孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

国連の紛争対応について  ルワンダ大使「涙の訴え」 コンゴPKOで「平和強制部隊」

2013-02-28 23:12:54 | 国際情勢

(シリア ミサイル攻撃による犠牲者 “flickr”より By EDMD1 http://www.flickr.com/photos/44951574@N03/8501583998/

シリア問題で有効策を打ち出せない国連安保理
悪化するシリア国内情勢は、大都市住宅街にミサイルが撃ち込まれ多数の子供などが犠牲になるといった、手段を選ばない末期症状の色合いも見せています

****シリア:アレッポで141人死亡…政府軍がミサイル攻撃****
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は26日、内戦状態に陥ったシリアで18〜22日に、政府軍が最大都市アレッポ近郊に弾道ミサイルを撃ち込み、少なくとも子供71人を含む141人が死亡したと発表した。周辺では反体制派がアレッポ国際空港の掌握を目指し攻勢をかけており、激しい戦闘が続いている模様だ。

同団体によると、攻撃を受けたのはいずれも多数の市民が暮らす住宅街。反体制派の支配下にあるが、攻撃があった当時は戦闘員はいなかったとされる。ミサイルはダマスカス近郊の軍基地から発射されたという。
シリアでは11年3月の内戦開始以降、これまでに少なくとも7万人以上が死亡し、国内避難民は300万人を超えるとされる。【2月26日 毎日】
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シリアを巡る国際情勢については、“欧州・中東9カ国を歴訪中のケリー米国務長官は26日、訪問先のベルリンでロシアのラブロフ外相と会談し、内戦が続くシリア情勢を中心に協議した。ラブロフ外相は会談後、記者団に対し、アサド政権とシリア反体制派の対話実現に向けて「あらゆる努力」を続けることで米露両国が一致したと語った。”【2月27日 毎日】とのことですが、“シリア情勢は、米国がアサド政権の早期退陣を前提に反体制派を支援しているのに対し、ロシアがアサド政権の後ろ盾になっている構図に変化はない”【同上】というように、欧米諸国とアサド政権支援のロシア、国際介入を嫌う中国の対立が国連安保理でも続いており、有効な対策が打ち出せずにいます。(欧米諸国側にも、イスラム過激派が含まれる反体制派への武器支援をためらうといった事情も存在しますが)

【「これ以上、何を聞く必要があるのか」】
そうしたなかで、安保理非常任理事国ルワンダの大使が「安保理は話し合いではなく行動すべきだ」との「涙の訴え」を行ったそうです。

****安保理:「すぐ行動を」ルワンダ大使が涙の訴え****
内戦状態に陥っているシリア問題を巡る国連安全保障理事会の動きの鈍さに対し、非常任理事国メンバーから批判の声が高まっている。27日の非公式協議では、ルワンダのガサナ大使がおえつしながら「安保理は話し合いではなく行動すべきだ」と主張した。

「涙の訴え」の背景には、民族対立で約80万人が犠牲になった94年のルワンダ大虐殺の際も安保理が積極的に介入しようとせず、被害の拡大を招いたことがあるようだ。

安保理関係者によると、協議ではエイモス人道問題調整官ら国連高官3人が報告。周辺国へのシリア難民が約94万人に達し、女性の性的暴力被害が拡大していることなどを説明した。
報告後、今年1月から安保理メンバーになったルワンダのガサナ大使は涙で言葉を詰まらせながら「これ以上、何を聞く必要があるのか」と安保理の「行動」の必要性を強調。さらに「これから非常任理事国としての2年間、あなた方に休息を与えることはしない」と他の大使らに向かって宣言し、シリアの問題を提起し続ける意向を明らかにした。

シリア情勢への対応で安保理は、常任理事国の米国とロシアがアサド大統領の処遇を巡って対立、効果的な対策を打ち出せない状態が続く。ガサナ大使の後も「安保理は国際社会の危機を解決するのではなく、管理するだけの存在になっている」(ルクセンブルク)、「安保理は重大な責任がある」(オーストラリア)など、安保理非難の意見が続出。「非常任理事国の欲求不満が鮮明になった」(安保理筋)という。

一方の常任理事国5カ国は、米国、英国、フランスが人道状況の悪化についてアサド政権を非難したのに対し、ロシアと中国は政権と反体制派の双方に責任があると主張。従来通りの対立構図のままだった。【2月28日 毎日】
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内戦により80万〜100万人が虐殺されたルワンダ大虐殺については、これまでもしばしば取り上げましたが、上記記事の簡単な紹介では以下のようになっています。

****ルワンダ大虐殺****
ルワンダの旧宗主国ベルギーは、人口の8割超を占める農耕民フツと、少数派の牧畜民ツチを分断統治した。62年の独立後フツ政権がツチを弾圧し、両者の対立が激化。94年、政府軍やフツ強硬派民兵が、ツチとフツ穏健派を襲撃。内戦により80万〜100万人が虐殺された。当時、国連安保理は難民救出のため国連ルワンダ支援軍の拡大を呼びかけたが、各国が派兵をしぶり、効果をあげられなかった。
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問題は、大虐殺発生当時にベルギー軍を主体とする国連PKOの平和維持軍が存在したにも関わらず大虐殺の発生を止められなかったこと、止めるどころかベルギー軍部隊に10名の犠牲者を出たことでベルギー軍は撤退を開始、国連安保理も軍事要員を大幅に縮小することを決めたことで、国際社会が手を引く姿勢を見せた4月だけで20万人以上の犠牲者数が出たと言われています。
あまりの惨状に、国連安保理は方針を変更して軍事要員を増派することとしましたが、各国の協力が得られませんでした。

大虐殺の混乱当時にルワンダ愛国戦線(RPF)を率い、現在ルワンダ大統領の席にあるカガメ大統領は、目の前で虐殺が行われているときじっと動かなかったUNAMIR(PKOである国連ルワンダ支援団)司令官ダレール将軍のことを「人間的には尊敬しているが、かぶっているヘルメットには敬意を持たない。UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。」と、語ったそうです。

今回のルワンダ大使の「涙の訴え」の背景には、このような国際社会から見放された紛争現地の惨状への思いがあります。

ソマリアでの失敗後、2回目の「平和強制部隊」】
国連及び国際社会の紛争・内戦への対応は、現在のシリア情勢のように関係国の利害が対立して具体策が打ち出せないという問題のほかに、ルワンダで見られたように、国連が平和維持軍などを派遣したとしても、どこまで現地情勢に関与できるか、武力行使がどこまで認められるのかという問題があります。

後者の問題について、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は、コンゴPKOにおいて本格的な戦闘行為もできる「平和強制部隊」創設の方針を打ち出しています。

****コンゴ「平和強制」PKO、1年派遣…国連総長****
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は27日、コンゴ民主共和国の国連平和維持活動(PKO)に関する特別報告書を国連安全保障理事会に配布し、武装勢力との本格的な戦闘行為もできる「平和強制部隊」を同PKOに当面1年間設置するとの方針を示した。
特殊部隊なども備えた本格的な陣容で、国連PKOでは18年ぶりとなる平和強制部隊の設立を目指す。

本紙が入手した報告書によると、平和強制部隊はコンゴ東部国境地帯の武装解除などが目的で、既存のコンゴPKOの一部となる。3個歩兵大隊、特殊部隊の1個中隊や砲兵隊で構成され、攻撃ヘリも拡充。コンゴ国軍とは別に単独でも攻撃作戦を行える権限を持つ。

安保理は近く、潘氏の提案を審議するが、平和強制部隊の設立自体には目立った反対論がない。フランスが近く決議案を示す方針で、採択される見込みだ。【2月28日 読売】
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“18年ぶりとなる平和強制部隊”ということですが、前回はソマリアで実施され、それが失敗したことで、最初で最後の試みとなっていました。
当時のガリ国連事務総長の構想に基づき、1993年、憲章第7章のもとで平和強制を行う史上初めてのPKO、第2次国連ソマリア活動(UNOSOM II)が設置されました。UNOSOM IIは、PKOでありながら、人道援助のみならず、戦闘阻止、強制武装解除、警察・司法を含む統治機構の構築などがその任務とされました。

“UNOSOM IIは、飢餓状態の緩和など人道面で成果をあげたものの、強制行動を行うことによって自らが紛争当事者となり、数千人の犠牲者が国連側にも出た。1993年10月には、首都モガディシオでアイディードの本拠地を襲撃に行ったアメリカ特殊部隊が、逆に地元武装勢力に包囲され、18人の米兵が殺された。そのうちの一人が市民に遺体を引きずり回されるシーンがテレビで放映されたりもした。その結果、アメリカをはじめとする数カ国が相次いで部隊撤収意思を表明するにいたった。人道目的よりも自国の利益(この場合、自国の兵士の命)を優先させたのである。1994年2月、安保理は決議897を採択し、UNOSOM IIに課せられた任務を大幅に縮小、武装解除や和平協定実施は現地の武装勢力各派が自発的に行うとされ、平和強制権限は削除された。その後も和平プロセスの実質的な進展は見られず、結局、1995年3月にUNOSOM IIは完全撤退した。こうして、ガリ事務総長(当時)の提唱した平和強制は失敗したとの評価が下された。”
【国連による平和強制:ソマリア 池尾靖志氏 http://www.yikeo.com/advanced/ch1/advanced1-6.html

【「市民の保護が問われる場合は、部隊の中立はあり得ない」】
このソマリアでの平和強制の失敗で、今後は行わないことをガリ事務総長自身が宣言した経緯がります。
ただ、ルワンダやスレブレニツァの虐殺事件が起きたボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の経験などから、国連は現地の紛争にもっと積極的に関与して犠牲者増大を食い止めるべき・・・との流れが強まっているようです。

2005年に開かれた国連首脳会合は、「保護する責任」と命名した新たな概念で合意しました。国家主権は住民を保護する責任を伴い、国家がもしその責任を果たせないときは国際社会が代わって責任を果たすべきだという考え方です。


この「保護する責任」を基に、リビア・カダフィ政権を巡る内戦状態に対し、潘基文(パン・ギムン)事務総長は「一刻も早く、決定的な行動を起こさなければならない」と、国際社会に介入を強く促しています。

また、2011年のコートジボワールの混乱に関して、潘基文事務総長は「市民の保護が問われる場合は、部隊の中立はあり得ない」との判断を示しています。

****PKO活動、常に中立あり得ぬ」 国連事務総長が発言****
国連の平和維持活動(PKO)をめぐり、潘基文(パン・ギムン)事務総長が「市民の保護が問われる場合は、部隊の中立はあり得ない」と安全保障理事会の理事国に説明していたことがわかった。
従来のPKOは「中立性の順守」を掲げ、日本のPKO参加5原則でも「中立的立場の厳守」を定めており、今後議論を呼びそうだ。

複数の国連外交筋が朝日新聞に明らかにした。発言のきっかけは、大統領選をめぐる混乱が続いていたコートジボワールで、大統領職に居座るバグボ氏派の拠点をPKO部隊が先月4日に攻撃したこと。安保理理事国のロシアや南アフリカが「PKOは公平・中立の義務がある」と反発したため、4月末にPKOのあり方をめぐり、安保理の15理事国の代表と潘氏で非公式の協議が開かれたという。

その協議で潘氏は、コートジボワールでのPKO部隊によるバグボ派拠点の攻撃は、あくまで市民の保護と部隊の自衛のためだったと述べて正当化し、「国連の平和維持活動は公平・公正の立場に立つが、常に中立であることはあり得ない」と強調したという。

従来のPKOでは、展開する前提として「紛争当事者の合意」とともに「中立性の順守」を掲げてきた。潘氏の発言は、今後のPKOでは国連が「市民の保護」の観点から人権侵害をしていると見なした相手に対しては、直接的な軍事行動を取ることもあり得ると踏み込んだものだと、協議の出席者らは受け止めた。

発言に対して、複数の安保理理事国が国家主権の尊重や内政不干渉を理由に反発。ナイジェリアとフランスは「人権侵害を防ぐために、強制措置を取ることはやむを得ない」と理解を示したという。
日本では、「中立的立場の厳守」などの参加5原則を維持したまま、潘氏の下でのPKOに参加できるかが問題視される可能性がある。

ある外交筋は「PKOは今後、国連主導の武力行使につながる可能性が出てきた。日本政府も自衛隊をPKOに派遣するには、市民の保護の最優先など国民に説明できる一貫した論理を打ち出さなければならないだろう」と指摘した。【2011年5月14日 朝日】
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今回のコンゴPKOにおける平和強制部隊創設の試みは、一連のこうした流れに沿うものと思われます。
国連の活動の国家主権の関係、紛争・内戦の混乱状態で“「市民の保護」の観点から人権侵害をしていると見なした相手”というのが公平・公正に判断できるのか・・・という難しい問題を伴います。

例えば、セルビアは民族浄化を行う“悪者”としてNATO空爆の対象となりましたが、こうしたセルビアのイメージは多分にメディア戦略の結果とも言われ、内戦当時、反対勢力側にもセルビアが行っていたのと同様の残虐行為はあったとも言われています。
シリアに関しても、政府側・反体制派双方が相手方の犯行として相手方を非難する事例が多々あるというか、殆んどがそうした事例です。反体制派の流す情報にはかなり歪みがあるとも指摘されています。

とは言え、“UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。”というカガメ大統領の言葉には重いものがあり、中立を掲げて虐殺を放置するというのはやはり容認できません。

今後のPKOへの日本の自衛隊参加にあたっては、「市民の保護が問われる場合は、部隊の中立はあり得ない」という“覚悟”が求めらることも出てくるでしょう。その“覚悟”には参加部隊の犠牲の覚悟も含まれますし、そのためには武装に関する再検討も必要になります。

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