孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  国民の4割が「10年以内の内戦ありうる」と考える不穏な分断社会

2022-10-31 22:56:28 | アメリカ
(『侍女の物語』のコスチューム姿で最高裁に抗議する女性【7月2日 Newsweek】)

【キリスト教原理主義勢力によって誕生した白人至上主義・女性の権利否定の宗教国家「ギレアデ共和国」】
ギレアデ共和国・・・・「そんな国があったかな?」と思われた方、正解です。
カナダの作家マーガレット・アトウッドのディストピア小説「侍女の物語」に登場する、アメリカの近未来とされる架空の世界です。

ドラマ化もされて動画配信されていますので、ご覧になった方も多いかも。
私も原作は読んだことはありませんが、ドラマの方は入口部分だけ少し。

****「侍女の物語」作品世界****
舞台であるギレアデ共和国は、近未来のアメリカにキリスト教原理主義勢力によって誕生した宗教国家である。

有色人種、ユダヤ人を迫害し他の宗派も認めない。内戦状態にあり国民は制服の着用を義務づけられ監視され逆らえば即座に処刑、あるいは汚染地帯にある収容所送りが待ちうけている。

生活環境汚染、原発事故、遺伝子実験などの影響で出生率が低下し、数少ない健康な女性はただ子供を産むための道具として、支配者層である司令官たちに仕える「侍女」となるように決められている。【ウィキペディア】
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特に、(支配階級以外の)女性の権利が剥奪され、性的に搾取され、支配階層の子孫を生むためだけの存在に貶められるところが、作品の核心になります。

そのため、先般の米最高裁の中絶に関する従来の考えを覆す、女性の出産・中絶に関する選択を否定するような判断が示されたときは、上記「侍女の物語」のドラマで“子供を産むための道具”「侍女」達が着用を強要された赤い制服姿で抗議する市民の姿がありました。

(最初の1,2話しか観ていませんが)ドラマは、私的には、エンタテインメントとしてはやや盛り上がりにかけるような感じあって、観るのをやめました。
それに、「自由の国」アメリカで内戦が起き、自由・人権が全く認められない、全体主義的な、徹底した階級社会が出現するという想定にいまひとつ乗れない感じもあって・・・

【「分断社会」で広がる“敵対勢力”への暴力】
しかし今、「分断社会」アメリカでは、“内戦の危機”がまったく荒唐無稽でもないような、特定の価値観を絶対視して、背くものは徹底的に排除する、場合によっては暴力を使ってでも・・・そういう社会の到来がまったくの荒唐無稽でもないような・・・そんな雰囲気が漂い始めています。

周知のように、トランプ前大統領支持勢力による議会襲撃の案件もまだ尾を引く状況で、今度はペロシ下院議長の自宅が襲われる事件が。

****米下院議長の夫、自宅で襲われ負傷 侵入者「ナンシーはどこだ」****
ナンシー・ペロシ米下院議長の夫ポール氏が28日未明、カルフォルニア州サンフランシスコの自宅に侵入した男にハンマーで襲われ負傷し、病院に搬送された。警察が発表した。

ペロシ氏は当時、首都ワシントンに滞在していた。警察は、男の動機については調査中だと説明。一方で米メディアは、男が「ナンシーはどこだ」と叫んでいたと伝えており、政治的な動機があった可能性がある。

警察の発表によると、警察官が午前2時半(日本時間午後6時半)ごろ現場に到着した際、ポール氏と男は同じハンマーを手にして取っ組み合いとなっていた。男はハンマーを奪い、ポール氏に暴行を加えたという。

男は身柄を拘束され、デービッド・デパピ容疑者と特定された。殺人未遂や不法侵入などの罪で訴追される見通し。

ペロシ氏の報道官によると、ポール氏は搬送先の病院で「素晴らしい治療を受けており、完全に回復する見込み」という。

米紙ウォールストリート・ジャーナルは匿名の警察官の話として、容疑者はソーシャルメディア上に新型コロナウイルスをめぐる陰謀論などの極右過激思想を投稿していたと伝えている。

ジョー・バイデン大統領はカリーヌ・ジャンピエール大統領報道官を通じ出した声明で、「あらゆる暴力を非難する」と表明した。

米国は2週間後に中間選挙を控えており、民主・共和両党が政治的動機に基づいた暴力事件が起きる恐れに警鐘を鳴らしていた。議会警察によると、議員に対する脅迫は2017年以降、2倍以上に増加している。 【10月29日 AFP】**********************

****トランプ・カルトが今度はペロシ下院議長宅を襲撃****
(中略)
トランプ追及の急先鋒、ペロシ氏を標的に
ペロシ邸を襲ったのは、サンフランシスコ近郊の大学町バークレー在住のデービッド・デパピ容疑者(42)。
カナダ・ブリティッシュコロンビア州で生まれ、20歳の時にカリフォルニア州に移住、当初は女性用ブレスレットの販売をしていた。

サンフランシスコといい、バークレーといい、リベラル派の牙城。
容疑者はそうした生活環境の中でSNSを通じて極右団体、QAnonの主張に共鳴、2020年大統領選の結果を全面否定する「陰謀論者」になっていったという。

CNN取材班によれば、デパピ容疑者は黒人やユダヤ人を忌み嫌い、米議会襲撃事件特別委員会設置に真っ向から反対(同委員会設置や委員人選はペロシ氏のリーダーシップによるところ大)。

2020年に黒人のジョージ・フロイドさんを射殺した警官を有罪にした裁判を「現代のリンチだ」と反駁する意見をフェイスブックに投稿していた。(中略)

不気味なトランプ氏、連鎖反応に危機感
すでに触れたが、今回の事件、言ってみればペロシ襲撃未遂事件の背景には、トランプ氏の影がちらつく。
トランプご本人はその意図はないだろうが、容疑者はサイバー空間の中ですっかり「トランプ・カルト」の一員になってしまっているからだ。

事件発生の10月28日、トランプ氏は自前のソーシャル・メディア・プラットフォーム「Truth Social」で、襲い掛かる法的難題(特別委員会の召喚)を取り上げ、連邦裁の判事を罵り、30日に決選投票で決まるブラジル大統領選では保守派のジャイール・メシアス・ボルソナロ候補(現職)にエールを送ったものの、ペロシ邸侵入・傷害事件には一切触れなかった。その点についてコメントを求めたメディアにも何ら回答していない。(後略)【10月31日 高濱 賛氏 JBpress】
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【ささやかれる「内戦」の可能性】
バイデン大統領は今回のペロシ氏自宅襲撃に関して「政治をめぐる暴力や憎しみがあまりに多すぎる」「もうたくさんだ」「政治的思想にかかわらず、暴力に対して立ち上がるべきだ」とも。しかし「分断社会」では内戦の可能性を一笑に付すことができないような社会的雰囲気が醸成されつつあります。

****世論調査で米国民の4割 「10年以内の内戦ありうる」****
米国では、「The Civil War(内戦)」と言えば、1861年から65年の南北戦争を意味する。それから150年余りを経て、米国ではいま、「第2次内戦」の可能性がささやかれている。

直接の契機は、昨年1月6日に起きた、連邦議会襲撃事件だ。これは、大統領選挙で敗れたトランプ大統領(当時)の「大規模な不正があった」という根拠のない主張に呼応した支持者たちが、議事堂になだれ込んだものだ。

立法府という民主主義の中枢が自国民によって襲撃されたこの事件は、米国民に大きな衝撃を与えた。

その後、世界各地の内戦を分析して、米国で内戦が起きる可能性に警鐘を鳴らした、カリフォルニア大学サンディエゴ校の政治学者バーバラ・ウォルター氏の著書『How Civil Wars Start(内戦はどう始まるか)』が大きな反響を呼ぶなど、米国社会では「第2次内戦」の恐れが、荒唐無稽な話ではなく語られるようになっている。

11月8日の中間選挙投開票日を前に、民主、共和両党の争いが激しくなるなかで、「内戦」という言葉がネット上で急増した出来事があった。

連邦捜査局(FBI)が8月、スパイ防止法違反などの容疑で、フロリダ州のトランプ氏の私邸マール・ア・ラーゴを家宅捜索し、トランプ氏が退任時に持ち去った機密文書を押収した。これに対してトランプ氏や支持者が強く反発し、支持者の間で人気があるGab、Telegram、Truth SocialといったSNSでは、「弾を込めろ」「内戦」といった言葉が急増したという。武装した男がオハイオ州のFBI事務所に侵入しようとし、射殺される事件も起きた。

調査会社ユーガブが8月下旬に実施した世論調査では、10年以内に米国で内戦が起きる可能性について「非常にあり得る」が14%、「いくらかはあり得る」が29%で、合計43%に達した。特に、「強固な共和党支持」と答えた人の中では、「内戦はあり得る」という答えは54%にのぼった。【10月30日】
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****アメリカが直面する内戦の危機と中絶問題──武装化したQAnonやプラウドボーイズ****
<カリフォルニア大学のグループが行った調査で、半数以上が数年以内にアメリカで内戦が起きると回答した......>

日本ではほとんど報道されることはないが、アメリカでは多くの国民が内戦を現実起こり得る脅威として認識している。カリフォルニア大学のグループが行ったアメリカ全土を対象にした調査では、半数以上が数年以内にアメリカで内戦が起きると回答したほどである。(中略)

中間選挙に先だって極右などの過激な運動が広がる、反LGBT+運動の増加と暴力化、もっとも最近のレポートでは中絶問題に関係したデモなどに武装化グループが中絶反対派として参加し、暴力化が進んでいることを指摘している。

いずれも極右、陰謀論者、白人至上主義などのグループが引き起こすものだ。最近では中絶問題が拡大し、アサルトライフルなどで武装化したグループが中絶擁護グループを襲撃する事態となっている。

近著の『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)でも紹介したように、アメリカではこうしたグループの勢力拡大と武装化が進んでおり、さまざまな社会問題に顔を出すようになっている。

たとえば、反ワクチン、親ロシア反ウクライナなどの活動にもこれらのグループが参加している。プーチンとトランプを支持していることが多く、先日はトランプ支持者がFBIの支局を襲撃しようとして射殺される事件も起きた。現在のアメリカはいつ暴動が起きてもおかしくない状況なのだ。

政治的暴力のターゲットとなった中絶問題
アメリカ国内で中絶関連のデモは増加傾向にある(中略)銃器での武装も増えている。

たとえば2022年6月28日、アイダホ州議事堂の外で、アサルトライフルで武装したプラウドボーイズなど200人の中絶反対集会と、最高裁判決に反対するデモの参加者の間で戦闘が発生している。また、最高裁判決当日の夜には、極右組織Three Percentersが、ゴルゴ13が愛用していたことで知られるアサルトライフルM16で武装していた。

こうした反主流派のカルトグループの活動と、中絶反対運動の関わりは今回は初めてではなかった。(中略)こうしたグループは、政府が白人を非白人に置き換えようとしている陰謀論「グレート・リプレースメント(great replacement)」を信じており、白人の減少を食い止めるために中絶に反対し、移民にも反対している。白人至上主義者に通じる部分が多い。

こうしたグループの中絶に関わる活動は2022年5月初旬から活発になり、6月に入るとさらに拡大した。インターネット上には、偽情報、それにともなう恐怖の拡散、暴力行為の誘発、不正確な誤った健康情報などが広がった。QAnon、プラウドボーイズ、Janeʼs Revengeなどのグループが影響力を拡大する好機ととらえて積極的にこうした情報の拡散に関与していることがわかっている。(中略)

ここまで読んで、「そんなおおごとになっているのか?」と思った方も少なくないだろう。残念ながらアメリカ各地で放火や暴力事件が発生し、中絶擁護のデモにアサルトライフルで武装した集団が現れ、国土安全保障省が注意を呼びかけ、FBIが乗り出しているのは事実である。それだけ事態が深刻であり、その事態を引き起こしているグループの力が増大しているのだ。

QAnonやプラウドボーイズなどがアメリカ社会に広がっている状況については、以前の記事でも紹介した。共和党の4人に1人がQAnon信者という調査結果もあり、多数の死傷者と逮捕者を出した2021年1月6日の議事堂襲撃事件を共和党が大会で「合法な活動」と決議したことからもわかるように、陰謀論、極右などのグループはアメリカ社会に浸透している。

そして、SNSプラットフォームを利用し、アドネットワークなどから多額の収入を得て、それをリクルーティングや武装化の資金にしている。反中絶グループもまた潤沢な資金を背景にした巨大な組織なのである。

巨大組織としての反中絶グループ
(中略)

断と武装化で火薬庫となったアメリカ
アメリカ社会の分断は深刻だ。貧富の差、人種差別、SNS、そして選挙のたびに各候補者が繰り広げるネット世論操作がそれを加速している。以前の記事で紹介した通りだ。

多くの国がそうであるように、アメリカにも人種問題、経済、中絶といった課題が多数ある。他の国と異なるのは潤沢な資金と武器を持った多数の過激なグループが存在する点だ。

中絶問題は氷山の一角に過ぎない。過激なグループは次々と新しい問題をテーマに暴力的な活動を広げてゆく。

同様の傾向は他の国にもあり、アメリカで火がつけば飛び火する可能性がある。日本でも似たような事態に陥っているので他人事ではない。

アメリカ政府は陰謀論や極右を信奉する一部の国民への影響力を失っている。政府の声はもちろん、民主主義的価値感が影響力を持たない情報空間ができている。

物理的には同じ土地に暮らしながら、異なる文化圏の異なる価値感に基づく人々が独自の勢力圏を構成している。権威主義国ならばこうした勢力圏を強引に破壊できるが、民主主義を標榜する国では難しい。民主主義を標榜する国にとっては国内の分断された情報空間の扱いが大きな課題になっている。【8月19日 一田和樹氏 Newsweek】
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「内戦」と言っても、南北戦争のように統率された軍同士が大規模な戦闘を繰り広げるようなものではなく、思想を共有する民兵組織などの集団が、政府機関や政治指導者に対するテロ攻撃やゲリラ戦を仕掛けるというのが、多くの識者が想定する「内戦」の姿です

前出カリフォルニア大学サンディエゴ校の政治学者バーバラ・ウォルター氏の著書『How Civil Wars Start(内戦はどう始まるか)』が提示する仮想シナリオは以下のようにも

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2028年の大統領選挙でカマラ・ハリス氏が勝利し、初のアフリカ系・アジア系女性大統領の誕生が決まる。

その1週間後、ウィスコンシン州議会の議事堂で下院議長が演説中に、突然大きな爆発が起きる。爆発はミシガン州など複数の州議会議事堂でも同時に起きていた。

数日後、ネット掲示板「8kun」には、「マイノリティーとエリートの極左政治家が国を乗っ取ろうとしている」と訴えて蜂起を呼びかける匿名の文書が投稿される。

各地では右派の民兵組織による攻撃が起こり、対抗する左派の民兵組織もつくられていく。そして国民は、どちらの側につくか選択を迫られるようになる──。
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トランプ大統領が勝利再選した場合でも、そのことへの抗議行動が一部過激化、それに対抗してトランプ支持勢力が攻撃・・・各地に衝突が拡散・・・といった仮想シナリオもありうるかも。

【「内戦」を可能とする「武器」も潤沢に存在】
なんといってもアメリカ民間には「武器」が山ほどあります。それも戦場で使用するようなアサルトライフルが。
常々、「どうしてそんな戦闘用武器まで野放しになっているのか?」と疑問だったのですが、将来起こるかもしれない「内戦」では活躍する武器でしょう。邪推でしょうが。

もともと銃を持つ権利を認める憲法修正第2条は、国家の安全を守る「民兵」の銃所有を認めるものです。
「独立戦争当時ではあるまいし、民兵を想定した規定なんて、21世紀の今時何の意味があるのか?」と思っていましたが、“将来起こるかもしれない「内戦」”を考えると、非常に現実味がある規定です。

“アメリカ社会のあるべき価値観を揺るがす敵”を排除するために武器を持って立ちがる・・・という集団・個人にとっては、憲法修正第2条が想定する世界はまさに「現実」なのでしょう。

そうした思想を広める場となるSNS世界でも、過激思想・陰謀論を助長するような心配な動きが
“ツイッターを買収したイーロン・マスクは陰謀論者?ペロシ夫襲撃について、トンデモ理論を支持”【10月31日】

もちろん、いくら衝突が起こっても、巨大な警察あるいは州兵組織が鎮圧行動にでれば、それ以上は拡大しないでしょうが、逆にそういった組織の幹部が過激思想・陰謀論を共有していれば、衝突を黙認、暗に手助けするといったことも。

かくしてアメリカに「ギレアデ共和国」成立・・・

冒頭「侍女の物語」が描くような人権否定・全体主義・階級社会なんて非現実的だ・・・とも思えますが、“正妻に子どもができない時、跡継ぎを作るために2人目、3人目の妻を迎えることは、特権階級の男性がかつてどの国でも行ってきた。体制に反抗する人々を強制収容所に入れて劣悪な環境で死ぬまで働かせる独裁国家は今も存在する。同性愛を禁じたり死刑にしたりする国は今もある。”【2021年1月16日 治部れんげ氏 VOGUE】という現実を考えれば、アメリカに自由・人権を擁護するこれまでの価値観を否定するような「ギレアデ共和国」が出現する可能性はないとも言えないでしょう。

他愛もない「妄想」ですめば幸いですが。
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