孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チャイナリスク  香港問題で米中の板挟みに状態となった米プロバスケットボール協会

2019-10-10 23:01:44 | 中国

(レイカーズ対ネッツ戦のポスターをはがす作業員【10月10日 WSJ】)

 

【中国側の怒りとアメリカ国内の批判の板挟みに】

人権・自由・民主主義という基本的な価値観において欧米・日本と大きく異なる中国ですが、中国に進出する民間企業にとっては中国は経済市場としては無視できない存在、場合によっては死活的に重要な存在となります。

 

そこで生じるのが、中国側の政治的な要請・圧力による「チャイナリスク」です。

 

いま、アメリカのプロバスケットボール協会NBAが「香港問題」に関して中国側の激しい怒りを買い、一方では政治問題化した今となっては“引くに引けない”状況にもあって、困難な立場にあります。

 

最初に確認しておくと、中国におけるNBA人気、あるいは、NBAにとっての中国市場というのは格別のものがあるようです。

 

****NBAと中国の提携が危機に、お金はゼロになる可能性―米メディア****

米プロバスケットボール協会(NBA)のヒューストン・ロケッツのゼネラルマネジャー(GM)、ダリル・モーリー氏が香港で続く抗議デモへの支持をツイッターに投稿した問題で、中国メディアの国際在線は9日、米ブルームバーグが「NBAは中国で数十億ドルの価値を持つ提携チャンスを長年かけて作り出したが、ツイート1つでその時間とお金がすべてゼロになる可能性がある」と報じたと伝えた。(中略)

すでに中国バスケットボール協会、中国中央テレビ(CCTV)のスポーツチャンネル、浦発銀行クレジットカードセンター、騰訊体育などが相次いでヒューストン・ロケッツとの提携一時停止や中止を発表。

 

CCTVのスポーツチャンネルが8日、NBAの試合放送を一時停止すると発表したことや、中国ECサイト大手のアリババや京東でヒューストン・ロケッツ関連の商品が検索できなくなっていることも記事は伝えた。

NBAによると、昨年中国では8億人がテレビやデジタルメディア、スマートフォンを通してNBAの試合を観戦しており、「これは米国の人口の約2.5倍に相当する」と記事は指摘。

 

高い視聴率は多くのスポンサーを引き寄せてきたが、「現在、中国におけるNBAの運命は将来の見通しが立たず、危険極まりない状況とすら言える」とし、すべてが水の泡となる可能性に言及している。

記事は、1980年代にNBAは中国市場に進出し、2008年以降、中国での業務は毎年2ケタ成長を続けていたとも説明した。【10月10日 レコードチャイナ】

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“NBAにとって、中国は米国に次ぐ巨大マーケットだ。昨シーズンに1試合でもNBAの試合を見た中国人は5億人。テンセント傘下の調査会社によると、中国のスポーツ市場は2020年に年3兆元(約45兆円)を突破する見込みだ。”【10月9日 朝日】

 

問題の発端となったのは、ヒューストン・ロケッツのゼネラルマネジャー(GM)、ダリル・モーリー氏が香港で続く抗議デモへの支持をツイッターに投稿したこと。

 

****香港問題の余波が米バスケに NBAチーム幹部の「香港応援」ツイートに中国が反発****

収束の気配を見せない香港の抗議活動の余波が、米プロバスケットボールNBAにまで及んだ。

 

米南部テキサス州ヒューストンに本拠を置く「ロケッツ」の幹部が香港のデモを応援する投稿をし、それに中国側が「間違った言論だ」と反発。現地の中国総領事館が不満を表明したほか、中国国営中央テレビは同チームの試合のテレビ中継を取りやめるなど影響が広がっている。

 

中国メディアによると、ロケッツのゼネラルマネジャー(GM)のダリル・モーリー氏が「自由のために戦い、香港を支持しよう」という文字が描かれた画像をツイッターに投稿。中国のインターネット上で反発の声が一気に広がった。

 

それを受けて、ヒューストンの中国総領事館は6日に発表した報道官の談話で「強い不満を表明する」とし、チーム側に適切な措置をとるよう申し入れたことを明らかにした。同日には中央テレビが「不当な言論で、強く反対する」として、同チームの試合中継の一時中止といった措置を即日実施することを決めた。

 

モーリー氏は問題のツイートを削除し、「中国のロケッツファンらの怒りを引き起こすつもりはなかった」と投稿したが中国側の怒りは収まらずにいる。

 

ロケッツは、長身から「万里の長城」と呼ばれて一時代を築いた姚明(ようめい)氏が所属していたため中国でもファンが多いという。現在、姚明氏が会長を務める中国バスケットボール協会も、ロケッツとの協力を一時中止すると表明している。

 

中国側は思うように沈静化しない香港のデモに神経をとがらせ、海外で支援の声が広がることを警戒しているようだ。中央テレビではデモの様子は伝えずに、1日に迎えた中国建国70年を祝う香港市民らの声を連日のように伝えている。【10月7日 産経】

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モーリー氏が問題のツイートを削除し、「中国のロケッツファンらの怒りを引き起こすつもりはなかった」とコメント(中国側は、これを「謝罪」とは認めなかったようです)、その後にNABも事態鎮静化の声明を発表しましたが、中国側の怒りが収まらないだけでなく、NBAの「釈明」に対して今度はアメリカ国内からの批判が。

 

普通の民間企業なら、中国側の気のすむような「謝罪」をして一件落着ともなるのでしょうが、プロバスケットボールはアメリカ文化を象徴するものでもありますので、身軽な動きはできません。

 

****香港デモ応援する投稿、NBAの対応を米議員が「恥ずべき」と非難****

米プロバスケットボール(NBA)、ヒューストン・ロケッツのゼネラル・マネジャー(GM)が香港のデモを応援する内容をツイッターに投稿したのに対しNBAが距離を置いたことを巡り、米議員からNBAの対応を強く非難する声が上がっている。

ロケッツのダリル・モーリーGMは7日、投稿について謝罪した。投稿は速やかに削除されたが、中国のファンや企業パートナーから非難が相次いだ。

NBAは、モーリーGMの見解が「中国の多くの友人やファンの感情を深く害した」ことを認識しており、遺憾だ、とする声明を発表。「われわれは中国の歴史や文化を大いに尊重しており、スポーツやNBAが異文化間の橋渡しとなり、人々を結束させることを望む」とした。

共和党のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州)はツイッターで「ヒューストン・ロケッツの生涯のファンとして、モーリーGMが香港のデモ参加者に対する中国共産党の抑圧的な対応に声を上げたことを誇らしく思った」とした上で、「しかし、恥ずべきことにNBAは金のために引き下がっている」と非難した。

民主党のトム・マリノウスキー下院議員(ニュージャージー州)もツイッターで、中国は経済力を盾に、米国にいる米国人の発言を検閲していると指摘。また「NBAは選手や関係者が米政府を批判することを問題視しておらず、それは正しい対応だ。しかし、今回は中国政府への批判について謝罪している。恥ずべきことであり、耐え難い」とした。

共和党のジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州)は、イスラム教徒の少数民族ウイグル族の拘束など中国における人権侵害の疑いに言及。「中国政府は百万人を収容所に拘束し、香港のデモ参加者を容赦なく抑圧しようとしている。それなのにNBAは『異なる文化』の橋渡しなどと言っている」と非難した。【10月7日 ロイター】

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【腹をくくった?NBA】

こうしたアメリカ国内の批判を意識してか、NBAとしての固有の考えなのか、NBAのアダム・シルバー・コミッショナーは8日の記者会見で、選手や従業員、チームオーナーの発言をNBAが制限することはないと述べ、表現の自由を尊重する考えを表明し、中国側の謝罪要求を拒んでいます。

 

当然、中国側の怒りはエスカレートしています。

 

****中国政府系メディア、表現の自由巡るNBA幹部発言を非難****

米プロバスケットボールNBAのヒューストン・ロケッツの幹部が香港のデモを応援するツイートを投稿し、中国が反発している問題で、中国の政府系メディアは9日、NBAコミッショナーが選手や幹部などの表現の自由を尊重すると発言したことを批判する記事を掲載した。

この問題の発端となったのはロケッツのゼネラルマネジャー(GM)のダリル・モーリー氏による投稿。同氏は7日、謝罪したが、中国のテレビ局やスポーツ用品メーカー、スポンサー企業がNBAとの関係を見直すと表明するなど波紋が広がっている。

NBAは当初、この投稿が中国国内で怒りを招いたことは「遺憾」だと表明。ただ、エキシビジョンゲームのために来日していたアダム・シルバー・コミッショナーは8日の記者会見で、選手や従業員、チームオーナーの発言をNBAが制限することはないと述べ、表現の自由を尊重する考えを表明した。

中国の政府系英字紙チャイナ・デーリーは9日付の論説で、シルバー氏が「ぬけぬけとモーリー氏の分離主義を支持するツイートを擁護」し、「香港の暴徒をあおった」と批判。

中国共産党系メディアの環球時報は、シルバー氏は政治的圧力に屈したと主張すると同時に、NBAは傲慢にも中国市場を軽視していると非難。「中国での一連のNBAプロモーション活動を前に中国人の気分を害する投稿を行うというのは、知性や尊重、責任感の欠如を表している」とした。

中国国営テレビの中国中央電視台(CCTV)は8日、週内に中国で行われるNBAエキシビジョンゲームの放映を取りやめると発表している。【10月9日 ロイター】

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アダム・シルバー・コミッショナーは8日の記者会見については、“中国とのビジネス関係がNBAにもたらした富を失うという代償を払ってでも、表現の自由という価値を守る決意のようだ”【10月9日 AFP】とも。

 

****NBAトップ、中国とのビジネスで代償払っても「表現の自由支持」****

(中略)NBAはひとまずモリー氏のツイートに関する声明を出したが、これには米国内からあまりに屈服的だとの批判が噴出。シルバー氏は、ロケッツのプレシーズン戦が行われている日本で記者会見を開くことになった。

 

シルバー氏は会見で、「表現の自由を支持すること、とりわけNBAコミュニティーに属するメンバーたちの表現の自由を支持することことは、NBAが持つ長年の価値観だ」と強調。

 

また、「言論の自由の行使は本質的に、何らかの結果を引き起こすことは理解している。われわれは皆、そうした結果を受け入れなければならない」と述べた。(後略)【10月9日 AFP】

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中国側反発については、以下のようにも。

 

****NBAロケッツ、損失額60億円の試算 中国で反発続々****

(中略)中国側の反発は続き、上海市内に掲げられた試合広告が取り外されたり、9日に予定されたファンイベントが中止になったりと影響が出ている。

 

余波は経済界にも広がっている。日産自動車の中国での合弁ブランド「東風日産」は9日、シルバー氏らの発言が不当としてNBAとの公式パートナー関係を中止するとSNSの公式サイトで発表した。

 

中国のネットメディア・澎湃新聞によると、NBAと協力関係にある12企業がパートナーを中止するか一時停止することを決めたという。

 

中国の通信社・中国新聞社は公式SNSで、ロケッツの損失額を年4億元(約60億円)と試算した。中国中央テレビは9日、「30年間培ってきたNBAの中国ビジネスは3日で破壊された。14億の中国人の民族感情を尊重しない発言は撤回し、中国のファンに謝罪すべきだ」とする論評記事をウェブサイトに掲載した。【10月10日 朝日】

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一方、アメリカ国内も次第にエスカレート。

 

****米超党派議員がNBAに公開書簡、中国での活動停止求める****

(中略)米国の超党派議員らが9日、米プロバスケットボール協会のアダム・シルバーコミッショナーに公開書簡を送り、中国側が対抗措置を撤回するまで中国におけるNBAの全活動を停止するよう求めた。

 

公開書簡を送ったのは、共和党のテッド・クルーズ氏(テキサス州)のほか、民主党のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏(ニューヨーク州)も含まれるなど、NBAのチームを有する州から選出された政治的にも多様な議員8人だ。

 

議員らは、書簡を通じて「あなたには、中国政府が標的とする多くの人たちよりも明確な考えを公言する力がある。勇気と高潔さを持ってその力を行使すべきだ」とシルバー氏に要求。「米国の企業に対して、利益より基本的な民主主義の権利を優先するよう求めるのは理不尽なことではない」と訴えた。 【10月10日 AFP】

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こうなると、もはやNBAの経営的判断ではどうにもならない状況に至っているとも言えます。

それだけNBAには影響力もあれば、発言力もあるということでもあります。

 

****中国が重視する「謝罪」、NBAは抵抗貫けるか ****

NBAには、米国内で気付かれず、ひそかに謝罪するという選択肢はない

 

中国は通常なら、「郷に入っては郷に従う」外国企業から欲しいものを手に入れる。だが、今回の米プロバスケットボール協会(NBA)との対立では、NBAは中国が望むものを与えることに抵抗している。他ならぬ「謝罪」だ。

 

多くの米企業はこれまで、国内でほとんど話題にされることなく、「中国の人々の気分を害した」として中国に謝罪してきた。しかしながら、今回は事情が異なる。その結果、中国の伝統的な「謝罪儀礼」が台無しにされている。

 

その理由の1つに、NBAが異例のレバレッジ(交渉上の相対的優位性)を有していることがある。普段はアジアの地政学情勢にあまり関心を示さない米国民に対し、NBAは相手を力でねじ伏せる中国のやり方をテレビを通して伝えているのだ。

 

また、NBAが黙って中国の要求に従うことはできないと即座に悟ったこともある。「ヒューストン・ロケッツ」のゼネラルマネジャー(GM)、ダリル・モーリー氏がツイッターで香港デモへの支持を表明すると、中国から非難が殺到。NBAは対応に追われた。

 

だが、NBAの初期対応は、米中両国で反発を浴びる結果に終わった。中国における反省の基準には到底達していないものの、米国内では中国に屈したとして糾弾されたのだ。

 

つまり問題は、米政治家はこれを謝罪と解釈する一方、中国当局者は謝罪とは受け止めなかったことにある。

 

その後、NBAコミッショナーのアダム・シルバー氏は、断固として謝罪を拒否。中国の「筋書き」に真っ向から立ち向かった。

 

この謝罪儀礼は、中国当局の怒りに触れた相手には広く定着している。そのため、中国外務省の耿爽報道官は8日の定例会見で、単に「NBAは今後どのようなコメントを出し、どのような行動を取るべきか承知している」とだけ述べた。(中略)

 

中国当局は、別のテーマなら批判を受け流したかもしれない。だが、香港問題となれば話は別だ。香港警察が過激化するデモの収拾に手間取る中、中国当局者は外国人による香港市民へのいかなる物理的、心理的な支援にも激怒しており、とりわけ非難の矛先を米国へと向けている。

 

こうした危機が重なったことで、中国当局は企業による見解の表明に不寛容な姿勢を強めている。過去なら、水面下で決着を狙った可能性はある。だがNBAが今週身をもって学んだように、現在の香港をめぐる問題ではそうはいかないのだ。【10月10日 WSJ】

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【“米企業は中国で事業を行うことのリスクに気付きつつある”(ポンペオ米国務長官)】

香港問題をめぐっては、NBA以外にも“トラブル”が民間企業に及んでいます。

 

****右目隠しただけ… ティファニーに「香港デモ支持」批判****

米宝飾品大手のティファニーが7日に公式ツイッター上に指輪の広告を載せたところ、中国人から「香港デモへの支持を想起させる」「中国への挑戦だ」などと批判が相次ぎ、広告を削除する事態になった。同社は「なんの政治的意図もなかったが、そう受け止められたのは残念だ」としている。

 

広告では、モデルの中国人女性が右目を隠すポーズをしていることが問題視された。香港で8月にあった政府への抗議デモで、デモ隊の女性が警察と衝突して右目を負傷したことを機に、警察への抗議のシンボルとして右目を眼帯で覆ったり、手で隠したりする若者が香港などで増えたためだ。

 

ティファニー側は、広告に使われた女性の写真は5月に撮影されたと説明している。広告は特定の地域に向けたものではなかったが、ツイッター上に掲載されると間もなく、中国の人たちが反応した。【10月9日 朝日】

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上記ティファニーの件は(5月に撮影されたのであれば)“いいがかり”の感もありますが、下記アップルの場合は現実的問題もあります。

 

****アップル、香港の警察追跡アプリをストアから削除****

米アップルは、香港市民やデモ参加者が警察の動きを追跡できるアプリ「HKmap.live」を自社のアプリ配信サイト「アップストア」から削除した。アップルが9日明らかにした。中国の国営メディアはアップルが同アプリを数日前に承認したことを非難していた。

 

アップルは香港の住民や法執行機関関係者を危険にさらす可能性があるため、アプリを削除したと説明。また「警察を標的とした待ち伏せや公共の安全を脅かす行為に使われていたことや、法執行関係者がいない地域だと犯罪者が把握した上で住民に被害を及ぼすために利用した」ことをサイバーセキュリティー担当の香港政府当局がつきとめたとも声明文で明らかにした。

 

アップルは「アプリが自社の規約や現地の法律にも違反している」とも述べている。

 

HKmap.liveの開発者はアプリが削除されたことをツイッター上で認めたが、詳細は明らかにしていない。開発者からは今のところコメントは得られていない。【10月10日 WSJ】

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NBAの件に関して質問されたポンペオ米国務長官は“米企業は中国で事業を行うことのリスクに気付きつつあると指摘。「中国が影響力を行使して企業や従業員、NBAのケースでは、チームのメンバーやゼネラルマネジャーが政治的な意見を自由に表明できなくなるにつれ、企業の評判に関するコストはどんどん高くなっていくと思う」と述べた。”【10月10日 ロイター】

 

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