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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  アメリカとの“危うい同盟”ますます脆弱化

2011-01-14 21:15:24 | 国際情勢

(説明がないので定かではありませんが、恐らく1月4日に暗殺されたパンジャブ州のサルマン・タシール知事の殺害犯人を支持・褒めたたえるパキスタン人ではないでしょうか  “flickr”より By umair azhar khan
http://www.flickr.com/photos/46861848@N03/5327469374/ )

武装勢力の楽園と化した部族地域 掃討に消極的なパキスタン
アフガニスタンでのタリバンとの戦闘に苦しむアメリカにとって、隣国パキスタン北西部の部族地域や南西部のバルチスタン州からアフガニスタンに新たなジハード(聖戦)要員が供給される流れを断てるかどうかが、作戦の成否のカギであることは周知のところです。アメリカはパキスタンにイスラム武装勢力掃討を以前から強く迫っています。

****米副大統領:パキスタンに武装勢力掃討へ協力求める*****
バイデン米副大統領は12日、パキスタンを訪問し、ザルダリ大統領やカヤニ陸軍参謀長らと会談。ギラニ首相との共同会見で、「過激な思想に協力して対抗していく」と語り、アフガニスタンとの国境地帯に潜伏する国際テロ組織アルカイダなどの武装勢力壊滅へ向け、パキスタン側の協力を求めた。(中略)
バイデン氏は11日、訪問先のアフガニスタンで、「我々は最終的にパキスタンのアルカイダを崩壊させる。アフガンをテロリストの避難所にしてはならない」と語り、武装勢力の中心拠点がアフガンではなくパキスタンにあるとの認識を示していた。
12日の会見では「安定し、民主的なパキスタンが我々の利益だ」と述べ、ザルダリ大統領・ギラニ首相の政権を支持する考えを表明した。【1月13日 毎日】
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しかし、アメリカ撤退後のアフガニスタンへの影響力も考えて、パキスタン側に本気でやる気があるのかどうか(多分、ないのでしょうが)疑われているのも、また周知のところです。

****タリバン幹部逮捕でもアフガン駐留米軍は憂鬱*****
パキスタン政府とイスラム原理主義勢カタリバンの双方の情報筋によると、パキスタン当局は12月中旬、タリバン関連の主要武装勢カハッカニ・ネットワークを率いるジャラルディン・ハッカニの息子、ナシルディン・ハッカニを逮捕した。彼らは5人でペシャワルから北ワジリスタン地区の部族地域に車で向かう途中、身柄を拘束されたという。
アメリカはパキスタン政府に対し、アフガニスタンとの国境付近でタリバン勢力への攻撃を強化するよう繰り返し求めてきた。しかし北ワジリスタンを拠点に、国境を越えてアフガニスタン駐留米軍への攻撃を続けるハッカニ・ネットワークは、野放し状態だった。
12月14日に米軍のマイク・マレン統合参謀本部議長が首都イスラマバーードを突如訪れ、パキスタン政府に「戦略上の焦燥」について伝えた。約1週間後の今回の逮捕は、アメリカからの圧力にパキスタンがしぶしぶ応じたものとみられる。
アラブ湾岸諸国に多くの親族がいるナシルディンは、資金調達の要とされる。パキスタン籍の複数のパスポートを使い、巨額の現金を集めてきたという。(中略)
 
パキスタンの情報機関である軍統合情報局(ISI)は、ハッカニ・ネットワークなどのタリバン勢力と親密な関係にあると言われている。パキスタン政府は今回の逮捕で米軍の信頼を高めようとしたのかもしれないが、北ワジリスタンで全面攻撃を行うつもりはまだない。
政府の警告は明白だと、あるタリバン指揮官は語る。「われわれはお前たちを誰でもいつでも逮捕できる、という意味だ」

国境は武装勢力の楽園
今回パキスタン当局は沈黙を続けているが、ある政府高官は逮捕の事実を認めた。アメリカ側へ事前の通告はなかったともいう。ナシルディンは政府がハッカニ・ネットワークに対する影響力を強めるための「人質」だと、この高官は語る。
5人の身柄はISI管轄下の隠れ家に移された。パキスタン政府の情報筋は、米情報機関がナシルディンに接触することはないとみる。彼の「自白」はパキスタンの情報機関とハッカニ・ネットワークの関係の深さを裏付けるだけだからだ。
アメリカは逮捕を間違いなく歓迎するだろうが、パキスタンヘの圧力が軽減されるところまではいかないかもしれない。
アフガニスタン駐留米軍のデービッド・ペトレアス司令官は、特殊部隊による国境をまたいだ攻撃計画を明らかにしている。武装勢力の楽園と化した部族地域への攻撃をパキスタンが速やかに強化しなければ、米軍の無人航空機による攻撃を増やす用意があることも隠していない。(後略)【1月12日号 Newsweek】
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パキスタン軍統合情報局(ISI)は軍の中枢であり、特にイスラム過激派との関係が強いことが知られています。

イスラム過激派の活動はアフガニスタンでのアメリカ軍に対してだけでなく、パキスタン国内を“テロ地獄”としてパキスタン政府を揺さぶっています。バイデン米副大統領が訪問中の12日にも、パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州バンヌー地区で警察署に車が突入して自爆しました。地元テレビが州政府高官の話として伝えたところによると、少なくとも17人が死亡、21人が負傷したとのことです。

政治混乱が続くザルダリ政権
一方、ザルダリ大統領、ギラニ首相率いる与党パキスタン人民党政権は、こうしたアメリカからの圧力、国内の反米感情、イスラム武装勢力のテロの板挟みになる形で、更に汚職問題や経済問題をめぐって“よれよれ”の状態です。
年末から年明けにかけて、汚職問題や経済政策をめぐる与党人民党との対立を理由に、連立を組んでいたムータヒダ民族運動(MQM)が連立から離脱する騒ぎがありました。
下院過半数割れに落ち込み行き詰まった政権に対し、野党イスラム教徒連盟シャリフ派のシャリフ元首相は改善要求をつきつけ、政権に激しく揺さぶりをかけていました。
ギラニ政権は今月1日から実施したガソリン価格値上げの撤回を明らかにし、MQMは7日、連立に復帰すると発表。これにより、ギラニ政権は再び下院で過半数を確保、政局の混乱はひとまず収束に向かっています。

****パキスタン政権 下院過半数割れ 対テロ・財政 失速****
パキスタンの連立政権が下院で過半数割れに陥り、崩壊の危機に直面している。だが、多数派となった野党側は即座の政権奪取に消極的で、政治混乱が当面続きそうな情勢だ。財政の立て直しや対テロ戦などの重要課題が停滞する恐れが出ている。

連立与党の一角だったムータヒダ民族運動(MQM)の政権離脱から1夜明けた4日、最大野党のイスラム教徒連盟シャリフ派のシャリフ元首相は10項目の要求をギラニ首相に突きつけた。
政府が発表した石油製品価格値上げの撤回、腐敗閣僚の一掃、物価の安定、政府支出の3割削減などの厳しい内容で、首相側が応じない場合は他の野党と連携する準備に入るとした。応じた場合はその後の45日間で政府の施策を評価するという。
首相を支える最大与党・人民党側は同党所属のパンジャブ州知事が同じ日に暗殺された喪に服しており、態度を明らかにしていない。

シャリフ氏は、要求が受け入れられない場合は「新たな国民の負託が必要だ」として解散・総選挙に追い込む考えを示唆した。ただ、即座に首相不信任案を提出して政権崩壊へと追い詰めることはせず、「寸止め」の構えだ。
この背景には、他の野党とも対立を抱えていることや選挙の準備が整っていないことに加え、「課題山積のいまのパキスタンですぐに政権を引き継ぎたくない」(地元政治専門家)との本音があるとみられている。
2008年3月に発足したギラニ内閣下でパキスタン情勢は悪化の一途をたどってきた。インフレが進み、物価は高騰。電力、ガス不足は深刻化し、計画停電が常態化。イスラム過激派や武装勢力によるテロも相次ぎ、政権への支持は急速に失われている。
MQMが連立離脱したのも「不人気の現政権から離れることで、次の総選挙への悪影響を食い止める狙いがあった」(パキスタン駐在外交官)とされる。

パキスタン政治に強い影響力を持つ国軍も別の理由から解散・総選挙を望んでいないとされる。すぐに選挙となれば、シャリフ派が有利だが、シャリフ氏は1999年のクーデターで軍によって政権を追われており、軍部に対して「歴史的な敵対意識がある」(地元紙編集長)とされる。
こうした事情から、当面、緊張をはらみながらも少数与党による政権運営が続く可能性がある。しかしそれは同時に、政治経済の混乱の拡大、長期化につながる。(後略)【1月6日 朝日】
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火中の栗を拾いたくない最大野党のイスラム教徒連盟シャリフ派も「寸止め」、連立相手のMQMは不人気の政権から距離を置きたがっている・・・というあたりに、パキスタンの置かれた現状の困難さが窺えます。
野党や軍の思惑もあって、なんとか生きながらえている現政権ですが、IMFから要請されている財政改革、アメリカから要請されている武装組織掃討作戦の大胆な実行はいよいよ難しくなっています。

穏健派知事暗殺 犯人は英雄扱い
今月4日には、パキスタンの政治家には珍しく、武装勢力とつながりがあるイスラム過激派や宗教右派を公然と批判する人物だったパキスタン中部パンジャブ州のサルマン・タシール知事が、イスラム教に対する冒涜法に批判的態度を理由に警護官に射殺される事件がありました。
80年代に導入された「宗教冒涜罪」では、違反者には死刑が適用され、暗殺されたタシール知事はこの規定の緩和を唱えていました。また、預言者を侮辱したとして死刑判決を受けたキリスト教徒女性の擁護も行っていました。
この事件は、パキスタン国内におけるイスラム過激派の浸透、そうした動きに対する防御の危うさを伝えています。

****知事殺害男、英雄扱い パキスタン「冒涜法」改正めぐり不穏*****
■裁判所で迎えたのは称賛と花びら
イスラム教に対する冒涜法に批判的だったパキスタン中部パンジャブ州のサルマン・タシール知事を銃殺した警護官の男が“英雄”として国内の宗教指導者らから称賛を受けている。こうした動きはタシール氏を追悼することさえ阻み、冒涜法改正への反対運動を勢いづけている。過激派の浸透に歯止めをかける政治勢力をも欠いた情勢は、テロとの戦いにも影響を及ぼしかねない。(中略)
 
しかし、こうした批判や冒涜法のあり方についても、同法改正反対の動きにかき消されている。法改正に反対する宗教指導者らは9日、南部カラチで大規模なデモをし、動員力を見せつけた。タシール氏に近いはずのザルダリ政権も早々に冒涜法改正はしないと表明。過激派の圧力に屈したともとれかねない態度に、テロとの戦いに対する政権の姿勢を不安視する声も出ている。ハイダー元法相は、「国内の穏健派が殺害され続ければ過激派とテロリストが国を乗っ取ってしまう」と危機感を募らせる。【1月12日 産経】
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なお、タシール知事のパンジャブ州では、最大野党のシャリフ元首相の弟が州首相を務めており、知事は、「シャリフ兄弟は口では過激派に反対しながら裏で支援に回っている」と両者を激しく批判していました。

“このむごたらしい暗殺劇の後も、他の穏健派の政治家や宗教指導者はタシールの遺志を継ぎ、もっと寛容なパキスタン社会の実現に取り組む勇気があるのかどうか。イスラム過激派と戦うアメリカとパキスタンの危うい同盟の行方は、この点に懸かっているのかもしれない。”【1月19日 Newsweek】とのことですが、ザルダリ政権も早々に冒涜法改正はしないと表明しており、“危うい同盟”はいよいよ危うくなりそうです。



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