孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン・ロウハニ大統領  核問題協議前進に向けて対話ムード演出 注目される今後の進展

2013-09-27 23:15:48 | イラン

(テヘラン、8月26日、ロウハニ大統領(左)と最高指導者ハメネイ師(右) 中央はオマーンのカーブース・ビン=サイード国王  ハメネイ師はロウハニ大統領の外交を支持していると言われています。 【9月17日 ワシントン・ポスト】http://articles.washingtonpost.com/2013-09-17/world/42129429_1_hassan-rouhani-supreme-leader-nuclear-weapons)

【「良い雰囲気の中、活発で実質的な協議をした」】
イランは、“イスラエルによる核施設爆撃”“ホルムズ海峡封鎖”など、なにかと国際関係緊張の火種となってきており、また、シリア・アサド政権やレバノンのイスラム武装組織ヒズボラなどの有力支援国として、中東地域における影響力も大きなものがあります。

したがって、イランと国際社会の緊張が緩和されるかどうかは、中東地域、さらには日本を含めた世界全体の政治的・経済的安定に重要な問題となっています。

核開発問題で経済制裁を受けているイランは国内経済が疲弊し、物価上昇など市民生活に重大な支障が出ているといわれています。
そうした国民の不満を受ける形で、欧米との対話を重視する保守穏健派のロウハニ大統領が誕生しましましたが、その注目される外交が本格始動しています。

26日には、イランの核開発問題を巡る国連安全保障理事会5常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた6カ国とイランのザリフ外相会合が国連本部で開かれ、次回協議を10月15,16両日にジュネーブで行うことで合意しました。
また、この会合後、イランのザリフ外相はケリー米国務長官と個別に会談。両国外相の会談は1980年の国交断絶後初めということです。

「良い雰囲気の中、活発で実質的な協議をした」(EUのアシュトン外務・安全保障政策上級代表)「ザリフ外相が将来の可能性に関してこれまでと違ったトーン、展望で提案をしたことをみなが喜んだ」(ケリー米国務長官)【9月27日 毎日】とのことで、滑り出しは好感触のようです。

****イラン核問題:「試される真剣度」米と外相会談****
ケリー米国務長官とイランのザリフ外相が26日、国連本部で会談した。両国外相の会談は1980年の国交断絶後初めてで、米側がイランの対話姿勢を評価していることの表れと言える。

だが、核問題で国際社会との合意に違反してきたイランへの不信感をぬぐうのは容易ではない。米側は「実質的交渉ができるかで、イランの真剣度が試される」(カーニー米大統領報道官)として、核問題を巡る次回協議の中身を注視する構えだ。

両外相の個別会談に先立ち、ザリフ外相と米英仏中露独6カ国の外相が会合を開き、10月15、16両日にジュネーブで核問題に関する次回協議を開くことで合意した。

米高官によると、ケリー、ザリフ両氏は、書記役を入れずに2人だけで会談した。「イラン外相はいかなる時にも米国務長官とは一緒に座ろうとしなかった」と米高官が述懐するほど両国関係は険悪だっただけに、今回の会談が歴史的な変化であることは確かだ。

海外への軍事介入を極力回避したいオバマ政権にとって、イランの穏健化は核問題解決の好機であるだけでなく、イランが後ろ盾のアサド・シリア政権やイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラを外交によって弱体化させる好機と映る。中東における米国の指導力低下の現状を打開する好機でもある。

一方、イランの軍事的脅威を直接受けているイスラエルやサウジアラビアが、イランの穏健化を「核兵器開発の時間稼ぎ」とみて警戒するのは確実だ。

イランのロウハニ大統領は対話姿勢をアピールする一方、26日の国連総会の核軍縮に関する会合で、潜在的な核兵器保有国とされるイスラエルが核拡散防止条約(NPT)に未加盟であることを批判するなど、米国とイスラエルへの揺さぶりも忘れていない。

オバマ大統領は30日にイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、対イラン外交のすり合わせを図る考えだが、シリアの化学兵器問題で迷走した「オバマ外交」は同盟国の間で不安視されている。

他方、イラン国内に反米強硬派を抱えるロウハニ大統領にとっても、米国との安易な妥協は政権を不安定にしかねず、米・イラン関係の行方は現時点では見通せない。【9月27日 毎日】
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オバマ大統領との「接触」は、あと一歩も実現せず
ロウハニ大統領とオバマ大統領の「接触」(2人が潘基文国連事務総長が主催する昼食会で顔を合わせて握手するなど)も24日に実現するのでは・・・・との話もありましたが、この「接触」はアメリカの打診をイラン側が断る形で実現しませんでした。

“イラン側が、アメリカに批判的な保守強硬派の存在などの国内事情から時期尚早と判断した”というのがアメリカ側の見方ですが、「(会談実現まで)あと一歩のところだった。(会談する)部屋を選び、飲み水を注文するほどだった」(関係者)と、今一歩のところまでいったこと自体がこれまでとは異なる大きな前進でしょう。

イランの最終的な決定権は大統領ではなく、最高指導者ハメネイ師にありますが、ハメネイ師も対米関係改善を基本的に支持しているとも言われています。

****提案時の効果高める狙い 大幅な制裁緩和、視野****
・・・しかし、イラン政府関係者によると、ハメネイ師も今回、両首脳の接触を支持していたという。
この関係者によると、政権内では直前まで、オバマ氏と会うべきかどうか綿密な検討が行われた。その結果、出した結論はこうだ。

26日に米英独仏中ロの6カ国との核協議が控える。27日からはウィーンで国際原子力機関(IAEA)と、10月にはスイスのジュネーブで6カ国との核協議が予定されている。いまオバマ氏と握手をして融和ムードが広がれば、核交渉で譲歩案を示したときのインパクトが薄れるのではないか――。
この関係者は「肝心なのはオバマ氏と友達になることではなく、経済制裁の緩和だ」とする。

一連の核協議では、IAEAの監視下で、保有するウランを燃料に転用したり、第三国に搬出したりといった思い切った譲歩案を提示し、一気に大幅な制裁の緩和を引き出したい考えだという。

ロハニ師はこれらの協議を乗り切り、経済制裁の緩和が具体的な形をとった後に、オバマ氏と電話で会談することを視野に入れているという。ロハニ師は24日、CNNのインタビューで「米国側と話し合っていたが、実現させるためには時間が不十分だった」と話した。

オバマ氏はケリー国務長官に核問題の解決に向けた外交努力を指示済みで、今回の「見送り」が与える影響は少なそうだ。(ニューヨーク=神田大介、大島隆)【9月26日 朝日】
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随分とイラン側内部の方針に踏み込んだ見方で、「本当かね?」という感もありますが、このシナリオどおり“思い切った譲歩案”が今後示されるのであれば、喜ばしいことです。

ロウハニ大統領は25日の米紙ワシントン・ポスト(電子版)のインタビューで、4月から途絶えている核開発問題の協議が再開されれば「3〜6カ月」での合意を目指すとの、スピードを重視する考えを示しています。

****イラン:ロウハニ師「核協議再開なら3〜6カ月で合意****
・・・・ロウハニ師は「(核問題の解決の期間は)短いほど各国の利益だ」と答え、協議進展の「スピード」を重視すると強調した。

ロイター通信によると、ザリフ・イラン外相も、フランスのファビウス外相との会談後、「短期間での合意を目指し交渉に弾みをつける」と話した。

ただ、ロウハニ大統領は24日の国連での演説で、「国内でウラン濃縮をする権利」を主張するなど、核開発に関しては対欧米強硬姿勢だったアフマディネジャド前政権と同じ論理を展開。演説を聞いた米政府高官は「(核交渉を巡る)イランの基本姿勢は以前から決まっており、驚きではない」と語った。

その上で、前政権との違いとして▽穏健外交を求めるイラン国民によって選ばれた▽経済改善のため、欧米による制裁解除の取り付けが喫緊となっている−−を指摘。「こうした点が交渉姿勢の変化につながるか、(26日の外相会合から)イラン側の出方を試す必要がある」と語った。(後略)【9月26日 毎日】
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経済制裁緩和実現のために誕生したロウハニ大統領ですから、イラン側の意気込みはそれなりのもがあるでしょう。
虎の子の化学兵器廃棄を認めることで(実際に廃棄するかは、これからのことですが)、欧米の交渉を実現しつつあるシリア・アサド政権のこともイラン側の念頭にあるのではないでしょうか。
逆に言えば、ここでつまずけば、ロウハニ大統領の求心力・国内の政治影響力は急速に低下することが予想されます。
6か国側にはイランの譲歩を手繰り寄せる“上手な対応”が求められます。

アメリカ・オバマ大統領も、内向き志向が国内で強まる中で、軍事介入などの強硬手段を使用せずに、長年の懸案事項であるイラン問題で一定の成果を引き出したいところです。

イラン問題で成果を出せれば、結果はそこそこ望ましいものだったが、そこに至るまでに迷走したとの批判もあって評価がすっきりしないシリア・化学兵器使用問題と合わせて、軍事力を行使することなく圧力をかけることで大きな成果を引き出したということで、強くアピールすることができます。

イラン核開発の現況
イランの核開発問題の中心には、ウラン濃縮の問題があります。
核爆弾製造に使用される90%以上の高濃縮ウランに濃縮することが比較的容易とされる20%高濃縮ウランをイランは大量に製造しています。
イラン側は、医療用アイソトープをつくる原子炉の燃料とするためと説明しており、核爆弾の保有は一切否定しています。
アメリカ・イスラエルなどは、その他の証拠などから、核爆弾製造のためのウラン濃縮だと主張しています。

核爆弾は高濃縮ウランだけではなく、プルトニウムを使うタイプもあります。
イランは、使用済み燃料を再処理することで核爆弾製造に転用できるプルトニウムが得られる研究用重水炉を来年にも稼働させるとしており、こちらも疑惑の対象となっています。

そうした疑惑の核開発の現状については、以下のように報じられています。

****イラン:濃縮ウラン貯蔵 ペースが落ちる****
核兵器開発の疑いを持たれているイランが、兵器転用が懸念される濃縮度20%ウランの貯蔵を減速させていることが28日、国際原子力機関(IAEA)の事務局長報告で明らかになった。
ただ、ウラン濃縮能力の高い改良型遠心分離機の増設を進めるなど、引き続き核能力の拡充を図っている。

報告によると、今年5月の前回報告以降、イランは新たに48・5キロの濃縮度20%ウランを製造し、累積量は372・5キロに上った。
だが、これらの一部を兵器転用に不向きな核燃料に転換する作業が加速されたため、貯蔵量自体は前回報告時に比べ3・8キロ増の185・8キロにとどまった。現段階では原爆1個分に及ばないとみられる。

他方、イランは中部ナタンツのウラン濃縮施設に「IR2m型」と呼ばれる改良型遠心分離機を新たに300台あまり導入、総数を約1000台に拡大した。

西部アラクでも重水炉建設を続けているが、当初予定していた2014年第1四半期の試運転開始に遅れが出るとIAEAに報告した。【8月29日 毎日】
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西部アラクの重水炉については、いったん稼働を始めると、これを爆撃破壊することは現実問題としては難しくなるため、稼働を開始するまでがイスラエルによる攻撃のタイムリミットだ・・・といった話もあるようです。
もっとも、6カ国との核協議が進展し始めれば、イスラエルといえども手出しは困難になります。

求められるイスラエルの姿勢転換
そのイスラエルを、ロウハニ大統領は「核兵器を保有していることを認めるべきだ」とけん制しています。

****イスラエルは核兵器を保有していると認めるべき」、イラン大統領****
イランのハサン・ロウハニ大統領は26日、核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合で演説し、イスラエルは核兵器を保有していることを認めるべきだと述べた。

ロウハニ氏はまた、自国に向けられている核兵器開発疑惑に関して3~6か月以内に国際社会と何らかの取り決めを結べるはずだという考えを示した。

これに対しイスラエル側は、自国の核開発疑惑から諸外国の注意をそらせようとしているとしてロウハニ大統領を非難した。

国連総会へのイスラエル使節団の代表を務めるユバル・シュタイニッツ戦略担当相はAFPに対し、「(ロウハニ氏は)策士だ」として、「イランが最終的には国連安全保障理事会決議に従うと言う代わりに、イスラエルに注目が集まるようにしようとしている」と述べた。【9月27日 AFP】
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もともと核兵器の問題は、一部の国が大量に保有しながら、その保有国は他国の核兵器保有を認めない・・・という、奇妙なロジックになっています。
そこを言っても仕方ない・・・としても、そうした枠組みを無視して保有したインド・パキスタンにはイランのような制裁は課されていません。
まして、イスラエルは核保有が確実とされながら、その保有を明らかにすることさえしていませんし、核拡散防止条約(NPT)の国際的核管理の枠組みにも参加していません。

****IAEA:イスラエルの核 懸念決議案否決…反対多数で****
国際原子力機関(IAEA)の年次総会は20日、事実上の核兵器保有国イスラエルの核能力に懸念を表明し、同国の核拡散防止条約(NPT)加盟を求める決議案を反対多数で否決した。決議案は2010年以来3年ぶりにアラブ諸国から提出されたが、米国や欧州連合(EU)、日本などが反対した。

決議案提出の背景には、10年のNPT再検討会議で合意された中東非核化国際会議がいまだ実現していないことへの反発があった。

米欧などは▽イスラエルのみを名指しした事実上の非難決議は同国を含む非核化会議実現の障害になる▽非核化に向けた建設的な環境整備を妨げる−−などとしてIAEA加盟国に反対投票を働きかけていた。ただ、イスラエル批判の文言を含まず、全ての中東諸国にNPT加盟を求める中東非核化決議はEUや日本を含む圧倒的多数で採択された。

イスラエルは自国の核兵器保有について否定も肯定もしていない。IAEAの保障措置(核査察)は限定的に受け入れているが、NPT加盟には中東諸国の軍縮や緊張緩和などが不可欠だとしている。【9月20日 毎日】
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しかし、イスラエルのこうした姿勢、それを擁護するアメリカなどの姿勢は非常に奇異なものに感じられます。
アメリカのイスラエルへの過度の肩入れは、中東和平の前進を妨げることにもなります。
もし、イランが核開発の公開性を今後高めるのであれば、やはりイスラエルも同様の対応をとるべきでしょう。
ましてや、イラン核施設攻撃というのは論外です。

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