孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

プエルトリコ  ハリケーン被害復旧をめぐり、トランプ大統領と現地市長が互いに相手を非難

2017-10-02 23:12:56 | アメリカ

(ハリケーン「マリア」の被害を受けたプエルトリコのベガバハで、タンクから容器に水を入れる人たち(2017年9月30日撮影)【10月1日 AFP】)

【“米自治領”プエルトリコの財政破綻
9月、カリブ海地域は上旬の「イルマ」、20日頃の「マリア」と、立て続けに大型ハリケーンに襲われましたが、その報道によって、この地域にはいまだ多くの欧米の海外領土が存在しているということを改めて感じました。

“カリブ海を直撃したイルマは、仏領サンバルテルミー島やフランスとオランダが領地を分かつサンマルタン島などの小さな島々に多大な被害をもたらした。サンマルタン島では民家の6割が破壊され、略奪行為が横行。イルマはその後、英領バージン諸島と米領プエルトリコを直撃した。”【9月9日 AFP】

海外領土から独立した国も多く、私などは聞いたこともないような名前の国がたくさんあります。こうした国の名前を目にするのは、“殺人事件の多い国ランキング”ぐらいでしょうか。

全くの想像ですが、欧州諸国も今となっては(一部の特別のメリットがある島を覗けば)こうした海外領土を持て余しているのでは・・・。

放り出す訳にもいきませんし、今回のように何か起きると住民保護の責任も生じます。統治能力の有無にかかわらず、独立してくれるなら喜んで・・・。使うこともないのに、維持管理の費用・手間だけかかる別荘のようなものでしょうか。まあ、実際のところは知りませんが。

そうしたカリブ海の島々のなかでも、一番よく目にするの島のひとつがアメリカ領プエルトリコ。

プエルトリコに関しては、今年、ハリケーン以外にも二つほど大きなニュースがありました。

一つ目は、“州昇格”に関する6月に行われた住民投票

****プエルトリコ住民、米国州昇格を97%が支持 投票率低調****
米自治領プエルトリコで11日、米国の51番目の州への昇格する是非を問う住民投票が実施され、賛成票が97%と圧倒的多数を占めた。ただ反対派が投票をボイコットするなどで投票率は23%にとどまり、米議会からの反対も予想される。

投票では「州への昇格」「自治領として現状維持」「独立」の3つの選択肢が提示された。自治政府が同様の住民投票を行うのは、1967年以来これが5回目。結果に法的拘束力はない。

プエルトリコは財政危機に陥っており、公的債務は700億ドル。貧困率は45%に上る。年金基金や健康保険制度も破綻に直面している。

ロセジョ知事は声明で「今後、米連邦政府はプエルトリコの米国市民の多数意見を無視することはできなくなるだろう」と主張。「世界の別の地域では民主主義を要求している一方で、米国領であるプエルトリコでこの日行使された住民投票を行う正当な権利に対応しないことは、連邦政府にとって極めて矛盾している」と述べた。ただ、連邦政府にとっての優先順位は低いとみられる。

現行の法律では、プエルトリコの350万人の住民は連邦税納税義務、大統領選の投票権、低所得層向けの医療保険「メディケイド」など連邦政府からの補助金を受ける権利を有しない。連邦政府はインフラや国防、貿易などの政策を監督している。【6月11日 ロイター】
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プエルトリコは現在アメリカの自治領ということで、ある意味“中途半端”な立場にあります。

****プエルトリコの政治****
現在のプエルトリコはコモンウェルス(米国自治連邦区)という特別な立場にあり、住民はアメリカ国籍を保有するが、合衆国連邦(所得)税の納税義務を持たない代わり、大統領選挙の投票権はない。
合衆国下院に本会議での採決権を持たない代表者を1人送り出すことが認められている。

行政権は知事が有し、知事は普通選挙によって選出され、任期は4年。再選規定は存在しない。立法権は両院制の議会が有し、上院の定数は28人、下院の定数は51人である。

自治拡大派のプエルトリコ人民民主党と州昇格派のプエルトリコ新進歩党の二大政党制が確立されている。
その他にも現在の様な植民地的地位からの独立を目指すプエルトリコ独立党などの独立指向の政党が存在し、ガブリエル・ガルシア=マルケスやエドゥアルド・ガレアーノらを始めとするラテンアメリカの知識人によるプエルトリコ独立運動を支持する声もあるが、独立の機運は高まっていないのが現状である。

プエルトリコは独自の軍事組織を持たないが多数の米軍基地が立地しているほか、他のアメリカの50州およびコロンビア特別行政区と同様に州兵部隊も保有する。【ウィキペディア】
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現状維持(自治権拡大)、州昇格、独立という三つの選択肢があり、順番に権利も大きくなりますが、義務・負担も増す・・・ということで、どの道を選ぶのかという話です。

膨大な負債を抱え、貧困率45%といったプエルトリコを州に昇格した場合、アメリカの負担も大きくなりますので、そのあたりのアメリカ議会の意向もあります。

今年、プエルトリコが話題になったもうひとつの件は、その“膨大な負債”に関する“デフォルト(債務不履行)”の話。要するに“破産”です。

****プエルトリコが破綻手続き 観光低迷、債務8.2兆円 ****
債務不履行(デフォルト)を宣言している米自治領プエルトリコが3日、債務再編の手続きに入った。

プエルトリコは2015年にすでに債務不履行を宣言し、16年には複数回、利払いをせずデフォルトしている。関係債務額はおよそ730億ドル(約8.2兆円)と、米では最大の自治体の財政破綻となる。
 
プエルトリコは主力だった観光業が周辺地域との競争激化で低迷し、米国本土への人口流出も進み経済が行き詰まった。

プエルトリコのガルシア知事(当時)は15年に「債務を支払えない」とデフォルトを宣言。格付け会社はすでにプエルトリコの債務を投資不適格と見なしており、破綻手続き入りによる金融市場への影響は限られるとみられる。
 
プエルトリコは米国の自治領という特殊な立場にあり、13年に財政破綻したデトロイト市のような米地方自治体の破産申請が認められておらず債務再編手続きが不透明だと指摘されていた。こうした問題に対して米政府は昨年に自治領に対しても破産支援を認める法律を制定。プエルトリコも具体的な破綻手続きを進めることができるようになった。【5月4日 日経】
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復旧が遅れる中での非難の応酬
こうした、政治的には特殊な立ち位置にあって、財政的には破たんしているプエルトリコを「イルマ」に続いて直撃したのがハリケーン「マリア」で、最大風速69メートルの強風などによって甚大な被害を出しています。

****過去百年で最強」ハリケーン、プエルトリコを「完全に破壊****
ハリケーン「マリア」の直撃を受けたカリブ海の米自治領プエルトリコでは21日、洪水や停電に見舞われた。マリアはカリブ海諸国で猛威を振るい、ドミニカを中心にこれまでに21人の死亡が確認されている。
 
ドナルド・トランプ米大統領はマリアがプエルトリコを「完全に破壊」したと述べ、人口340万人が密集する自治領に激甚災害宣言を出した。
 
マリアを「過去100年で最強の嵐」だとして警戒を呼び掛けていたプエルトリコのリカルド・ロセジョ知事によると、自治領では全域が完全に停電し、電話も不通となっている。今後も数日は豪雨が続く予報で、洪水や土砂崩れが起きて命に危険が及ぶ恐れがあると同知事は警告している。
 
これまで確認された死者はドミニカで15人、仏海外県グアドループで2人、プエルトリコ北部バヤモンで1人、ハイチで3人の合わせて21人となっている。【9月22日 AFP】
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連邦政府は被災対応で軍など約1万人の要員を投入していますが、空路と海路でしか現地入りできないこともあって、救援物資搬入は遅れ気味です。

更に、現地の住民感情を逆撫でしたのがデューク国土安全保障長官代行の不用意な発言でした。

****プエルトリコ、米政府の災害対応に怒り 「人々が死んでいる****
ハリケーンによる甚大な被害に見舞われたカリブ海の米自治領プエルトリコでは、米軍と緊急援助要員らが支援活動を拡大する一方、米政府の対応についての批判が高まっている。

「イルマ」と「マリア」という2つのハリケーンに立て続けに襲われたプエルトリコでは、電力網や水道、通信網がほぼ麻痺(まひ)状態にある。
 
エレーン・デューク国土安全保障長官代行は28日、これまで米政府が実施した被災地支援について「大変満足している」、「非常にうまく進行している」との見解を表明。
 
さらに「われわれが(被災した)人々に到達できる能力があるかという面、そしてこれほど壊滅的なハリケーンに襲われても死者が少数であったという面では、非常に良いニュースだ」と語っていた。
 
これに対し、プエルトリコの中心都市で人口340万人を擁するサンフアンのカルメン・ユリン・クルス市長は猛反発。
 
29日、米CNNテレビに対し「彼女(デューク氏)がいる場所からは良いニュースに見えるのだろう」「川の水を飲んでいる状況は、良いニュースではない。赤ちゃんに与える食べ物がないことは、良いニュースではない」「これは良いニュースではない。人々が死んでいるというニュースだ」と批判した。
 
一方、プエルトリコ訪問を来週に控えたドナルド・トランプ大統領は、米政府の救援活動を擁護。プエルトリコを襲ったハリケーンは「歴史的、壊滅的に猛烈」な勢力であり、連邦政府職員1万人以上と米軍人5000人が参加する「大規模な連邦人員動員」が進行中だと述べた。【9月30日 AFP】
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確かに、「完全に破壊」という割には、死者数は少ないのは事実です。
ただ、日本でも地震に関して「東京でなく東北でよかった」といった趣旨の発言をした今村雅弘前復興相の発言が大きな問題になりましたが、一定の事実ではあるにしても、被害地住民の感情からすれば容認できないものの言い様という問題はあります。

これだけでも十分に政治問題化しているのですが、更に“参戦”したのがトランプ大統領。

ハリケーン「カトリーナ」への対応がブッシュ元大統領の致命傷になったように、アメリカ大統領にとって災害対応は北朝鮮問題以上に有権者が敏感に反応する重大問題です。

現地の復旧は思うように進んでいません。

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 プエルトリコの中心都市サンフアンのガソリンスタンドでは数時間待ちの長い車の列ができた。一部のガソリンスタンドでは民間警備員がパトロールしているという。

島の内陸部では住民たちが、ハリケーン後に初めて見た島外から来た人は報道陣だと話した。住民のエリサ・ゴンサレスさん(49)は、「FEMA(米連邦緊急事態管理庁)や連邦政府、他の誰からも支援がない」と語った。【10月1日 AFP】
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サンフアンのクルス市長は、「私たちはここで死にかけている。世界で最も偉大な国がなぜ小さな島のための物資輸送のやり方を考え出せないのか理解できない」と批判。

敏感な政治問題でもあるだけに、復旧が進まない現状に苛立ったトランプ大統領は被災地市長を激しく攻撃。結果的には、問題を大きくしているようにも。

****米大統領、ハリケーン被災地の市長非難=「カトリーナ」の二の舞い懸念****
カリブ海の米自治領プエルトリコを直撃した大型ハリケーンへの対応をめぐり、トランプ大統領は9月30日、連邦政府の早期支援を求める首都サンフアンのクルーズ市長を「お粗末なリーダーシップで(救援)要員を助けることもできない」などと非難した。災害対応が政治問題化するのを懸念し、批判に神経質になっているとみられる。
 
20日のハリケーン直撃で、プエルトリコでは少なくとも16人が死亡した。島の大半が停電し、医療機器が使えなくなる病院も続出。連邦政府は軍などの約1万人を災害対応に投入しており、トランプ氏も今月3日に現地入りする予定だ。
 
被災地では道路が寸断され、救援物資搬入の遅れも伝えられている。そんな中、デューク国土安全保障長官代行が「これだけの災害で死者が限られていることは、良いニュースだ」と発言。クルーズ氏は「(病院が機能せず)人が死につつあるのに、どこが良いニュースだ」と反発していた。
 
トランプ氏は30日のツイッターで、クルーズ氏や市当局を「何もかもやってもらおうと思っている」と批判。同日だけで転載を含め20回以上も投稿し、その多くで救援要員の活動をアピールした。トランプ氏に謝意を示していたロセジョ知事については「本当に一生懸命働く立派な指導者だ」と持ち上げた。
 
米国では2005年にハリケーン「カトリーナ」が来襲した際、当時のブッシュ政権が対応の遅れを糾弾された。民主党のソト下院議員はMSNBCテレビで、今回の被災について「既にカトリーナ(と同様の事態)になっている」と指摘。連邦政府の取り組みに苦言を呈している。【10月1日 時事】
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復旧が遅れているのは自分のせいではない、無能な現地市長のせいだ・・・と言いたいのでしょう。
現地は、トランプ大統領の非難に強く反発しています。

****プエルトリコの市長批判 住民らは激しく反発****
トランプ米大統領は30日、ハリケーンで壊滅的被害を受けた米自治領プエルトリコの首都サンフアンのクルーズ市長を、「指導力に欠け、救援活動を機能させられていない」とツイッターで批判した。政権の支援対応が不十分との批判の高まりに「反論」した形だが、住民らは激しく反発している。
 
トランプ氏はクルーズ市長について「(野党)民主党にトランプ批判をしろと吹き込まれたようだ」と主張。「連邦政府が万全の支援活動をしている」とする一方、クルーズ氏らを「自助努力で解決すべきことも、すべてやってもらおうと考えている」と非難した。
 
プエルトリコはカリブ海に浮かぶ面積約9100平方キロの島で米本土から南西に約1600キロ離れ、人口は約340万人。

9月に複数のハリケーンの直撃を受け大部分で電力供給が途絶えたほか、飲料水や燃料の不足が深刻化し、届いた救援物資が配布できない問題も発生。

米メディアは本土のハリケーン被災時に比べ「トランプ氏の関心が低く、対応が鈍い」と連日、批判的に報道している。
 
クルーズ市長は29日、デューク国土安全保障長官代行が「支援活動が機能し、死者数がわずかなのは良いニュース」と発言したことに、「人々は沢の水を飲み、赤ん坊に与える食料がない。生死がかかった状況の、何が良いニュースか」と厳しく批判した。
 
トランプ氏の市長批判に関し、米CNNは「現場に来もしないで地元の努力を批判するな」など住民らの反発の声を報じた。
 
トランプ氏は3日に現地入りする予定だ。【10月1日 毎日】
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冒頭に取り上げたように、プエルトリコは特殊な立場にあるだけに、復旧が遅れると“米本土に比べて・・・”という批判にもつながります。

また、財政的にも破たんしている状況ですから、そうしたことも復旧の遅れに影響するでしょう。

トランプ大統領の被災地市長批判に対しては、アメリカ国内からも批判が出ています。

****プエルトリコ巡り米議員がトランプ氏の対応批判、「支援に注力を****
ハリケーン「マリア」により大きな被害を受けた米自治領プエルトリコを巡り、米議員は1日、トランプ米大統領はプエルトリコ住民に対する非難をやめて復興支援に注力すべきとの考えを示した。

サンフアンのクルーズ市長が連邦政府による支援活動は不十分と述べたことを受け、トランプ大統領は9月30日、市長を批判し、プエルトリコの住民は「何もかもやってもらおうとしている」と述べた。

民主党のシューマー上院院内総務はCBSの番組で、支援活動は「ペースが遅く混乱しており、不十分だ」と指摘し、大統領はツイッターへの投稿をやめて仕事に取り掛かるべきだと強調した。

共和党のルビオ上院議員も、政治的な非難の応酬はやめるべきと訴えた。【10月2日 ロイター】
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トランプ大統領は、引きずる“ロシア疑惑”に加え、最近だけでも、プライス厚生長官のチャーター便乱用、政権幹部の私用メール問題、国歌演奏中の抗議行動批判、オバマケア改廃をめぐる共和党幹部との確執など多くの問題を抱えています。

今日は、ラスベガスの銃乱射で50人死亡という事件も。アメリカ社会の大きな問題“銃規制”にも波及します。

これだけ抱えていれば、この際問題がひとつ増えても、どうってことない・・・というところでしょうか。
また、コアなトランプ支持層はトラブル・スキャンダルでは揺るがないことも強みです。

それにしても、誰彼構わず喧嘩を売るのはトランプ氏の性格なのでしょうが、私企業のワンマンオーナーとしてはともかく、多様な国民をまとめていくべき国のトップとしては適任とは思えません。

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