(ロシア・ヤマル半島のヤルセールで、トナカイの体調を診る獣医師。ロシア非常事態省提供(2016年8月8日提供)【2016年8月15日 AFP】)
【毎年50cmから1m後退するアルプス氷河】
非常に長い期間でみる必要がある“温暖化”に関しては、素人には実感しづらいものもありますが、北極海やグリーンランドの氷の融解とか、氷河の縮小といった現象は比較的わかりやすいバロメーターでしょう。
特に、微妙な温度のバランスで成立していた氷河の後退・縮小は、“目に見える”形で、変化が起きつつあることを示してくれます。
今日も氷河の融解によって、“スイスの警察当局は2日、アルプス山脈で30年前に行方不明となったドイツ人登山者の遺体が、氷河に埋まった姿で発見されたと明らかにした。”【8月3日 AFP】というニュースがありましたが、同様の現象は珍しくなくなっています。
****氷河で75年前の遺体、アルプスの融解著しく****
7月13日、スイス・アルプスのツァンフルロン氷河の近くで、スイスのスキー会社社員が設備の定期メンテナンスを行っていたところ、氷から突き出している足を見つけた。さらに調べると、靴と帽子、そして凍結して黒ずんだ2人の遺体が見つかった。
靴職人だったマルスラン・デュムランと教師だったフランシーヌ・デュムランの夫婦が行方不明になったのは今から75年前のことだ。(中略)
この件を最初に報じたスイス紙「Le Matin」によると、この雪深い地域から遺体が見つかるのはこれが初めてではない。2012年には1926年に消息を絶った3人の兄弟が、2008年には1954年に遭難した登山者が見つかった。さらに2012年には、2008年に山で行方不明になった2人の遺体が見つかっている。
1925年以降、アルプスやその周辺では、280人が行方不明になっている。
失われゆく氷河
「この氷河では、毎年50センチから1メートルほどの氷が失われています」とツァンネン氏は話す。「80年前は、今よりもはるかに大きかったのです」
デュムラン夫妻が見つかったのは地球温暖化が原因だと、ツァンネン氏は考えている。氷河が急速に解けたことで、埋もれていた遺体が露出したというわけだ。
風光明媚で知られるアルプスだが、氷が着々と解けているのはまぎれもない事実だ。一番の問題は、どのくらいの速さで解けているかだ。
2006年に発表された調査でアルプスの夏季の氷は2100年までに消滅するとされていたが、2007年の調査はさらに厳しい予測となり、氷は2050年までに消えるとされている。
スイスのチューリッヒ大学に拠点を置く世界氷河モニタリングサービス(WGMS)の報告書によると、アルプスの氷河の厚みは2000年から2010年の間に毎年1メートルずつ減少している。
WGMSの所長は、2013年の報告書でこの氷の融解を「前例がない」と評している。(後略)【7月21日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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温暖化に関する議論全般の同様、氷河についても異論はあるところのようですが、氷河の後退・縮小は氷河湖の決壊による大規模災害、更には氷河を水源とする河川水量減少による流域社会・経済への多大な影響がるともされています。
【アラスカ永久凍土融解で段々畑状の砂漠が出現】
氷河同様に“目に見える”形での変化が進んでいるのが永久凍土の融解です。
永久凍土の融解が長期的にどのような影響をもたらすかは総合的に検討する必要がありますが、道路・水道などインフラや建物などの被害はすでに出始めているようです。
****アラスカの森に「砂漠」の段々畑 永久凍土解けて変化か****
北極圏に近い米アラスカ州の森林地帯に、異様な形をした「砂漠」がある。現段階で原因ははっきりしないが、地球温暖化がすすめば、こうした地形が増える可能性が懸念されている。
「デューン」と呼ばれるこの地形は、同州西部のノームから東へ約400キロの永久凍土地帯にある。空から見ると、直径数キロの大小二つの円形が東西に並び、中心から外側に向けて巨大な段々畑のような構造だ。段差は数メートル。森がのみ込まれているようだ。
周辺はもともと砂が多く、降水量が年300ミリ程度と少ない。アラスカ大のウラジミール・ロマノフスキー教授によると、何らかの原因で凍土が解け、当初は池などが広がったが、水面から蒸発したり、保水力の低い土壌から水が抜けたりして、徐々に乾燥、風化してつくられた可能性があるという。
米地質調査所などの昨年の調査では、年間数十センチずつ広がっている。デューンは1950年代にはその存在が知られていたが、温暖化と永久凍土の変化の関連から注目され、最近、研究が本格化している。
永久凍土の融解がすすむと、二酸化炭素(CO2)やより温室効果が高いメタンガスが放出され、さらに温暖化を加速させる悪循環の恐れが指摘されている。
アラスカ州最北端の町バローから東へ沿岸約300キロにわたっては、凍土が解けてできた丸い融解湖が続く。
季節ごとに融解と再凍結を繰り返してきたが、温暖化で解けている期間が長くなった。本社機「あすか」からは、周囲の融解湖がつながって巨大化したり、湖の跡が風化したりしている様子が見られた。より南部では、大規模な融解で川岸に地滑りが起きたり、融解湖に水没した森が枯れたりしていた。
同乗した米アラスカ大の岩花剛・助教は「こうした変化が起こること自体は異常ではないが、地球温暖化でそれが加速していることも間違いない」と話した。
融解湖の下では、氷に閉じ込められていた有機物が分解され、メタンが発生する。凍土が解けた後に乾燥すれば、CO2も出る。
日本大などは、人間が温室効果ガスの排出を抑えても、こういった北方林やツンドラから温室効果ガスが今世紀中に計約400億トン(CO2換算)も排出されると試算する。これは人間が1年間に排出する温室効果ガス全体に匹敵する。
温暖化で植生も変化するとみられる。森から草原へ移行したり、デューンのような砂漠地帯が増えたりすれば、温室効果ガスが排出される。一方で、温暖化で降水量が増えれば、場所によっては、植物が大きく育ち、CO2を吸収する可能性もある。
あすかに同乗した、温暖化予測モデルが専門の横畠徳太・国立環境研究所主任研究員は「気温上昇は確かでも、降水量や植生の変化の予測は難しい。上空からは、凍土の状況が場所によって異なることがよくわかった。それらを考慮に入れて予測することが重要だと再認識した」と述べた。(後略)
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凍土融解で、市民生活にもすでに影響が出ている。
同州第2の都市、フェアバンクス。市内の道路は波を打ったようにでこぼこだ。凍土は地下に均一にあるわけでなく、解け方も日照や植生で変わる。部分的に解けたり、ほかより大きく融解したりした場所が陥没したとみられる。
アラスカ全土の約38%は表土近くに永久凍土層があり、今世紀中に最大で4分の1が失われるとの予測もある。道路だけでなく水道管やビルも損傷を受ける。人の命にもかかわる。(後略)【7月17日 朝日】
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【シベリアでは昨年は炭疽菌 将来的には・・・・】
永久凍土と言えば、アラスカもさることながら、やはりシベリアでしょう。
シベリアの永久凍土の融解によって過去の炭疽菌が凍土からよみがえり、トナカイ、更には人間への感染が確認されている・・・という怖い話は、1年前の2016年7月29日ブログ“シベリア炭疽菌感染が示す温暖化による永久凍土融解の危険性 温暖化問題に否定的なトランプ氏”でも取り上げました。
昨日ブログでは人工知能AIが神になる・・・といった近未来SFの定番ネタのような話を取り上げましたが、永久凍土が解けて未知の病原菌が現れ、アウトブレイクするという話もやはり近未来SFの定番ネタです。
しかし、昨日のAI同様、こちらも上記炭疽菌感染でもわかるように、映画・ドラマだけの世界とは言えない現実もあるようです。
地形変化はアラスカの「デューン」(段々畑状の砂漠化)に対し、シベリアでは水泡のようなふくらみ「ブグニャフ(小丘)」と呼ばれるもので、激しい爆発を伴うようです。
(爆発でできたクレーター 【2015年11月29日 カラパイア】)
****シベリアで発生「致死病原体」の恐怖 温暖化「凍土氷解」が生んだ異常事態****
ロシア北極圏最大級の天然ガス資源埋蔵地、ヤマル半島で今夏、巨大な爆発が数百件、連続して起きている。地球温暖化でシベリアの永久凍土(ツンドラ)が急速に溶解し、閉じ込められていたメタンガスなどが放出されたのが爆発の原因だ。
ヤマル半島の液化天然ガス(LNG)共同開発は、安倍晋三首相とプーチン大統領の昨年の日露首脳会談で合意しているが、シベリアでは温暖化が地球の他地域より急速に進み、同半島では致死性の高い病原菌が大気に放出されるなど、非常事態が頻発している。(中略)
現地調査したモスクワの「石油ガス研究所」のワシリー・ボゴヨウレンスキー教授は地元メディアに対し、「爆発は地球温暖化が原因」との見解を即座に語った。
同教授らのチームによると、地下の永久凍土が氷解し、水が地下に浸透して消えた空洞部分に、ガスが急速にたまった。地上から見るとまるで水泡のように地面がガスで膨らんだ末に、大爆発を起こすのだという。
ヤマル半島周辺での爆発は数年前から観測されているが、近年は頻度が激増し、規模も大きくなった。
今年は、七月初旬までに確認できただけで七百回以上あった。水泡のようなふくらみは、「ブグニャフ(小丘)」と呼ばれ、半島全域で少なくとも七千あるとされる。
荒涼とした同半島は元来、住民からも「地の果て」と呼ばれる寂寥の地。そんな風景と極地の荒天に慣れっこの先住民にも、メタンの連続爆発は「地獄絵図」と映った。爆発後にできた巨大クレーターは、深さ五十メートル以上、幅数十キロに及ぶものもあり、「地獄への入り口」と名がついた。
遊牧民やトナカイが炭疽菌に感染
連続爆発自体が恐ろしい事態だが、恐怖はこればかりではない。
昨年八月、ヤマル半島の遊牧民の間で突如、炭疽菌が原因と見られる症状が多発し、トナカイがばたばたと死んでいった。ロシア軍の生物兵器処理班が出動し、十二歳の少年一人が死亡したほか、約二十人が感染し治療を受けた。二千頭以上のトナカイが死んだ。
ロシアはソ連時代から密かに生物兵器として炭疽菌培養をしており、一九七九年に漏出事故を起こしたこともあった。だが今回の原因は、ツンドラに閉じ込められていた炭疽菌が、ツンドラの氷解とともに地表や川に放出、遊牧民が汚染された水や食物をとったため、感染したと見られる。
地元当局者は「ここでは一九四一年に炭疽病の流行があった。その時に死んで埋葬された人やトナカイに付着していた炭疽菌芽胞が、昨年の猛暑によるツンドラ氷解で、放出された」という見解を発表した。昨年はヤマル半島だけでなく、北部シベリア、極東地域が異常な高温に見舞われ、同半島では七月に摂氏三十五度に達した。平均気温より二十五度も高い猛暑だった。
極東サハ共和国のベルホヤンスクはオイミャコンと並んで、世界中の地理教科書に「世界一寒い村」と紹介される極寒の地だが、昨年は十一月になっても気温十九・二度を記録した。例年なら零度~零下が普通の場所である。
ロシア全体では、二〇一五年までの十年間で平均気温が〇・四三度上昇した。一〇年には特に厳しい熱波の直撃を受け、モスクワの最高気温が三十九度に達し、「世界一寒い村」オイミャコンで三十四・六度を記録した。今年もまた各地で熱波の記録が出ており、シベリアのクラスノヤルスク市で三十七度を超えた。同市は通常なら夏は冷涼、冬は零下二十度まで下がる、典型的なシベリアの都市だ。
そんなシベリアで、永久凍土が昨年さらに今年と、春から秋にかけての長期間、高温にさらされた。凍土が氷解したことが、連続大爆発や致死性の高い病原菌の放出を引き起こした原因だった。
一般的には、冷凍庫で大半の黴菌は死ぬ。同様に、大半の病原菌はツンドラの氷結、低温を生き延びることができない。
だが、現地調査したロシアの研究チームによると、今回の炭疽菌は自ら芽胞を作って、その中で生き残り、七十年以上を経て地表に出現したという。
同チームの研究者ボリス・ラビッチ氏とマリーナ・ポドルナヤ氏は、炭疽菌以外にも、「シベリアで十八世紀や十九世紀に存在した、致死性の高い病原菌が、媒介生物の死骸に付着したまま生き残り、ツンドラ氷解で放出される可能性がある」と結論づけている。
シベリア・極東では一八九〇年代に天然痘が大流行し、人口の四割を失った町もあった。また一九一八年のスペイン風邪の世界的流行からも、シベリアは逃れることができなかった。歴史的には腺ペスト、破傷風、ボツリヌス中毒もあり、致死性の高い病原菌のほとんどがシベリア・極東の凍土から露出する危険がある。
天然痘は人類が「根絶」した唯一の感染症で、世界保健機関(WHO)は八〇年に「天然痘根絶宣言」を発した。だが、それを覆す危険が、ロシアの凍土に眠っているのである。
ツンドラは地表が非常に硬く、伝染病で死亡した人の埋葬でも、それほど深く掘られることはない。また、極東では川瀬に集団埋葬地が設けられることが多い。極東コルイマ地域で、十九世紀末に天然痘大流行が起きた時には、大半の死者はコルイマ川の川瀬の墓地に埋められた。
こうしたシベリア・極東の川瀬は、近年の温暖化による河川増水と氾濫で、次々と侵食され、遺体が流出している。
現代の人類が未体験の病原菌も
致死性の高い病原菌復活というだけでも空恐ろしい話だが、「現代の人類が経験したことのない病原菌が、現れる可能性がある」と指摘する研究者もいる。ホモ・サピエンス出現以前の数万~数百万年前の病原菌だ。
シベリア以外では二〇〇五年に、米航空宇宙局(NASA)の調査チームがアラスカ州の凍土から、三万二千年前のバクテリアを発見した。さらに〇七年には、南極大陸で発見された八百万年前のバクテリアが生き返ったことも観測された。
シベリアで現地調査したフランス研究チームのエクス=マルセイユ大学ジャン=ミシェル・クラベリー教授は、「暗くて冷たく、酸素のない永久凍土は、病原微生物に格好の住処となりうる」とした上で、「ネアンデルタール人を死滅させた病原菌が、地球から消滅したと思い込むのは間違いだ」と指摘する。
ネアンデルタール人は三万~四万年前に、シベリアにいたことが確認されている。また、ネアンデルタール人の兄弟種とされるデニソワ人は、シベリア・アルタイ地方で生活の痕跡や子供の骨が見つかった。
どちらも絶滅に至った過程は不明だが、病原菌による感染が有力視され、現在でも解明されてはいない。
シベリアの凍土から、致死性の高い病原体が生き返って人類を危機に陥れるというストーリーは、久しくSF小説の主題でもあった。英国人作家ブライアン・フリーマントルの小説『アイス・エイジ(邦題=シャングリラ病原体)』(新潮文庫)では、人間を瞬時に老化させる架空の病原体が扱われた。こうしたSF小説の世界は、シベリア・極東での温暖化進行で、次々と現実の恐怖に変わりつつある。(後略)【「選択」2017年8月号】
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話としては、1年前のブログで取り上げた話の焼き直しですが、こういう“パンデミックもの”が個人的に好きなものですから・・・。
現在のインフルエンザウイルスよりも30倍も早く増殖する能力を持ち重症化しやすいスペイン風邪、現在では免疫を持っている人はほとんどいないとされる天然痘、更には何百年前の未知の病原菌となると、その影響は甚大です。
怖い話ではありますが、このペースで永久凍土が融解していけば、“やがて厄介な何かが出てくる”と考える方が自然でしょう。
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