孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  延坪島砲撃に対する比較的抑制された反応と、激高しやすい反日感情

2010-12-01 20:45:49 | 世相

(11月23日 延坪島砲撃の号外に見入るソウルの若者 “flickr”より By xiaohe1120
http://www.flickr.com/photos/55551735@N07/5201423680/ )

世論は韓国政府に冷静な対応を求めている傾向
23日に起きた北朝鮮による韓国・延坪島への砲撃に対し、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は29日の国民向け演説で、攻撃を「民間人に向けた攻撃は反人道的犯罪」と非難し、北朝鮮が今後も挑発をすれば「応分の対価を支払わせる」と厳しい対決姿勢を見せています。
しかし「軍事的報復」などの発言はありませんでした。

今回事件は、当然ながら韓国社会に大きな衝撃を与えており、大統領発言もそれを受けてものです。
ただ、個人的には、一昔前の南北間の一触即発的な緊張感がまだ記憶に残っているせいか、3月には韓国海軍哨戒艦「天安」沈没事件で46名の犠牲者が出ていることも併せて、「韓国も随分と冷静だな・・・」という印象を受けました。

****北朝鮮砲撃:3人に2人「柔軟政策維持すべき」 韓国調査****
北朝鮮による延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件後に韓国で実施された民間の世論調査で、3人に2人が、北朝鮮に対し、核放棄に応じて支援や交流を認める現在の柔軟な政策を維持すべきだと考えていることが分かった。今回の事件を受け、韓国内で北朝鮮への強硬論が台頭したかのような印象もあったが、世論はむしろ韓国政府に冷静な対応を求めている傾向が示された形だ。
民間研究機関・峨山(アサン)政策研究院が27日、国民1000人を対象に実施した。
それによると、「砲撃事件が戦争につながる可能性はあるか」との質問に、約61%が「可能性は高くない」と回答。さらに、北朝鮮が再び軍事的挑発をした場合も約40%は「全面戦争に拡大しない制限された範囲内での軍事力動員」を望んでいることが分かった。
一方、事件を巡り、中国政府が北朝鮮を明確に非難しなかった対応について、約91%が「満足できない」と回答。中国への不満が根強いことを示した。【11月29日 毎日】
毎日新聞 2010年11月29日 20時10分
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もっとも、調査数字の解釈はいろいろで、同じ調査結果を受けて【11月29日 AFP】は「対北朝鮮強硬論に傾く韓国の世論」との記事を掲載しています。

****対北朝鮮強硬論に傾く韓国の世論****
23日に起きた北朝鮮による韓国・延坪島への砲撃を受け、韓国では政治家や軍幹部、国民の間に北朝鮮に対する強硬な主張が広がり始めている。(中略)
23日、韓国側は砲撃で応戦したものの空爆は行わなかった。韓国のシンクタンク、峨山政策研究院によると27日に韓国全土の1000人を対象に行った世論調査では、砲撃への対応について韓国国民の80%がもっと強く応戦すべきだったと回答した。
また北朝鮮が新たな挑発をした場合には、回答者の40.6%が本格的な戦争にならない程度の軍事的報復を、33.0%が戦争も辞さずに強く反撃すべきだと回答した。

■高まる強硬論
米原子力空母も参加して28日に始まった米韓両軍の合同軍事演習を支持する人も多い。一方で28日に行われた米韓合同軍事演習への抗議デモには20人しか集まらなかったという。
ある専門家は、「哨戒艦・天安沈没事件までは、世論は、北朝鮮批判と韓国政府の強硬姿勢批判とに2分されていた」と述べる。「しかし今は、世論は北への怒りが大勢を占めている。国民の大半は、さらに挑発行為があれば北に強硬な対応をとることを望んでいる」。
慶應義塾大学のピーター・ベック氏はAFPの取材に「(延坪島砲撃は)天安の沈没とは違う」と指摘し、次のように語った。「天安沈没の原因については、少なくとも多少あいまいなところがある。しかし、この砲撃は休戦協定違反であるだけでなく、民間人に対しても行われた。従って韓国は、北朝鮮の海軍か核関連施設に対する報復攻撃を検討すべきだ」。(後略)【11月29日 AFP】
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調査のどの数字を重視するかによりますが、天安沈没事件当時よりは北への強硬姿勢は強まっており、韓国政府に対し、北の攻撃に対してはもっと厳しい対応を求めている・・・、ただし、それが戦争にまで拡大することは望んでおらず、大枠としては現在の柔軟な政策を維持すべきだと考えている・・・といったところでしょうか。

誰も戦争を望まないのは当然ですが、そんななかで「戦争も辞さずに強く反撃すべき」という意見が33%もあるというのは、やはり強い怒りがあるとも考えられます。
現実的な問題としては、軍事衝突は相手のある話で互いにエスカレートしがちで、不測の事態もあり、なかなか「本格的な戦争にならない程度の軍事的報復」にコントロールするというのは難しいものがあります。

韓国社会の比較的冷静な反応は、GDP世界13位の経済発展を遂げた韓国に対し、北朝鮮は経済崩壊状態で国民は飢餓に苦しんでいるという格差、国民総生産(GNP)で見れば40対1、1人当たり国民所得は20対1という状況に対する韓国側の自信の表れであると同時に、サムスン・LGといった世界的企業を輩出し、停滞する日本を追い上げるまでになった経済的繁栄を北朝鮮との全面戦争で台無しにしたくない・・・という思いの結果でしょう。

なお、哨戒艦・天安沈没事件については、北朝鮮による攻撃という韓国政府の調査結果については、5月24日に行われた『韓国日報』の世論調査によると「全面的に信じる」が24.4%、「信じる」が45.7%、「信じない」が16.6%、「全く信じない」が7.4%となっています。
数字は調査によっても異なります。9月7日にソウル大統一平和研究所(IPUS)が発表した「2010統一意識アンケート調査」の結果によると、「完全に信頼している」(6.4%)、または「やや信頼している」(26.1%)と答えた人は全体の32.5%だったのに対し、「全く信頼していない」(10.7%)、「あまり信頼していない」(25%)と答えた人は35.7%で、信頼しているという回答より多くなっています。このほか、半信半疑を意味する「半々」との回答が31.7%で、「信頼している」、「信頼していない」、「半信半疑」がほぼ3分する形になっています。
全体としては、やはり北朝鮮に対してさほど感情的な反発が大きくなっていない印象があります。

【「韓国国民が日本より北朝鮮に同質感を感じるのはおかしい」】
一方で、日本に対する韓国社会の激しい反応は幾度も経験するところで、北朝鮮に対してこれほど冷静なのに、「反日」となると街中でデモの嵐が吹き荒れるというのは、日本としてはスッキリしないものがあります。
日本のそんな思いを代弁するかのような英紙タイムズ特派員の記事が韓国で発表されているそうです。

****北は日本より悪い」 英紙記者、韓国紙に異例の寄稿****
「北朝鮮は日本帝国主義よりもっと多くの韓国人を殺した」「韓国国民の価値観や人生体験、ライフスタイル、文化は北朝鮮より日本にはるかに近い」-。韓国で最近、韓国人の日本観と北朝鮮観を批判した英国紙記者の韓国紙への寄稿文が話題になっている。
英紙タイムズ・ソウル特派員、アンドリュー・セーモン記者が北朝鮮による延坪島砲撃に関連し、朝鮮日報(27日付)に寄せた論評だ。韓国人が北朝鮮に“連帯感”を感じる一方で、日本に対していつも否定的な見方をしてきたことを批判している。
論評は「砲撃事件にもかかわらず、ソウルの日常として日本大使館前では元慰安婦の老女たちによる日本批判の定例デモが静かに行われていた」と指摘した後、「韓国国民が日本より北朝鮮に同質感を感じるのはおかしい」と批判。
飢餓と強制収容所の“ファシスト国家”である北朝鮮に比べ、日本は「今や世界で最も平和志向の国」であり、「現代の日本は北朝鮮よりむしろ韓国と似ている点が多く、韓国は北朝鮮よりはるかに日本に近い」と強調している。
そして「北朝鮮は戦前の日本と似ている」とし、過去の日本を批判した上で、「違いといえば、日本帝国主義時代に日本のため死んだ韓民族の数より北朝鮮が殺した韓民族の数がもっと多いということだ」と指摘。北朝鮮による朝鮮戦争や飢餓、テロ、拉致、哨戒艦撃沈、延坪島砲撃での犠牲を例に挙げている。
内容自体は外国人にとっては常識的なものだが、日本との比較論の形で北朝鮮を批判する論評が韓国メディアに登場するのはきわめて異例だ。
セーモン記者の北朝鮮批判は激しく、「北朝鮮は共産主義国家ではなくファシスト国家だ。宣伝扇動、純血主義の主体思想、権力層の特権などはナチス指導者たちも敬礼をするほどだ」と、こき下ろしている。【11月30日 産経】
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同民族の北朝鮮に対し、侵略者の日本・・・ということで、いたしかたないところなのでしょう。
多く日本人は韓国や中国とも良好な関係を望んでいるのですが、支配した側とされた側の立場の違い、感情的な溝はなかなか埋まらないようです。


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