孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「死の商人」ボウト被告 タイからアメリカへ身柄引き渡し

2010-08-20 21:59:56 | 世相

(映画「ロード オブ ウォー」(主演:ニコラス ケイジ) “flickr”より By ProfessorMortis http://www.flickr.com/photos/professormortis/165695679/)

【映画「ロード・オブ・ウォー」のモデル】
「死の商人」と呼ばれる世界の紛争に絡む武器密売人を描いた05年の米ハリウッド映画「ロード・オブ・ウォー」の主人公のモデルとされるビクトル・ボウトは現在タイで拘束中ですが、引き渡しを要求していたアメリカへの引き渡しを認める決定をタイの高等裁判所が下しました。

ボウトはロシア軍の元士官で、アメリカのテロ対策当局や情報当局からは究極の「国際犯罪人」と見なされてきました。アフガニスタンのタリバンや、スーパーモデル・ナオミ・キャンベルさんが「血のダイヤモンド」を受け取ったという話題で注目を集めているリベリアの独裁者テーラー元大統領(シエラレオネでの内戦における人道に対する罪で裁判中)、その他数々の「ならず者」政権や麻薬密売人、犯罪組織に武器を提供してきたとされています。
なお、映画「ロード・オブ・ウォー」は、ボウトについて比較的好意的に描写しているせいか、ボウトよりテーラー元大統領の異常さが強烈な印象を残しています。

****タイ:「死の商人」米国へ引き渡しへ****
バンコクの高等裁判所は20日、タイで拘束中のロシア人武器密売業者、ビクトル・ブート被告(43)を米国に引き渡す決定を下した。「死の商人」と呼ばれる同被告は、コロンビアの左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)に地対空ミサイルなどの武器を密売したとして米国で起訴されており、3カ月以内に身柄が引き渡されて米国で裁判を受ける見通し。
同被告は旧ソ連軍出身で、ソ連崩壊後に同国軍の武器をアフリカなどの紛争地に横流しして大物武器密売人の地位を築いた。(中略)
同被告は08年、バンコク滞在中に米捜査当局の情報提供を受けたタイ警察に逮捕された。米国は身柄引き渡しを求めたが、タイの下級審は昨年8月、被告には政治犯の要素があるなどとして引き渡しを拒む決定を下していた。【8月20日 毎日】
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【関与が疑われるロシアの圧力】
上記記事にもあるように、昨年タイの下級審で、アメリカ政府からの身柄引き渡し請求が却下されていました。
これについては、ボウトの「仕事」に関与したとみられるロシアが、事実が公にされるのを恐れ圧力をかけているとも言われていました。

****ロシアがかばう「死の商人」******
・・・・米政府関係者を激怒させているのは、ロシアが全力を挙げてボウトのアメリカへの身柄引渡しを阻止しようとしていることだ(おいしい石油の取引までチラつかせている)。ボウトが長期間アメリカで服役するようなことになれば、ロシア軍や公安当局上層部の武器密輸への関与について口を割るかもしれない、とロシア軍は恐れている。
ロシア下院は昨年、ボウトの「違法な起訴」を非難する決議を採択。今年2月にタイが初めてロシアから軍用ヘリコプター6機を購入したのも偶然ではないと、米政府関係者は語る。「ロシアがここまでやるとは驚きだ」と、米司法当局者は言う。「ボウトが知っていることは多い。その人脈はロシアの上層部までたどり着く」

オバマ政権の高官も、最近になってボウトの引渡しに動き出している。ヒラリー・クリントン国務長官とエリック・ホルダー司法長官は、タイ政府にこの問題に関する懸念を示した。デビッド・オグデン司法副長官は今月13日にタイの法相と会談し、ボウトの身柄引き渡しは「アメリカの重要案件」だと伝えた。
だがアメリカの情報当局や司法当局の関係者は、オバマ政権の関心があまりに低く、遅きに過ぎるのではないかと危惧している。【09年10月20日 Newsweek】
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今回の高等裁判所の決定は、アメリカの巻き返しが成功したということでしょうか。

【「死の商人」の武器密輸と国家による武器輸出】
いずれにしても、世界中で毎日多くの犠牲者を出している多くの紛争は、武器・弾薬を何処からか、誰からか調達しているから可能なのであり、この武器・弾薬の調達ルートを抑えれば紛争も続けられません。
その意味で「死の商人」摘発は歓迎すべきことですが、武器・弾薬の密売は個人・民間人だけどうにかなるものではなく、国家・軍などの関与が推測されます。

「死の商人」など介さずに、国家が主導して密輸にかかわることもあるようです。
****北朝鮮が中国からミサイル装置密輸入、消息筋伝える****
北朝鮮に詳しい消息筋は19日、北朝鮮が4月に中国企業を通じ、ミサイルなどの発射に必要な先端計測機器を密輸入していた事実を韓国政府当局が把握したと明らかにした。一般機械と偽った書類を作成するやり方で北朝鮮に持ち込まれたという。
こうした計測機器は、国連安保理決議1874などで北朝鮮への輸出が禁じられている。昨年4月、北朝鮮が長距離ミサイルを発射した際には米国製の計測機器が使われたとされ、韓米はこうした物資の対北朝鮮輸出を監視してきた。政府当局は、今回密輸された機器も同様に、今後の北朝鮮のミサイル発射に使用される可能性があるとみている。・・・・【8月19日聯合ニュース】
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もっとも、民間人「死の商人」による武器密輸と、アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国など「大国」が国家として行っている武器輸出の間にどれだけの差があるかという話になると、判然としないものもあります。


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