万人が飲料水得られず ユニセフ推計****
ユニセフ=国連児童基金は、紛争や政情不安の影響で飲料水を得られない人々が全世界で1億8000万人に上るとする推計を発表し、国際社会に対して早急な対策を取るよう訴えています。

ユニセフは29日、紛争や政情不安に陥っている国々の1億8000万人余りが飲料水を得られていないとする推計を発表しました。

このうち、中東のイエメンでは、2年以上にわたってハディ政権と反体制派による内戦が続いている影響で、主要な都市に水を供給する水道網が破壊され、およそ1500万人が飲料水などを得られていないということです。

また、アサド政権と反政府勢力、それに過激派組織IS=イスラミックステートなどが入り乱れて混乱が続くシリアでもおよそ640万人の子どもを含む1500万人が飲料水にありつけない状態だということです。

このほか、イスラム過激派組織、ボコ・ハラムによるテロや襲撃が相次ぐ西アフリカのナイジェリア北東部では、水の供給施設や処理施設の75%が破壊されるなどして360万人が飲料水を得られていないとしています。(後略)【2017年8月29日 NHK】
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水質汚染が進むパキスタン 2025年までに水源が枯渇する恐れも
もちろん、上記の紛争・政治混乱以外に、干ばつのような気候的な変動、限られた水資源を活用するインフラの未整備、経済活動に伴う水質汚染などがあります。

下記のパキスタンの事例は、そうした世界中いたるところで見られる水問題の“氷山の一角”に過ぎません。

****パキスタンの水危機、汚染に加え枯渇の恐れも****
パキスタンの首都イスラマバードで暮らすサルタジさん一家は、日々の飲料水として、近所を流れる小川の水を利用している。市内には水路が複数存在するが、どこもごみであふれて汚染されており、その水をいくら沸騰させてもあまり意味はない。
 
こうした水の問題に直面しているのは、サルタジさん一家だけではない。国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によると、パキスタンでは3分の2以上の世帯が細菌に汚染された水を飲料水として利用しているため、毎年5万3000人の子どもたちが下痢などを患い死亡している。
 
他方で、腸チフスやコレラ、赤痢、肝炎などもまん延しており、国連(UN)やパキスタン当局によると、同国全土における疾病や死亡の30~40%は、劣悪な水質に関連したものとなっているという。
 
発展途上国のパキスタンでは、この問題が大きな経済的負担となっている。

「衛生設備を改善するために多額の投資が必要」と警鐘を鳴らし続けている世界銀行は2012年、水質汚染が原因で年間推定57億ドル(約6300億円)の損失となっていることを明らかにした。これは同国の国内総生産(GDP)の4%近くに相当する額だ。
 
パキスタン第2の都市ラホールでは、水の問題はイスラマバードよりもさらに深刻だ。この都市に暮らす約1100万人に飲料水を供給しているラビ川には、上流にある数百の工場から排水が流れ込んでいる。
 
地元住民らはこの川の魚を食べているが、世界自然保護基金(WWF)のソハイル・アリ・ナクビ氏によると、魚の骨から重金属汚染が確認されたとの報告も複数あるという。(中略)

■「絶対的な水不足」
パキスタンでは水関連のインフラ整備が遅れている。これは明白な事実だ。持続可能開発政策研究所(SDPI)の研究員であるイムラン・ハリド氏は、「環境が政策課題の一つとなっていない」国では、「処理施設などはほぼ存在しない」と警鐘を鳴らす。
 
しかもパキスタンでは、水が汚染されているだけでなく、その量も乏しくなってきている。
 
公的機関の予測によると、人口が1960年当時の5倍にあたる約2億700万人まで増加した同国では、2025年までに水源が枯渇する恐れがあり「絶対的な水不足」に直面することも考えられるという。

■「教育不足」
パキスタン農業研究評議会(PARC)のバシール・アフマド氏によると、巨大なヒマラヤ氷河を抱え、モンスーンの影響による降雨や洪水に見舞われるパキスタンだが、大規模な貯水池はわずか3か所しかない。
 
また公式統計によると、パキスタンの水の90%は農業用として利用されているにもかかわらず、英植民地時代に造られた大規模な灌漑用水路は劣化してしまっているという。
 
パキスタン水資源調査評議会(PCRWR)のムハンマド・アシュラフ氏は、「すべての都市部で地下水面は日に日に下がっており、危機的状況になりつつある」と警鐘を鳴らす。

同氏によると、地下水のくみ上げでは、ヒ素濃度が高い深さにまで徐々に迫っており、事実昨年8月に発表された国際調査の結果によると、約5000万~6000万人が、ヒ素に汚染された水を日々利用していることが指摘されている
 
だが、こうした状況においても無駄遣いされる水の量は以前と変わっていない。首都イスラマバードでは路上の埃を大量の水で洗い流し、洗車は毎日のように行われ、そして緑の芝生には惜しげもなく水がまかれ続けている。【1月21日 AFP】
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インダス川水資源をめぐるインドとの対立
パキスタンにとって最大の水資源は国際河川インダス川ですが、インダス川はインドにとっても重要な水資源です。
インダス川上流域は領有権問題という火薬庫であるカシミール地方にあたることから、両国は貴重な水資源をめぐって対立・不信を募らせています。水資源をめぐる争いがカシミールでの対立を激化させているとも言えます。

****インダス川の水をめぐる攻防****
(中略)
◆平和への脅威?
インドでは歴史的に、水をめぐる争いが元になるコミュニティー間の衝突が繰り返されてきた。パキスタンでも、水不足が食料、エネルギー危機を引き起こし、複数の都市で暴動や抗議行動が頻発している。

インダス川の問題は、ともに核兵器を保有する両国間で辛うじて維持されている平和も脅かしている。

インダス川の上流、カシミール地方をめぐる長年の紛争では、水が戦略上の権益の柱と考えられてきた。1960年、「インダス水協定」が結ばれ、水資源の共有管理態勢が保たれている。

しかし、両国人口は増加の一途を辿り、1人あたりの水の供給量は急激に減少、インダス川の流量が減れば共有も難しくなる。

インダス川の流量調整において中心的な役割を果たすのは、カシミール地方の山岳氷河だ。まるで自然の貯水タンクのように、冬は雨や雪を凍らせ、夏になると解けた水を放出する。

インダス川の流量の実に半分は氷河が解けた水であり、川の運命はヒマラヤ山脈の状態に大きく左右される。短期的には、氷河の融解が加速し、2010年に起きたような壊滅的な大洪水が増えると予測されている。

また、両国は先を争うように、カシミール地方水系の自国側に大規模な水力発電ダムを建設中で、否が応でも緊張が高まっている。

上流部でのインドのプロジェクト規模に、パキスタンは自国水力発電計画への影響を懸念、作物栽培の取水プランに打撃となる可能性を表明している。【2011年10月17日 National Geographic】
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上記記事が懸念していたように、大規模な水力発電ダム建設でインド・パキスタンの緊張が高まっています。

****紛争の水源インダス/1 ダム建設、相互不信 印、水資源を圧力カードに/パ、枯渇恐れ計画に異議****
インド 水資源を圧力カードに/パキスタン、枯渇恐れ計画に異議
(中略)インダス川の支流から長さ約24キロのトンネルに水を流して電力を生む。発電に使った水は湖を経由し、そのまま別のインダス川支流へと注ぐ--。キシャンガンガー水力発電計画(33万キロワット)は、電力事情が逼迫(ひっぱく)するインドがカシミール地方で力を入れる水力発電所の一つだ。

来年の操業を目指し、急ピッチで工事が進む。だが、インドと3度の戦火を交えた隣国パキスタンは、インドのダム建設に対し、水資源が奪われるのではないかと懸念を抱いている。
 
中国からインドとパキスタンを経てアラビア海へ注ぐインダス川は、インドにとって、大きな発電能力を秘めたエネルギー資源だ。

一方、パキスタンでは人口の9割以上がこの川に依存している。上流を押さえるインドの使用量が増え水資源が枯渇すれば、雇用の半数を農業に頼るパキスタンの生命線が閉ざされる。1947年の分離独立以降、印パがインダス川を巡って争いを続けるゆえんだ。
 
両国は60年、世界銀行の仲介で「インダス川水利条約」を締結した。インダス川と5本の主要な支流のうち、全水量の約20%に当たる東側の支流3本をインド、西側に位置する本流と支流2本をパキスタンに割り当てるとの内容だった。

ただ、インドは一定の条件の下、西側の支流でも水資源利用が可能とされた。キシャンガンガー水力発電計画はこの条項に基づき、インドが西側の支流で開発している。
 
パキスタンは2010年、キシャンガンガー計画に異議を申し立て、仲裁裁判所(ハーグ)に訴えた。建設は一時停止を命じられ、インド側はダムの高さを計画の約3分の1に縮小。利用する水量も制限された。

それでも懸念は払拭(ふっしょく)されていない。パキスタンの野党イスラム協会幹部、アミール・ウスマン氏は「インドのダム計画のせいでパキスタンの川が乾いていく」と懸念をあらわにした。
 
「血と水は同時に流すことはできない」。昨年9月、インド側カシミールでインド兵20人がパキスタン側からイスラム過激派の「越境テロ」で死亡した事件を受け、インドのモディ首相は政権幹部を前にこう発言し、水利条約の破棄を示唆したとされる。

これに対し、パキスタンのアジズ首相顧問(外交担当)=当時=は翌日、「条約破棄は戦争行為とみなす」と反発。緊張が一気に増した。
 
インドが一方的に条約を破棄すれば国際社会の非難を免れず、行動には移さないだろうとの見方が有力だ。だが「越境テロ」が続く中、インドがインダス川の水資源を外交圧力の「切り札」として使い始めたことは、パキスタンに大きな脅威を与えている。

ウスマン氏は警告する。「21世紀は核ではなく、水を恐れる時代だ。いつか水を巡り印パ戦争が起きる」【2017年12月17日 毎日】
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アフリカ・ナイル川をめぐる対立 下流国「ナイルの賜物」エジプトと、巨大ダム建設に国家発展の将来を託す上流国エチオピア
インダス川のような国際河川は水資源をめぐる対立の舞台となります。アジアではメコン川をめぐる中国、ラオス、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムなどの対立がよく話題にもなります。

アフリカではナイル川をめぐり、これまでその水資源の大きな割合を利用してきた下流国「ナイルの賜物」エジプトと、ナイル川水資源に国家発展の将来を託す上流国エチオピアの対立が生じています。(2013年9月30日ブログ「エジプト ナイル川水資源をめぐる対立 エチオピアのダム建設に“歴史的権利”を振りかざす錯誤」)

****水と共生(とも)に】エジプトとエチオピア“水戦争”再燃****
エジプトとエチオピアによる“水戦争”が再燃している。

エチオピアはナイル川上流にアフリカ最大のダムを建設しており、今年中に完成の予定だ。貯水を始めると川の水位が大きく下がり、経済に大きな影響を与えると流域諸国から不安と怒りの声が上がっている。

ひときわ怒りをあらわにしているのがエジプトである。「水なくして、国家なし」はいまや世界の常識。特にエジプトは「ナイルのたまもの」とも言われている。今回は、国際河川をめぐる国家間の水争いを紹介する。(中略)
 
 ◆英主導で割当協定
1929年、英国主導で、同国が統治していたエジプトとスーダンの割当水量に関する協定が結ばれた。ナイル川の総水量のうち、65%がエジプト、22%がスーダン、残り13%は他の流域国から要求があれば分割取水されるという内容である。
 
さらに59年には、エジプトとスーダンの間で(中略)再配分協定を結んでいる。(中略)
 
国際河川をめぐる争いの大部分は、上流国と下流国の利害の対立である。ナイル川紛争の特徴は、水需要が下流国(エジプト、スーダン)に集中し、上流の水源地域の水需要が極端に少ないことだ。

特に最下流のエジプトは、国内水需要の97%をナイル川に依存している。従来の農業用水利用に加えて、近年は国内総生産(GDP)成長率が4%を超えて、カイロ大首都圏の人口が2200万人とこの10年間で倍増し、水需要も急増している。同国の経済発展を支えるナイル川の水資源確保は国家の最重要課題なのだ。
 
当初は、上流国スーダンと下流国エジプトの水利権争いだった。エジプトは、歴史上の優位性や、協定締結の事実、さらに「上流国の水資源開発には下流国の同意が必要」とする“下流の論理”を主張し、水利権を確保してきた。
 
99年2月、国際機関と欧米諸国の支援により「ナイル川流域イニシアチブ(NBI)」が設立され、各流域国の水資源計画を出し合い、他国に影響がある場合は協議することが義務付けられた。しかし上流国は「上流国の水資源開発は下流国から制約を全く受けない」とする“上流の論理”を主張し、対立が続いている。
 
隣国間の取り決めも、常に疑ってかからなければいけない。エチオピアが巨大ダムの建設構想を発表した際、エジプトはスーダンと組んで反対を唱えたが、そのスーダンが突然反旗を翻し、エチオピア側についた。

スーダンはダムが完成したら、その発電量の一部をもらい受ける密約が成立したとの観測がささやかれているが、真偽のほどは不明である。

国連機関の調べによると、国際河川に頼らず、自国に水源を有する国は世界に21カ国あるとされ、日本も含まれている。わが国は、恵まれた水環境に感謝しつつ、さらなる水資源の持続可能性を追求していくべきである。【2017年11月20日 SankeiBiz】
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****対立の大河ナイル、生命線から断層線に****
ダム建設をめぐりエジプトとエチオピアの対立続く

世界最長の川であるナイル川は、数億人にとっての生命線であると同時に、急速に人々を分断する断層線にもなりつつある。
 
エチオピアが進めている水力発電ダム建設事業は、ナイル川の主な支流(青ナイル川)に総工費42億ドル(約4660億円)で巨大な「グランド・エチオピアン・ルネサンス・ダム(GERD)」を建設するというものだ。(中略)

係争の主要点は、この巨大ダムの完成予定の2019年から3年以内に、エチオピアがダムを水で満杯(貯水量740億立方メートル)にするという計画だ。下流に位置するエジプトは、そのような貯水ペースだと自国の氾濫原の水位が危険なほど低くなると主張している。
 
エジプトのモハメド・アブドゥルアティ水資源・かんがい相は先月、「エジプトはナイルなしに生きられない」と述べた。そして「わが国はエチオピアに発展する権利があることは理解しているが、このダムがわが国に害を与えないことをエチオピアは実証する必要がある」と話した。
 
エチオピアは同ダムによって水力発電所を稼働し、その電力によって同国の著しい経済成長を支えたいとしている。そして、このダム建設事業は、極貧の時代を経てかつてのエチオピア帝国のような栄光の時代に戻るための手段になると主張している。国際通貨基金(IMF)によると、昨年のエチオピアの経済成長率は9%で、世界で最も急速に伸びた国のひとつとなっている。(中略)

このダムは完成すればアフリカ最大となり、エチオピアでは人々の誇りとなっている。ダム近隣の町アソサ在住の会計士、イスカンダー・バイエさん(29)は、「これはわれわれの未来を変える。エチオピアの時代が到来したのだ」と話す。
 
エチオピア国民は、ほぼ全員がわずかな所得収入からダム建設のための寄付を行った。ダム建設反対派は寄付の全てが自発的だったわけではなかったと主張するが、政府はそれを否定している。(中略)

このダムの建設は2011年4月に始まった。エジプトが「アラブの春」の渦中にあった時だ。現在、労働者約8500人が3交替制で1日24時間、週7日間作業している。(中略)

一方、エジプトのアブデル・ファタハ・サイード・シシ大統領は15日、エチオピアとスーダンに言及して、「エジプトは兄弟たちと戦争するつもりはない」と述べた。その上でエジプトは軍に投資しているとも付け加えた。
 
同大統領は「(エジプトが)軍事力を持つのは、自国を保護するためであり、私が話しているこの平和を保護するためだ」とし、「このメッセージは、エジプト国民向けであるのと同様に、スーダンとエチオピアにいる兄弟たちにも向けられている。この争点が彼らにも明確になるようにするためだ」と語った。【1月18日 WSJ】
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エチオピアの新ダムにかける“思い”は、並々ならぬものがあります。(多くの人類の遺産を水没させてでも建設したアスワン・ハイ・ダムへのエジプトの思いも似たようなものがあります)

エジプトにとってもナイルは生命線です。そのことはエジプトに旅行すればよくわかります。人間が住めるエリアはナイル流域の狭い範囲だけです。あとは砂漠です。

ただ、エチオピア・スーダンを恫喝しても問題は解決しません。これまでのように資源を独占することもできません。新たな枠組みづくりに関係国が知恵を出すべき時期です。
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「すべての女性が輝く社会」 ニュージーランド首相の産休 ドイツでは異性同僚の給与を知る権利

2018-01-20 22:03:33 | 女性問題

(取材に応じる、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相(中央)とパートナーのクラーク・ゲイフォード氏。【1月19日 AFP】)

【「2017年にもなって、最初から女性が子どもか仕事かどちらかを選ぶと決めつけるような質問をすべきではない」】
“「すべての女性が輝く社会づくり本部」が司令塔となり、女性の活躍を阻むあらゆる課題に挑戦し、「すべての女性が輝く社会」を実現します。”【首相官邸HP】ということではありますが、現実問題として、女性が働くうえで最大の障害となっているのが出産・産休の問題でしょう。

出産女性が産休を取ることで、仕事のしわ寄せがくることへの男性などからの不満を含め、日本ではなかなか厳しい現実があります。

そうした日本の状況からすると別世界の話のようにも思えるのが、ニュージーランド首相の産休の話題。

****NZ首相が妊娠、6週間産休へ 副首相が代行務める****
ニュージーランドのアーダーン首相(37)は19日、パートナーの男性との間に子を妊娠し、6月に出産予定と発表した。6週間の産休を取り、その間はピーターズ副首相兼外相が首相代行を務める。

「(妊娠は)予想していなかったが、興奮している」とコメントした。
 
発表によると、アーダーン氏は新首相に就任する13日前の昨年10月13日に妊娠を知った。「多くのカップルと同じように、妊娠初期なので伏せてきた」と説明した。

1月18日にピーターズ氏に妊娠の事実を伝え、首相代行を要請した。「(産休の)6週間の間も必要ならば私はいつも連絡可能だ」としている。
 
アーダーン氏は、テレビの釣り番組の司会者であるパートナーのクラーク・ゲイフォードさんと暮らす。産休が明けた後は、家にいられるゲイフォードさんが主に育児をするという。

「多くの親たちが育児のやりくりに大変だが、私たちはとても幸運だ。私個人として一人の親になることが楽しみだが、首相としての責務にも同等に集中する」とした。
 
アーダーン氏は昨年8月、当時野党だった労働党の党首に就任。9月の総選挙で議席を伸ばし、ピーターズ氏が率いる第3党のニュージーランドファースト党などと協力した連立政権の首相に就いた。
 
党首就任直後にラジオ番組で「多くの女性が子どもか仕事かで悩む。子どもを産むか決めているか」と聞かれ、「2017年にもなって、最初から女性が子どもか仕事かどちらかを選ぶと決めつけるような質問をすべきではない」と答えていた。
 
一国の現役首脳としては、1990年に当時36歳だったパキスタンのブット首相が、女児を出産したケースがある。【1月19日 朝日】
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国内の反応については、“ニュージーランド国内では、国民や与野党も祝福していて、地元メディアも初代の女性首相も母親だったなどと好意的に伝えており、首相が一時、職務を離れることを疑問視する声はこれまでのところ上がっていません。”【1月19日 NHK】

実際問題としては、仕事の大部分は組織で動いていますので、数か月首相が官邸にいなかったとしても支障はないでしょう。

いつでも電話等で連絡もできますし、テレビ会議といった方法もあります。必要なら官邸に駆け付けることも可能でしょう。

独立問題で揺れるスペイン・カタルーニャのプチデモン前州首相などは、逃亡先のベルギーにいながら州首相に復権しようとしているぐらいです。(さすがに、これには反対もありますが、反対理由の本音はスペインにいないことというより、独立運動を主導するプチデモン氏を認めないということでしょう)

****プッチダモン氏、復権なるか 独立派過半数、でも議会出席の壁 カタルーニャ州議会初招集****
昨年12月の選挙でスペインからの独立派が過半数を維持した同国カタルーニャ自治州の州議会が17日、初招集された。まず議長ら議会執行部が選ばれた。月末に州首相選びの手続きに入る

独立への一方的な動きで司法当局から反乱罪などの容疑がかけられ、ベルギーに逃れているプッチダモン前州首相が、外国に身をおいたまま返り咲きを目指すという異例の展開だ。(中略)
 
ただし、州首相に選出されるには「議会に出席して施政方針を示すこと」が必要とされる。帰国すれば当局に逮捕されるプッチダモン氏は、ビデオ演説などの手段を探っている。地元メディアは、無料通話システムのサービスをもじって「スカイプ州首相」などと報じている。
 
議会で、そうした手続きが認められるかどうかが今後の焦点だ。また独立派議員のうちプッチダモン氏ら5人はベルギーに滞在して投票に参加できない可能性もあり、州首相の座はなお流動的だ。
 
中央政府のラホイ首相は、外国に居住したままでの州首相就任は認められないとしており、憲法裁判所に提訴したり、自治権の停止を続けたりする構えを見せている。3月末までに州首相が決まらなければ再選挙となる。【1月18日 朝日】
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話を女性の問題に戻すと、“首相が産休をとっても支障はない”というよりは、出産・育児を経験しない男性ばかりが政治のトップを独占している現在の日本の状況の方が“いびつ”だと言うべきでしょう。

世の中の半数は、その多くが出産を経験する女性である以上、出産に伴う社会的問題への対策を政治に反映させ、社会を変革していくためにも、女性首相の出産・産休というのはごく自然な話であり、改善のための好機でもあるでしょう。

そこに踏み込んで、女性が働ける社会をつくっていかない限り、日本の少子化に伴う社会変動には対処できませんし、放置すれば、やがて日本社会は衰退・消滅の危機に直面することにもなります。

未だ大きい男女賃金格差 「ジェンダー後進国」の日本
働く女性が直面しているもうひとつの問題が男女間の賃金格差です。
近年、若干は改善されつつあるとは言え、その格差はまだ大きいものがあります。

****女性の賃金、16年は男性の73% 格差解消なお遠く****

女性の賃金が増加を続け、男性との格差が過去最小を更新した。厚生労働省が22日発表した2016年の調査によると、フルタイムで働く女性の平均賃金は月額24万4600円と3年連続で最高となった。

男性の賃金の73%となり、男女格差はこの20年で10ポイント縮まった。

ただ欧州各国などと比べると格差はなお大きく、男女間の「同一賃金」の実現はまだ遠い。(中略)

男女の賃金格差が縮まってきたとはいえ、日本の水準は国際的にはまだ見劣りする。経済協力開発機構(OECD)の14年の調査では、日本の男女格差は加盟国の中で韓国、エストニアに次いで3番目に大きい。ベルギーやハンガリーの男女格差は数%しかなく、賃金面での日本の「女性活躍」は道半ばだ。
 
女性の賃金を底上げするには、管理職への登用をさらに増やしていくことに加え、子育てを機に離職したり、本人の意に反してフルタイムの仕事を諦めたりすることを防ぐ必要がある。
 
厚労省によると働く女性の6割が最初の子どもの出産後に退職する。政府は17年度末の待機児童解消を掲げ、保育所などの施設整備を急ぐ。

ただ、安倍晋三首相が17日の衆院予算委員会で待機児童の解消について「非常に厳しい状況になっている」と語るなど、目標達成は見通せない。【2017年2月22日 日経】
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****男女の賃金に依然、格差 「ジェンダー後進国」の日本 ダイバーシティ進化論(村上由美子****
世界で最も保守的な国のひとつと言われるサウジアラビアの女性にとって、2017年は歴史的転換の年になるかもしれない。女性の自動車運転の解禁が決まったのだ。

原油依存体質の脱出を目指し、石油以外の産業育成を促進して経済活性化を図るサウジアラビア政府。女性の社会進出は国全体の生産性向上の必須条件だと考えたのであろう。
 
これをきっかけに、サウジアラビアの女性活躍は一気に進むかもしれない。すでに高いレベルの教育を受けているサウジ女性は期待と興奮で胸を高鳴らせているに違いない。
 
思い起こせば約30年前、日本女性も歴史的転換を期待した時期があった。男女雇用機会均等法が施行された1986年だ。それまでは女子学生が基幹職として就職する道はほとんど開かれていなかった。
 
当時大学生だった私は社会が変わると意気込んだ。しかし女性総合職1号で入社した先輩を企業訪問すると、なぜか女性だけが制服を着ていた。

結局私は、ニューヨークで米国企業へ就職することになる。そして数年前に帰国した日本では、女性活躍推進が30年前と同様に叫ばれていた。
 
先日発表された経済協力開発機構(OECD)のジェンダーリポートで、日本は相変わらず「ジェンダー後進国」の位置づけだと指摘された。

政府肝いりの女性活躍推進は一定の成果を生んでいるようにも見えるが、実は日本の動きは国際的にはかなり見劣りする。
 
確かに女性の就業率はOECD加盟国平均並みに向上した。子育て世代の女性の離職率を表すM字カーブも、解消されつつある。しかしいくら多くの女性が働いても、いまだに男性同様の昇進や昇給は困難だ。
 
それは先進国最大レベルの25.7%(15年)という男女賃金格差に表れている。80年代後半に総合職採用された女性は幹部候補となる年齢だが、ほとんどが離職している。企業の女性取締役比率は先進国平均の20%に対し、3.4%(16年)と最低水準だ。
 
女性活躍推進の掛け声は素晴らしい。しかしこのままのスピードでは、すでに2周遅れの感がある人材育成の世界レースから日本は完全に脱落してしまう。いずれ中東のイスラム圏にも抜かれてしまうかもしれない。

女性活躍推進は日本経済の死活問題であるという認識が浸透すれば、スピード感を伴った変革が期待できるのだろうか。【2017年10月21日 村上由美子氏 日経】
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個人的には、男女雇用機会均等法が施行された当時、企業内の女性職員の労働条件等の改正に関与したこともあります。

蛇足ながら付け加えれば、働く意欲がある女性に報いるのはそう難しくはありません。当時の経験で一番困ったのは、「男性並みに働く気は全くない。家庭と両立させやすい労働時間で、そこそこの給与がもらえればそれでいい」という意見が女性職員の中に多くあったことです。それを認めることは、女性職員のなかに異なる職種を持ち込むことにもなります。家庭を顧みない男性の“働き方”のほうがおかしい・・・という考えもあるでしょう・・・・。

そのあたりは今も変わっていないでしょう。そうした女性の本音をどのように考えるか・・・難しいものもあります。

賃金格差情報公開を促す動き
格差を是正していくためには、今現在どういう格差があるのかを把握する必要があります。
その面での改革が、ドイツで実施されています。

****独で新法施行、同僚の給与を知る権利 男女の賃金格差是正を目指す****
同僚にいくら稼いでいるかを尋ねることは現代でもタブー視されている事柄の一つだが、男女の賃金格差是正を目的とした新法が施行されたドイツではこれが可能となりそうだ。
 
欧州最大の経済大国ドイツで今月6日に施行された法律は、同様の内容の業務をしている異性の同僚の賃金を知る権利を従業員に与える内容。
 
この法律の制定に向けて尽力してきた社会民主党のカタリナ・バーリー女性相代理は「ドイツではいまだに他人の給与に関する話題はタブーでブラックボックスのままだ」と語った。
 
新法によって賃金体系の透明性が向上し、女性たちの賃金が男性同僚より低いことが判明すれば、女性たちによる賃金引上げ要求の機運が高まり、法的措置への道も開ける可能性がある。
 
しかし、新法の適用対象は従業員数が200人を超える企業で、中小規模の企業で働く女性たちは依然として異性の同僚の賃金を知ることはできない。
 
一方、従業員が500人を超える企業には、定期的に給与体系についての最新状況を公表して、同一労働同一賃金の原則を順守していることを示す義務が課せられる。
 
支持者らは、新法の施行を出発点としてドイツ全土の女性たちが賃金格差の問題を明確にできるようになることを期待している。
 
公式統計によれば、2016年のドイツの女性の賃金は男性の賃金より21%低く、さらに欧州連合(EU)平均の16%よりも低い。【1月14日 AFP】
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賃金格差情報公開はイギリスでも実施されています。

“英国では17年4月、250人以上の従業員がいる企業や公的機関に男女の賃金データ公表が義務付けられた。自社と政府のサイトで年に1度、時給やボーナスの男女差などを開示しなければならない。企業は初回の期限が18年4月4日で、これから報告が本格化する。”【1月10日 日経】

また、企業側にも、株主からの提案で同様の取り組みに動く事例も。

****シティ、男女や人種間の賃金格差を公表へ-格差縮小へ昇給実施の方針****
シティグループは3カ国における男女間および米国のマイノリティーとの賃金格差を調査、公表し、格差縮小に向けた措置を講じると発表した。
  
この動きは、ボストンに拠点を置くアルジュナ・キャピタルからの株主提案を受けたもので、米国の大手銀行では初めて。米国と英国、ドイツで実施する。英国では4月からすべての企業に男女別の賃金データ公表が義務付けられる。
  
シティの発表文によると、女性や米国のマイノリティー、その他格差縮小のために昇給が正当化されるならば賃金を引き上げる。3カ国以外の従業員に対しても、同様の分析を行うと約束した。

シティグループの従業員はほぼ半数が女性だが、上級幹部に占める女性の割合は4分の1にすぎない。米国従業員のうちアフリカ系米国人は11%に上るが、上級幹部ではわずか1.6%だ。
  
アルジュナ・キャピタルではシティのほか、JPモルガン・チェースやウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカ(BofA)、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)、アアメリカン・エキスプレス、マスターカードなど8社にも男女間の賃金格差縮小のための方針や目標を公表するよう働き掛けている。【1月16日 Bloomberg】
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「アルジュナ・キャピタル」は、ESG(環境、社会およびガバナンス)に焦点を当てている資産運用会社で、近年はこうした資産運用会社の性差別やセクハラに関する企業への影響力が強まっているようです。(アメリカでは)

“ESG志向の資産運用会社アルジュナ・キャピタルは2014年、ハイテク企業に対して、男性従業員と女性従業員の賃金格差を開示するよう圧力を掛け始めた。
同社は同じ年にインターネット競売大手イーベイ( EBAY )に対して、男女の賃金格差とそれを縮小するための目標を開示するよう要求する株主提案を提出したが、2015年の株主総会で賛同した株主はわずか8.5%だった。翌年再提出した提案は、51%の賛成をもって承認された。”【2017年11月7日 WSJ】

“世の中の流れ”というべきものでしょう。
アメリカで動き出した波は、やがては日本にも及ぶでしょう。後れを取る企業は痛い目にあうことも・・・。

ニュージーランド首相の産休、ドイツでは異性同僚の給与を知る権利・・・・“すべての女性が輝く社会づくり”というのは、こういうことを言うのでしょう。
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トランプ政権  エルサレム首都認定、パレスチナ難民支援凍結にみる狭隘で強圧的な「アメリカ孤立」

2018-01-19 22:12:13 | アメリカ

(パレスチナ自治区ガザ地区のヌスラト難民キャンプの国連事務所前で、米国の拠出金凍結に抗議するパレスチナ人ら(2018年1月17日撮影)【1月18日 AFP】)

【「ガザのパレスチナ難民は逃げ場がない。追い詰めれば爆発するだけだ」】
エルサレムの首都認定発言でイスラエル支持姿勢を明確にし、パレスチナ側の希望を無視した形のアメリカ・トランプ大統領ですが、今月2日には、中東和平が進展しないことに関してツイッターでパレスチナ側を批判。「米国はパレスチナに毎年何億ドルも支払っているが、感謝も尊敬もされていない」と援助の打ち切りを示唆していました。

そして実際、16日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金の半額以上を凍結しました。

****<米政権>UNRWAへの拠出金の半額以上を凍結****
トランプ米政権は16日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金の半額以上を凍結した。パレスチナ難民らの間に不安や怒りが広がっており、UNRWAは国際社会に支援強化を訴える方針だ。
 
「次回は食糧を受け取れるのだろうか」
パレスチナ自治区ガザ地区の食糧配布センターに、小麦や砂糖、食用油、缶詰などを受け取りにきた8人の子供の父親、ムハンマド・サレハさん(52)は毎日新聞の取材に不安を隠さず、「状況は最悪だ」と何度も繰り返した。

ガザ地区では人口200万人の半数以上がUNRWAの食糧支援に頼っている。
 
1948年のイスラエル建国と第1次中東戦争の結果、約70万人のパレスチナ人が故郷を追われ、現在は子孫を含め約520万人が難民登録。UNRWAはパレスチナ自治区やヨルダン、シリア、レバノンで暮らす難民に教育や保健、食糧などの支援を展開する。
 
米国が凍結したのは、2018年のUNRWAに対する拠出金1億2500万ドル(約138億円)のうち6500万ドル(約72億円)の支払い。UNRWAの予算の約3割は米国からの支援で、一部凍結による深刻な影響が懸念されている。
 
UNRWAのクレヘンビュール事務局長は17日の声明で、「パレスチナ難民数百万人の尊厳、人間の安全保障が危機にひんしている」と訴え、国際社会に資金の提供を呼びかけるキャンペーンを展開する方針を示した。また、支援凍結が人々の過激化を助長し、地域を不安定化させる可能性にも言及した。
 
パレスチナ通信によると、パレスチナの国際的な代表機関パレスチナ解放機構(PLO)の高官は16日夜、「最も脆弱(ぜいじゃく)なパレスチナの人々を標的にした。難民から教育や保健、避難所、尊厳のある生活を送る権利を奪おうとしている」と米国を非難した。【1月18日 毎日】
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国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動が滞ることは、食糧の問題だけでなく、この地域の明日を担うべき子供たちの教育へも大きな支障をもたらします。

教育こそが将来のパレスチナ問題解決のカギとなるものですが、教育の停止は子供たちを短絡的な報復主義・イスラム過激思想に追いやることにもなります。

****米の難民支援凍結に反発=「生きていけず」「卑劣な脅し」―パレスチナ****
米国が国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対する2018年の拠出金の半分以上の支払いを凍結したことに対し、多数の難民を抱えるパレスチナ自治区ガザで反発が強まっている。
 
(中略)「UNRWAは食料だけでなく、教育や保健など、私たちの生活のあらゆる側面を支えている」とバダウィさん。「そもそも私たちがイスラエルの占領下になければ、支援に頼る必要もないのに」と語気を強めた。
 
UNRWAの予算の大半を占める教育部門からも懸念の声が上がっている。17年の統計によれば、UNRWAが運営する学校702校のうちガザにあるのは267校。教員ら約9900人と6〜15歳の生徒約26万人を抱える。

UNRWAガザ事務所の教育部門副代表タウフィク・アルフラニ氏は「教育は基本的人権だ。子供たちが学校に行かなければ地域は不安定化する」と述べ、教育を受けられない子供たちがイスラム過激思想に染まる危険性を指摘した。
 
一方、ガザを実効支配しているイスラム原理主義組織ハマスの幹部イスマイル・ラドワン氏は米国の決定を「卑劣な脅しだ」と非難。「ガザのパレスチナ難民は逃げ場がない。追い詰めれば爆発するだけだ」と警告した。【1月18日 時事】
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“国務省のナウアート報道官は「(凍結は)誰かを罰することを狙ったものではない。UNRWAの資金が最善の使い方をされているか確認する必要がある」としてパレスチナへの圧力との見方を否定した。”【1月18日 朝日】とのことですが、「言うことをきかないなら、支援もしない」という非常にわかりやすい姿勢でしょう。

国際社会のリーダーとしての矜持を捨てたトランプ大統領 長期的にはアメリカの不利益にも
トランプ大統領は就任1年を迎えるにあたり、「世界はアメリカの甘さにつけこんでいる」「アメリカ第一だ!」という主張を繰り返しています。

わかりやすいと言えば、これ以上わかりやすい考えもありません。
人権や民主化といった“理念”への無関心、国内外における“差別”助長への容認姿勢と併せて、とにかく自国アメリカの(目の前の短期的な)利益追求を目指すというものですが、大国の誇り、国際社会のリーダーとしての矜持は持ち合わせてはいないようです。

西側社会の価値観(建前であったにしても)を重視せず、力でアメリカの国益を押し付ける・・・というのであれば、ロシアや中国がこれまでとってきた行動と大差ありません。日本も、アメリカを“そうした国”として扱う必要があるでしょう。

アメリカは世界のリーダーとなることでアメリカ中心の世界秩序を維持し、そのことで長期的な利益を得てきましたが、トランプ大統領の言動は「アメリカ第一」のもとで、そうした利益を捨て去るものともなるでしょう。

一連の中東問題の発端となったエルサレム首都認定発言に関しては、その背景として、トランプ大統領の置かれている国内政治事情、また、同政策が国内的にはまったく問題を起こさないことが指摘されています。

“12月1日、フリン前大統領補佐官が訴追され、司法取引に応じた。「ロシア疑惑」で追い込まれ、目をそらすために大使館移転宣言をしたのだと思います。”【1月17日 佐藤優氏 朝日】

****エルサレム問題の波紋******
(中略)米国内ではトランプ氏にとって政治的なダメージはありません。
 
米議会では共和、民主党ともにイスラエルに共感的な姿勢が伝統的になっています。だからこそ、今回の宣言に対し、米議会から表立った批判はほとんどありません。議会は従来、米政府よりずっとイスラエル寄りでした。

その背景は、(ユダヤ系の)票の獲得や、ユダヤ人虐殺の歴史(への同情)など様々です。

イスラエルを中東で最も緊密な友好国で、安全保障上の「不沈空母」とみている。だから米議会は、イスラエルがエルサレムを首都と主張していることを理解し、大使館移転に賛同していました。
 
しかし、大統領は、当選前は宣言に賛成していても、ジョージ・W・ブッシュ氏やビル・クリントン氏のように安全保障上の影響を懸念し、先送りしてきました。イスラエルに共感して宣言をすることで生じる、現実の巨大なリスクが存在するからです。
 
ただ、トランプ氏の支持率は歴史的な低水準で、彼はそれを上げるためにどんな手段もとる。彼は、宣言が、米国内の政治ではリスクが一切ないことを知っていたのです。
 
彼は、安全保障を考慮した他の大統領と違い、「米国第一」なのです。外交で、危険な行動をとる。パリ協定や貿易協定からの離脱などがそれを示しています。【1月17日 スティーブン・スピーゲル氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授)朝日】
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パレスチナ和平の根底を覆し、中東情勢を混乱させることに
国内的には、リスクの少ない支持率アップに効果的な方策なのでしょうが、国際的には中東和平をきわめて困難な状況に追いやり、アメリカの国際的信用をも大きく失墜させるものとなっています。

“発言は、エルサレムの帰属問題について、イスラエルとパレスチナの間の最終地位交渉で決めるとした米国仲介による「オスロ合意」や、国際的な合意に反するからです。国際社会が目指してきた、(イスラエルと将来のパレスチナ国家の)「2国家共存」による解決は遠のきました。”【同上 ガッサン・ハティブ氏ビルゼイト大学助教)】

****エルサレム首都認定「世紀の屈辱」=米の和平仲介拒絶―パレスチナ議長****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は14日、ヨルダン川西岸ラマラで演説し、トランプ米大統領が昨年12月にエルサレムをイスラエルの首都と認定した問題について「世紀のディール(取引)は世紀の侮辱だ」と述べた。AFP通信などが伝えた。
 
トランプ大統領は中東和平交渉を「究極のディール」と呼び、仲介に意欲を示してきた。アッバス議長は「われわれはトランプ大統領に対し『あなたの計画は受け入れない』と述べた」と強調し、今後の和平交渉が米国の仲介で実施されることはないと断言した。【1月15日 時事】 
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****米和平仲介をPLO拒否、オスロ合意「従わぬ****
パレスチナ解放機構(PLO)の中央委員会は15日、イスラエルとの和平交渉をめぐり、米国による交渉仲介を拒否することを正式決定した。
 
トランプ米大統領が昨年12月にエルサレムを「イスラエルの首都」と宣言したことを受けた措置で、中東和平の道筋を定めたオスロ合意にも従う義務はないと表明した。
 
PLOの中央委員会はイスラエルとの和平交渉の主体となる機関だ。15日の決定はトランプ氏の「首都認定」を非難し、米国は和平交渉の仲介を担う権利を失ったとした。
 
イスラエル国家の承認も取り消すとし、国家として再び認めるには、イスラエルがヨルダン川西岸や東エルサレムなどを占領した第3次中東戦争(1967年)以前の境界を基本に、パレスチナ国家を承認する必要があるとしている。【1月16日 読売】
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「オスロ合意」や「2国家共存」が前提とされないところでは、問題解決は全く望めません。

なお、首都問題についてはアメリカ側から、パレスチナの首都をエルサレム“郊外”に・・・との提案があったとも報じられています。

****エルサレム郊外に首都」提案…アッバス氏拒否****
 トランプ米大統領がエルサレムを「イスラエルの首都」と宣言した問題で、パレスチナ自治政府のアッバス議長は14日、イスラエルとの和平交渉でパレスチナの首都を東エルサレム郊外のアブディス地区に置くよう提案されたことを明らかにした。
 
アッバス氏は提案を拒否したという。
 
自治区ラマッラで開かれているパレスチナ解放機構(PLO)の中央委員会での演説で明らかにした。提案者については言及しなかったが、自治政府高官によると、トランプ氏が昨年12月に「首都認定」した後、米国を主体とした和平案で提示されたという。【1月16日 読売】
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エルサレムをイスラエルに与え、パレスチナは郊外で我慢しろ・・・というのは、いささか無神経に思えますが、そうしたことを力で押し付けようとするのがトランプ政権の流儀でもあります。

イスラエル側はこの機に乗じて・・・と言うか、イスラエル国内向けに成果をアピールしていますが、さすがにアメリカも大使館のエルサレム移転時期は「審査中」ということで明確にしていません。

****ネタニヤフ首相「米大使館移転は1年以内」 米大統領は否定****
イスラエルのネタニヤフ首相は、アメリカ大使館のエルサレム移転について、「移転は今から1年以内だ」と述べ、年内の移転を示唆しました。

アメリカのトランプ大統領はこれを否定したということで、ネタニヤフ首相の発言は、移転計画が進んでいることをアピールする狙いがあったものと見られます。(後略)【1月18日 NHK】
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トランプ大統領のエルサレム首都認定発言に対し、パレスチナ和平の根底を覆し、中東情勢全般の混乱を惹起するとの批判がある一方で、今のパレスチナ側にはインティファーダのような組織的抵抗を起こす力はないこと、サウジアラビアやエジプトなど中東主要国がアメリカの支援を必要としている現状から、アラブ世界でも大きな問題にはならないことなどを理由に、イスラエルを容認する現状認識のもとでの新たな中東の枠組みをつくる第一歩となる・・・との見方もあります。

確かに、そうした指摘はパレスチナや中東世界の現状を一定に言い当ててはいます。しかしながら、それでもやはり“アラブの大義”(その実態がどうであれ)という看板を踏みにじるものであり、パレスチナ・中東世界への影響、アメリカの信用失墜という側面は小さくありません。

****エルサレム問題、「時限爆弾」に点火したトランプ****
トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことにつき、フィナンシャル・タイムズ紙は12月7日付けで「トランプのエルサレムについての危険な決定、聖地のイスラエル首都への認定は無分別な挑発行為」と題する社説を掲載、強く批判しています。要旨は次の通りです。
 
トランプ大統領による、エルサレムのイスラエルの首都認定、米大使館の同地への移転推進は、外交上の蛮行である。もっと不思議なのは、それにより利益を得る者は誰もいない。和平に関心のある者にも、トランプ自身にさえも、利益にならない。
 
トランプは、地域で最も緊密な同盟者を含め、ほぼすべての人を彼への反対で団結させ、イスラム教徒の怒りを挑発し、過激主義者を刺激し、またもや米国の世界における地位を低下させた。少数の反対意見はあろうが、イスラエルの利益にも役立っていない。
 
エルサレムは、1947年の国連による分割決議以来、中東和平努力の中心的課題だった。エルサレムの地位の機微さが、国連にエルサレムをユダヤ国家とは別の「存在(entity)」とさせた。イスラエルは常にエルサレムを首都と主張してきたが、それを認めた国は無い。
 
これには大きな理由があり、米議会によるエルサレムの首都認定と米大使館の移転を促す1995年の法律を尊重することを、歴代米大統領は避けてきた。

イスラエルの主張を認めることは、占領されている東エルサレムを首都とすることを望むパレスチナ人の希望を打ち砕き、エルサレムの最終的地位は交渉によって決せられるとする1993年のオスロ合意を反故にする。反イスラエル感情が比較的抑制されている時期に、反イスラエルでイスラム教徒を団結させることにもなる。(中略)
 
本件は、トランプが地域での協力者に選んだサウジの状況を複雑にするという点でも奇妙なことだ。サウジは本件には強く反対している。サウド家は単なる王族ではなく、スンニ派イスラムのリーダーを自任している。エルサレムのアル・アクサ・モスクは、メッカ、メディナのモスクに続く、イスラム教の第三の聖地である。
 
本件は、サウジ、特にムハンマド・ビン・サルマン皇太子への打撃になる。
 
イスラエル・パレスチナ紛争の中心的課題で一方の側に立つことで、トランプは、米国が公正な仲介者として振る舞い得るとの考えを全て吹き飛ばしてしまった。エルサレムの地位は常に時限爆弾であった。米大統領が点火してしまったのではないか。(後略)【1月18日 WEDGE】
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サウジアラビアやエジプトのトランプ批判は腰は引けていますが、とは言え、批判的立場は変えないでしょう。
サウジアラビアはこれまでイスラエルと接近しイランに対抗するという戦略をとってきましたが、トランプ発言でイスラエル接近をこれ以上進めることは難しくなったとも指摘されています。

一方で、トランプ発言を強く批判する形で存在感を示そうとしているのがトルコです。
“最近の中東では、アラブ圏のイラクやシリアの混乱で生じた隙間に、旧ペルシャ帝国のイランと、旧オスマン帝国のトルコが入り込もうとしていました。トランプ発言は、アラブ圏の混乱に拍車をかける一方、旧ペルシャや旧オスマンが力を強める可能性がある。トランプ氏は、意図せずに歴史を大きく動かす引き金を引いたのかもしれません。”【1月17日 佐藤優氏 朝日】

“取引”が関心事のトランプ大統領自身はあまり宗教的な強い主張は持ち合わせていないと思いますが、エルサレム首都認定を歓迎するアメリカ国内宗教保守派の支持を受けているのがペンス副大統領です。

そのペンス副大統領が中東を歴訪しますが、パレスチナ側との会談は予定されておらず、状況改善は困難視されています。

****<中東和平仲介>信頼回復なるか 米副大統領が歴訪へ****
米国のペンス副大統領は19〜23日、エジプト、ヨルダン、イスラエルを歴訪する。頓挫しているパレスチナとイスラエルの和平交渉に米国が引き続き関与する姿勢を示すとみられるが、交渉当事者のパレスチナ側との会談は予定されていない。

パレスチナ自治政府や、これを支援するアラブ諸国はトランプ米政権を「反パレスチナ」と見て強い不満を抱える。今回の歴訪で、米国の和平仲介者としての信頼が回復される可能性は低い。(中略)
 
今回、パレスチナやアラブ諸国がもっとも反発しているのは、トランプ政権が昨年12月に実施した、エルサレムのイスラエルの首都としての認定だ。(中略)トランプ政権は圧力を緩めず、16日には国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への財政支援の一部凍結にまで踏み切った。妥協を引き出す意図があるとみられる。
 
エジプトのシシ大統領は17日、首都認定問題でエジプト政府の支持をアッバス自治政府議長に説明。ペンス氏との会談でも懸念を表明するとみられる。
 
パレスチナ側の態度硬化が容易に予想できる首都認定を、トランプ大統領はなぜ強行したのか。背景にあるのは、サウジアラビアなどアラブ諸国のイランに対する安全保障上の強い懸念だ。

中東での影響力拡大を図りシリアやイエメンへの軍事介入も行うイランに対抗するため、サウジなどは米国の支援を必要としている。このため、認定に踏み込んでもアラブ側の反発は制御可能だとの計算がトランプ氏にはあるとみられる。
 
首都認定は2016年大統領選挙の公約でもあり、多数がトランプ氏に投票したとされるキリスト教右派の支持固めが狙いとされている。【1月19日 毎日】
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TPP離脱、パリ協定脱退、ユネスコ脱退、国連人口基金への資金拠出停止、そして国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金半額以上凍結・・・・「アメリカ孤立(アメリカ・アローン)」が進みます。
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オーストラリア  貿易・留学生などで中国へ依存する関係にあって、その距離の取り方に苦慮

2018-01-18 22:38:59 | 中国

(【2017年12月22日 朝日】 こうした豪中間の人的交流は、現在の緊張がコントロールされれば、将来的には豪中両国をつなぐ“太いパイプ”にもなるでしょう。)

中国を意識して接近する日本とオーストラリア
中国の海洋進出を念頭に、日本がインド太平洋戦略の基軸の国としてインドとともに重視するオーストラリアのターンブル首相が来日しています。

****<日豪首脳会談>「インド太平洋」連携確認****
安倍晋三首相は18日、オーストラリアのターンブル首相と首相官邸で会談し、日米が掲げる「自由で開かれたインド太平洋戦略」での連携や、米国を除く環太平洋パートナーシップ協定(TPP11)の早期発効を目指すことを確認した。
 
首相は冒頭で「北朝鮮の脅威や安全保障、TPP11などについて胸襟を開いて議論したい」と述べ、ターンブル氏も「日豪は同じ志を持って自由貿易、法の支配をこの地域で維持しようとしている。一層協力していく」と応じた。
 
日本はインド太平洋戦略の基軸の国として豪州とインドを重視。会談で両首脳は、中国の海洋進出を念頭に、東南アジア諸国の海上警備能力の構築支援などについても協議したもようだ。自衛隊と豪州軍が共同訓練で相互訪問する際の法的地位を定める「円滑化協定」の早期合意を目指すことも確認する。【1月18日 毎日】
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オーストラリア側が日本との関係を重視する背景としては、中国との関係が最近悪化しているという事情が指摘されています。

****日本にすり寄る豪州 ターンブル首相18日訪日、政権テコ入れ 中国離反、米とは関係悪化****
オーストラリアのターンブル首相が18日に訪日する。

2015年9月の“党内クーデター”で安倍晋三首相の盟友だったアボット前首相を追い落とし、有力視されていた日本の「そうりゅう型」潜水艦導入を退けた。

親中派の元実業家として知られ、経済立て直しに中国との関係強化を掲げたが、中国の“内政干渉”もあって結局は頓挫。同盟国の米国との関係もギクシャクするなか、日本からの支援を取り付け、政権基盤のテコ入れを図る姿勢だ。
 
豪公共放送(ABC)は16日、在キャンベラの中国大使館が昨年10月に最大野党・労働党の議員十数人を夕食に招き、豪政界への政治工作疑惑の払拭に努めたと報じた。その数日前、豪政府幹部は国内の学生に対し、中国共産党の影響力に備えるよう、異例の呼びかけをしていた。
 
豪政府は先月、中国を念頭に、外国人から影響を受けた国内組織や政治献金の監視を強化する措置を法制化。中国との癒着が指摘された労働党のダスティアリ上院議員が辞職表明に追い込まれるなど、豪中間のつばぜり合いは激化している。
 
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報が先月発表した「2017年の最も中国に非友好的な国」調査によると、1位は6割の豪州で、2位のインド、3位の米国、4位の日本を引き離した。ネットユーザー向けに初めて実施された同調査は、豪中の離反が民間でも強まっていることを浮き彫りにした。
 
一方、豪州の同盟国である米国との関係は冷え切ったままだ。初の電話会談を「最悪だった」と酷評したとされるトランプ大統領とターンブル氏との関係が改善する兆しはみられない。

2016年9月に駐豪州米大使が帰任してから15カ月以上、同席は空席のまま。豪州では「外交上の侮辱行為の一歩手前」(フィッシャー元副首相)などといらだちが募る。
 
国内では、二重国籍問題で議員の辞職が相次ぎ、かろうじて過半数を維持する保守連合の政権が揺らぎ、首相の支持率も低下している。
 
こうした中、注目されているのがターンブル氏の訪日だ。有力紙オーストラリアン(電子版)は14日、「日本との軍事協定で中国の威力に対抗」と題した記事で、日豪首脳会談で議題になると予想される自衛隊と豪軍の共同訓練に言及。

豪戦略政策研究所(ASPI)のピーター・ジェニングス所長は、太平洋戦争で1942年に日本から攻撃を受け、現在は米海兵隊が巡回駐留する北部ダーウィン港に触れ、「3カ国演習の機会増加に期待する」と強調した。【1月18日 産経】
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“すり寄る”という表現はいささか感情的なものが感じられまが、それはともかく、現在のオーストラリアの状況は上記記事にほぼ網羅されています。

オーストラリア議会では二重国籍問題で辞職する議員が続出し、ターンブル政権も副首相など複数の閣僚が辞職。昨年12月に行われた下院補欠選挙で敗れると少数与党に転落する・・・というところまで追い込まれましたが、補選は勝利したことで、何とか議会多数派は維持しています。

ただ、ターンブル首相の支持率は昨年11月時点で36%と、過去最低に落ち込んでいます。

政治家への献金問題や中国人留学生への暴行問題などで高まる中国・オーストラリア間の緊張
オーストラリアを取り巻く国際情勢の中心にあるのは、やはり中国との緊張の高まりです。政治家への献金による「内政干渉」問題に加え、ターンブル首相には中国問題で“弱腰”を見せられない事情もあるようです。

中国との関係が緊張するにつれ、中国人留学生への暴行なども起きており、両国関係の悪化を加速させています。
また、このことは、オーストラリアが潜在的に有している差別的“白豪主義”を呼び覚ます危険性も指摘されています。

****中国問題で揺れる豪州 献金で辞職する議員、留学生襲撃も****
オーストラリアではターンブル首相自らが、中国がオーストラリアの政治に対して「これまで前例のない、ますます巧妙な工作を行っている」と発言。

中国側が反発すると、ターンブル首相は毛沢東主席の建国宣言をパロディーのように用いて、中国語で「オーストラリア人民は立ち上がった)」と述べ、中国側は改めて反発した。

事態はさらに進展した。オーストラリアの野党・労働党のダスティヤリ上院議員が12日、中国人実業家から政治献金を受けていたことを認め、辞職して次回選挙に出馬しない意向を明らかにしたのだ。ダスティヤリ議員は南シナ海の問題について中国寄りの発言を続けてきたことで知られている。(中略)

ここで思い起こしてしまうのは、「オーストラリアの国内政治に影響を与える考えはない」としていた中国外交部の耿爽報道官の発言だ。(中略)献金していたことが事実ならば、中国は金銭を使って他国の政治に干渉していたことになる。(中略)

陸慷報道官はダスティヤリ議員の辞職表明直後の12日の記者会見では、同議員の辞職問題について「他国の内政についてはコメントしない」と述べた上で、「最近、個別の西側国家で突然、『他国の内政には干渉しないこと』に関心が出ている。よいことだ。これらの国の人々の頭に、『内政不干渉』が根づけば、国際関係の健全な発展に効果がある」などと述べた。

この「妙に強気な対応」は、中国人が窮地に立たされた場合にしばしば見せる反応だ。自分らの姿勢にブレがないことを「証明」しようとする心理が働いているように思える。(中略)

オーストラリア内には、ターンブル首相以上の対中強硬論も多い。そこで問題になるのが、オーストラリア経済に中国への依存体質が定着してしまっていることだ。

オーストラリアにとって中国は2000年以来、最大の貿易相手国だ。中国政府商務部(商務部)によると、2016年におけるオーストラリアの対中輸出額は599億1000万ドルで、前年比1.4%減とわずかに後退したが、同国の輸出総額の31.5%を占めた。オーストラリアの主な輸出品目は鉄鉱石や石炭だ。

中国には、関係が悪化した国を経済面で苦境に陥れようとした「実績」がある。しばらく前には尖閣諸島の問題などで対立を強めた日本に対してレアアースの輸出を差し止めた。最近では、高高度防衛ミサイル(THAAD)配備で、それまでは「蜜月関係」だった韓国が、中国人観光客の激減や中国に展開する韓国系小売チェーンのロッテマートが営業中止に追い込まれるなどで、大きな打撃を受けた。

そのため、中国が石炭や鉄鉱石の輸入先をブラジルに切り替える可能性があるとの見方もある。(中略)

オーストラリアについては、もうひとつ注目すべき事情がある。ターンブル政権が発足したのは9月20日だった。ターンブル氏の子息は北京での留学期間中に知り合った女性と結婚したが、この女性は中国政府のアドバイザーとして活躍し、江沢民元国家主席とも親交があったとされている。

そのためオーストラリアでは「ターンブル首相には中国寄りの姿勢が目立つ。その背景には親族の問題がある」との批判も出ていた。ターンブル首相は国内からの批判を避けるためにも、中国に対してある程度以上、毅然とした姿勢を取り続けざるをえないだろう。

オーストラリア国内では、反中感情も高まっているようだ。在メルボルンの中国総領事館は19日、「最近になりオーストラリアの複数の場所で数回にわたり、中国人留学生を侮辱したり殴打する事件が発生している」「オーストラリア滞在中には安全上のリスクに直面する可能性がある」として注意を呼びかけた。(中略)

たとえ中国の政策に対する激しい反発があったとしても、中国人の留学生を襲撃する行為が許されないことはもちろんだ。ましてオーストラリアには、人種差別政策の「白豪主義」を長年にわたり取り続け、1970年代になりやっと「人種差別禁止法」を成立させるなどで、「多文化主義」を国際的に掲げるようになった経緯がある。

実際には、オーストラリアで白人至上主義の感情が消えたわけではない。2005年には暴徒化した白人集団が中東系移民を無差別に襲撃する事件が発生した(クロナラ暴動)。

アンケート調査でも、白豪主義的な考えを持つ人が相当数存在することが分かっている。また、「白豪主義」「保護貿易」「反イスラム」を主張するワン・ネーションが連邦議会(国会)で議席を確保している。

世界全体を見てもこのところ、「自国絶対優先主義」を掲げる政治勢力の台頭が目立つ。オーストラリアについても、中国との対立が引き金になり、「白人至上主義」が勢力を得る可能性が全くないとは言えない情勢だ。【2017年12月22日 如月隼人氏 Record china】
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大学・大学院生約141万人のうち中国出身が約12万人
中国との関係悪化が重要な問題となるということは、オーストラリアにとって、それだけ中国の存在が大きいことの裏返しでもあります。

経済関係では、上記記事のように“中国は2000年以来、最大の貿易相手国”ですが、留学生についても、同様の関係があります。

****留学大国、豪州の光と影 中国人が最多、学費割高 資源輸出に並ぶ稼ぎ/学問の自由に懸念****
オーストラリアで鉱物資源輸出と並ぶ外貨獲得源が「留学」だ。

キャンパスの4人に1人を占める留学生が落とすお金が大学や業界を潤す。「お得意様」は中国人だが、祖国への批判を許さない一部学生の言動が、研究や学問の自由を脅かす事態になっている。
 
豪州で最も古い歴史を持つ1852年創設のシドニー大学では、アジア系の学生たちが目立つ。
 
北京出身の孫宇澄さん(22)は11月に建築デザインを学ぶためにやってきた。年約3万豪ドル(約255万円)の学費と週500豪ドルの家賃は「親が払ってくれます」。父は装飾業、母は教師だという。
 
豪政府によると、2015年の大学・大学院生約141万人のうち約36万人が留学生。うち中国出身が約12万人で1位を占めた。
 
外国人の留学を支援する専門業者はシドニーだけで約800ある。大手の「iae留学ネット」は年間4千人が利用するが、6割が中国人だ。「大半は裕福な家庭の出身で、学費は気にしない」と同社シドニー店の中国人担当レベッカ・ワンさん(37)。

学生は、入学手続きから空港への出迎えまで同社の支援サービスを無料で利用できる。代わりに、留学先の大学が初年度の学費の10~15%分を「紹介料」として払う。留学生は、授業料が豪州人学生の4、5倍高く設定されている。大学にとって高い収益を上げる上客と言える。
 
豪州は、15年度のサービスも含めた輸出で「教育関連の旅行サービス(留学)」が198億8100万豪ドル(約1兆6900億円)と、鉄鉱石と石炭に次ぐ第3位の金額を稼ぎ出した。

 ■台湾を国扱い、抗議受け配慮
中国人留学生の存在感が増すなか、「学問の自由が脅かされる」と懸念する報道が相次いでいる。
 
「私たちを不愉快にさせた」。8月下旬、豪南東部のニューカッスル大学で中国人学生らが講師に抗議する動画がネットに公開された。台湾を「国」に分類する資料を講義で使ったことが理由だった。大学が「全教職員と学生は敏感な事柄に注意を払うように」と声明を出す事態になった。
 
同じころ、「中国とインドの係争地にインドが主張する境界が引かれた地図を使った」とシドニー大の講師を非難する投稿が中国語サイトに載った。講師は謝罪に追い込まれた。
 
豪紙オーストラリアンは、ニューカッスル大学の対応の背景に在シドニー中国総領事館の関与があったと報じた。

中国の民主化を求めるシドニー工科大の馮崇義・准教授は「中国大使館や領事館は(各大学の)中国人学生のリーダーと定期的に会合を持っている」と解説する。

一連の事案を記者に問われたビショップ外相は10月、「言論の自由が抑え込まれる状況を見たくない」と答えた。対中関係に詳しいマッコーリー大のベイツ・ギル教授は「『中国人学生はお金を払ってくれるから』では、健全な学問は維持できない」と話す。【2017年12月22日 朝日】
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「中国はオーストラリアの中国人留学生を監視コントロールしている」という警戒感も、オーストラリア側には生じているようです。もちろん、中国側は否定しています。

****オーストラリアの中国人留学生は中国当局に監視されている****
2018年1月17日、中国メディアの環球網によると、駐豪中国大使館は一部で流れている「オーストラリアの中国人留学生を監視コントロールしている」との指摘を否定した。

記事によると、2017年10月にオーストラリアの政府関係者からオーストラリアの大学に対し、「中国の影響力に警戒するように」との呼び掛けがあった後、駐豪中国大使館が10人以上の新人議員を大使館に招いて食事を行った。その席で大使館は、「中国はオーストラリアの中国人留学生を監視コントロールしている」との非難について強く否定したという。

(中略)中国の外交官は「駐豪中国大使館には教育を担当する職員は3人しかおらず、オーストラリアに10万人以上いる中国人留学生を監視コントロールするなど、どうしてできるだろうか」と述べたという。(中略)

17年後半から中豪関係は緊迫しており、オーストラリア国内では「中国の影響力浸透論」が高まっている。駐豪中国大使館は昨年12月、豪メディアによる批判的な報道について「冷戦思考と偏見に満ちており、典型的なヒステリーとパラノイアである」と批判している。【1月18日 Record china】
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中国人留学生に対する暴行に関しては、下記のような事件も。

****中国人留学生2人に数十人が集団暴行、「中国に帰れ」と叫びながら****
(中略)負傷したのは、キャンベラの学校に通う高校2年の中国人留学生2人。

23日午後7時40分ごろ、バス停でバスを待っていた2人に地元の少年4人が近づき「たばこをよこせ」と要求。2人が拒否すると、4人は「中国に帰れ」などの罵声を浴びせかけた。

中国人留学生の1人が「うせろ」と反撃すると4人は暴力を振るい出し、ちょうどバス停に停車したバスから降りてきた二十数人も加わって、2人を袋だたきにした。【2017年10月30日 Record china】
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オーストラリアでは、以前、インド人留学生への暴行・襲撃も問題となったことがあります。
やはり、白豪主義的な差別意識が社会の根底に根強くあるのでしょうか。

中国に面倒をかけた国は・・・・オーストラリアが断トツで1位、日本は4位
こうした“内政干渉”をめぐる政治的緊張、留学生をめぐる暴行や監視疑惑などもあって、冒頭【産経】で取り上げてられている調査結果となっています。

****今年中国に対して最も「非友好的」だった国は?日本は意外な順位****
2017年12月25日、環球網は、「今年、中国に対してもっとも非友好的だった国」を尋ねるアンケートを開始した。

環球網は「2017年が間もなく終わろうとしているが、世界にとっても中国にとっても特別な、そして大きな意味を持つ1年となった。この1年、中国は朝鮮半島問題や南シナ海問題などの旧来の問題の対処に成功するとともに、高高度防衛ミサイル(THAAD)配備問題やドクラム高地の対峙(たいじ)など、新たな問題にも対応した」とした上で、今年1年、中国に面倒をかけた国はどこかをネットユーザーに尋ねている。

選択肢は、オーストラリア、米国、インド、韓国、日本、ドイツ、シンガポール、ベトナム、その他、の九つだ。

26日午前10時45分現在、約1万3000件の投票があり、先日中国との癒着が指摘された野党上院議員が辞職する騒ぎが起きたオーストラリアが7059票と過半数を獲得して独走状態となっている。

2位はインドで1764票、3位は米国の1410票。日本は4位の1142票となっている。THAAD問題でほぼ1年間に渡り関係が冷却化した韓国は525票の5位。6位以下はドイツ(104票)、ベトナム(99票)、シンガポール(96票)で、その他の国は97票となっている。【2017年12月26日 Record china】
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調査時点のタイミングの問題もあるのでしょうが、恒常的反日問題を抱えている日本としては、非常に“意外な結果”です。

中国も日本だけを敵視している訳でもなく、オーストラリアやインドなど、厄介・面倒な相手をいろいろ抱えているということは、日本が中国と付き合っていくうえで、ひとつの事実認識として重要でしょう。
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イギリス  メイ首相は否定しているものの、EU離脱交渉の課題が整理された段階で再投票すべきでは?

2018-01-17 22:28:45 | 欧州情勢

(国民投票の再度実施を提案して話題となっている、離脱を先導したUKIPのファラージ元党首【1月12日 毎日】 その本音は、離脱決定で“用済み”になった党の存在感回復では?)

内閣改造でも首相の求心力低下露呈
予想されたように難航するイギリスのEU離脱ですが、今日17日には、EU関連法を国内法に置き換える「EU離脱法案」の採決が下院で行われます。

****英下院でEU離脱法案採決、保守党が支持訴え 野党反対でも可決へ****
英国のメイ首相率いる保守党は17日、議会下院でこの日予定されている欧州連合(EU)離脱法案の採決に先立ち、同案を支持するよう保守党議員に呼び掛けた。また、野党・労働党に対しても法案への支持を求め、反対すれば混乱を招くと警告した。

この法案は1972年にEUの前身である欧州共同体(EC)に加盟するため設けたEC法を廃止するとともに、加盟後40年以上の間に導入されたEU関連法を国内法に置き換えるもの。

労働党のコービン党首は先に、民主主義に基づく説明責任、労働者保護、環境や消費者の権利に関する懸念が解消されない場合、法案に反対するよう党員に呼び掛けるとしていた。

ただ労働党が反対票を投じる場合でも、北アイルランド地域政党と保守党の閣外協力により、法案は下院で可決される公算だ。

一方、上院(貴族院)では、同法案の審議に数カ月を要するとみられ、採決はまだ先となる見通し。【1月17日 ロイター】
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おそらく、法案は可決されるのでしょう。(ここでつまづくようなら話になりませんので)

ただ、1月4日ブログ“イギリス 対EUも、対国内強硬派も、難航必至の離脱交渉 残留や再投票を望む声が増加”でも取り上げたように、イギリスにとって厳しい交渉が明らかになるにつれて、国内には離脱に懐疑的な空気が増しているように見えます。

難しい交渉を強いリーダーシップで先導していく立場にあるメイ首相ですが、昨年6月の総選挙に失敗して以来、その求心力は低下しています。
立て直しを狙った内閣改造も、求心力低下を広く示すような混乱を露呈する結果となりました。

****英メイ首相の内閣改造が混乱 閣僚の異動拒否、相次ぐ****
英国のメイ首相が8日、内閣改造に踏み切った。政権の立て直しをねらったものだったが、英メディアによると、別の閣僚ポストへの異動を求められたグリーニング教育相が反発して辞任するなど混乱した。
 
英BBCやガーディアンによると、グリーニング氏は雇用・年金相への横滑りを打診されたが拒否。教育改革に意欲を示しており、8日夜ツイッターで「若者の機会均等がある国をつくるためできることをやり続ける」と説明。

ハント保健相も別の閣僚ポストを拒否して保健相を続けることになった。同紙は「メイ氏の内閣改造が混乱」と報じるなど、求心力低下を印象づけかねない結果になった。
 
昨年6月の総選挙で、メイ氏率いる与党・保守党は過半数割れに追い込まれた。昨年11月には国防相と国際開発相が辞任。12月には、過去の警察捜査で議会の事務所のパソコンにポルノ画像が見つかっていたと報じられていた政権実質ナンバー2のグリーン筆頭国務相を解任し、内閣改造で立て直しをはかる予定だった。

今回の改造ではグリーン氏の事実上の後任にリディントン法相を充てるなどしたが、ハモンド財務相やジョンソン外相ら主要閣僚は留任した。【1月10日 朝日】
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離脱派UKIP元党首の再投票容認論 その本音は・・・・
世論に離脱に関する懐疑的な空気が広まる状況のなかで、残留派が国民投票のやり直しを求めるのは当然の成り行きですが、離脱を主導した英独立党(UKIP)のファラージ元党首からも、離脱の意思を明確にするためということではありますが、再投票を容認するような発言も。

****英「再び国民投票」議論 EU離脱派からも メイ首相繰り返し否定****
一昨年の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を選択した英国で、2度目の国民投票実施の是非をめぐる議論が高まっている。

離脱派の一部から「残留論争に終止符を打つため」2度目の実施を求める声が上がり、残留派指導者の中にも離脱撤回に向けた再実施を主張する意見がある。ただメイ首相は繰り返し、もう一度国民投票を行う可能性を否定している。
 
英国内でEU離脱撤回を求める意見が収まらない中、離脱派の中心的存在である英独立党(UKIP)のファラージ元党首は11日、ツイッターに「もしかしたら、本当にもしかしたらだが、EUをめぐる2度目の国民投票を行うべきかもしれない。国民投票はこの世代においては、問題をきっぱりとなくすことになるだろう」と投稿した。
 テレビでも、再度国民投票を行えば「離脱への投票が前回よりはるかに大きいだろう」と発言。離脱運動に多額の活動資金を提供したアーロン・バンクス氏もこうした考えを支持した。
 
離脱撤回を求める残留派は、野党労働党のブレア元首相や自由民主党のクレッグ元党首がツイッターで「賛同する」と主張。「国民は離脱に伴う負担を懸念する。再投票すれば残留が上回る」(同党広報)としている。
 
英国では国民投票の実施は首相が決定する。2度目の国民投票に反対する意見も根強く、メイ氏は再実施すれば、2016年に離脱に投票した52%の英国民への「裏切りになる」としている。【1月15日 産経】
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離脱派の中心的存在である英独立党(UKIP)は、離脱を求める国民運動にあってこそ、その存在を主張できる政党です。離脱の方向が決まってしまえば、“用済み”の政党です。

実際、国民投票で離脱の方向が決定されて以来、党内の内紛・混乱もあって、UKIPの存在感は急速に薄れています。
ファラージ元党首の、再投票容認発言は、再投票実施となれば党の存在感を取り戻せるという党利党略が背景にあるのでは・・・・というのは、私の独断偏見です。

ついでに言えば、再投票で離脱が否定されるのが、UKIPにとっては最良のシナリオではないでしょうか。そうなれば再投票以後も、離脱支持者の怒りを結集して、長期的に党の勢いを持続・強化できます。

UKIPは現在、党首のボルトン氏の恋人の差別発言で、いよいよ厳しい状況に追い込まれており、党勢回復には再投票実施しかないでしょう。

****肥だめ」よりひどい?メーガン・マークルに対する英右派の差別発言****
<「英王室の血を汚すバカな平民」「頂点に這い上がろうと必死のアメリカ黒人」等々は、黒人プリンセスを嫌うイギリス人の本音?>

反EU・反移民を掲げる右派政党、イギリス独立党(UKIP)のヘンリー・ボルトン党首(54)の恋人で党員のジョー・マーニー(25)が、ヘンリー英王子の婚約者で米女優のメーガン・マークルについて人種差別的なメッセージを知人に送っていたことが英大衆紙「メール・オン・サンデー」に暴露された。

マーニーは知人男性に送ったメッセージで、マークルが嫌いだとして理由を列挙した。「人種にこだわり過ぎ。英王室の血を汚す。バカな平民。脳みそが小さい」などに加え、「黒人で女優気取り。ここはイギリスであってアフリカじゃない」と罵倒していた。

メッセージの相手が「それは人種差別だ」と批判すると、「だったら何?」と突っぱねてこう続けた。「彼女は黒人のアメリカ人。何とかして頂点に這い上がろうとして必死なの。次はイスラム教徒の首相や黒人の国王が出てくるに違いない」

自分自身を「モデル、女優、ブレグジット支持者」と呼ぶマーニーに対しては、直ちに責任を問う声が上がった。人種差別的だと批判にさらされることの多いUKIP党内からも、「人種差別だ」と非難する声が上がった。

「どう見ても人種差別的な内容だ。党として一切許容すべきでない」と、党員のジャック・ペニーはツイートした。「党首選の時、ボルトンは人種差別やナチズムに立ち向かうと言った。もし党員のこのような不祥事を許すなら、彼もUKIPもそこまでだ」

セクハラを告発するのは「弱い女」たち
前回の党首選でボルトンに敗れたピーター・ウィットルも、メッセージの内容は「不名誉だ」と切り捨て、党からの追放を訴えた。ボルトンは「マーニーの党員資格を即時停止した」と発表したが、追放の可能性には言及しなかった。(中略)

「ショッキングな言葉遣いだった」と、今度ばかりはマーニーも謝罪した。「真意を伝えるためにわざと誇張した表現を使った」

だが、遅過ぎた。党内からは、ボルトンの辞任を求める声も上がっている。黒人プリンセスの行く末も心配だが、ただでさえ党勢が衰えているUKIPの将来はさらに危うそうだ。【1月16日 Newsweek】
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スコットランド民族派は単一市場残留主張で揺さぶり
一方、スコットランドの分離独立を主導するスコットランド自治政府首相は、“離脱後の単一市場残留について協議する「絶好の機会」が到来した”との認識を示しています。

****英国の単一市場残留協議に「絶好機」=スコットランド首相****
スコットランド自治政府のスタージョン首相は14日、英国が欧州連合(EU)離脱後の単一市場残留について協議する「絶好の機会」が到来したとの考えを示した。

スタージョン氏は「単一市場からの離脱が英経済の恩恵になることを示す信頼し得る証拠は全くない」とし、離脱が強硬であるほど結果が悪くなるとアナリストも予想していると指摘した。

また、同氏はBBCの番組で、労働党に対し単一市場残留を約束するようあらためて呼び掛けた。

一方、同党のコービン党首は単一市場のメンバーであるにはEU加盟が必要との見解を示し、「EU離脱が単一市場離脱を意味するのに、スタージョン氏が単一市場残留を主張し続ける理由が理解できない」と述べた。

スタージョン氏は、EU離脱推進派が通商や投資における多額の損失を補う案を提示できていないことから、「スコットランドや英国が単一市場に残ることに賛成する穏健派の主張にとって、現在は絶好の機会になっている」と語った。【1月15日 ロイター】
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スコットランド自治政府はこれまでに、仮にイギリスが欧州単一市場を離脱したとしてもスコットランドだけは残る提案を公表してきていますので、目新しい話でもありません。

スコットランドは残留派が多く、ブレグジット国民投票でスコットランドは、62%がEU残留を支持しています。

2014年9月のスコットランド住民投票で失敗(独立反対が55%、賛成が45%)、その後の総選挙でも議席を減らしたスコットランド国民党・スタージョン首相としては、離脱に関するスコットランドの独自性を主張することで中央政府に揺さぶりをかけたい思惑でしょう。

ただ、労働党・コービン党首の言うように、単一市場残留を主張するなら、EUからの離脱そのものを改めて否定すべきところでしょう。

悲壮な覚悟の“「決裂担当相」新設検討”ではあるが・・・
メイ首相は、難航する離脱交渉を見据えて、「決裂担当相」の新設を検討しているとも。

****メイ英首相が内閣改造 対EUで「決裂担当相」新設検討****
(中略)9日も組閣は継続され、英テレグラフ紙によると、メイ氏は合意しないままEUから離脱する場合を想定して閣外相で「決裂担当相」の新設を検討している。

EUとの貿易で世界貿易機関(WTO)ルールで関税復活に備える。EUと現状維持を目指すが、対EU強硬派にも配慮して不利な条件なら合意しない姿勢を示す狙い。【1月9日 産経】
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“不利な条件なら合意しない”というのは毅然とはしていますが、イギリスにとって“茨の道”でもあります。

****合意なき」EU離脱、50万人の雇用失われる可能性=ロンドン市長****
英ロンドンのカーン市長の委託でコンサルタント会社がまとめた報告書によると、英国が欧州連合(EU)と貿易協定で合意しないままEUを離脱すれば、離脱後の12年間に50万人近くの雇用と500億ポンド(674億1000万ドル)の投資が失われる可能性がある。

ケンブリッジ・エコノメトリックスがまとめた報告書は、英国のEU離脱を巡り、最もハード(強硬)な離脱方法から最もソフト(穏健)なものまで5つのシナリオを検討。建設や金融など9つの業界への経済的影響を調べた。

それによると、合意なき離脱のシナリオでは、最も影響を受けるのは金融・プロフェッショナル関連サービスで、英国全体で11万9000人の雇用が失われるという。

カーン市長は「政府が今後も交渉方法を誤れば、成長と雇用がともに低下する失われた10年に直面する可能性がある」と指摘した。【1月11日 ロイター】
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再投票実施のススメ
再投票実施論とか、悲壮な覚悟の「決裂担当相」といったイギリス国内事情に対し、EU側は“気が変わったら、いつでも・・・”と鷹揚な姿勢です。

****英EU離脱】EU大統領「われわれの心は開かれている」 英残留転換なら受け入れ用意と発言****
欧州連合(EU)のトゥスク大統領は16日、英国のEU離脱問題をめぐり、「大陸側の心は変わっていない。われわれの心は開かれている」と述べ、英国が残留に方針転換した場合、受け入れる用意があるとの認識を示した。フランス・ストラスブールで行われた欧州議会の討論で語った。
 
英国で最近、離脱に関する2度目の国民投票の是非が議論されているのを念頭にした発言とみられる。

AP通信によると、トゥスク氏は「民主主義が心を変えられないなら、それは民主主義ではない」とも強調。ユンケル欧州委員長はこの発言を受け、「ロンドンで疑いなく耳が傾けられるよう期待する」と述べた。
 
EUと英国は今後、将来的な関係などに関する協議に入る見通しで、トゥスク氏は一方で英国に対し、将来関係について「もっと明確なビジョン」を示すように求めた。【1月16日 産経】
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メイ首相は“再実施すれば、2016年に離脱に投票した52%の英国民への「裏切りになる」としている。”【前出 産経】とのことですが、このあたりの論理はよくわかりません。

離脱は今後数十年のイギリスの方向を決める重要な決断です。
それを1回の国民投票、それも問題点などが整理されていなかった時点での投票だけにゆだねる方が、おかしいのでは・・・と思うのですが。

2016年の投票は、交渉に入る前の段階で、あまり具体的な問題が明らかになっていなかった時点での投票です。
実際に交渉を行って、問題・課題が明らかになってきた段階で、改めて国民の決意を問うことに、なんの不都合があるのでしょうか?
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“たわい無い話”に垣間見る中国社会の姿 日中間でさほどの差もないような人々の感じ方も

2018-01-16 22:42:19 | 中国

(髪を霜で覆われながらも1時間かけて徒歩で通学する「霜少年」こと、王福満君【1月12日 AFP】)

【“民度”云々の一部は習慣の違いも
中国の国際社会における影響力の拡大と、それに伴う自己主張を強引に押し通すようなやり方、国内における人権・民主化に対する抑圧姿勢、急速に進行する監視社会、モラル・マナーを欠いた自分本位の行動・・・・・等々、中国に対する厳しい見方は枚挙にいとまなく、これまでも再三取り上げています。

ただ、批判的な見方だけでは一方的に過ぎるでしょうし、日本としても今後ますます重要となる隣国であり、いかにしてうまく付き合っていくかを考える必要がある国です。

今日は、よくある批判的な見方から少し離れて、ここ数日で目にした“あまり毒気のない”たわい無い話題をいくつか。そうした“たわい無い話”の中に、結構、社会の本当の姿が垣間見えることも。

中国ネットユーザーも、いわゆる“民度(あまり好きな言葉ではありませんが)が低い”という批判、特に、日本と比較した差を、強く意識しているようです。

その“民度が低い”と言われる中身のある程度は習慣の違いによるものだ・・・という主張は、もっともな話です。

****日本人は中国人を「民度低い」っていうが、「悪気はないんだ! 習慣が違うんだ」=中国メディア****
海外旅行へ行く人が増えるにつれ、マナー向上が呼びかけられている中国。最近ではだいぶ改善されてきたと言われるが、中国人のマナー違反は多くの場合において「悪気がある」わけではないようだ。

中国メディアの今日頭条は12日、「中国人は日本へ行くと民度が低いと言われる? トイレで使用済みの紙をごみ箱に捨てるのは単なる習慣なんだ」と題して、中国人が民度が低いと見なされる原因について分析する記事を掲載した。

記事はまず、旅行先として日本は何度でも行くに値する国だと称賛。しかし、多くの中国人が日本を訪問するようになってから、日本人からは「中国人はきれい好きではない、不衛生」と言われるようになってしまったことが、中国人にとっては心外だったようだ。

特に、トイレ事情に関しては中国でのマナーを守ったことが逆に「民度が低い」と言われることになってしまったと主張。

中国では使用済みのトイレットペーパーはゴミ箱に捨てるのがマナーとなっている。しかし、日本ではトイレに流すのが普通であり、設置されているゴミ箱は使用済みのトイレットペーパーを捨てるためのものではないので小さく、中国人が使用済みの紙をゴミ箱に捨てようとすると入りきらずにあふれるうえ、においのもとになってしまうという問題がある。

中国人観光客の増加を受けて、今では日本のトイレには中国語で「使用済みの紙は流してください」と書いてあるのを目にすることがあるが、それでも中国人からすると「詰まりはしないか」と心配になってしまうという。

最近ではかなり改善されてきたが、中国では紙を流すと詰まりやすく、業者を呼んだ経験のある人は特に慎重になるようだ。記事は、日本のトイレットペーパーは水溶性で流しても大丈夫なのだと安心させた。

それで記事は、日本と中国の習慣の違いが、「中国人は民度が低い」とみなされる原因だったとしているが、これは確かに一理あるだろう。異国へ行くからには、その土地の習慣やマナーを理解したうえでないとトラブルのもとになる。訪日中国人は増え続けており、ぜひ日本の習慣を周知してもらいたいものである。【1月15日 Searchina】
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習近平国家主席が熱心なトイレ革命、それをはき違えて“超豪華多機能トイレ”をつくる地方政府も・・・といった話は、今日はパスします。

中国にだって法規制はちゃんとあります
****「隣はまずい」「そっちこそまずい」横断幕で批判し合うレストラン****
12日、三秦都市報は、中国陝西省西安市のレストランが張り出した「笑える」横断幕が当局の指示により撤去されたと報じた。ユニークかつスマートな宣伝手法だが、地元政府はそうは考えなかったようだ。

2018年1月12日、三秦都市報は、中国陝西省西安市のレストランが張り出した「笑える」横断幕が当局の指示により撤去されたと報じた。

西安市に出現した「笑える」横断幕が中国のネットで大きな話題となった。三軒のレストランが並んでいるのだが、一番右には「(左の)二軒はまずい」、真ん中には「あいつら二軒はまずい」、左には「(右の)二軒はまずい」との横断幕が貼られている。思わず笑ってしまう光景だけに写真を撮ってSNSに公開する人が続出。けんかし合う三軒は明らかに客が増えたという。

一軒の店主である王(ワン)さんは、自虐ギャグでの宣伝で、本当にケンカしていたわけではないと明かしている。

ユニークかつスマートな宣伝手法だが、地元政府はそうは考えなかったようだ。
管轄部局は11日、3店舗の店主を呼び出して事情聴取し、「他の生産経営者の商品やサービスを誹謗(ひぼう)してはならない」とする広告法13条に違反しているとして、横断幕を撤去するよう指示した。【1月14日 Record china】
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この話で「そうなんだ・・・」と思ったのは、“ユニークかつスマートな宣伝手法”の件ではなく、“「他の生産経営者の商品やサービスを誹謗(ひぼう)してはならない」とする広告法13条に違反している”というくだり。

中国でも“何をやってもいい”という話ではなく、広告に関しても日本同様のルールが決められている・・・というとことが意外な感も。

もちろん、法律・ルールはあっても、それを守らないのが中国社会の・・・という話になるわけですが、そこは今日はパスします。

中国の法律・ルールに関して、個人的にもろ手を挙げて賛成したいのが、下記の広東省広州市の“空港でのぼったくりを禁止する規定”

****日本の空港で驚かされるのは、レストランの値段が市街地と同じことだ=中国メディア****
広東省広州市では先日、広州空港で提供する飲食品の価格について市の中心エリアで販売されている価格を上回ってはならないという規定が発表された。「食べ物がぼったくり価格」という中国の空港のイメージはまだまだ健在のようである。

中国メディア・今日頭条は12日、「日本の空港にあるレストランは、値段が街と変わらないうえおいしい」とする記事を掲載した。

記事は「中国では、旅客は可能な限り空港や駅で食事を取らないようにする。それは、空港や駅のレストランが大しておいしくもないのに高級ホテル並みの価格設定であることを全国民が知っているからだ」としたうえで、「日本に個人旅行に行く人は大いに安心してもらっていい。日本の空港では安くておいしいグルメを楽しむことができる」とした。(後略)【1月15日 Searchina】
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昨年12月にカンボジアを旅行した際に、乗り継ぎで広州白雲国際空港を利用して、空港内レストランの“ぼったくり価格”に憤慨したばかりですので、広州市の規制に「そうだ!そうだ!」という思いです。

今はどうか知りませんが、数年前までの上海の浦東空港では安いカップ麺なども売っていましたが、広州ではそういったものもなく、仕方なく高くてまずい料理を注文。しかもメニューを指さして注文したのですが、メニュー表の一つ上の料理と間違えられて、頼んだものと違うものが出てくる・・・と、さんざんでした。

ついでに、中国の空港での高い両替手数料も何とかしてほしいものです。

中国における“食の安全性”については、日本人がとやかく言う以前に、中国人自身が非常な不満を抱えており、その“危険な食品”の象徴的なものが粉ミルク。以前から重大な生命・健康にかかわる事件を引き起こしています。

そこで、海外から輸入で取り寄せるとか、旅行時に買って帰る等の対応をとっている中国人も多数います。

そんな悪名高い粉ミルクに関しても、規制が強化されたようです。

****中国 粉ミルク成分配合登録制で大半のブランド消える*****
今年1月1日から「史上最も厳しい」と言われる粉ミルクの成分配合登録制が本格的に実施されている。

これまで、国内外132社の989種類の成分配合が登録されている。申請中の企業に対しても、2018年上半期には結果が通知されるとみられる。

登録制の実施により、粉ミルク市場にはさらに700億元(約1兆2070億円)の市場空間が広がるが、そのほとんどが大企業の有名ブランドに集中し、現在市場に出ているブランドの半数は消滅すると予想される。
 
成分配合登録制により、粉ミルクは国産・外国産に関係なく中国国内で消費される商品は登録を取得しなければならず、商品に登録番号を明記しなければならないと定められている。
 
登録制の導入は、成分配合の氾濫が原因だった。しかし、成分配合が登録されたからといって食品の安全が保証されたことにはならない。実際に、成分配合登録後に、中国国家食品薬品監督管理総局から生産管理上の問題を指摘された企業もある。(中略)

乳業専門家の宋亮(Song Liang)氏は、「登録制によって国内のブランドが大幅に減少しているが、個人輸入を取り締まらない限り、国内ブランドが海外で生産し中国市場に戻るという図式になりかねない。個人輸入による市場競争が激化し、今後3年で国内の中小企業は壊滅状態になるかもしれない」と懸念している。【1月16日 東方新報】
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いくら“金儲け”のためとは言え、生命・健康にかかわるような粗悪品を製造したり、異物を混入させたりする感覚が日本人的には理解しがたいところですが、そのあたりの話は今日はパスします。
(一言だけ言えば、単に社会モラルの問題というより、日本ではそうした行為が発覚すれば将来的に取り返しのつかない信用ダメージを受けますが、中国社会にあっては必ずしもそうではないようなところが問題でしょう)

日中両国民とも、感じるところには大差はないのかも
最近、中国ネットで話題になったのが、氷点下の中、頬を真っ赤にして、髪を霜で覆われながらも1時間かけて徒歩で通学する「霜少年」ですが、少年の父親は支援の申し出に対し、「労せずして利益を得ることを覚えないでほしい」と断ったとか。

見上げた教育方針でしょうか、それとも“メンツ”でしょうか。

****霜少年の父「労せずして利益を得てはならない****
髪の毛が霜に覆われ真っ白になった写真が話題になり、有名になってしまった「霜少年」こと王福満(Wang Fuman)君は8歳。

中国・雲南省昭通市魯甸県の小学校に、片道1時間の道のりを徒歩で通っている。写真が撮られた日も、王君は期末テストを受けるために急いで歩いて登校した。

服は自分で手洗いするのだが、水が冷たく、3枚ある厚手の服は汚れて洗っていなかったため、この日は薄手の服を2枚羽織って、家を出たのだという。
 
この写真をきっかけに、王君のように両親が都市に出稼ぎに行き、きょうだいや祖父母と共に村に残される「留守児童」が注目を集めている。魯甸県は会議を開き、高山地区の学校に暖房設備を配備するよう義務付けることを決定した。
 
王君の両親は出稼ぎ中のため、祖母と姉と暮らしているが、祖母は別の親戚を訪ねるなど家を空けることが多く、普段は姉と2人きりなのだという。家事はすべて自分たちでこなし、宿題の少ない方が食事の支度をするなど、支え合って暮らしている。
 
通学路は舗装されておらず、冬になると凍って滑りやすくなる。王君は、「学校が好き。特に数学が面白い」と話す。冬休みには、父親が働く昆明市に遊びに行きたいという。将来は、北京の大学に進学するのが目標だ。
 
王君の父、王剛奎さんは、昆明市で出稼ぎをして1年中家を空けている。毎日砂を運び、1か月の賃金は約3000元(約5万1638円)。

息子の写真がインターネットで有名になり、たくさんの人が援助を申し出たが、「息子には、労せずして利益を得ることを覚えないでほしい。一生懸命勉強して、自分の力で未来を切り開いてほしい」との思いから断った。
 
髪の毛が霜で真っ白になった息子の写真を見た時、剛奎さんは心が痛くなり、その日のうちに家に帰ったという。子どもたちと一緒にいてやりたいが、家を建てたばかりで借金もあり、出稼ぎなしでは生活が成り立たない。
 
王君が通う小学校は全校生徒167人で、そのほとんどが「留守児童」だ。学校に宿舎がないため、最も家が遠い児童は片道2時間の道のりを通学している。
 
王君の写真が話題になり、学校には10万元(約172万1279円)の寄付が集まった。また、厚手の洋服144着と、暖房設備を寄付した会社もあった。
 
昭通市政府の公式サイトによると、同市の貧困家庭の小中学生は13万8700人で、そのうち学校に通っている子どもは半数以下で46.79%という。【1月15日 東方新報】
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両親が都市に出稼ぎに行き、兄弟や祖父母と共に村に残される「留守児童」の問題は、都市・農村格差という中国社会が抱える重大問題の縮図ですが、その話も今日はパスします。

この「霜少年」には日本のネットユーザーも反応していますが、その反応に対し、中国ネットユーザーから好意的反応もあるとか。

****中国の貧しい少年に対する日本人の反応が「意外だった」、「日本にも善良な人が多い」=中国メディア****
(中略)中国メディアの今日頭条は14日、王くんの頭髪を撮影した写真が日本で大きな注目を集めたことを紹介しつつ、日本のネット上における反応を伝え、「日本も善良な人が多いことがわかる」と伝えている。

記事は、王くんの写真に対して「貧富の差」を批判したり、王くんの境遇に「同情」したりするコメントが寄せられるのは想定できたことだと伝える一方、日本のネット上ではそれだけでなく、王くんを称賛する声も多く見られたと紹介し、日本人のこうした反応は「意外だった」と主張した。

続けて、「意外だった」という反応として「中国の子どもたちはこんな境遇でも努力している。えらすぎる」、「氷点下の寒さのなか、1時間も歩いて学校に通うなんてすごい。夢に向かって勉強を頑張って欲しい」という日本人ネットユーザーたちの声を紹介。

さらに、こうしたコメントは「ごく一部」のものではなく、日本のネット上の反応の大半がこのような善意に満ちた声だったと伝え、多くの中国人は歴史問題などから「日本人は野蛮で極悪」と勘違いしがちだが、「日本も善良な人が多いことがわかるはずだ」と伝えている。【1月16日 Searchina】
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「日本も善良な人が多い」とわかってもらえれば何よりです。
難しい日中関係の在り様も、こうした小さな思いの積み重ねでやがては・・・と期待したいところです。

日本にしても、中国にしても、人々の感じるところは大体同じようなものなのでしょう。

****人民日報が日本のCMを「心温まる」と紹介、中国ネットも称賛****
2018年1月13日、人民日報の微博アカウントがネコと自動車をテーマにした日本の心温まる広告動画を紹介したところ、多くネットユーザーが関心を示している。

人民日報が紹介した動画は、日産自動車が作った「のるまえに#猫バンバン」の広告だ。

動画は「かわいくて、たまにドジな猫たちはあったかいところが大好き。寒い冬はクルマにもぐり込んでしまうことも」としたうえで、ボンネットの中やタイヤの上で暖を取るネコたちの様子を紹介。「だから乗る前にボンネットをバンバン」とし、ボンネットをたたくことでネコたちを外に出してやるよう提唱している。

中国のネットユーザーからは「あなたの小さな行動が一つの命を救う」「善良を望む人は、他人からも優しく接してもらえる」「こんな寒い冬の日でも、世界を温かくしてくれる人がいるのだ」「これは必要だ。ネコにとっても安全だし、車の部品も壊れるかもしれないし」「この広告は本当にホッコリする」といった称賛が寄せられた。(後略)【1月16日 Record china】
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シリア  反体制派残存拠点への政府軍・ロシアの攻撃 トルコは対クルド軍事作戦開始へ アメリカは?

2018-01-15 22:59:31 | 中東情勢

【1月12日 朝日】

【「アサド大統領退陣」を巡り難航する和平協議 政権存続を既成事実化する政府軍の攻撃
「IS崩壊後」のシリアに関する和平協議は、国連主導のジュネーブ協議は進まず、ロシア主導のアスタナ協議も成果を出せるか不透明な情勢にあります。

****<シリア>和平停滞 政権と反体制派、大統領退陣折り合わず****
内戦が続くシリアでは国連やロシアなどの仲介で和平の模索が続く。だがアサド政権と反体制派の交渉は「アサド大統領退陣」を巡り停滞したままだ。

1月には北部イドリブ県や首都ダマスカス近郊で反体制派地域への攻撃が激化、民間人死傷者や新たな避難民も発生しているという。30万人以上の死者と500万人の難民を生んだ紛争に終わりは見えないままだ。
 
和平協議は国連が主導し、スイス・ジュネーブで断続的に続く。だが昨年11月は反体制派が「アサド退陣」を交渉入り条件とし、アサド政権が反発。直接交渉はなかった。
 
一方、アサド政権を支援するロシアとイラン、反体制派を支援するトルコが主導する協議もカザフスタンの首都アスタナで定期的に開かれている。

昨年は戦闘行為を禁じる「緊張緩和地帯」をシリアに設け、3カ国が監視することで合意したが、戦闘は続く。ロシアは1月中に南部ソチで「シリア国民対話会議」を開く。アサド政権は参加するが反体制派は拒否するという。
 
一方、反体制派の拠点はほぼイドリブ県のみで、大半がアルカイダ系組織「シリア解放機構」の支配下だ。この組織は昨年1月、「シリア征服戦線」(旧ヌスラ戦線)など反体制派内の複数の非主流派が結集した。
 
ロシアのラブロフ外相は昨年12月27日、こうしたアルカイダ系組織の掃討を「次の課題」と指摘。アサド政権は現在、イドリブ県などで掃討作戦を強化し、AP通信によれば今月8日にも14村を制圧した。

激しい空爆や砲撃も行われ、在英のシリア人権観測所によると7日以降、21人が死亡。8日には車爆弾で25人が死亡し100人が負傷した。

ダマスカス近郊東グータ地区でも戦闘で12月29日以降159人が死亡したという。今月はロシア軍基地への無人機攻撃やイスラエル軍機による空爆も発生した。
 
トルコのチャブシオール外相は9日、アサド政権が過激派掃討を口実に反体制派を攻撃しているとロシアとイランの大使に抗議した。
 
シリア北部では少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が勢力を拡大している。隣国トルコは自国内のクルド人組織「クルド労働者党」(PKK)をテロ組織に指定、SDFとPKKの連携に警戒を強めており、衝突も懸念される。【1月10日 毎日】
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和平協議が難航する一方で、軍事的優勢に立つ政府軍は、政権存続を既成事実化するように、残された反体制派支配地域(イドリブ、ダマスカス郊外の東グータ地区)に対する攻撃を、ロシアの支援も受けて強めている状況です。

政府軍による東グータ地区包囲戦 国連「戦争犯罪の可能性」】
政府軍により包囲戦が4年以上続く首都ダマスカス近郊の東グータ地区については、以下のように。

*****東グータ地区****
シリア首都ダマスカスの約10キロ東にある農業地帯で、内戦勃発以来の反体制派の拠点。広さ約110平方キロ。

2013年秋ごろからアサド政権軍に主要部を包囲され、約40万人が食料や医薬品、燃料の不足に苦しむ。

国連児童基金の昨年11月の調査では子どもの1割強が急性栄養失調状態。重傷・重病者を外部へ搬送できず、600人以上が必要な治療を受けられずにいる【1月12日 朝日】
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****死ぬより苦しむことが怖い 国連「戦争犯罪の可能性」 シリア****
内戦が続くシリアで、アサド政権軍の包囲攻撃を受ける東グータ地区が深刻な人道危機に陥っている。先月末から子どもを含む民間人85人が犠牲になり、国連は「軍事目標と民間人を区別しておらず、戦争犯罪の可能性がある」と警告する。

朝日新聞の電話取材に応じた住民は、爆発音が響く中、「死ぬことよりけがをして苦しむことが怖い」「世界はこの惨状から目を背けないで」と訴えた。

 ■医師も薬も不足
(中略)東グータ地区の住民の間では、大型爆弾を積んだアサド政権軍のロケット弾をエレファント・ロケットと呼ぶ。命中精度は低いとされるが、命中した建物を全壊させる破壊力がある。
 
主婦によると、朝から夕方までは迫撃砲とロケット砲による砲撃、夕方から翌午前1時ごろまでは軍用機による空爆が連日続く。
 
主婦は「みんな死ぬことよりも、けがをして苦しむことを怖がっている」と話す。医師は足りず、救急医療を担うのは医学生だ。4年を超す包囲攻撃でほとんどの医療施設が被弾した。医療機器は足りず、医薬品は底をついた。砲撃や爆撃で手足を負傷すると、切断されることが多い。

 ■民間人400人犠牲
東グータ地区に暮らす男性(45)は7日未明、自宅を砲撃され、近くの建物の地下室に妻と子ども5人で移り住んだ。電気はなく、集めた木片を燃やして暖を取っている。食事は1日1回のオートミールだけ。

地区では食料を買うために家具や衣服を売る人が多い。表通りにはゴミをあさって食べ物を探す人も目立つ。
 
男性は「ここでは全てが破壊される。私も体と心が壊れていくと感じる。我々は同じ人間としてではなく、死者として数えられるだけの存在なのか。世界はこの惨状から目を背けないでほしい」と訴えた。
 
反体制派NGOのシリア人権監視団によると、東グータ地区では昨年11月中旬以降だけで民間人400人近くが死亡、700人以上が負傷した。反体制派が抗戦を続ける理由について、反体制派メンバーの20歳代の男性は「アサド政権は反体制派を虐殺してきた。降伏すれば殺される。死ぬまで戦うしかない」と語る。
 
ザイド国連人権高等弁務官は10日、声明を出し、「東グータ地区では地上と空から昼夜を問わず住宅地が攻撃されている。軍事目標と民間人を区別する国際人道法の原則が守られておらず、戦争犯罪にあたる可能性がある」と警告した。【1月12日 朝日】
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安全地帯イドリブへの政府軍・ロシアの猛攻 トルコは抗議するも・・・
イドリブ県は、アサド政権を支援するロシア、イランと、反体制派を支援するトルコが主導する和平協議で緊張緩和地帯(安全地帯)とされています。

しかし、昨年夏以降、アルカイダ系イスラム過激派組織「シャーム解放委員会」(旧ヌスラ戦線)が、反体制派の有力組織を駆逐して最大勢力となったこともあって、政府軍・ロシアは「停戦対象ではない過激派テロリストと戦っている」ろいう名目で攻撃を続行・強化しています。

****シリア、緩衝地帯でも戦火 北西部イドリブ、43人死亡 政府軍空爆、和平協議後も***
「勢いを増す政権軍のイドリブでの地上戦と空爆で、何十万人もの市民が危険にさらされている」
ザイド国連人権高等弁務官は10日の声明でイドリブ県の状況に強い懸念を示し、市民の保護を訴えた。
 
シリア内戦は、2016年末に北部の要衝アレッポを制圧した政権軍が軍事的優位を固める。その中で、イドリブ県は反体制派が県全体を支配する最大拠点となっていた。

政権軍はロシア軍の空爆支援を受けながら同県南部と隣接するハマ県北部で軍事作戦を展開。すでにイドリブ県内に足がかりを確保している。
 
今月7日には同県の県都イドリブで反体制派の拠点を狙ったとみられる爆発があり、反体制派の在英NGO「シリア人権監視団」によると、8日までに市民27人を含む43人が死亡した。
 
国連人道問題調整事務所によると、一連の戦闘は昨年12月1日から今月9日までに約10万人の避難民を生んだ。同県を含むシリア北西部には約265万人が住むが、うち約116万人は全国から逃れてきた避難民が占める。新たな避難場所の確保は難しい。食料や水、医薬品も不足し、現地は混乱状態に陥っている。(後略)【1月12日 朝日】
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トルコは、政府軍は旧ヌスラ戦線との戦いを口実に反体制派を攻撃していると批判しています。
トルコ外相は、「テロリストがいるという名目で都市全体を爆撃するのはおかしい」として、ロシアとイランに政府軍の攻撃を止めるように求めたています。

****シリア軍の反体制派攻撃阻止を=ロシアとイランに要請―トルコ***
トルコのチャブシオール外相は10日、同国のアナトリア通信のインタビューで、シリア内戦をめぐってロシアとイランに対し、北西部イドリブ県でのシリア軍による反体制派への攻撃を阻止するよう要請した。
 
シリア和平を仲介するロシア、トルコ、イランの3カ国は昨年9月、戦闘を禁じる「安全地帯」をイドリブ県に設け、3カ国の部隊が監視することで合意。

チャブシオール外相は「ロシアとイランはシリアの(停戦)保証国としての義務を果たすべきだ」と強調。シリア軍は「テロ組織との戦い」という名目で反体制派を攻撃していると指摘、和平協議に悪影響を及ぼすと批判した。【1月10日 時事】
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トルコ クルド人勢力への本格的攻撃を近日中に開始
ただ、トルコがどこまで本気でロシア・イランに抗議しているかは疑わしい感も。

トルコの最大の関心事は、アサド政権や反体制派の行方ではなく、シリア北部のトルコ国境沿いで独自の勢力を強めるクルド人勢力を抑えることにあることは、これまでも再三触れてきました。

そして、トルコ・エルドアン政権はクルド人勢力掃討のための軍事介入を本格化させようとしています。

全くの個人的憶測ですが、イドリブにおける政府軍・ロシアの攻撃を黙認する見返りに、北部のクルド人掃討でトルコが介入することをアサド政権・ロシアも黙認して欲しい・・・というのが、エルドアン大統領の“取引”ではないでしょうか。

****トルコ シリア北西部に軍事作戦 近日中に開始****
トルコのエルドアン大統領は14日の演説で、シリアのクルド人勢力、民主連合党(PYD)が掌握するシリア北西部アフリンへの軍事作戦を近日中に始めると語った。トルコメディアが報じた。

軍は国境付近に戦車を配備し、13日以降、トルコ側からアフリンに砲撃が多数行われている。
 
トルコはPYDを自国の非合法組織、クルド労働者党(PKK)傘下のテロ組織とみて敵視。

米国は過激派組織「イスラム国」(IS)対策でPYDの民兵組織を軍事支援し、トルコの対米関係悪化の要因となっている。
 
エルドアン氏は新作戦に絡み、米国などがトルコを支援するよう期待すると述べた。
 
PYDはシリア内戦に乗じてシリア北部一帯に勢力を拡大。アフリン周辺を「飛び地」として掌握し、エルドアン氏らは軍事作戦の可能性を繰り返し警告してきた。【1月15日 毎日】
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http://blog.goo.ne.jp/aya-fs710/e/5a37bf99d5e8203dbe82479d8c2d7169

クルド人勢力は自治区確立に向けて“飛び地”状態のアフリンと他の地域をつなげたいところですが、2016年8月にトルコ軍は「ユーフラテスの盾」作戦で越境介入し、そうしたクルド人勢力の拡大を阻止しています。今回作戦は、そのアフリンが標的になるようです。

アサド政権は、トルコの介入も、クルドの独自の動きも、ともに主権を侵害するものとして否定しています。

アメリカはどこまでクルド人勢力を支援するのか?】
上記にもあるように、アメリカはIS掃討作戦の主力としてPYDの民兵組織を位置づけ、これを軍事支援してきました。

ただ、今後については、NATO加盟国であり、中東の地域大国であるトルコを決定的に怒らせてまで、クルド人勢力を支援することはないのでは・・・、どこかでクルド人勢力はアメリカに見捨てられるのでは・・・と思っていましたが、アメリカとクルド人勢力の協力関係について、やや異なる動きもあるようです。

****トルコ窮地 アメリカはシリア国境に特別部隊****
アメリカ)がSDF(シリア防衛軍=アメリカの傘下でありYPG(クルド人勢力PYDの民兵組織)の関係組織)の戦闘員を訓練して、シリアとトルコの国境に、配備する計画を立て、既にSDF戦闘員の訓練に入っている。

このことは、当然トルコ政府を激怒させている。大統領のスポークスマンであるイブラヒム・カルンは『このことは地域の位置付けを変えてしまう。』とクレームをつけている。実はこの前の段階では、トルコ政府がアメリカ領事を呼び出し、事実説明を求めている。

現在SDFの230人の戦闘員が、アメリカ軍の訓練を受けている。アメリカに言わせれば、彼らは自宅のそばの安全を、確保するために徴用される、ということだ。

アがメリカ軍はこのことについて『もっと多くのクルド人やアラブ人が、シリア・トルコ国境とユーフラテス川東岸の警備に、あたるということだ。』と説明している。

アメリカ軍の計画によれば、SDFの15000人の戦闘員が、この任務につく予定だ。彼らはIS(ISIL)に対抗することが、目的だとされている。なおこのシリア北部には、2000人のアメリカ兵が、駐屯している。加えて、外交官も200人ほどが、駐在しているということだ。*

トルコ政府にしてみれば、このSDFの新組織部隊が、IS(ISIL)対応の目的ではなく、シリア北部のクルド自治区固定(将来的にはクルドの独立)のための、部隊だと考えている。それは同時に、トルコとの間で戦闘を展開する、可能性が高いということだ。

SDFはYPG(クルドの戦闘部隊)と、特別な関係にある。SDFの実質は、クルドのYPGなのだ。アメリカはYPGではトルコ側に対しての、説明がし難いために、クルドやアラブ・トルコマンなどの混成部隊が、SDFだと説明しているのだ。

このSDFからの選り抜きの、戦闘員によって構成される、特別部隊の結成は、アメリカのトルコに対する、明らかな敵意の表れであろう。このことは今後、アメリカとトルコが明らかな、敵対関係になっていくことを、意味しているものだと思われる。

アメリカは既に、シリア北部の10か所以上に、軍事基地を建設しており、長期に駐留する方針であり、その傭兵としてSDFを訓練し、クルド人にこの地域を治めさせることによる、間接統治を考えているのであろう。【1月15日 佐々木 良昭氏 中東TODAY】
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エルドアン大統領が、アフリンへの軍事作戦を本格化させようとしている背景には、アメリカのこうした動きへの怒りもあるのでしょう。

確かに、アメリカとトルコの関係は最近うまくいっていません。

****米・トルコ、ビザ発給を完全再開 対立収束も亀裂残る****
米国とトルコは28日、互いの国民に対する査証(ビザ)の発給業務を約3か月ぶりに完全再開すると発表した。
 
両国は、在イスタンブール米総領事館の職員がトルコ当局に拘束され、スパイ活動とトルコ政府の転覆を計った罪で正式に訴追されたことをきっかけに、互いにビザ発給を停止。在トルコ米大使館は、トルコ側の措置は「全くメリットがない」ものだと非難していた。
 
ビザ発給の完全再開により問題は収束した形だが、双方が出した声明では両国間に残る疑念が浮き彫りとなった。(後略)【2017年12月29日 AFP】
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トランプ大統領のエルサレム首都認定発言に対しても、トルコ・エルドアン大統領は激しく批判しています。

そうは言っても、先述のようにNATO加盟国であり、中東の地域大国であるトルコと決定的に対立してまで、クルド人勢力を支援するような選択は、トランプ大統領の“取引”にはなじまないのでは?・・・と、やはり思えます。

IS掃討への貢献に報いる・・・とか、クルド人の民族自決に共鳴する・・・といったことなら別ですが、トランプ大統領はそうしたことには関心はないでしょう。

トルコが本格的軍事作戦を始めたとき、アメリカがどこまでクルド人勢力を支援するのか、非常に注目されます。

ロシア 無人機攻撃の背後にアメリカがいると非難
なお、ロシアは空軍基地がイドリブの穏健派支配地域から飛来したとされる無人機によって攻撃された件で、背後にアメリカがいる・・・と怒りを見せています。

****ロシア シリアの空軍基地など無人機で攻撃された****
(中略)ロシア国防省によりますと、攻撃を受けたのは、シリアでいずれもロシア軍が駐留する、フメイミム空軍基地とタルトゥースの海軍基地です。6日、合わせて13機の無人攻撃機から攻撃を受けましたが、いずれも撃墜するなどして被害はなかったとしています。

これについてロシア国防省は9日、声明を発表し、無人攻撃機は何らかの武装勢力によって運用されたという見方を示し、「GPSの誘導にしたがって的確に攻撃が行えるようになるには先進国における訓練が必要だ」としています。

そのうえで「奇妙なことに攻撃があった同じ頃、アメリカの偵察機が2つの基地の周辺を4時間以上にわたって飛行していた」と指摘し、背後には、アメリカを含む高度な技術支援があったのではないかという見方を示しました。【1月10日 NHK】
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トルコの軍事介入をロシアが容認するのかどうかは、こうしたロシアとアメリカの反目も影響してきます。
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EU  東西分断とポピュリズム台頭 両者が集約する難民対策で困難なかじ取り

2018-01-14 22:47:53 | 欧州情勢

(焚き火で暖をとる難民たち(ギリシャ、2017年12月21日)【1月12日 WSJ】)

Brexitが些細なことに思われるような重大な事態になる恐れがあるEU内の東西の対立
EUが独仏に代表される“西欧”と、カチンスキ党首率いる「法と正義」が主導するポーランドやオルバン首相のハンガリーなどの“東欧”の間で、深刻な分断が広がっていることは、2017年12月1日ブログ“東西亀裂が深まるEU チェコのポピュリズム台頭 「非リベラル」傾向を強めるハンガリー・ポーランド”でも取り上げました。

こうした東西分断の背景には、中東欧諸国に共産主義支配の遺産とも言える、西欧的価値観へ違和感があることのほか、西欧主導のEUの側が新規加盟した中東欧の声を十分に汲み上げてこなかったことで、中東欧諸国が二流国家群として扱われているとの反感を抱いていることがあります。

西欧とは異なる価値観と西欧への不満・反発は相互に呼応して肥大し、その結果として、ロシア・中国・トルコの名を挙げて、民族的基盤に則った自由の制限された「非リベラル国家」を目指すと公言するハンガリー・オルバン政権、そして与党「法と正義」が進める司法改革が政府の司法介入を可能とし、EUが重視する「法の支配」に違反するとして、欧州委員会が制裁に向けた手続きに着手しているポーランドの現状があります。

****EUを信じる西と信じない東、広がる亀裂****
独ディ・ツァイト紙政治担当編集委員Jochen Bittnerが、10月23日付けニューヨーク・タイムズ紙に、EU内では後から加盟した東欧諸国と元加盟の西欧諸国との間に亀裂があり、双方に責任がある、とする解説記事を書いています。要旨は以下の通りです。

1990年代初期の欧州共産主義の崩壊後、チェコ、ポーランド、スロヴァキア、ハンガリーの4か国はヴィシェグラード・グループを作った。同グループは、EUとの結びつきを強め、2004年にEUに加盟した。
 
当初共産主義崩壊後の統合の旗手であったヴィシェグラード・グループは、今日では西欧が中東欧を完全には統合できないことの象徴となっている。4か国の政治家はEU反対を唱え、「EUは押しつけがましい」と批判している。
 
4か国は、西側の主流に与することを拒み、イスラム難民の受け入れを拒否し、民主主義のチェック・アンド・バランスを煩わしいものと考える。
 
こうした傾向はヴィシェグラード・グループにとって新しいことではなく、過去10年の間に見られた。過去10年、EUは北の債権者と南の債務者の間の債務危機に忙殺され、EUを信じる西と信じない東との亀裂が広がるのを見落とした。その間に中欧で疎外感が定着した。
 
こうなったことについては東西の双方に責任がある。
 
西欧は、東欧はEUに加盟しただけで満足したものと考え、東欧を二流国家群として扱った。ヴィシェグラード・グループ諸国がEUで何か提案しても無視されるか、拒否された。西欧は東欧との経験の違いを重視しなかった。(中略)

ヴィシェグラード・グループ諸国が西側の約束に幻滅を感じたのは理解できる。ヴィシェグラード・グループ諸国はEUに加盟した時、安定を期待したが、加盟直後EUはまずユーロ危機、次いで大量の移民流入で揺れた。

自由は、安全ではなく新たな不安定を意味した。多くの中東欧の人にとって、西側の一員になりながら依然取り残されることを恐れなければならないのはショックであった。
 
それとともに、中東欧では、40年間の共産主義支配の結果、国民相互、政治グループ間の不信感は大きい。専制主義時代の遺産はいまだに残っている。
 
この間、中東欧の国民は自由に適合する努力を怠った。経済は自由化したが、自分たちの心を自由化することを忘れた。
 
東西は両者が共存する治療法を施さなければならない。EU内の東西の対立は、放っておけばBrexitが些細なことに思われるような重大な事態になる恐れがある。(後略)【12月1日 WEDGE】
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ポーランド・ハンガリー以外にも、EUに批判的な「チェコのトランプ」と日系極右政治家が躍進したチェコの総選挙結果については前回ブログで取り上げたところです。

そのチェコでは、大統領選挙が行われていますが、親ロシア・中国でEUの難民政策に強く反対している現職大統領がトップで決選投票に進んでいます。

****<チェコ大統領選>親露の現職首位、過半数なく決選投票へ****
チェコ大統領選が13日開票され、現職のミロシュ・ゼマン氏(73)が首位、チェコ科学アカデミー元総裁のイジー・ドラホシュ氏(68)が2位となった。過半数を獲得した候補はおらず、26、27日に決選投票が行われる。
 
ゼマン氏は親ロシア・中国で欧州連合(EU)の難民政策に強く反対していることで知られる。一方のドラホシュ氏は親EUを主張する。

チェコの大統領は儀礼的な存在だが世論に与える影響力は強く、決選投票の結果はチェコの動向に影響を与えそうだ。
 
当局によると、開票率99%でゼマン氏は約38.6%、ドラホシュ氏は約26.6%を獲得。大統領選には9人が立候補した。ゼマン氏は主に地方が支持基盤で、ドラホシュ氏は首都プラハなど都市部で人気が高い。【1月14日 毎日】
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ゼマン大統領はトランプ米大統領のエルサレム首都認定を支持し、これに批判的なEU諸国を「臆病者」と批判しています。

****チェコ大統領 「EUは臆病者」、米のエルサレム首都認定問題で****
ドナルド・トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した問題で、チェコのミロシュ・ゼマン大統領(73)は9日、トランプ大統領を批判している欧州連合(EU)諸国を「臆病者」と非難した。
 
イスラエルの擁護者を自認するゼマン大統領は9日、反移民と反EUを掲げる極右政党「自由と直接民主主義(SPD)」の集会で党員らを前に「臆病者のEUが、親イスラエルの運動よりも親パレスチナのテロリストらの活動が優位になるよう、あらゆる手を尽くしている」と発言した。
 
来年1月の大統領選で2期目の当選を目指すゼマン氏は前日にも、トランプ氏が物議を醸しながらもエルサレムをイスラエルの首都と認定したことに満足していると述べている。(後略)【2017年12月10日 AFP】
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2017年、ポピュリズムの反乱に「執行猶予」を得たにすぎないEU指導者
EUを主導する西欧諸国は、上記のような中東欧諸国との分断に加え、各国内部に、国民の現状への不満によるポピュリズムの台頭を抱えています。

昨年は、オランダ総選挙、フランス大統領選挙、ドイツ総選挙等で、ポピュリズム勢力の最終的勝利はなんとか回避したもののその波は未だ収まっておらず、「執行猶予」状態にあるとも言えます。

****ポピュリストの波が残る欧州、2018年の課題****
欧州連合(EU)は2017年、ポピュリズムの反乱を乗り越えた。だが、反エスタブリッシュメント的でユーロ懐疑主義的な一部政党による脅威が去ったと考える人はごく少数だ。
 
欧州各国のポピュリスト政党は昨年、選挙で政権を掌握するには至らなかったものの、大きな躍進を見せた。

オランダでは極右政党の自由党が最大野党になった。
ドイツでも、アンゲラ・メルケル首相がキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)による大連立を再び組むことに成功すれば、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が最大野党になる。
オーストリアでは極右政党の自由党が連立与党の一角として新政権入りを果たした。

一方、ポーランドとハンガリーの政府は、ポピュリスト的な国内の政策課題を追求し続けており、EUは法の支配を脅かす動きだと批判している。
 
確かに、ポピュリスト政党が今年、大きな突破口を開く展望はほとんどないようにみえる。今年はイタリア、ハンガリー、そしてスウェーデンで大きな選挙を控えている。 
 
ハンガリーでは、何も変化が起きないと予想されている。ビクトル・オルバン首相率いる政党「フィデス」の支持率は、極右政党「ヨッビク」を大幅にリードしている。

スウェーデンでは、昨年12月に公表された主要世論調査によると、ナショナリスト政党のスウェーデン民主党の支持率が14.5%と、難民危機のピークにあった15年時点の20%強から低下している。

そこで大きく注目されるのがイタリアだ。同国では、反既成勢力の「五つ星運動」が世論調査でリードしているほか、ユーロ懐疑派の「北部同盟」も支持を拡大している。しかし大半のアナリストは、現行選挙法の下では決着がつかず、幅広い連立が必要になるとみている。
 
しかし、今年以降のポピュリスト的な挑戦は一体どうなるだろう。その答えはいずれも、反グローバリゼーション的でユーロ懐疑派的な諸政党への支持を駆り立てているものによって左右されるだろう。

彼らポピュリスト政党の躍進は、2015年の難民危機への反応や、もっと幅広く移民への反感をどれほど反映しているのか。

また、文化的な不安、つまり有権者が自らのアイデンティティーや伝統が失われていると感じるなかで生じる不安を、どれほど反映しているのか。

そして、そうし各政党の躍進は、世界的な金融危機やユーロ圏債務危機後の厳しい経済状況によってどの程度もたらされたのか。

厳しい経済状況とは、高い失業率や賃金の停滞であり、それが政治エリートに対する信頼低下につながっている。(中略)
 
ロンドンを拠点とするシンクタンク「経済政策研究センター(CEPR)」が昨年発表した論文は、ポピュリスト政党への支持と経済との間に強い相関関係があると指摘している。

論文は、失業率の1%ポイント上昇がポピュリスト政党の支持率の1ポイント上昇につながる傾向があるとした。この研究はヤン・アルガン氏ら4人の欧州エコノミストが実施した。
 
研究はまた、失業と、EUに対する否定的な態度との間に明確な相関関係があると指摘。失業が増加すると、EUや加盟国の政治機構、そして裁判所への信頼の低下につながるという。

これはEUにとって特別な問題となる。例えば、ユーロ圏の債務危機をきっかけに、ユーロ圏の機構上の構造や多くの国の労働市場の構造に重大な欠陥があり、それが失業の急増につながったことが明るみに出た。

それはユーロ圏と国レベルの双方での構造改革の必要を浮き彫りにした。ただ、こうした構造上の変革を実現するには信頼が不可欠だ。信頼がなければ改革はあまり進まず、したがって高失業が続くだろう。
 
EUにとっての朗報は、ユーロ圏の経済が拡大しているだけでなく、失業率も低下していることだ。失業率は8.8%と、ピークだった2013年の12%強を大幅に下回っている。
 
EU経済に対する楽観論は今や2010年以降で最高水準にあり、加盟国経済への楽観論は07年以降で最高水準となっている。

昨年12月に発表された最新のEU世論調査「ユーロバロメーター」によれば、ユーロ加盟に対する支持率は現在、ユーロ圏市民の間で74%に達しており、04年以降で最高水準にある。一方、EUを肯定的イメージでみている人の比率は40%で、中立的なイメージが37%、ネガティブなイメージが21%となっている。
 
しかし、今や欧州の運命を担おうとしているさまざまな国の大連立政権ないし少数政権は、雇用市場変革に必要な改革を本当に推進し、ポピュリスト的な脅威を永久に駆逐する能力があるのだろうか。

あるいは、一部の主流政党は、ポピュリスト的な挑戦に対処するにあたり、ポピュリストたちのアジェンダ(移民政策や難民の処遇を含む)の諸側面を取り込む傾向があり、それが国レベル、EUレベルでの改革実行を難しくするのではないだろうか。

そうしたアジェンダの取り込みが欧州懐疑派政党の存在を正当化し、政治討論を極端にしてしまいかねないからだ。
 
欧州の主流政治家たちは2017年にいわば「執行猶予」を得た。しかし、欧州政治の中長期的な安定は、上昇軌道にある経済によってもたらされた好機を彼ら政治家が18年にしっかり捉えられるか否かによって決まるだろう。【 1 月 9 日 WSJ】
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ハンガリーやスウェーデンで極右政党の伸びが抑えられているのは、政権与党自身が“ポピュリストたちのアジェンダ(移民政策や難民の処遇を含む)の諸側面を取り込む”ことで国民支持を得た結果でもあります。

オーストリアでは第1党の中道右派、31歳のクルツ氏率いる国民党は、右翼政党・自由党との連立を組むことに。
自由党は反移民や反イスラムを掲げて勢いづく欧州の他の右翼勢力と連携しており、過去に幹部がナチスを礼賛する言動をもとっています。

極右「自由党」の幹部で、内相を務めるキックル氏は「難民・移民を1か所に集中させて収容するべきだ」などと、ナチス・ドイツの強制収容所を連想させるような発言をしたの批判も浴びています。

両党は、国民党の「親EU」、自由党の「反EU」という差異はありますが、移民・難民への反感を背景に、総選挙ではともに移民の流入抑制や難民への生活保護の削減などを掲げています。

こうした連立政権の姿勢への批判も国内にはあります。2万人を超える市民が13日、ウィーンでデモを行い、「ナチスの思想の復活を許すな」などと批判の声を上げました。

再燃する難民めぐる対立 分断・分裂が深まる危険も
最初に取り上げた東西分断、そして上記の各国でのポピュリズム勢力の台頭が集約する問題が、各国による受け入れ分担が膠着している難民対策です。

(グレー部分が、受入割り当てに対し未達の人数【1月12日 WSJ】)

****EUで難民めぐる対立が再燃、6月の譲歩期限迫る****
難民への対応を巡るEU加盟各国の指導者たちの論争はこの1年間静かだったが、ここにきて再び衝突しかねない状況に戻りつつある。
 
欧州連合(EU)は、亡命を求める何十万人もの人々の処遇に関するシステムの抜本的改革を先送りしてきた。EUはここにきて、難民受け入れ譲歩のための最終期限を6月に設定したが、加盟諸国の状況は厳しくなっている。
 
ドイツやオーストリアでは、反移民を掲げる政党が躍進している。ドナルド・トランプ米大統領の発言および政策は、欧州の移民反対派を勇気づけている。

ハンガリーのビクトル・オルバン首相は当初から移民歓迎政策に反対していた人物で、この問題に関するEU指導者同士の論争が「泥仕合」の様相を呈していると最近述べた。
 
欧州がこの問題をどう解決するか。それは、ギリシャやイタリアにある難民キャンプに足止めされている何千人、何万人もの難民申請者たちの運命を決めるだけではないだろう。

加盟国間に広がった隔たりは、他の難しい決定を複雑にしかねない。力の比較的弱い国々がブリュッセル(EU本部)に対する怒りを募らせているからだ。
 
この亀裂が表面化したのは、主にシリアやイラクから100万人近くの難民が欧州南東部に押し寄せた2015年だった。そこで欧州西部および北部に位置する比較的裕福なEU加盟国は、EU全域で受け入れを分担する方法を提唱した。

だが、元共産圏のいくつかのEU加盟国は、イスラム教徒の受け入れを拒否した。その結果がこう着状態だった。
 
この亀裂は、英国が16年6月の国民投票でEU離脱(ブレグジット)を支持したことを受けて、一時的に覆い隠される形となった。それは、より貧しいEU加盟国から英国に流入する移民への懸念が大きく影響した投票結果だった。

しかし昨年12月、フランスとドイツがしびれを切らすなか、欧州理事会(EU首脳会議)のドナルド・トゥスク常任議長(EU大統領)が新たに期限を設定し、この問題を最優先課題に戻した。
 
移民や難民の大量流入を防ぐために16年にトルコと結んだ合意を受けて、難民の流入数は減っている。だがEU域内に到着した難民の受け入れをどう分担するかは、依然として大きな障害になっている。(中略)

EUのルールでは、難民申請者の扱いについては、その申請者が最初に到着した加盟国が責任を持つとしている。到着する難民の数がどれほど多くても、最初に到着した国がその義務を負うことになっている。

だが大量の難民がイタリアとギリシャに殺到したため、欧州委員会は加盟国で受け入れを分担する国別割当案を作成した。EUの閣僚理事会は、一部加盟国の反対を押し切って、およそ10万人におよぶ難民申請者の受け入れ分担を承認した。
 
ハンガリー、ポーランド、チェコ共和国はこれに従うのを拒否し、欧州委員会を訴えた。EUの最高裁判所である欧州司法裁は3カ国の訴えを退けたが、3カ国は引き下がっていない。3カ国は現在、再び難民危機が起きた場合に同様の分担枠を発動するという新たな提案に反対する構えだ。(中略)

大半の移民が最終的な落ち着き先として目指す比較的裕福なEU加盟国は、東欧の加盟諸国が反抗的なままであるなら、次回のEU予算でこれら東欧諸国への資金を削減すると暗に警告している。

だが5月に始まる予算交渉を監督する欧州委員会のギュンター・エッティンガー委員(予算担当)は8日、こうした報復的な措置に反対の姿勢を表明した。同委員は、東欧加盟国向けのEU資金削減を通じて移民政策を推進すれば、「欧州ファミリーを分断させるだろう」と述べた。そして、「我々は既に仲間内で十分に分裂している」と付け加えた。(中略)

EUの議論の中で置き去りにされているのは移民・難民自身だ。(後略)【1月12日 WSJ】
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インド  国境問題でも、国際戦略でも中国の勢いに押され気味 原子力潜水艦ミスで“大丈夫?”

2018-01-13 22:25:24 | 南アジア(インド)

(2014年8月に撮影された原潜アリハント【ZAPZAP!】 あまり写真もない極秘原子力潜水艦ですが、そのインド海軍“虎の子”がなんと・・・・)

国境「敏感な地域」での中国側の“活発な活動”】
中国とインドが国境問題で長年小競り合いを繰り返していることは、これまでも取り上げてきたところです。
1962年には大規模な軍事衝突も起きています。このときは中国が軍事的に圧倒し、一方的に停戦しています。

昨年6月下旬にも、中国・ブータンの国境付近のドクラム地区で、中国軍が道路建設に着手したことを契機にブータンの後ろ盾となるインドと中国の両軍のにらみ合いが発生。この“にらみ合い”は、8月28日の両国合意で、一応、収束したことにはなっています。

ただ、両国が対峙する情勢は変わっておらず、トラブルの種はつきません。

****中印紛争地区、離脱合意のはずが「中国固有の領土だ」 軍駐留を継続、トンネル建設も着手か****
インド、中国、ブータンの国境付近のドクラム地区で中印両軍の対峙(たいじ)が続いた問題をめぐり、中国側が最近、「ドクラム地区は固有の領土」と改めて発言し、軍隊駐留を示唆したことが波紋を広げている。

中国軍が付近でトンネル建設に着手したとの報道もあり、インド側は神経をとがらせる。双方「要員の迅速離脱」で合意したはずの対峙だが、対立の火種はくすぶり続けている。(後略)【2017年12月2日 産経】
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インドメディアは、“中国軍が「6カ所でトンネル工事をしており、兵舎も建設中だ」”【同上】“中国軍がヘリパッドなどを建設した”【12月11日 時事】とも報じています。

中国はドクラム高地を自国領と主張、8月末のインドによる「撤退」発表後も「警備と駐屯を続ける」と強調しており、“活発な活動”が続いているようです。

****中国、印北東州で道路建設 インド側反発「インフラを整備で領有権主張する常套手段****
インドが実効支配し中国も領有権を主張する印北東部アルナチャルプラデシュ州で、中国の作業員グループがインドが主張する実効支配線を越えて道路を建設していたことが判明し、インド側が反発を強めている。

歴史的に国境をめぐって摩擦が続く両国だが、インフラを整備して領有権を主張する中国の手法に反発は根強く、火種は今年もくすぶり続きそうだ。
 
インド英字紙インディアン・エクスプレスなどによると、工事が発覚したのは昨年12月28日。中国人数人のグループが中国南西部チベット自治区から、同州側に1キロほど入り、重機を使って600メートルほど道路を建設していた。
 
一団はインドの国境警備隊に発見されて中国側に戻ったが、立ち去った際に掘削機などをその場に残していったという。同紙はインド政府高官の「このような一方的な活動は激しく非難される」というコメントを掲載し、反発している。
 
両国は昨夏に中印ブータンが国境を接するドクラム地区で、約2カ月半にわたって軍が対峙したが、発端は中国軍が道路の建設を始めたことだった。「それだけに今回の動きには敏感にならざるを得ない。インフラ整備を進めて領有権を主張するのは中国の常套手段だ」とインド紙記者は分析する。
 
インド側の反発に中国側も敏感に対応した。中国外務省の耿爽報道官は3日の記者会見で、道路作業員についての言及は避けつつも、「中国はいわゆるアルナチャルプラデシュ州という存在を認めていない」と改めて強調した。

中国は同州を「蔵南」(南チベット)と呼んで自国領土と主張しており、2016年には中国軍が実効支配線を越えて約45キロ侵入し、数日駐留した経緯がある。
 
両国間では、1962年に同州を舞台に中印国境紛争が起きており、「敏感な地域」であり続けている。印英字誌インディア・トゥデイによると、同州に隣接するチベット自治区林芝では、ここ数年、衛星写真から中国軍の兵舎の建設が相次いで確認されており、インド側が神経をとがらせる一因となっている。
 
領土問題について、昨年12月に中国外交担当トップの楊潔●(=簾の广を厂に、兼を虎に)国務委員と、インドのアジット・ドバル国家安全保障担当補佐官がニューデリーで会談したが、進展は見られなかった。

歴史的経緯に、南アジアでの覇権を目指す中国の姿勢が加わり、「今年も軍の対峙が起きるのではないか」(インド紙記者)と懸念する声すら上がっている。【1月8日 産経】
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全般的には、中国側の“攻勢”が目立ち、インド側は対応に追われているという感も。
今回の件も“同州側に1キロほど入り、重機を使って600メートルほど道路を建設していた”とのことですが、素人的には、“そんなに敏感な地域で、境界を越えて600mの道路を重機で建設する間、インド軍は気づかなかったのだろうか?”という素朴な疑問も。

“インド宇宙開発機構(ISRO)は12日、国産地球観測衛星として100基目となる「CARTOSAT-2」を載せたロケットの打ち上げに成功した。このロケットには、フランス、英国、米国を含む6か国の衛星も搭載されている。”【1月13日 AFP】とのことですが、100基の観測衛星は何をしているのでしょうか?

チャイナマネーになびくインド周辺国 中国戦略を支える中国人のバイタリティーも
国際的な戦略としても、中国が強力に展開する「一帯一路」に対し、インドは日米とも協力して「自由で開かれたインド太平洋戦略」で対抗するライバル関係にあることは、2017年12月18日ブログ“インド 中国の「一帯一路」への対抗姿勢を強めるも、止まらない中国の勢い”で取り上げたところです。

この方面でも、ネパールの親中政権成立、スリランカでの有力港湾経営権の中国企業取得など、中国側の“勢い”に分があるようにも見えます。

インドが自国勢力圏と考えるインド洋の島嶼国、モルディブでも中国接近が目立つようです。

****赤色に染まる南の楽園モルディブ 中国に傾斜、FTA締結でインド反発****
インド洋の島嶼国、モルディブの中国接近が顕著だ。現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に参加し、このほど中国と自由貿易協定(FTA)も締結した。

一連の動きに安全保障上も経済上も関わりが深いインドはいらだちを募らせる。インド洋での覇権争いに直結する重要地点だけに、楽園の島をめぐる中印のつばぜりあいは今後も続きそうだ。
 
「一帯一路は中小国の発展を後押ししている」
7日に北京を訪問したモルディブのヤミーン大統領は、中国の習近平国家主席とともにFTAの署名式に出席。中国が推進する政策を褒めちぎった。
 
習氏もモルディブについて一帯一路の海上ルートでの重要なパートナーだと指摘し、両首脳は満面の笑みを浮かべて握手した。(中略)

この動きに心中穏やかでないのはインドだ。まだモルディブとFTAを結んでおらず、中国に出し抜かれた格好となった。

インド外務省は14日、モルディブとインドは「歴史的、文化的に結びつきが強い」と強調した上で、「“インド第一政策”を継続するのかというわれわれの懸念に対し、(モルディブ側が)敏感であることを期待する」と、遠回しながら中国傾斜に強烈にくぎを刺した。
 
モルディブはインドの真南に位置し、中国化が進めば、戦略的に脅かされる可能性がある。「のど元に刃物を突きつけられる格好になる」(インド紙記者)。(後略)【2017年12月27日 産経】
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背景には、2013年11月に反インド的なスタンスを取るヤミーン氏がモルディブ大統領に就任した政治的な流れもありますが、観光立国のモルディブにあって“2014年は人口の約3倍に相当する120万人が訪れた。国別では中国人観光客が最も多く、年間36万人が訪問している。”【同上】という現状もあります。

こうした現状があるから、“別にインドの言いなりになる必要はない”との政治的流れともなるのでしょう。

インドの宿敵パキスタンも中国にとっては戦略的に重要な拠点であり、中国は、新疆ウイグル自治区カシュガルからパキスタンの港湾・グワダルに至る約3000キロに沿う地域を「一帯一路」のもとで「中国・パキスタン経済回廊」(CPEC)として開発支援しています。これによって、中国からパキスタン全体に落ちるカネは、約600億ドル(6兆7000億円)といわれています。【1月13日 産経より】

****中国マネー「風の門」一変 パキスタンの商業港に巨額投資****
(中略)パキスタンを基点に中央アジアに伸長し、インド洋や中東、アフリカへの海の玄関口を得たい中国。

CPECは、カシミール地方のパキスタンとインドの紛争地域も縦走し、インドをいらだたせる。中印は、カシミール地方の別の地域や印北東部アルナチャルプラデシュ州の領有権を争っている。

対インドで蜜月にある中パのいっそうの連携は、核武装する3カ国の危険な“火薬庫”に火種を与えている。
 
地域で存在感を保ちたいインドは、グワダルに対抗するように昨年12月、イラン南東部チャバハルに5億ドル(約560億円)を投資して港を開いた。グワダルから距離にしてわずか100キロ。中央アジアへの物流活性化を狙っており、CPECに対抗する意図が透けてみえる。
 
日本も通関設備やコンテナ装置などで資金協力を行っており、周辺地域は安倍晋三首相が米印とともに推進する「自由で開かれたインド太平洋戦略」と中国が真正面からぶつかり合っている場所とも言える。
 
パキスタンのある研究者は、苦しげにこう話した。「本音で言えば中国は信用できない。投資の先にあるのは支配かもしれない。それでもインフラが立ち遅れたこの国に金を出してくれる。何がよく、どこに付くのが正解か誰にも分からない」【1月13日 産経】
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先日、フランスのマクロン大統領が古代シルクロードの起点である西安を訪れ、「一帯一路」への支持を表明したように、欧州経済もチャイナマネーになびいています。

カザフスタンをはじめとする中央アジア諸国も、中国の「一帯一路」を経済発展の起爆剤としたいと考えています。

もちろん、中国のそうした拡張、影響力拡大にに関しては様々な問題や否定的反応もありますが、全体的流れで言えば、チャイナマネーは世界を動かす影響力を発揮しており、その勢いは止まらないものがあります。好むと好まざるとにかかわらず、その現実は直視する必要があります。

安倍政権がこれまでになく日中関係修復の方向で動いているかのように報じられているのも、そうした流れでしょう。

今日、たまたま「西へ“一帯一路”の奔流 カザフスタン、ヨーロッパ」(NHK BS)という番組を観ましたが、中国の「一帯一路」戦略の“奔流”を支えているのは、習近平政権の国家戦略もさることながら、一攫千金を夢見て、異国でのビジネスチャンスに果敢にチャレンジする中国人のエネルギーがあるように思えました。

残念ながら、今の日本ではあまり感じることが少ない、リスクを厭わない熱気です。
以前のブログでも取り上げたように、“広いアフリカ大陸に日本人は8000人しかいませんが、驚くことに中国人は、あくまで推計値にすぎませんが約110万人も進出しているのです。”【1月5日 文春オンライン】という“明確な差”です。

中国に対抗して“海軍戦力を大幅強化へ”と言いつつも、信じられないミスで原潜が沈没寸前
話をインドに戻すと、流れ的には中国ペースのように見えますが、インドも軍事面でも中国への対応を進めています。

****インド 中国念頭に海軍戦力を大幅強化へ****
インド海軍は、インド洋への海洋進出を強める中国を念頭に、新たに原子力潜水艦を就航させるなど、海軍の戦力を大幅に強化する計画を明らかにしました。

インド海軍は、今月、レーダーに探知されにくいステルス性能を備えた新型潜水艦1隻を就航させ、これに合わせて海上交通路=シーレーンの要衝であるインド洋での警戒・監視態勢を強化するため海軍の艦船の新たな配備計画を明らかにしました。

それによりますと、2020年までに現在の空母1隻態勢を2隻態勢にするほか、今回就航した潜水艦の同じ型を5隻追加し、さらにフランスの協力を得て、原子力潜水艦6隻を新たに建造し海軍の戦力を大幅に強化するとしています。

インド洋では、中国の潜水艦が、海賊対策を理由に活発に活動しているとみられるほか、ことし6月以降、国境付近の道路建設をめぐってインドと中国の両軍が2か月以上にわたってにらみ合いを続けた際にも中国の艦船14隻がインド洋に姿を現すなど、軍事的圧力ともとれる動きをみせています。

インド洋の安全保障環境をめぐっては、日本やアメリカが提唱する「自由で開かれたインド太平洋戦略」の中で中国軍の動きを念頭にインドとの緊密な連携を求めています。

インド海軍のランバ参謀長は会見で「各国がインド海軍に求める役割はわかっている」と述べて、戦力強化を急ぐ考えを示しました。【2017年12月29日 NHK】
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しかし、インド海軍については、虎の子の原子力潜水艦がハッチを閉め忘れて浸水し、沈没寸前になった・・・という信じられないような話もあります。

****インドの核ミサイル搭載原潜、ハッチの閉め忘れで沈没寸前に****
<インド唯一の核搭載可能原潜が、昨年2月の浸水事故から航行不能になっていたことが明らかに。インドの核抑止力低下が危ぶまれる>

インド初の国産原子力潜水艦「INSアリハント」が、昨年2月に浸水事故を起こして沈没寸前になって以降、現在まで1年近く航行不能になっていることがわかった。

インドの英字紙ザ・ヒンドゥーによると、総工費29億ドルをかけて建設されたアリハントは、昨年「人的ミス」によって推進室が浸水し、大きな損害を受けた。その後は、10カ月以上にわたって修復作業が続いている。

インド海軍の関係者によると、事故原因は、誰かが誤ってハッチを閉め忘れたことだという。今も、浸水した艦内から海水をくみ出し、パイプを交換するなど、大規模な修復作業が続いている。艦内の水冷システムのパイプは、水圧で破損し海水で腐食しているという。

これで中国に対抗できるのか
インドと中国は、昨年6月から2カ月以上にわたって、国境係争地の「ドクラム(中国名・洞朗)」高地で双方の軍隊がにらみ合いを続けた。その際に、アリハントが海上に姿を見せていないことが注目されていた。

アリハントは、水中排水量が6000万トン。インド海軍が内密に進めた先進技術艦(ATV)プロジェクトによって、南部の港湾都市ビシャーカパトナムで建設された。2016年10月に就役し、現在インドで唯一核ミサイルを搭載できる潜水艦。アリハント・クラスの2隻目の原子力潜水艦「INSアリガント」も昨年11月に就役したが、現在はまだ試運転段階だ。

アリハントは4つのミサイル発射管を備え、短距離弾道ミサイルや中距離弾道核ミサイルを搭載することができる。

インドは、太平洋進出を狙う中国に対抗する「インド太平洋戦略」の要でもある。地元紙ザ・ヒンドゥーによると、インド軍は事故そのものの失態はもとより、アリハントが使用できないことで隣国パキスタンやその他の核保有国に対する抑止力が低下することを憂慮し、事故を隠していたものと見られる。

インド国防省は、本誌の取材に対してコメントしていない。【1月12日 Newsweek】
*********************

後から考えれば信じられないようなミスは、私自身も含めて誰しも経験するところではあり、安易に揶揄するのはいかがなものかとは思います。

さはさりながら、“これで中国に対抗できるのか?”という疑問は、これまた誰しも感じるところでしょう。



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アフガニスタン情勢  アメリカ・トランプ政権のパキスタンへの支援停止で変化は?

2018-01-12 22:40:18 | アフガン・パキスタン

(中国からの投資で建設されたライトレール(次世代型路面電車)の警備に当たるパキスタンの警察官(2017年10月)【1月11日 WSJ】)

頻発するテロ ただし、タリバンとISでは差異も
アフガニスタンでのテロ頻発は今更の話ではありますが、年末から年明けにかけても大規模なテロが相次いでいます。

警察に自動車爆弾、6人死亡=アフガン【12月22日 時事】
情報機関狙った?アフガンでテロ…6人死亡【12月25日 読売】
アフガン首都で自爆、41人死亡=IS、犯行主張―シーア派集会標的か【12月28日 時事】
葬儀で自爆、18人死亡=タリバンは関与否定―アフガン【12月31日 時事】
アフガンで自爆テロ、デモ警戒の警察官ら20人死亡 ISが犯行声明【1月5日 産経】

特に、IS(イスラム国)による犯行が目立っており、上記テロについても、タリバンによるものは南部カンダハルで12月22日、大量の爆薬を積んだ自動車が警察施設に突入し自爆した最初の事件だけで、残りはすべてISによるものとされています。

タリバンのテロが対象を軍・警察に比較的絞っているのに対し、ISのテロはシーア派集会や葬儀など、一般市民をも標的にした見境のないものになっています。

イスラム原理主義的な国際テロ組織であり、異教徒・異宗派全般を憎悪するISに対し、タリバンはあくまでもアフガニスタン国内にしか関心がない土着組織で、将来的なアフガニスタン統治を目指すうえでは、世論の批判が高まる一般市民を無差別に殺害するテロとは距離を置きたい姿勢も見受けられます。(葬儀を狙ったテロでは、関与を否定する声明も出しています)

アメリカ シリア・イラクからアフガニスタンへ戦力移動
一方、アフガニスタン政府を支援するアメリカは、タリバンの勢力拡大に対し、“オバマはアフガンからの撤退を外交の目標の一つに掲げましたが、途中で増派に切り替えざるを得ませんでした。9.11後のアフガン戦争は18年に及んでいますが、米国は負けるわけにいきません。さりとて、米国が勝つ見込みもありません。”【1月11日 WEDGE】と、抜けるに抜けられないが、出口も見つからない状況にあります。

トランプ政権はアフガニスタン新戦略によって、アフガニスタンへの関与を再び強める方向にあります。
シリア・イラクの対IS戦闘が一段落しつつあることで、アフガニスタンへ兵力を振り替える余力も出てきたようです。

****米、アフガンでドローンや軍事顧問を増強へ****
トランプ政権の増派方針とシリア・イラクの対IS戦闘減少を受け

米国防総省は、トランプ政権によるアフガニスタン駐留米軍部隊の増派方針を受け、アフガンでドローン(無人機)など軍装備品の配備増強や約1000人の軍事顧問の追加派遣を計画している。米政府ならびに軍当局者が明らかにした。
 
例年戦闘が激化し始める春までにアフガンで米国の軍事プレゼンスを強化する措置で、国防総省は航空支援や監視・偵察のため武装ドローン、非武装ドローンをアフガンに大量に送り込む。
 
米政府当局者によれば、同省はまた、ヘリコプターや地上車両、迫撃砲などの能力を増強する。こうした計画は、シリアやイラクでの過激派「イスラム国(IS)」との戦闘作戦が減少したことにより可能になった。さらに、早ければ2月にアフガン治安部隊の軍事顧問として、米陸軍治安部隊支援旅団の一部を派遣する。

ドナルド・トランプ大統領は昨年8月に、アフガン駐留米軍の約4000人の増派を決定しており、米軍の規模は約1万4000人に増加する。治安部隊支援要員が加われば、その数はさらに膨らむ可能性がある。ただ、一方で撤退する部隊が出る場合もありうる。
 
米軍のアフガニスタン重視方針は大規模な配置転換計画の一環で、東アジアでの兵力を拡充する一方で、中東での兵力は縮小される見込み。ジム・マティス国防長官が昨年遅くに、イラク、シリア、アフガンを管轄するジョゼフ・ボーテル中央軍司令官に計画を検討するよう命じていた。(中略)
 
アフガニスタン駐留米軍のジョン・ニコルソン司令官は昨年11月28日に記者団に対し、「イラクとシリアでのISとの戦いに勝利したことから、アフガンに注入される力は増えると考えている」と述べた。(中略)
 
しかし国防総省は、イラクとシリアの米軍兵力を急激に削減すれば、過激派が息を吹き返す恐れがあることをよく知っている。ある米軍当局者は「気をつけなければならないのは、ISへの監視の目を離すのが早すぎてしまうことだ」と指摘し、「我々は以前に犯した過ちを繰り返したくない」と語った。【1月12日 WSJ】
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シリア・イラクが収まったと思ってアフガニスタンを強化すると、再びシリア・イラクで・・・といったモグラ叩きの危険もあります。

タリバンの最も重要な支援者であるパキスタンへの支援停止
それはともかく、現在程度の米軍の投入で、現在の苦しいアフガニスタン情勢を大幅に転換できるかという話になると、まず難しいでしょう。

マティス米国防長官は昨年6月の上院軍事委員会での証言で「現時点ではアフガニスタンでの戦争に勝てていない」とも発言、“アフガンで政府の統治が及ぶのは国土の6割以下とされ、東部ではIS、北部や南部などではタリバンが攻勢を強めている”【2017年4月22日 毎日】という状況にあります。

もっとも、タリバンのほうも一気に全土を制圧するほどの力はなく、“事実タリバンは和平協議を望んでおり、タリバンの最も重要な支援者であるパキスタンも、タリバンのカブール占拠を望んでいない”【米外交問題評議会の国家情報問題フェローのMichael P. Dempseyによる、12月3日付けニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説】とも。

Michael P. Dempsey氏の主張の真偽のほどは知りませんが、アメリカの同盟国で巨額の支援を受けていながら“タリバンの最も重要な支援者である”パキスタンに対し、かねてより苛立ちを強めていたアメリカが、いよいよ支援停止という形で強い圧力をかけ始めたことは周知のところです。

****トランプ氏のパキスタン批判で波紋 「テロリストに隠れ家与えた」…“氷河期”の両国関係、一層冷え込みも****
トランプ米大統領が新年最初のツイッター投稿で、パキスタンを名指しで批判し波紋を広げている。

トランプ氏がテロ掃討戦への協力態勢が改善されていないと突きつけたことになり、「氷河期」(パキスタン地元記者)とも言われる両国関係が一層冷え込むことも懸念される。
 
トランプ米大統領は1日のツイートで「米国は、おろかにも15年間で330億ドル(約3兆7千億円)をパキスタンに提供したが、パキスタンは嘘と欺瞞(ぎまん)しかわれわれに与えていない」と批判。さらにパキスタンは「われわれがアフガニスタンで追跡しているテロリストたちに隠れ家を提供している。もうたくさんだ」とも指摘した。
 
新年早々の書き込みを受けて、パキスタンは2日、駐パキスタン米大使を呼んで抗議。アバシ首相は緊急閣議を開催して対応を協議し、3日には軍のトップを交えた会議も行う。アシフ外相は地元メディアへのインタビューで「(テロ対策で)われわれはすでに多くのことをなし遂げている」と反発した。
 
トランプ政権は昨年8月、アフガン新戦略の発表などを通じて、パキスタンにテロ掃討への協力を要求。パキスタン軍の情報機関「統合情報部」(ISI)と過激派組織との連携などに懸念を表明していた。

10月にティラーソン米国務長官、12月にマティス国防長官がパキスタンを訪問して協議を重ねていたが、今回の投稿は疑念が払拭されていないことを改めて浮き彫りにした。
 
パキスタンのナセル・ジャンジュア国家安全保障担当補佐官は産経新聞の取材に「米国にはテロリストの避難所がどこにあるか教えてほしい。われわれはテロリストとの戦いで血を流した」と主張している。【1月3日 産経】
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アメリカはかねて、パキスタンがタリバン幹部やハッカニ・ネットワークを「保護下」に置いていると批判しており、オバマ前政権時代からパキスタンへの圧力をかけてきています。

パキスタン国軍、その中枢でありISI(軍統合情報局)が、インドに対抗してアフガニスタンでの影響力を強めるためタリバン等のイスラム過激派を支援してきたのは事実でしょう。

“米国務省は4日、パキスタンが国内テロ組織への対応を改善するまで、安全保障関連の資金支援や武器の提供を停止すると発表した。対象となる支援の種別を精査中のため、実際に停止される金額は公表しなかったが、数億ドル規模に上るとみられる。”【1月5日 時事】ということで、2億5500万ドル分のアメリカ製装備の購入支援がすでに凍結されています。

ただ、実際に停止される金額が今後さらに、どこまで拡大するのかは、はっきりしていません。
“13億ドル(約1465億円)に上る可能性がある”(ニューヨーク・タイムズ紙)とか、下記のような“19億ドル(約2100億円)に上る可能性”なども取りざたされています。

****対パキスタン支援停止、19億ドルに上る可能性も トランプ政権高官****
米ドナルド・トランプ政権高官は5日、トランプ大統領がパキスタンへの資金援助停止を決定した場合、影響を受ける金額は当初の予想を大きく上回る19億ドル(約2100億円)に上る可能性があると明らかにした。
 
米国はここ数か月、アフガニスタン旧支配勢力タリバン系の武装勢力ハッカニ・ネットワークをパキスタンが厳しく取り締まらなければ、同国への軍事支援やアフガニスタン情勢に関する支援を凍結すると警告している。
 
米政権高官はそうした支援の内容に触れ、資金援助停止に関して「装備および連携支援のための資金」が検討対象になっていると述べた。
 
また、パキスタン政府はこれに先立ち、治安維持分野における多額の資金援助を停止するという米政府の判断は「逆効果」だと表明した。トランプ政権は、パキスタンは武装勢力に安全な拠点を提供しているとしていら立ちを募らせ、同国を公然と非難しているが、パキスタン側は慎重に表現を選びながらも米側の主張を批判した。
 
パキスタン政府内では米政府の非難に対する怒りの声が上がっており、両国関係の悪化からアフガニスタンでの米軍の作戦に対するパキスタンの支援に悪影響が及ぶことが懸念されている。(後略)【1月6日 AFP】
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それでもアメリカはパキスタンに頼らざるを得ない事情 パキスタン経由の物流ルートが不可欠
一般的には、アメリカがパキスタンを追い詰めれば、パキスタンは中国との関係をさらに強める・・・と見られています。

****パキスタン、米支援停止で中国に一段と接近へ 勢力図に変化****
パキスタン政府高官らは、米国が先週、同国への安全保障支援の停止を発表したことについて、パキスタンを中国に接近させることにつながると警告した。アジアの勢力図が変化する中、米国と中国は覇権争いを繰り広げている。
 
パキスタンのクラム・ダスタギール・カーン国防相はインタビューで「パキスタンを罰すれば米国にとって大きな敵になる」と指摘。「協力よりも処罰を選ぶことで、米国はこの地域におけるテロとの闘いを骨抜きにした」と批判した。
 
中国は既にパキスタンとの関係強化のため大きな投資を行い、アジアの勢力図を塗り替えつつある。中国は550億ドル(約6兆1000億円)の提供に加え、インフラ投資プログラムを通じてパキスタン経済をてこ入れ。共通のライバルであるインドの台頭をけん制する目的もある。
 
米国は長らくパキスタンと協力関係にあったが、近年は中国に対抗する存在となるインドに肩入れしている。こうした長期的な変化は、ドナルド・トランプ大統領がパキスタンに厳しい姿勢で臨む一方、インドにはアフガニスタンでより積極的な役割を求めていることで加速している。
 
米政府はパキスタンがアフガニスタンで武力闘争を行うタリバンやハッカーニ・ネットワークをはびこらせていると批判し、こうした状況に対応しない限り20億ドルの安全保障支援を凍結する考えを示した。
 
パキスタン政府は国内に武装勢力をかくまっている場所などないと主張し、むしろ自国が最も真剣にテロと戦う中で、米国が軍事・経済的な支援を縮小してきたと非難している。
 
パキスタンのムハンマド・アシフ外務相はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、米国との協力関係に終止符が打たれたと語り、「何の同盟も存在しない」と述べた。【1月11日 WSJ】
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個人的には、これまでも繰り返してきたように、パキスタンのタリバン支援を放置したままアフガニスタン関与を強めても、穴の開いたバケツで水を汲むような話だと思いますので、パキスタンへの強い対応は不可欠と思います。

ただ、パキスタンへの支援停止は、中国の側へパキスタンを追いやる可能性、また、パキスタンが核の闇市場につながりを持つ核保有国であり、国際的支援の減少でパキスタン経済が破綻し、国内が混乱すれば、“核武装したテロ組織の台頭という悪夢が現実になるかもしれない”【1月16日号 Newsweek日本語版】という危険性もあります。

更に、アフガニスタンは内陸国であり、対アフガニスタン政策を堅持するにはパキスタン経由の物流ルートが不可欠だという現実的問題のために、結局はパキスタンをこれ以上追い込むことはアメリカにはできない・・・との見方も。

****それでもトランプはパキスタンを支援する****
テロ組織をかくまうパキスタンをこき下ろしたが、援助を打ち切れば恐ろしい未来が待ち受けている

(中略)安全保障を担うNSC報道官はパキスタンヘの2億5500万ドルの軍事支援の凍結を表明。ただし、これはトランプがツイードで示唆した抜本的な支援撤回には程遠い内容だ。
 
実際、トランプの対パキスクン政策に目新しい点はほとんどなく、今後も従来どおり援助を続けることになるだろう。
 
理由は単純だ。第1に、対アフガニスタン政策を堅持するにはパキスタン経由の物流ルートが不可欠だから。もう1つは、パキスタンがアメリカの支援を失ったら恐ろしい未来が待ち受けているためだ。(中略)
 
唯一の打開策はイランの港 
(中略)アメリカの足を引っ張るパキスタンと組んだ時点でアフガニスタンにおけるアメリカの敗北は決まっていたと言える。

それを回避する唯一のチャンスは、ブッシュ政権時代にイランと組むことだった。01年当時、イランはアメリカのアフガン政策に極めて協力的だった。

だが米政府はイランを「悪の枢軸」と呼び、アフガニスタンヘの物資輸送でパキスタンの空路と陸路への依存を深めていった。
 
私は以前からアメリカはインドと組み、イラン南東部のチャバハル港経由でアフガニスタンに物資を運ぶべきだと主張してきた。チャバハルはインドが開発に協力した港で、アフガニスタンヘの鉄道と道路網の整備も進んでいる。
 
だがこの案は、イランが潜在的にテロ組織に核を渡す恐れがあるとして受け入れられなかった。オバマ政権時代にイランとの核合意によって両国関係は劇的に改善し、チャバハル港活用案を模索できる可能性が浮上した。しかしトランプは核合意の破棄を明言している。
 
代わりの港がなければ、物流をパキスタンに頼るしかない。トランプがツイートするのは自由だが、政権幹部は真実を知るべきだ。アメリカのアフガン政策には道路か鉄道でアフガニスタンにつながる港が必要だ。
 
過去の政権と同じくパキスタンと組むことを選んだトランプ政権は、過去の政権と同じ失敗に直面するだろう。物流はどんな戦略にも勝るのだから。【1月16日号 Newsweek日本語版】
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【“無理”なことでも実現させないと“ジリ貧”か
“アメリカはインドと組み、イラン南東部のチャバハル港経由でアフガニスタンに物資を運ぶべき”という提案の戦術的な現実性はどのようなもかは知りませんが、パキスタンに頼らずに済む限られた方策でしょう。

しかし、政治的には、イランとの核合意に関する対イラン制裁停止を続けるかどうかについてトランプ大統領が今日・明日中にも判断を示す、周辺・関係国は制裁停止継続を強く望んでいるが、イランを敵視するトランプ大統領はひょっとしたら・・・・という話があるぐらいですから、イランと組んで・・・というのは無理な話です。

“無理”ついでに言えば、冒頭でも触れたように、タリバンとISの間には大きな差異があり、両者は互いに争う関係にあります。

“敵の敵は味方”ということで、アフガニスタン政府・米軍とタリバンの間で、対ISに限定した“共同作戦”みたいなものができれば、両者の間の信頼醸成ともなり、将来的な和平交渉の土台ともなるでしょう。
イランと手を組むよりは、まだ現実性があるかも。

イラン経由の物資補給ルート確立とか、タリバンとの共同戦線とか、“無理”なことでも実現させないと、今までと同じことを繰り返していても“ジリ貧”で、現在のアフガニスタン情勢の苦境は打開できないようにも思われます。
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