
(いつも誰かに見られている・・・ロンドン・イズリントン 区全域に設置された監視カメラからの映像が、制御室のモニターに映し出される【4月5日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
【マイクロソフト ディストピア的未来を回避するため新たな法規制の導入を呼び掛け】
AIとビッグデータを駆使したサービス、および、そうした情報の公共利用が急速に広がった今日、利便性・公共性と個人のプライバシー(人権)をどのように両立させるのか・・・という問題が、現実的かつ重要な問題となっています。
プライバシーへの配慮が軽視された場合、いわゆる「監視社会」といった、近未来SF的ディストピア、あるいは、ジョージ・オーウェルの『1984』の世界が現実のものとなる危険性があります。
****顔認証技術に法規制を、マイクロソフト呼び掛け****
米マイクロソフトは6日、顔認証技術に関して一定の社内規定を設ける意向を明らかにした。他社にも同様の措置を講じるよう求めるとともに、ディストピア的未来を回避するため新たな法規制の導入も呼び掛けた。
同社のブラッド・スミス社長兼最高法務責任者は米首都ワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所で演説し、ジョージ・オーウェルが小説「1984年」で描いたような監視国家の誕生を防ぐためにも顔認証に制限を加えることは急務だと訴えた。
スミス氏は「欠かせない民主主義の原則は常に、どんな政府も法律より上であることはないという信条だ」と述べ、各国政府が顔認証技術を使用する際は規制の対象であるようにするため、新しい法律を導入する重要性を指摘した。
マイクロソフトはかねて顔認証に対する規制の必要性を指摘しており、顔認証技術の導入に透明性や人間による審査、プライバシー保護の措置を義務付ける法案が2019年にも議会を通るよう、同社が働き掛けを行っていくという。
また、今後同様の社内規定を設けるとともに、他のIT関連企業にも同様の措置を取るよう呼び掛けていくとしている。
スミス氏は加えて、個人のプライバシーや人権、自由に影響を及ぼす可能性のある大事な判断を下す時に顔認証のアルゴリズムが利用される際には「人間による意義ある審査」が求められ、さらに差別や偏見から個人を守ることが重要な要素となると強調した。
また、警察による顔認証の利用についても裁判所から命令があった場合や緊急時を除き、法律によって規制されるべきと指摘した。【12月7日 AFP】
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【最先端国・中国の「イケイケ」ぶり】
AIとビッグデータを駆使したサービス、および、そうした情報の公共利用が最も急速に進んでいるのは中国ですが、中国のような権威主義的な国家においては、個人情報保護に関する企業の倫理とか「市民による政府の“監視”の監視」といったメカニズムも期待できません。
そのことが、中国で急速にこの方面が進行している理由でもあるでしょう。
まさに「イケイケ中国!」の感があります。
****チップ内蔵の「スマート制服」、児童・生徒のずる休み防止で導入 中国****
中国南部の学校が、児童・生徒の無断欠席を防ぎ出席率を向上させるため、居場所を把握できるチップを内蔵した「スマート制服」を採用していると、同国の国営メディアが報じた。
このサービスを運営するテクノロジー企業によると、制服にチップを用いることで、児童・生徒の居場所を監視し、学校の出入記録を取ることができるという。
今年11月からスマート制服を導入しはじめた、貴州省にある小学校の校長は、「児童が学校に入ると、スマート制服がその児童の写真や動画の撮影を補助する」と説明。AFPの取材に対し、児童1400人のうち半数以上がスマート制服を着用していると述べた。
中国の国営タブロイド紙である環球時報が20日に報じたところによると、貴州省および隣接する広西チワン族自治区では、少なくとも10校がこの技術を導入しているという。
また同紙は、児童・生徒が許可なしに学校から出た場合、自動で音声アラームが作動するとし、さらには学校のドアに設置された顔認識装置と連動し、児童・生徒同士で制服を交換した場合も感知できる仕組みになっていると説明している。
貴州省にある別の学校の校長は同紙に対し、「放課後の児童・生徒の居場所を確認するのではなく、いなくなっていたり、さぼっていたりする場合、スマート制服は居場所の把握に役立つ」と述べた。
ただ、この校長によると、ハイテク制服によって出席率は上がったものの「大幅に」とはいかないという。また制服導入の主な理由は、チップと連携するアプリを使って児童・生徒に連絡や宿題を送信するためだと説明している。 【12月22日 AFP】
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****北京市民を監視、点数化の新制度 移動やネット行動、処罰も****
中国・北京市が2020年末までに、交通などで市民が取った行動を数値で評価し、高ければ高いほど便利に行政サービスを受けられる「個人信用スコア」制度を導入する。
市民の順法意識を高める目的とされるが、政府などによる「監視社会」がいっそう強化されることにもなる。
北京市では、全市民を対象に公共サービスや移動、起業、求職活動などで評価がされ、ルールを守れば便利なサービスを提供するとして、具体的な内容を詰めている。
一方でブラックリストに載った人は記録が公開され、「一歩も歩けなくなる」(北京市)ほど厳しい処罰があるとしている。北京市は「より公平で透明で、予測可能な市場環境をつくるため」と説明する。
中国政府は14年、「わが国は法を守る意識が希薄だ」として、20年までに全国で信用スコア制度を整える計画を発表した。たとえば、インターネットでネット詐欺やデマの書き込みをすれば、ブラックリストに載ってネット上の行動を制限されたり禁止されたりする。
北京市の新制度もこの一環。ほかにも浙江省杭州市で同様の計画があり、信用評価が高ければ、家を借りるときや図書カードを作るときに保証金を免除されるといった特典を受けられる。江蘇省蘇州市や福建省アモイ市なども同様の計画を発表している。
中国政府は今年7月、新車のフロントガラスに電子タグをつけることを求める制度を始めた。道路に設置された読み取り機で、車がどこを通行したか分かる仕組みだ。
中国政府は「渋滞や公害を抑えるため」と説明しているが、交通違反の取り締まりや犯罪捜査にも使われるとみられる。【12月23日 朝日】
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****中国スマホアプリの大部分に「個人情報を過剰に収集」する機能****
中国消費者協会は11月28日、スマートフォン用アプリ100種を検査したところ、多くの製品が個人情報を「過剰に収集」している疑いがあると分かったと発表した。
同発表は当初、さほど注目されていなかったが、香港で発行される英字紙のサウスチャイナ・モーニング・ポストが取り上げ、続いて中国メディアが取り上げるなどで12月3日現在、関心を集めつつある。
中国消費者協会は、ボランティア・スタッフの協力を得て、8月から10月の期間中に、SNS、動画関連、ショッピング、決済、ナビゲーション、金融、旅行、ニュース、メール、画像関連の10ジャンルのアプリケーション100種を、米アップルが運営するApp Storeと、アンドロイド用アプリを扱う安卓市場(HiMarket)を利用してダウンロードしてもらった。それぞれのアプリを利用してもらった後に、各アプリの個人情報に関連する「挙動」を調べた。
中国消費者協会によると、10ジャンルのアプリケーションすべてで、個人情報を過剰に収集している疑いが持たれた。アプリ59種に位置情報を、28種では通信記録情報を、23種では身分情報を、22種では電話番号を不必要に収集している疑いがある。
また、大手企業が提供しスマートフォン所有者ならたいていの人が利用している「消費者常用アプリ」には問題が少なく、中小企業が提供するアプリには問題が多い傾向も顕著だった。(中略)
中国消費者協会によると、アプリ47種では利用に際しての約款に不備があり、うち34種では個人情報の扱いについての表示がなかった。
中国消費者協会は、個人情報保護のために、新しい立法措置が必要と提言。また、社会全体に個人情報保護の意識が必要と主張した。【12月4日 レコードチャイナ】
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最後の記事は、中国消費者協会による調査結果であり、中国国内にあっても一定に問題意識が持たれてはいるようです。
【「中国監視社会」の誤解・誇張の指摘も】
なお、中国の「監視社会」化に関する誤解・誇張や実態については、以下のような指摘も。
****中国の“監視社会化”は本当にコワいのか? 中国人の意識の低さをナメてはいけない****
激動の中国IT事情。「スゴい」と称賛される裏側の実態を、『 八九六四 』『 さいはての中国 』などの著書がある安田峰俊、『 中国のインターネット史 』著者の山谷剛史という、中国ライター2人組が引き続き語り尽くす。(中略)
「中国では借金を踏み倒すと飛行機に乗れない」はウソ
山谷 該当の記事(「上海で異変、日本人がどんどん逃げ出している! 」【JBPress】)は、政府のビッグデータである「社会信用システム」と、民間企業のビッグデータの「信用スコア」を混同していることで、実態以上に監視社会化への懸念を指摘する内容になってしまっているんです。
安田 (中略)信用スコアというのは、アリババ系列のセサミクレジットが提供している「芝麻信用」のような、民間企業が持つ利用者情報です。これと「社会信用システム」は別のものですよね。
山谷 はい。「社会信用システム」というのは、中国当局の価値観でいう「ダメな人」の社会生活を制限する公的なシステムです。つまり、借りたお金を返さない人に罰則処分を与えたり、政府として電車や飛行機の利用が好ましくないとみなした人にそれらを利用させない、といった処理をおこなうためのデータベースと、その運用システムのことなんです。
安田 これは当局に批判的な人権活動家などの社会生活を妨害するために使われる可能性もありますし、人権の観点からもかなり問題があります。ただ、このブラックリストに入るには、(中国の基準における)相当な「ダメな人」にならないと難しいでしょう。
山谷 そういうことです。いっぽうで「信用スコア」は、クレジットカードを通じた立て替え払いがあまり普及していない中国で、その代替として広がったアリペイなどのオンライン決済マネーを支える信販機能のデータのことです。大まかに言えば、「お金を立て替えたりモノを貸したりしても大丈夫な人か?」をジャッジするためのデータです。
もちろん借金を踏み倒したりすれば、当局の「社会信用システム」のデータも、民間の「信用スコア」も低下します。それに、いつかは社会信用システムと民間の信用スコアが相互につながることがあるかもしれません。しかし少なくとも現時点では、それぞれのデータ内容は影響し合っていません。
アリペイよりも「Suica」の方が便利?
山谷 中国IT関連の微妙な言説といえば「中国の都市部のキャッシュレス率は98.3%」というものもあります。でも、常識で考えてそんなわけがない。
安田 QRコードを使ったキャッシュレスの普及は事実ですが、体感として98.3%は多すぎますね。なんでこんな数字が?(中略)
山谷 ちなみにオフィシャルな数字では普及率は約43%となっています。(中略)
中国の監視社会化、どのくらい恐い?
安田 中国サイバー社会の闇として語られることが多いのは、現地の監視社会化です。世界最多の監視カメラが国内に設置され、大都市では顔認証機能やAIも活用した個人の特定や追跡も可能になっている。中国で悪いことはできない、と言われます。
山谷 ですね。確かにどの程度までかわからないけど導入されている。ただ、「危なさ」の実態を把握することも大事です。例えば昨年から話題の無人コンビニですが、社員に聞いたところ監視カメラは犯罪抑止にしかなっていないと言うんですよ。犯人逮捕を目指すとすごくコストがかかるので、実態としては簡易システムにとどまっているとか。
安田 街角に大量にある監視カメラは不気味です。しかし、中国ってメリハリの大きい国なので、監視システムが本気でマークしているのは体制の脅威になる人たちに限られているような感じはあります。例えば、ウイグル人をはじめとした少数民族や、民主化運動・人権関連運動の関係者の行動ですね。
あとは、外国人のジャーナリストや企業の上層部の人の行動。(中略)
でも、政治的な側面を持たない一般庶民は、体制の脅威にならないから放置に近いんじゃないかなあ。(中略)
「現場の人が中国人」という現実
安田 特定の人間を追跡するパターンはともかく、怪しい人を「人力でふるいにかける」薄く広い仕事は、実際はかなり適当にしかやっていないと思う。「中国は人間が多い(だからきっちりと調べるのはめんどくさい)」みたいな、毎度おなじみの理由で現場が動いていそうな……。
山谷 中国人、真面目にやるときとやらないときの差がものすごいですし、監視業務をそこまで真剣にやるとは思えないですよ。地下鉄の手荷物検査も、一応はあるけれど現場の人はめちゃくちゃ雑ですしね。
安田 「現場の人が中国人」という事実が、中国の監視社会化に一定の歯止めを与えているような気がします。仮に現場の人が日本人なら、常に本気でチェックするし、仕事と給料が釣り合わなくても真面目に働くので、国民の行動を一人残さず監視する恐怖のディストピア社会が出来上がりかねないんですが(笑)。
山谷 うん。中国でなにかが広範に運用されるときの、現場の人の仕事ぶりの標準化されてなさとか、意識の低さをナメちゃいけないですよね。【11月26日 文春オンライン】
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面白い指摘ではありますが、“一般庶民は、体制の脅威にならないから放置に近い”とか“意識の低さをナメちゃいけない”とか言っていると、そのうち痛い目にあうことも・・・・。権力が気にかける人々への監視は、社会全体の行き先を規定することにもなります。
【「監視社会」進行において、中国と日本・欧米の間には明確な線はない】
いろいろあるにしても、中国においてAIとビッグデータを駆使したサービス、および、そうした情報の公共利用が急速に進行しているのは事実で、中国における個人情報・プライバシーに対する配慮の欠如から、その行くつく先はディストピア「監視社会」なのか?
ただ、特異的な中国が日本や欧米とは異質なルートでおぞましい「監視社会」のディストピアに向かっているというのも、単純化に過ぎるでしょう。
これから起こる社会現象においては、中国と日本・欧米の間には明確な線はないとの指摘も。
****中国の「監視社会化」を考える(1)──市民社会とテクノロジー****
監視社会化が進む中国?
近年の中国社会における急速なITの普及、生活インフラのインターネット化は、膨大な個人情報の蓄積とそれを利用したアーキテクチャによる社会統治という新たな「管理社会」「監視社会」の到来という状況をもたらしています。
一方では町中に監視カメラが設置され、交通違反をした市民が大スクリーンで顔写真付きでさらされるなど、比較的原始的な「見せしめ」が行われている。
そうかと思うと、地方政府などが行政機関を通じて入手した市民の個人情報を統合して市民の「格付け」を行う社会信用システム、あるいはアリババ傘下の企業が提供するセサミクレジット(芝麻信用)に代表される、日常行動によって個人の支払い能力などの「信用度」を点数付けし、新たなビジネスにつなげようとする社会信用スコアなど、AIとビッグデータを駆使したサービスが急速に広がった結果、中国社会が「お行儀よく」なった、という指摘もよく聞かれるようになっています。(中略)
ビジネス誌でも相次いでこう言ったテーマでの特集を組んでいますが、いずれも中国の事例がネガティブなトーンで紹介されています。
一方で、いわゆる現代の「監視社会」をめぐっては、これまでも欧米や日本などの事例を中心に、膨大な議論の蓄積があります。
その中には、比較的単純な、「監視社会」をジョージ・オーウェルの『1984』で描かれたように人々の自由な活動や言論を脅かすディストピアと同一視し、警鐘をならすようなものもありますが、そういった議論はむしろ下火になってきています。
それに代わって、近年の議論はテクノロジーの進展による「監視社会」化の進行は止めようのない動きであることを認めたうえで、大企業や政府によるビッグデータの管理あるいは「監視」のあり方を市民(社会)がどのようにチェックするのか、というところに議論の焦点が移りつつあります。
もちろん、習近平への権力集中が強化される現代中国において、そのような「市民による政府の「監視」の監視」というメカニズムは望むべくもありません。
それでは、中国のような権威主義的な国家における「監視社会」化の進行は、欧米や日本におけるそれとは全く異質な、おぞましいディストピアの到来なのでしょうか。
しかし、「監視社会」が現代社会において人々に受け入れられてきた背景が利便性・安全性と個人のプライバシー(人権)とのトレードオフにおいて、前者をより優先させる、功利主義的な姿勢にあるとしたら、中国におけるその受容と「西側先進諸国」におけるそれとの間に、明確に線を引くことはできませんし、そのように中国を「他者化」することが問題解決につながるとも思えません。(後略)【12月5日 梶谷懐氏(神戸大学大学院経済学研究科教授で中国経済論が専門) ニューズウィーク日本版】
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上記の話は、アジア・中国における「市民社会」、「公」と「私」の関係という根本的な問題に入っていきますが、関心のある方は原文にあたってください。
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