孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  習近平指導部の富裕層・企業家をターゲットとする流れとシンクロする格差に苦しむ若い世代

2021-08-26 22:49:01 | 中国
(「チベット解放70周年」記念式典に登場した習近平国家主席の巨大肖像【8月19日 朝日】)

【加速する習近平国家主席への個人崇拝の流れ】
中国・習近平国家主席が共産党結党100周年の節目の年にあたり、党・国家による政治・経済・社会全般に対する統制・指導を強める方向で、その権威を高めようとしていることは、これまでも取り上げてきました。


“党・国家による”というのは、言い換えれば“核心”たる“習近平主席による”ということであり、その個人崇拝とも思えるような流れは、統制・指導を強める方向とあいまって、まさに個人崇拝の対象だった毛沢東時代への“原点回帰”のようにも。そして社会の流れは“文化大革命”を想起させるようなものも。

****チベットに習近平氏の巨大肖像 「解放」70年の式典で****
中国共産党政権は19日、チベット自治区ラサで、「チベット解放70周年」の記念式典を開いた。チベットの象徴ともいえるポタラ宮前に設けられた特設会場には、習近平(シーチンピン)国家主席の巨大な肖像が登場。党指導部人事が行われる党大会を1年後に控え、習氏の権威づけも進みそうな気配だ。(中略)
 
先月、チベットを視察したばかりの習氏は式典に出席しなかったが、会場には2〜3階建てのビルほどもある習氏の巨大な肖像が飾られ、会場を埋めた地元幹部らを見下ろした。
 
毛沢東への個人崇拝が強まり中国全土を大混乱に陥れた文化大革命(1966~76年)の反省から、共産党政権は長らく、指導者の偶像化につながる動きを戒めてきた。習氏の胸元から上が大写しになった巨大な肖像は、そうした伝統が薄らいでいることを印象づける。
 
来年秋に迫る5年に1度の党大会では、強い権力を握った習氏が、最高指導者のポストにとどまるかが焦点になる。ただ、2期10年で引退してきた過去2代の総書記の先例を破るには、党内外の世論や環境を整え、習氏の権威をさらに高める必要もありそうだ。
 
中国政治に詳しい改革派知識人は「地方の高官ほど、中央の覚えを良くしようと指導者をたたえようとする。チベットがやったならと、ほかの地方が追随する可能性もある」と話す。【8月19日 朝日】
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もちろん、公式には「(習氏への称賛は)個人崇拝ではない」とされています。

****習氏は「別格の指導者」=中国共産党、個人崇拝を否定****
中国共産党中央宣伝部は26日、習近平党総書記(国家主席)の「核心」の地位について「大きな党と大国のかじ取りという重大な職責を負っている」とする文書を発表し、習氏が「別格の指導者」であることを強調した。しかし、文書は「(習氏への称賛は)個人崇拝ではない」という見解も示した。
 
習氏は2016年10月に「党の核心」の地位を獲得した。これについて、文書は建国の父、毛沢東が「核心」となった後、党が危機を脱したと指摘。その上で「習同志を党中央の核心に確立したことにより、党、国家、人民、軍隊、中華民族にかつてない変化をもたらした」と絶賛した。
 
一方で、文書は党が個人崇拝を禁じていることに触れ、「核心の擁護は決して低俗な『個人崇拝』ではない。核心は無限の権力を意味しない」と訴えた。【8月26日 時事】 
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なんだか詭弁と言うか、言葉の遊びのような感も。

【「共同富裕」「三次分配」は富裕層・企業家らをターゲットにした階級闘争の再来か?】
本来“平等”が重視されるはずの社会主義国・中国は、鄧小平「先富論」によって急速な経済成長を実現しましたが、その結果、資本主義国・日本以上の格差社会ともなっています。

そこで“原点回帰”を進める習近平政権が打ち出しているのが「三次分配(三度分配)」による「共同富裕(みんなが豊かな社会)の実現」という方向性。

「共同富裕」論自体は、鄧小平の「豊かになれる者から先に豊かになる」という「先富論」の時代は終わり、今後の習近平新時代は、先に儲けた者が富を社会に還元させる時代、という社会主義の本質に回帰を示すものです。

注目されるのは、大企業・富裕層からの社会への寄付・慈善事業という方法で「共同富裕」を実現しようという方法で、“富裕層に向けられる大衆の敵意がより煽動され、最悪、文革のような階級闘争時代が帰ってくるかもしれない。”との指摘も。

****「みんなで豊かに」習近平提唱の新目標に怯える大企業と富裕層****
8月17日の中国共産党中央財経委員会・第10回会議で習近平が強く打ち出した「三次分配(三度分配)」が、中国の富裕層、大企業幹部らを狼狽させている。
 
この会議は「共同富裕実現の研究」と「重大金融リスクの予防緩和」の2つのテーマが議題となったが、「三次分配」は共同富裕実現の方法として提唱された。
 
共同富裕という目標は2017年10月の第19回党大会で強く掲げられていた。だが、今回の会議の中身が翌日に新華社通信などで公表されると、実は、共同富裕とは「みんなで豊かになる」のではなく「富裕層から富を収奪する」ことであり、これはひょっとすると、かつて地主や富農から土地や財産を奪った土地革命や、ブルジョア・知識人を打倒した文化大革命のように、富裕層・企業家らをターゲットにした階級闘争の再来なのではないか? という不安が、富裕層や資本家、投資家らの間で広まってきたのだ。

問題は格差是正のやり方
習近平は7月1日の建党100周年記念の大会で、「小康社会の全面的実現」(そこそこ豊かな社会=絶対貧困のない社会)の目標がすでに達成された、と宣言。次の100年目標(建国100周年の2049年に向けた目標)として、「共同富裕(みんなが豊かな社会)の実現」を強く打ち出した。

「共同富裕」論はこれまでも何度も繰り返されている。(中略)これはいわば、鄧小平の「豊かになれる者から先に豊かになる」という「先富論」の時代は終わった、という宣言でもあり、今後の習近平新時代は、先に儲けた者が富を社会に還元させる時代、という社会主義の本質に回帰することを打ち出したとみられていた。
 
たしかに中国の貧富の格差は米国に勝るとも劣らない。(中略)中国人の生活水準は大幅に向上しているが、格差を示すジニ指数は近年0.46〜0.47で、社会騒乱多発の警戒ライン0.4を大きく超えている。

この格差は過酷なゼロ・コロナ政策によってさらに加速度的に拡大する傾向にある、という。社会の人流や物流を大きく制限され、消費が激減するゼロ・コロナ政策では、末端で働く低所得層ほど働く場を失い収入が圧迫される。
 
こうした格差の是正が中国社会の安定に欠かせないことは、中国の政策担当者の共通の認識である。だが、問題はやり方だ。(中略)

富裕層、大企業に求める「三次分配」
8月17日の会議では、習近平は「共同富裕は社会主義の本質的要求であり、中国式現代化の重要な特徴である」とし、「質の高い発展の中で共同富裕を促進していかねばならない」と訴えた。そして初めて「高すぎる収入は合理的に調整し、高収入層と企業にさらに多くの社会に報いることを奨励する」と、寄付・慈善事業などの富の分配方法に言及した。

そして、低所得層の収入を増加させ、高所得層を合理的に調節し、違法収入を取り締まり、中間層を拡大して、低所得と高所得を減らしてラグビーボール型の分配構造を構成することを打ち出し、社会の公正正義を促進する、とした。
 
ここで富裕層たちの肝を寒からしめたのは、高所得層と企業がより多く社会に報いるべきだ、として、寄付や社会貢献が求められている点だ。
 
会議では共同富裕を実施する手段として「一次分配(市場メカニズムによる分配)、再分配(税制、社会保障による分配)、三次分配(寄付、慈善事業)を協調させて、基礎的な制度を準備する」と表現。
 
三次分配である寄付、慈善事業は「道徳の力の作用」のもと、富裕層・大企業が自ら進んで行うことが求められている。だが、今の習近平体制の中で、富裕層・大企業に本当の意味での自由意志が認められているだろうか。
 
この会議直後、大手インターネットプラットフォーム企業、騰訊(テンセント)は500億人民元を拠出して「共同富裕専門プロジェクト」を立ち上げ、農村振興、低所得者への扶助、農村医療改革などの領域に資金を投じることを発表した。どう見ても、道徳の力による自主的な慈善事業というよりは、共産党からの制裁を恐れて慈善事業をやらされた感が伝わるではないか。

中国で富の再分配は機能するのか
「三次分配」という言葉は、今回初めて出てきた言葉ではない。
 
著名エコノミストの厲以寧も、市場経済のもとでの収入分配としての三次分配を提唱してきた。三次分配という言葉が中央の政策の中で出現したのは、2019年10月の第十九回四中全会(秋の中央委員会総会)席上だった。この時、三次分配が収入分配制度における重要な要素だと明確に言及され、中国経済と社会発展の中で慈善公益事業に重要な地位を確立させるべきだ、とされた。
 
ただ問題は、ではこの拠出された寄付金を、必要とする人々のもとに誰が公平かつ公正に届けるのか、企業がたとえ慈善事業基金を設立しても、それをどういう形で運用し、うまく分配するシステムを構築するのか、そのノウハウが中国にあるのか、という点である。
 
欧米では慈善家による寄付が社会の再分配機能の中で大きな役割を担ってきた歴史があるが、そこにはキリスト教文化が背景にあり、財産は福音であり企業は主導的に社会的責任を負うものであるという価値観があり、これが貧富の格差、階級矛盾を激化させない作用をもっていた。

企業や篤志家からの寄付を庶民のために活用し庶民に届ける役割は古くは教会が担っていた。

こうした思想があるからこそ、NGOやボランティア組織が多く存在し、社会的富の分配メカニズムとしてうまく機能することができたのだと思う。
 
しかし、今の中国に、慈善事業をうまく機能させるメカニズムはない。(中略)
 
待ち受けるのは「共同貧困」時代?
ニューヨーク市立大学政治学部の夏明教授が米政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ」にこう語っている。「西側国家において企業が行う慈善活動方式と違い、中国では、企業が社会において柔軟な影響力を発揮することを最終的に抑制する方向にある。というのも中国は、企業と公民運動が結びつき、1つの公民社会パワーになることを恐れているからだ」。

有能なNGO人材、ボランティア人材は、中国政府の恐れる「人民のリーダー」になり、習近平の敵となりうる。
 
だから、習近平政権が打ち出す「三次分配」政策とは、早い話が、富裕層や大企業から堂々と党が私有財産を収奪する口実に過ぎないのではないか、と富裕層たちが怯えるのは無理もない。
 
一部アナリストは、「市場経済に対する国家の干渉とコントロールがますます強まり、民衆の貧富拡大に対する不満、グローバル化への不信、米中関係の緊張が高まる中で、中国企業や富裕層がスケープゴートにされようとしている」と分析している。
 
このスケープゴートにされようとしている企業が、習近平が政敵とみなす政治派閥、たとえば上海閥などの利権に絡む企業であったとしら、この三次分配は、嫌いな企業をいじめる新たな武器にすぎず、彼らの富を、ひょっとすると習近平が作る新たな利権構造に移動させるだけになるかもしれない。
 
だとすれば、「共同富裕」どころか、いじめられた民営企業がモチベーションを失い、経済のパイが縮小し、一部の富裕層は富を失うかもしれないが中間層はさらに富を失い、貧困層はより貧しくなる「共同貧困」時代が来るかもしれない。

いや、富裕層に向けられる大衆の敵意がより煽動され、最悪、文革のような階級闘争時代が帰ってくるかもしれない。【8月26日 福島 香織氏 JBpress】
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以下は、「共同富裕」「三次分配」は富裕層を抹殺するものではない党の公式見解。

****「共同富裕」、富裕層の抹殺を意味せず=中国共産党****
中国共産党中央財経委員会の韓文秀氏は26日、習近平国家主席が掲げる格差是正のスローガン「共同富裕」について、「貧困層を助けるために富裕層を抹殺する」ものではないと説明した。

同氏は会見で「福祉国家の罠に陥らないよう注意が必要だ」とし、「先に豊かになった人」が貧困層を助けるべきだが、勤勉が奨励されると発言。

「支援を待っていることはできない。他人の支援に頼り、支援を乞うことはできない。怠け者を支援することはできない」と述べた。(中略)

韓氏は、税制を通じて慈善活動としての寄付を促し、「分配構造」を改善することが可能だと指摘。寄付は「強制ではない」と述べた。

最近のインターネットプラットフォームに対する規制強化については、不正行為の是正が目的であり、民間企業や外国企業を標的にしたものでは「絶対に」ないとの認識を示した。【8月26日 ロイター】
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富裕層・大企業をターゲットにしたような習近平指導部の方向性は、格差に苦しむ若者らの「気分」ともシンクロしています。

中国社会に置ける格差の象徴は「住宅」 “富裕層は投資目的でいくつものマンションを所有しており、その多くが空室になっている。一方で、住むところに困り会社の寮や安アパートに友人と一緒に暮らす若者が多数存在する。”【下記記事】

【格差に苦しむ若い世代に蔓延する毛沢東礼賛の気分】
そうしたなかで、“毛沢東を礼賛する気分が若い世代に蔓延している”とも。

****中国選手が五輪で付けた毛沢東バッジ、中国激動の前触れか?****
東京オリンピックにおいて中国の女子自転車競技選手2人が毛沢東バッジをつけて表彰台に登った。IOC(国際オリンピック委員会)はこの行為がオリンピックの政治利用を禁止した憲章に抵触する恐れがあるとして調査すると発表した。それを受けて中国オリンピック委員会は二度とこのような行為はさせないと約束した。
 
この一連の流れに対して中国のネット世論は大いに盛り上がった。最初は毛沢東バッジを付けて表彰台に立った選手を真の愛国者として大いに礼賛した。次にそれを憲章違反としたIOCに対して反中国的、反毛沢東主義的集団などといったレッテルを貼って、一斉に攻撃した。

その矛先は中国オリンピック委員会や毛沢東バッジの部分を修正して放映したテレビ局にも向かった。IOCに対する対応を弱腰と非難したのだ。

文化大革命で荒れ狂った若者たち
中国のある知人は、このネット世論に不吉な予感を持ったと言う。それは中国国内の気分が文化大革命時代に似てきたからだ。(中略)

若者が富裕層の所有マンションを占拠する悪夢
中国のネット世論を形成する人々は、それなりの教育を受けた都市に住む若者である。そんな若者が本稿の冒頭に書いたような、IOCや中国のテレビ局を批判する書き込みを行っている。彼らは住宅に困っている。
 
2人の選手が毛沢東バッジをつけて表彰台に登った真意は分からないが、毛沢東を礼賛する気分が若い世代に蔓延していることだけは確かと見てよい。それは愛国主義と言うよりも、心の中の不満の表現である。
 
中国では住宅をめぐって第2の文化大革命が始まる可能性がある。現在の中国は二分されている。勝ち組は北京、上海、深圳、広東にマンションを持ち、かつ自分の息子にもマンションを用意できる人々である。彼らは上級国民であり、その総数は全人口の1%以下でしかない。南京や杭州、武漢、成都などの一級都市に住む人々にまで拡大してみても、その割合は全人口の5%以下と見てよいだろう。大都市と地方の格差が激しい中国では、それ以外の圧倒的多数は負け組である。
 
中国はそれなりに豊かになったが、多くの若者は鬱々としている。中国の富裕層は、そんな若者を恐れている。富裕層が恐れなければならないのは台湾人や日本人ではないのだ。
 
政府は若者の不満を米中対立や台湾や尖閣諸島の問題に向けさせようとしているが、長い期間にわたって愛国で若者を騙し続けることは容易ではない。
 
中国の富裕層は若者の身近に存在する。いつ何時、若者の不満が投資用マンションを何件も持つ富裕層に向かうか分からない。

アリババの創業者、ジャック・マーの消息が分からなくなった昨年(2020年)の秋頃から、中国の富裕層はとにかく目立つことを避けるようになった。それは習近平政権に怯えるというよりも、民衆の怨嗟に怯えているといった方がよいだろう。
 
中国の上級国民はマンションを巡る混乱が第2の文化大革命に発展する可能性を皮膚感覚で感じ取っている。若者が富裕層の所有する投資目的の空きマンションに乱入して「これは俺たちのものだ」と叫ぶ悪夢が頭をよぎる。(中略)
 
それほど思想的背景があるとも思えない若い五輪選手がなにげなく胸に付けた毛沢東バッジは、中国が激動し始める予兆なのかも知れない。【8月20日 川島 博之氏 JBpress】
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習近平指導部の「共同富裕」「三次分配」と格差に苦しむ若者の不満・気分がシンクロした先にあるのは、かつて若者らが紅衛兵として荒れ狂った文化大革命の再現か・・・・という懸念のようです。

まあ、そこまでのことはないにしても、若者らの不満を背景に“原点回帰”が更に進み、その過程で習近平主席の“政敵”が権力闘争で追い落とされるということは十分にありうるシナリオでしょう。

****中国、教育課程に「習近平思想」採用へ 教育省が新たな指針****
中国は、国内の若者の間に「マルクス主義の信念」を確立するため、「習近平思想」を国家の教育課程に取り入れる方針という。教育省が25日、新たな指針を発表した。

それによると、習近平国家主席の「新時代の中国の特色ある社会主義思想」について、小学校から大学までの教育課程で教えていく。(後略)【8月25日 ロイター】
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