孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  スカーフをめぐる女性死亡で広がる抗議デモで混乱 瀬戸際の核合意再建問題

2022-09-22 22:35:47 | イラン
(テヘランで通りに繰り出したイランのデモ隊=AFP通信が21日入手【9月22日 時事】)

【「スカーフで髪を隠さなかったら拷問死か!」 拡散する抗議デモ 増える犠牲者】
イランでは、2019年にガソリン価格高騰に不満を抱く市民が行った抗議デモなど、しばしば国民の大規模な抗議行動が起きますが、今回イランを揺るがしているのはイスラム女性が義務付けられているスカーフの問題。

「スカーフを被る」と言っても、その対応は個人差があります。
宗教的価値観を重視する女性は髪の毛全体を隠す形できちんと。
逆に、そうした宗教的価値観の強制を嫌う女性は、前髪を大きく出す形で。

現在は保守強硬派のライシ大統領のもとで、スカーフについても厳しくチェックされる状況にあります。
今回問題となった女性は、スカーフのかぶり方が不適切だとして警察に拘束され、死亡しました。

SNSで女性が病院のベッドで治療を受けているとされる写真が拡散。頭部付近に血痕のようなものが見えるため、警察官の暴行を疑う声が強まり、頭を殴打されたとも報じられました。

17日に女性の地元で営まれた葬儀には数千人が参列し、その一部が当局の対応を批判し、最高指導者ハメネイ師も非難する抗議行動に発展、治安部隊と衝突する事態に。

その後も抗議行動は拡散し、死者がでる事態に。

****スカーフ着用めぐり逮捕の女性死亡 抗議で死者3人 イラン****
イランで、頭髪を覆うスカーフの着用方法をめぐり警察に逮捕された女性が死亡したことを受け、抗議デモが広まっている。女性の出身地である西部クルディスタン州のイスマイル・ザレイ・クーシャ知事は20日、同州のデモで3人が死亡したことを明らかにした。

マフサ・アミニさんは、家族と訪れていた首都テヘランで13日、服装規定などを取り締まる「道徳警察」に逮捕され、警察署に連行された。

その後、昏睡(こんすい)状態に陥り病院に搬送され、16日に死亡。警察署で何が起きたのかははっきりしないが、アミニさんの頭部には打撲傷があったとされる。

報道によると、同州では18日、約500人がデモを行い、参加者の一部が車の窓を割り、ごみに放火。警察が参加者を逮捕したり、催涙ガスを使用したりした。テヘランでも19日、デモ隊に対し警察が警棒や催涙ガスを使用した。

同国のファルス通信によると、知事は同州のデモでの死者3人について、死亡日時は明らかにしなかったものの、「敵の企て」により「不審な」死を遂げたと説明。

ディバンダーレで「治安当局が使用していない種類の武器」で1人が殺害され、サケズでは1人の遺体が病院の近くの車の中に置き去りにされた状態で見つかったとした。3人目の死者については詳細に触れなかった。 【9月21日 AFP】
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警察当局はアミニさんが意識を失った理由を「心臓発作」と説明。19日にも改めて暴行を否定し、アミニさんには「5歳の時に脳の手術を受け、以前から身体的な問題を抱えていた」と説明。「警察の対応に問題はなかった」と主張しています。

しかし、アミニさんの父親は19日までに地元メディアに対し、彼女に病歴はなく、逮捕前まで健康上の問題は一切なかったと語っています。

全国各地で数十~数百人規模の抗議集会が開かれ、一部は暴徒化して投石やタイヤの放火に及び、警察車両の窓ガラスが割られることも。
抗議デモは21日も続き、死者も増えています。

****イランの抗議デモ、死者6人に スカーフ巡り女性死亡で****
イランメディアは21日、イランで女性が髪を隠すスカーフのかぶり方が不適切だとして警察に拘束され、死亡したことに対する20日の抗議デモについて、警察関係者1人が南部シラーズで、市民2人が西部ケルマンシャーで死亡したと報じた。一連の抗議デモでの死者は計6人になった。

シラーズでは警察官4人が負傷し、デモ参加者15人が逮捕された。ケルマンシャーでは市民や治安当局者ら計25人がけがをした。

17日から始まった抗議デモはイラン各地に拡大。21日も首都テヘランで市民が抗議活動をし、デモは5日連続となった。【9月21日 共同】
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【大統領・最高指導者は亡くなった女性に寄り添う姿勢を見せて、抗議デモ鎮静化を図る】
ライシ大統領は16日、内務省に徹底した捜査を指示。18日には遺族に電話し、「あなたの娘は私の娘のような存在だ」と哀悼の意を伝え、「何が起きたのかは明らかにされる」と捜査の徹底を約束しています。

最高指導者ハメネイ師の代理人も19日に遺族宅を訪れ、「ハメネイ師も心を痛めている。侵害された権利の擁護のため、すべての機関が行動を取る」と伝えたそうです。

このあたりが、イランに対する欧米の宗教独裁国家イメージとはやや異なるところかも。

確かにイランは最高指導者を頂点とする宗教的権威が最重視される政治であり、今回事件のような宗教的価値観の強制もある社会ですが、一方で、そうした政治体制に批判的で自由を求める国民も多く、保守派とされる指導層も国民からの批判を強く警戒しています。

少なくとも大統領は選挙で選ばれるシステムですから(選挙への体制側の介入はありますが)、国民の批判が拡大すると政治システムが維持できなくなります。その点で、いわゆる民意が重視される民主主義的側面もあります。単なる宗教独裁国家ではありません。

死者は12人なったとの報道も。イランの情報は不透明で何が起きているかよくわからい部分がありますので、実際はもっと多いのかも。「宗教的価値観押しつけからの自由」「警察の横暴・人権無視」に加えて、下記記事が指摘するようにクルド問題が絡んでくると話は更に厄介にも。

****デモ衝突の死者12人 イランの混乱やまず―人権団体****
警察の拘束下での女性死亡を発端とする抗議デモがイラン各地で続き、人権団体によると、治安部隊との衝突などによるクルド人地域での死者は、21日時点で少なくとも12人となった。ロイター通信が報じた。

インターネット上には自動車を燃やすなどして抵抗するデモ隊の動画が相次いで投稿され、混乱がやむ気配は見られない。

女性は少数派クルド人が暮らす西部コルデスタン州出身。頭部を覆うスカーフを適切に着用していなかったことを理由に13日警察に逮捕され、16日に死亡が発表された。

クルド系の人権団体ヘンガウは、コルデスタン州では女性への連帯の意を示すデモに治安部隊が発砲するなどし、死傷者が出る事例が相次いでいると報告している。【9月22日 時事】
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「国家を持たない最大民族」クルド人はトルコやイラクでよく問題になりますが、イランにも多くが暮らしており、その政治行動はイラン当局と対立しています。

【国連総会 イランは欧米側の人権に関する「二重基準」を批判】
折しも開催されている国連総会で、アメリカとイランが核合意再建問題の他、女性の死を受けて人権問題でも批判を応酬する形にもなっています。

****イランと米国、核合意再建・人権問題巡り国連で対立****
米国とイランは21日、国連総会で安全保障や人権問題を巡り対立した。イランのライシ大統領は2015年の核合意への復帰を確約するよう米国に要求。バイデン米大統領はイランに決して核兵器を持たせないと表明した。

ライシ氏は人権分野における一部政府の「二重基準」が人権侵害の 慣行化につながっていると非難。カナダで発見された先住民の墓標のない墓やパレスチナの人々の苦悩、米国で収容された移民の子どもなどに言及した。

イランでは最近、髪を覆うスカーフの着用が不適切として拘束された女性が死亡した事件を受け抗議デモが広がっており、批判をかわす狙いがあるとみられる。

ライシ氏はまた「(15年の核)合意復活に向け、全ての問題を解決しようという偉大で真剣な意志がある」と述べ、「われわれが望むのはただ一つ、約束の順守だ」と指摘。米国が核合意から離脱したことに触れ、「恒久的な合意」を保証する重要性を訴えた。

バイデン氏は核合意復帰への意欲を改めて表明した上で「イランが核兵器を持つことを容認しない」と強調。また、イランのデモ参加者らに同調し、「われわれは基本的権利を守るためにデモに参加しているイランの勇敢な市民、女性たちとともにある」と語った。【9月22日 ロイター】
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【もはや“後がない”核合意再建問題】
一方の、核合意再建問題の方は、一時は“交渉も大詰め”と見られていましたが、結果を出すには至らず、行き詰まりも。

****イランと欧米、核合意巡り平行線 米「国連総会で突破口見えず」****
イランにある3カ所の未申告施設でウランが検出された問題に関する国際原子力機関(IAEA)の調査を巡り、イランと欧米諸国は20日も対立を続けた。

米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、今週の国連総会で2015年の核合意再建に向けた突破口が開かれるとは期待していないと述べた上で、米国は合意再建を望んでいると改めて表明した。

フランスのマクロン大統領はこの日、イランのライシ大統領と会談。マクロン氏は会談後、「欧米が正式に設定した条件を受け入れるかどうかイランが回答する番だ」と記者団に述べた。

イランは、核合意再建に向けた提案内容を完全に実行する前に、検出されたウランの痕跡に関するIAEAの調査終了を約束するよう米国に要求している。

欧米諸国はこの要求を拒否し、イランがIAEAに満足のいく回答をしたときにのみ調査は終了すると主張している。

マクロン氏は20日、欧米がIAEAに調査終了を迫ることはないと述べた。

一方、ライシ氏は、イランはIAEAが調査を終了し、2018年に核合意を放棄した米国が再び放棄した場合の影響を制限するための保証を引き続き要求していると語った。

イラン政府によると、ライシ氏はマクロン氏に対し「保証の要求は完全に合理的で論理的な要求だ」と述べ、IAEAが調査を終了することなくイランが合意することは不可能だとの見解を示した。【9月21日 ロイター】
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イラン側は、イランだけが不公平な扱いを受けていると主張しています。
IAEAの調査が続くのは、それだけイランに不審な行動があるためでもありますが。

****核兵器の意図、改めて否定=査察は「不公平」―イラン大統領****
イランのライシ大統領は21日、国連総会で演説し、核開発について「イランは核兵器を製造したり保持したりするつもりはなく、(核兵器は)防衛政策上も存在しない」と表明した。

イランはこれまでも兵器化の意図は繰り返し否定しており、米欧との核合意再建交渉が難航する中、改めてイランの立場を強調して国際社会に理解を求めた。

また、ライシ大統領は国際原子力機関(IAEA)による査察をめぐり「イランで行われている核活動は世界のわずか2%なのに対し、査察の35%がイランで行われている」と主張した。

再建交渉をめぐっては、イランによるIAEAの査察拒否が妥結の障害となっており、「不公平」と訴えることで対応の正当性をアピールした。【9月22日 時事】 
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イランが求めている「保証」は、アメリカで共和党が復権すれば、トランプ前大統領のときと同じように、また合意から離脱し、制裁が復活するという懸念によるもので、それはイランからすれば当然でしょう。

****イラン核兵器保有の土俵際にある核合意再開交渉****
クインシー研究所のパリシイ副所長が、Foreign Affairs誌ウェブサイトに8月26日付けで掲載された論説‘Last Chance For America and Iran’で、現在交渉されているイラン核合意再開交渉で合意すべきであり、米共和党が政権を奪還したら、再開された核合意を廃棄すると公約しているが、そうさせないためには合意の内容をより野心的にする必要がある、と書いている。主要点は次の通り。

・合意への反対者は、新たな核合意はより短期間かつ弱いものだと批判している。確かにイランが核爆弾を製造のために必要な濃縮ウランを得られる期間(ブレイク・アウト・タイム)が当初の合意では12カ月であったが、現在の合意案では6カ月から9カ月に短縮されている。しかし、現時点でイランは数日で必要量の濃縮ウランを手に入れることが可能なので半年というのは遙かにましだ。

・バイデンは2020年の大統領選挙でバイデン候補は、速やかに復帰する旨を公約に掲げていたので、イラン側は米国の核合意復帰を期待していたが、バイデン大統領は核合意復帰を急がず、貴重な数カ月間を、核合意に強く反対しているイスラエル、アラブ首長国連邦、サウジアラビアとの協議に費やす一方、イランとの信頼醸成については気にしなかった。

・イラン政府関係者は、バイデン大統領が、交渉の代わりに対イラン制裁を継続することによって、より厳しい条件をイランに課そうとしていると考え、対抗措置としてウランの濃縮計画を急速に拡大した。21年6月に核合意再開交渉が始まった時には、既に交渉の雰囲気は最悪であった。

・21年8月に就任した保守派のライシ新大統領は、核合意は優先的な課題では無いとして、過去の核合意について見直しを続け、その間もウラン濃縮のための遠心分離機を増設して濃縮ウランの備蓄を増やし続けた。米国側は、イランが事実上の核兵器保有国になるための時間稼ぎをしているとの疑いを強めた。

・米共和党が24年に政権を奪還すれば、再開された核合意を廃棄すると公約しているが、そうさせないためには合意の内容をより野心的にする必要がある。米国が再開された核合意から離脱しない件については、引き続き協議することとし、(米国を含む)全ての合意の当事者が、仮に合意に違反すれば、その対価を払うようにするべきである。

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イランの核合意再開問題は、ボレル欧州連合(EU)外交安全保障政策上級代表が、「最終合意案」を提示したが、案の定、イラン側は、色々とコメントを付けており、交渉を再開して時間稼ぎをしようとしているように見える。交渉が続いている限り、イランは核開発を継続出来る。

更に、問題なのは、8月29日、イランのライシ大統領が、未申告の核物質問題を止めなければ合意再開は難しいと発言したことである。未申告の核物質問題とは、イランが金属ウランを製造していたことついての国際原子力機構(IAEA)の調査の件であるが、金属ウランは、核爆弾の製造に必要不可欠な技術だ。

イラン側は、繰り返し核兵器の保有を否定しているが、核爆弾製造に必要な量の濃縮ウランを備蓄し、IAEAの調査の中止を要求していることは、イランが核兵器を開発しようとしていることを強く疑わせる。

政権交代懸念の米国への対策は
他方、共和党は、24年に政権を奪回すれば、核合意が再開していても廃棄すると公約している由だが、極めて党派的、かつ、無責任と言わざるを得ない。

トランプ政権以来、「過去に例の無い制裁」をイランに課しているが効果を上げていない以上、後は軍事オプションしか残されない様に思われるが、共和党はイランと戦争を行う覚悟があるのだろうか。

上記の記事は、このままでは、たとえ核合意が再開しても2年間しか継続出来ないので、合意を永続的とするために、
(1)米国が再度核合意から離脱する場合に米国にペナルティを科す。
(2)米国・イラン間の経済関係を再開し、米国の経済界にイランとの関係を維持するためのインセンティブを持たせる。
(3)イランと敵対するサウジアラビア等との間に対話を通じて信頼醸成、緊張緩和を進める。
と提言するが、いずれも非現実的と言わざるを得ない。

イランは、既に核爆弾1個を製造に必要な濃縮ウランを備蓄し、半年以内にさらに2個分の備蓄が可能と言われている。

恐らく、濃縮ウランから核爆弾を製造するために必要な金属ウラン製造技術を開発しており、起爆装置の研究も行っている可能性がある。

他方、イスラエルのF-35戦闘機がイランの領空侵犯を繰り返しているという報道があったが、イランの核問題は、いよいよ土俵際に来ているように思われる。【9月21日 WEDGE】
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8月段階の「大詰め」の雰囲気もまた最後を詰め切れずに決裂する可能性が大きくなっていますが、今回決裂すれば、アメリカ・イスラエルにとっては、あとは実力でイランの核開発を阻止するという選択肢しか残らないことにも。世界は新たな厄介の火種を抱えることにもなります。
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