孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「一国二制度」の形骸化進むマカオ  直接選挙実施目指す香港

2009-12-22 23:10:43 | 国際情勢

(中国からの客を集め、マカオのカジノの収入は06年に米ラスベガスを抜いて世界一となっています。
“flickr”より By moniquz
http://www.flickr.com/photos/moniquz/3569335113/)

【「一国二制度を堅持し、祖国と共に発展、進歩した」マカオ】
ポルトガルから中国に返還されて10年が経過したマカオですが、「一国二制度」とは言いつつも、中国の巨大な経済力に引き寄せられつつあり、政治的にも「一国二制度」の形骸化が進行しています。

****マカオ、中国返還10周年 旅行客の半数は大陸から****
中国の特別行政区のマカオが20日、ポルトガルからの返還10周年を迎えた。豪華なカジノが立ち並ぶ「東洋のラスベガス」の主役は今や、旅行客の半数を占める大陸からの中国人。返還10年の節目に中央政府主導で、広東省とマカオ・香港を結ぶ海上大橋の建設も始まった。大陸との関係は深まる一方だ。

20日にあった記念式典に出席した胡錦濤(フー・チンタオ)・国家主席は、「一国二制度を堅持し、祖国と共に発展、進歩した」などとこの10年をたたえた。記念にパンダを2頭贈ることも決定。前職の任期満了に伴う選挙で選ばれ、この日就任した崔世安(ツォイ・シーアン)・行政長官は「中央政府の支持のもとで前進を続けていく」と述べた。

マカオは香港と同様に自由な自治が認められる「一国二制度」のもとで、大陸では許可されないカジノ産業を発展させてきた。年間売り上げは、約1100億マカオ・パタカ(約1.2兆円)に達し、この5年で2.5倍に増えた。それを支えるのが大陸からの旅行客だ。
マカオ政府によると、中国人旅行客(香港は除く)は年間1千万人を超え、この10年で約7倍に急増。最近は一部の富裕層だけでなく、地方からの団体客も目立つ。
金融危機の影響で、2008年の第4四半期から域内総生産(GDP)が前年同期比マイナスに転じたが、今年第3四半期には8.2%増まで回復。中国経済が勢いを取り戻す中、カジノにも活気が戻って来ている。
広東省珠海との融合も進む。税関の職員によると、マカオとの往来は1日25万人。珠海に住み、通勤や通学などでマカオに通う人が増えた。
中央政府も一体化の流れを後押しする。景気対策の目玉の一つとして、総工費700億元(約9300億円)を超える世界最長の海上大橋(全長約50キロ)の建設に着手。完成予定の2015年には、香港、珠海、マカオの3都市が、車で約30分で結ばれる。【12月20日 朝日】
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演説で胡錦濤主席は、マカオ議会が2月、“国家分裂”などの反体制行為を厳格に取り締まる「国家保安法」を成立させたことを高く評価しました。 これにより中国共産党批判や民主化運動、台湾やチベットに関する発言などが封じ込まれることも予想されます。

また、「一国二制度」の下で「中央政府の法的権利を尊重し、マカオの問題に対するいかなる外部勢力の干渉にも断固反対せよ」と強調し、海外からの民主化要求を拒絶するよう求めました。
“同じ「一国二制度」下の香港では、民主派の反発で国家保安法が議会で廃案となるなど、政治的な“差”が生じている。このため、胡主席はマカオを“優等生”と持ち上げることで香港には圧力をかけ、欧米からの民主化要求も牽制(けんせい)した格好だ。”【12月21日 産経】

新しく行政長官に就任した崔世安長官は、中国政府の支持を受けており、マカオ政財界の有力者300人のみで行われた7月26日の選挙では、対立候補もなく、民主選挙の体をなさなかったとの指摘があります。
また、9月20日に投票されたマカオ立法会(議会)選では、定数12の直接選挙枠のうち民主派候補が議席を改選前の2から3に増やした。それでも間接選挙枠の10議席と行政長官指名枠の7議席が“親中派”で占められており、結局29議席中、“親中派”が26議席の圧倒的多数を占めています。

上記記事にあるカジノ経済などの中国との経済関係を背景とした中国寄りの政治状況から、式典を控え、香港民主派の立法会(議会)議員や関係者、民主派に近い香港紙記者の入境を相次ぎ拒否するなど、マカオ当局はあからさまな親中姿勢を示しています。

【過度の中国依存を避ける動きもあるものの・・・】
もっとも、マカオ旅遊局の文綺華副局長が、「週末客が中心のカジノ以外に、平日も入境者を増やす国際会議や展示会などの誘致、インドや日本など中国本土以外の観光客増と滞在日数の増加が次の10年の課題」と発言しているような、中国への過度の依存に陥らぬようにしたい旨の考えもあるようです。
経済局の蘇局長は「03年の新型肺炎(SARS)流行で観光業が打撃を被った際、マカオ経済は一極集中ではだめだという教訓を得た」と語っています。

ただ、“かつてマカオは外貨の持ち込みや持ち出しなどが比較的自由で、北朝鮮が不正な取引に利用していた。99年までは平壌と結ぶ高麗航空の定期便もあった。「今も中国が仲介して北朝鮮とマカオの水面下の関係が続いている」と話す金融関係者もいる。政治的にも経済的にも利用価値がある限り、中国はマカオの手綱を緩めそうにない。”【12月17日 産経】とも。

20日には、マカオ中心部で民主派団体主催のデモが行われ、香港と同様に、行政長官と立法会(議会)の全面直接選挙を目指すよう訴え、政府庁舎前まで行進しましたが、政治・経済における中国の圧倒的存在感の前ではいかにも影が薄いようにも思われます。

【民主化運動の退潮に歯止めをかけた香港】
一方、香港では、直接選挙に向けた取り組みが進んでいます。
****香港、2012年の選挙に向け政治改革案を発表****
香港は18日、2012年の選挙に向けた政治改革案を発表した。改革案は3カ月間一般の意見を聴取した後、議会の承認が必要。
これは、香港が2017年の直接選挙実施について中国が受け入れられるロードマップを作成する上で、重要な一歩と見られている。
同案を発表した唐英年(ヘンリー・タン)政務長官は、これは2017年に直接選挙を実現するための「重要な一歩」だと述べた。【11月18日 ロイター】
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08年9月7日に行われた香港の立法会(議会、定数60)選挙では、中国政府と距離を置く民主派は大物議員の相次ぐ引退による求心力の低下もあって苦戦が予想されていましたが、3議席減らしながらも23議席を獲得、親中派に有利な選挙制度改革案を否決できる3分の1超の21議席を上回りました。
全体60議席のうち、直接選挙枠は30議席で、民主派は改選前の19議席を守り、親中派に有利な職能代表枠30議席でも4議席を確保しました。
行政長官と立法会全議員の直接選挙導入に向けた制度改革案の採決で「拒否権」を行使できる3分の1超の議席(21議席以上)を民主派が維持するかどうかが焦点とされていましたが、民主化運動の退潮に歯止めをかけた形となりました。

【直接選挙実施への取組】
香港では長官選挙の投票権が各種業界や団体の代表800人で作る選挙委員会に限られ、立法会は定数60のうち半数が各種業界や団体の代表枠となっています。香港の憲法に当たる基本法は全面的な直接選挙の実施を明記していますが、時期に定めがありません。
民主派は直接選挙の12年実施を求めています。

香港の曽蔭権行政長官は07年12月の中国全国人民代表大会(全人代)において、直接選挙について、長官選では12年の実施が過半数意見。遅くとも17年選挙での実施が大多数の民意▽立法会選での実施は意見の隔たりが大きいが、実現に向けた「日程表」設定が解決の助けになる・・・と報告しています。

これを受けて、全国人民代表大会(全人代)常務委員会は、香港行政長官(任期5年)の直接選挙について、香港側が要請していた12年の実施は認めず、17年には可能とする決定を出しています。
中国が直接選挙の具体的な時期を示すのは初めてでしたが、12年の早期実施を求める香港の民主派は「先送り」に強く反発しています。
上記ロイター記事の政治改革案は、こうした17年の香港行政長官直接選挙へ向けた取り組みです。

【マカオとは異なる中国との距離感】
香港の場合、マカオと違い、民主派が一定に力を維持していることもあって、中国との関係でも追随一辺倒という訳ではないようです。
今年9月のウルムチでおきた香港記者殴打事件では、親中派要人も中国を批判しています。

****親中派要人も異例の批判=中国・新疆の香港記者殴打事件
中国新疆ウイグル自治区のウルムチでデモの取材をしていた香港のテレビ局記者らが人民武装警察の兵士に殴打された事件で、香港側の反発が強まっている。親中派の要人までが中国当局の対応を批判するという異例の事態だ。
ウルムチの武装警察は4日、香港のテレビ局TVBとNOWの記者・カメラマン計3人を一時拘束し、警棒で殴るなどの暴行を加えた。
TVBなどは「現場の記者らは記者証を持って正当な取材をしていた」と主張している。しかし、9日付の香港各紙によると、同自治区政府新聞弁公室の侯漢敏主任は8日の記者会見で「記者らは記者証を提示しなかった」「騒ぎを扇動した疑いもある」と決め付けた。
中国当局のこうした対応に香港の報道各社や民主派だけでなく、親中派も反発。9日の地元ラジオによれば、香港選出の全国人民代表大会(全人代)代表(国会議員に相当)グループは「武装警察の行為は粗暴だ」として、中央政府による調査を求める書簡を全人代の呉邦国常務委員長に送った。【9月9日 時事】
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マカオ、香港とくれば、次は台湾は・・・ということになりますが、今日も長くなってしまったので、また別の機会に。香港にしても、台湾にしても、圧倒的な中国の引力にどこまで抗することができるかは疑問もあります。


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