孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  “政治の季節”北戴河会議を前に飛び交う“ウワサ”は変化の予兆か?

2018-07-31 21:59:37 | 中国

(上海 習近平国家主席のプパガンダ看板に墨汁をぶちまける女性【7月9日 Radio Taiwan International】)

【「墨汁事件」以来、ささやかれる“ウワサ”】
中国では、共産党の指導部や長老らが河北省の避暑地に集まり、人事や重要政策について非公式に議論する「北戴河会議」が間もなく始まります。

この“政治の季節”を前にして、憲法改正で国家主席の任期制限を撤廃し、「一強体制」を確立したと思われている習近平国家主席の政治的立場に揺らぎがあるのでは・・・との“ウワサ”が囁かれています。

“ウワサ”の発端は、上海の一人の女性が習近平主席の看板に墨汁をぶっかけた・・・という“事件”でした。

****急展開! 習近平「没落」で中国政治のリベラル化がやってくる****
今月になり、中国政治のゴシップがかまびすしいのはご存知だろうか。いわく、習近平の懐刀が事実上の失脚状態にある。またいわく、習近平はこれから実権を奪われてレームダック化する……云々。

真偽のほどはともかく、中国国内の政情に関心を持つ在外中国人や、国外の中国ウォッチャーの間では注目を集めている話だ。

習近平の看板に墨汁をぶっかけた
発端となったのは、7月4日朝7時前に上海のビジネス街・陸家嘴で発生した「墨汁事件」である。これは同日、上海市内に暮らす董瑶琼という女性が「私は中国共産党による洗脳に反対する」「習近平の独裁的で専制的な暴政に反対する」と述べ、街角にあった政権のプロパガンダ看板上の習近平の顔に墨汁をぶっかけたものだ。

事件後、董瑶琼さんは自宅に警官がやってきた様子をツイッターで実況した後で行方不明になる。(中略)

中国ではかつて毛沢東時代に行き過ぎた権力集中と個人崇拝によって国家体制が硬直化し、多数の政治的迫害や社会の発展の停滞を招いた。そのため1980年前後に鄧小平が権力を握って以降はこれらが強く戒められてきた。

だが、2013年の習近平政権の成立以来、習近平はこれらのタブーを無視。自分自身や父親の習仲勲に対する個人崇拝をなかば公然と復活させ、政権第2期となった今年春には国家主席の任期制を廃止したり、憲法に「習近平新時代中国特色社会主義思想」と自身の名前を冠した思想を盛り込むなど、やりたい放題となっていた。

これは現代中国版「裸の王様」なのか?
当然、これに違和感を持つ中国人は少なからずいた。しかし党内では人事権を事実上は握っている習近平の権勢が強すぎ、国内では庶民層を中心に習近平の人気が高すぎるために、アンチ習近平の声は従来は意外なほどに表面化せずにきた。(中略)

今回の墨汁事件は、上海の若い女性が「みんな薄々は思っていたけれど誰もしなかったことをした」という、童話の「裸の王様」みたいな事件である。逆に言えば、習近平政権成立以来の中国国内では、この程度の行為すらもみんなビビってやらなくなっていたのだ。

メディアも習近平に「反乱」?
歴史はつまらないことから動き出す。この墨汁事件後、中国国内では興味深い動きが出はじめた。例えば7月9日、党機関紙『人民日報』のトップページに「習近平」の文字を含んだ見出しが一切出なくなった。

加えて7月15日にも同様の現象が観察された。1週間のうち何度も習近平に一切言及しないトップ紙面が組まれるのは政権成立以来はじめてのことだ。

また、7月11日には国営通信社・新華社のウェブ版が「華国鋒は誤りを認めた」という過去の歴史記事を突如として再配信し、中国のネット上で盛んに転載された。

華国鋒は1976年に党主席に就任した後、毛沢東時代の文化大革命式の政治を改めることなく自身の個人崇拝キャンペーンを推進したが政治力が足りずに失敗。経済の失策もあって、鄧小平から批判を受けて失脚した人物だ。新華社の記事は間もなく削除されたが、「文革風」の政治姿勢を見せる習近平を遠回しに当てこする目的があったのは明らかだった。

習近平は2016年2月、人民日報・新華社と国営テレビのCCTVを視察して「媒体姓党」(メディアの姓は党=メディアは共産党の指導下にあるべし)キャンペーンをおこない報道統制を強めたことがあったが、「統制される側」は相当な不満を持っていたであろうことは想像に難くない。上海の墨汁事件をきっかけに、人民日報や新華社がこっそりと従来の不満を表明する挙に出たのだろう。

また、7月12日には北京二龍路派出所が地域の会社に「習近平の写真・画像やポスターおよび宣伝品」を撤去するよう通知を出していたことがネット上で暴露されたとされる。陝西省で実施されていた、学術研究の形をとった習近平への個人崇拝運動の中止も報じられている。

すでに腹心は失脚? さらに習近平失脚のウワサも
中国上層部の動きは外部からうかがい知れないが、さらにガセネタ寸前のウワサのレベルではさまざまな話が出つつある。

たとえば、習近平の個人崇拝キャンペーンの仕掛け人である王滬寧・党中央書記処常務書記(序列5位)の最近の動向が確認できなくなり、事実上の失脚説が出ている。

王滬寧は党の最高機関・常務委員会のメンバーの1人であり、健康問題以外での党常務委員の失脚は、仮に事実ならば「政変」と呼ばれるべき事態だ。

また、フランスの『RFI』中国語版や香港の諸報道によると、江沢民・胡錦濤・朱鎔基ら党の大物OBグループが近年の習近平への個人崇拝に不満をつのらせ、政治局拡大会議を開いて習近平を失脚状態に追い込むことを画策する動きがあるという。これはかつての華国鋒が追い落とされたプロセスを参考にしたものだとされる。

上記のウワサによれば、習近平の失脚後に台頭が見込まれているのが、現在は実権のない政治協商会議主席に押し込められている党内序列4位の汪洋だ。(中略)

党長老の"秘密会議"に注目
習近平の失脚や汪洋の台頭はもちろん、王滬寧の失脚説ですらもただのウワサである。

だが、真偽はさておき火のないところに煙は立たない。中国の内部でなんらかの政治的な変動が起きているのはほぼ間違いないだろう。

習近平政権は現在、アメリカとの貿易摩擦の拡大にともなう経済混乱に苦しんでおり、これは政権発足以来の最大の失点であるともみなされている。

(意地の悪い見方をすれば、上海の墨汁事件は反習近平派の政治勢力がなんらかの後ろ盾になって実行された可能性もある。共青団派の政治家の一部は、中国国内の人権活動家や民主化運動家のグループと一定程度のコネを持っていると見られるからだ。)

今年も夏の盛りになると、党長老も参加する中国共産党の毎年恒例の秘密会議、北戴河会議が開催される予定だ。その結果次第では習近平体制になんらかのほころびが生まれることになるかもしれない。(後略)【7月23日 安田 峰俊氏 文春オンライン】
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一方、こうした“ウワサ”をもっともらしく取り上げて失脚の可能性まで論じる中国ウォッチャーを嗤う見方もあります。

****習近平氏失脚を論じる愚****
今週は、このコラムにしては珍しく、中国内政に関する「噂話」を真正面から取り上げる。理由は、ゴシップの中身もさることながら、この程度のことを大々的に報じるいい加減な中国関連記事が日本は勿論、世界にも少なくないからだ。

最近はトランプ氏、金正恩氏、プーチン氏による田舎芝居の影で中国の出番がなかったからだろうか。まずは事実関係と噂の内容のみを可能な限り客観的に述べよう。

(中略 上記【文春】記事で取り上げている事柄が列挙されています。)

他にもあるが、もう十分だろう。これだけの事実と噂話だけで中国専門家の一部は実に尤もらしい解説をやってのける。大したものだ。

習近平氏の権力集中と個人崇拝に対する不満が、民主活動家だけでなく、党長老や国営メディア関係者の間にも高まりつつあり、習近平派の要人や習近平氏自身も失脚した可能性があるのだという。

本当かね?確か習近平氏は現在外遊中、帰国後は避暑地・北戴河で毎年恒例の共産党幹部非公式会議に臨むはずだ。

よく考えてみたら、毎年「北戴河会議」の前後はこの種の面白可笑しい噂が氾濫する時期でもある。中国に限らないことだが、ある国の内政分析には公開情報をじっくりと読み込む努力が不可欠だと痛感する。(後略)【7月25日 宮家邦彦氏 Japan In-depth】
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素人としては、“火のないところに煙は立たない”と言われれば、「そうかもね・・・」と思うし、“本当かね?”と言われれば、これまた「そうかもね・・・」と思うしかありません。

内憂外患の状況で臨む北戴河会議】
習近平主席にとって、国内の欠陥ワクチン事件、国外の米中貿易戦争と、内憂外患の厳しい状況であることは間違いないでしょう。

****内憂外患の中、習近平国家主席が帰国 外遊中に欠陥ワクチンや米大使館爆発事件・・・・北戴河どうなる****
今月19日から中東・アフリカを歴訪していた中国の習近平国家主席が29日、帰国した。

外遊中に欠陥ワクチンの大量接種事件が発覚したほか、北京の米国大使館付近では爆発事件が発生。
米国との貿易摩擦問題でも効果的な手を打てない中、中国共産党の内外で習氏への不満が表面化しつつある。

内憂外患を抱える習氏は間もなく、正念場の党重要会議、北戴河(ほくたいが)会議に臨む。
 
習氏は今回の歴訪を通じ、新興5カ国(BRICS)首脳会議の場などを利用して、「多角的な貿易体制維持」「保護主義反対」で各国と足並みをそろえ、トランプ米政権を牽制(けんせい)することにひとまず成功した。
 
誤算だったのは外遊中に不祥事が起きたことだ。中国の大手製薬会社の欠陥ワクチンが21万人以上の子供に接種されていたことが判明し、保護者から怒りの声が上がった。警察当局は同社幹部らを大量拘束したが、後手に回った政府への批判が起きている。
 
26日には、北京の米国大使館付近で爆発事件が発生。当局が内モンゴル自治区出身の男(26)を拘束して調べている。動機は不明だが、当局は「精神状態が不安定だった」としており、「個人的問題」で事態を収拾しようとしている。
 
習氏をめぐっては外遊前から異変が起きていた。7月初めには、若い女性が「習氏の独裁、暴政に反対する」と叫びながら、習氏の看板に墨汁をかける映像をインターネットに投稿。女性は当局に拘束された後、精神的に問題があるとみなされ専門の病院に収容されたと報じられている。
 
当局が習氏への批判に敏感なのは、近く河北省で北戴河会議が始まるためだ。すでに江沢民(こう・たくみん)元国家主席ら長老が外交政策の見直しなどを求める書簡を党中央に出したとの情報もある。【7月29日 産経】
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個人崇拝傾向には“変化”か?】
で、その北戴河会議ですが、党のスローガンから習氏の名前が激減しているという“変化”が見られるとか。

****北戴河会議控え・・・・スローガンから「習近平」消えた 宣伝部門の閣僚級解任、王滬寧氏は雲隠れ****
中国共産党の指導部や長老らが河北省の避暑地に集まり、人事や重要政策について非公式に議論する「北戴河会議」が間もなく始まる。

米中貿易摩擦の激化を受けて習近平総書記(国家主席)への批判が党内外で表面化しつつある中、重要会議の拠点でも党のスローガンから習氏の名前が激減し、習指導部の苦しい立場をうかがわせている。(中略)
 
北戴河の厳戒態勢は例年通りだが“異変”もある。
「新時代の中国の特色ある社会主義思想の偉大な勝利を勝ち取ろう」。街中では会議のために新設した真新しい看板が目につく。

ただ大半は、同思想に本来冠されるべき「習近平による」との表現を省略している。鉄道駅前には習氏の名前が含まれる大看板があったものの、これを含めて習氏の肖像画や写真は全く確認できず、その名前を含むスローガンも数カ所しか見当たらなかった。
 
習氏に対する個人崇拝の動きが一転して抑制され始めたきっかけは米中貿易摩擦の泥沼化だ。習氏は経済政策の実権を李克強首相から奪い、対米交渉もブレーンの劉鶴副首相に一任しており、状況悪化の責任は不可避といえる。

また自国礼賛映画「すごいぞ、わが国」などに象徴される、低姿勢を貫く外交路線「韜光養晦(とうこうようかい)」からの脱却が、米国の対中警戒心をあおってきた側面もある。
 
宣伝部門の異変は人事にも及びつつある。党中央宣伝部の蒋建国副部長は7月25日、国務院の新聞弁公室主任(閣僚級)の解任を突然発表された。

その上司にあたるイデオロギー・宣伝部門の最高責任者、王滬寧(おう・こねい)政治局常務委員は、同月中旬に開かれた党の中央財経委員会会議への出席を最後に公式報道から姿を消し、宣伝工作の失敗の責任を取らされるとの臆測も浮上している。
 
党関係者は今年の北戴河会議の最大テーマについて「中米貿易戦争」とした上で「主戦論の声は非常に小さく、和睦派が大勢を占めている」と指摘する。

習氏もトランプ米政権との安定的な関係は重視しているものの、米側は「協議を継続する意思がない」(クドロー米国家経済会議委員長)として習氏を名指しで批判した。主戦論者の黒幕として事実上認定された格好で、宣伝部門の“尻尾”を切るだけで政治責任を逃れられるかは不透明だ。
 
昨年の党大会では慣例を破って最高指導部に後継候補を昇格させず、今年3月の全国人民代表大会(全人代)では憲法改正で国家主席の任期制限撤廃に踏み切った習氏だが、その3期目続投の野望には暗雲が垂れ込めている。【7月31日 産経】
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【産経】はこの種の話題が好きなようで、習近平氏の個人崇拝に関して、下記の記事も。

****知能レベルの低いこと」習近平主席母校の教授が個人崇拝批判 体制派知識人も反旗 異例の事態****
中国の習近平国家主席の母校、清華大の教授が7月下旬、指導者への個人崇拝を厳しく批判し、国家主席の任期復活や天安門事件の再評価を要求する論文を発表、中国内外で波紋が広がっている。体制側の知識人が中国共産党指導部に“反旗”を翻すのは異例の事態だ。
 
発表した清華大法学院の許章潤教授(55)は安徽省出身。西南政法大を卒業後、オーストラリアのメルボルン大に留学し法学の博士号を取得した。
 
7月24日、北京の民間シンクタンクを通じてインターネット上に公開した論文で、許氏は「国民は今、国家発展や生活安全の危機にひんしている」と指摘。今年3月の全国人民代表大会(国会に相当)で国家主席の任期を撤廃した憲法改正などを問題視した。
 
任期撤廃に関しては「改革開放(の成果)を帳消しにし、恐怖の毛沢東時代に中国を引き戻し、滑稽な、指導者への個人崇拝をもたらすものだ」と非難。任期制に復帰するよう求めた。
 
特に、指導者への個人崇拝については「今すぐブレーキをかけなければならない」と主張。「なぜこのような知能レベルの低いことが行われ、なぜ理論家や研究者といわれる人々が抵抗しなかったのか、反省すべきだ」と痛烈に批判した。
 
さらに1989年に大学生らの民主化運動を武力鎮圧した天安門事件に関し、「今年か(発生30年を迎える)来年の適当な時期の再評価」を要求。「これらのことは現代政治の一般常識であり、国民全ての願いだ」と党に再考を促した。
 
許氏の論文について、天安門事件で失脚した趙紫陽元首相の秘書を務めた鮑●氏(●=杉の木へんを丹)は賛意を示す一方、許氏の安全を危惧している。
 
現在、中国本土では許氏の論文がネットで閲覧できなくなっている。
 
中国では最近、習氏への個人崇拝に対する批判が表面化している。5月にも名門、北京大で「毛沢東は個人崇拝を推し進め…人民は無数の災禍を経験した」「習氏は個人崇拝を大々的に推進している…警戒を強めるべきだ」などとする壁新聞が出現、関心を集めた。【7月30日 産経】
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国家主席任期撤廃や個人崇拝への批判はともかく、天安門事件再評価となると、習近平主席の政治的立場だけでなく、共産党支配体制の見直しともなる大問題です。

「墨汁事件」から上記の個人崇拝批判まで、一連の“出来事”が(失脚云々はともかく)何らかの中国政治の変化を予兆するものなのか、単なる“ウワサ”“ガセネタ”を惹起しているだけなのか・・・わかりません。

まあ、北戴河でスローガンから「習近平」消えたということであれば、近年の行き過ぎた個人崇拝に対する何らかの“揺り戻し”があるのかも・・・という感はしますが。

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