
(【3月5日 FNNプライムオンライン】大音量で鳴る音と、立ち込めるピンク色の煙で大混乱のセルビア議会)
【2023年12月の総選挙をめぐる混乱 米欧とロシアの代理戦争との指摘も】
セルビア・・・バルカン半島にあって旧ユーゴスラビアの中心国でしたが、ユーゴスラビア解体の過程で、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争における“スレブレニツァの虐殺”などの民族浄化的な非人道的行為、欧米に支援されたコソボに対しロシアの支援でその独立を阻もうとし、NATOによる空爆を受けたことなどで、西側におけるイメージはやや「悪役」みたいなところもありました。
(民族浄化的な非人道的行為はセルビア側にだけあったのではなく、その程度は別にして、相手側にも同様の行為はあったとも言われ、セルビアはイメージ戦略で「悪役」に仕立て上げられた・・・との見方もあります)
そうしたバルカン半島における対立は今も続いてはいますが、セルビア自体はEU加盟を目指しています。一方で、ロシア制裁を課さないなどロシアとの関係も持続。
そのセルビアでは一昨年末に総選挙が行われ与党が勝利しましたが、不正があったとして混乱も起きました。
****国政選挙でセルビア進歩党が政権維持*****
(2023年)12月17日に行われたセルビアの議会早期解散選挙の暫定結果が19日に発表された。開票率は96.68%。アレクサンダル・ブチッチ大統領率いる中道右派・与党のセルビア進歩党(SNS)が大勝した。
SNSは「セルビアは立ち止まってはいけない」をスローガンに、2012年から政権を維持してきた。ブチッチ大統領は2023年5月に同党の党首を辞任したものの、いまだに同党の顔としてその人気は衰えていない。(中略)
今回の選挙では約60%の有権者が投票し、SNSは暫定結果で約46.7%の得票率で129議席を獲得、議会過半数の126議席を上回っている。(後略)【2023年12月25日 JETRO】
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****セルビア野党支持者ら、首都で市庁舎への侵入試みる 議会選の結果に抗議****
ベオグラードの市庁舎に押し寄せた「暴力に反対するセルビア」野党連合(SPN)の支持者(24日)
セルビアの首都ベオグラードで24日、先週投開票された議会選挙の結果に反対する抗議デモがあり、一部の抗議者が市庁舎に押し入ろうとした。
17日に投開票された議会選では、政権与党が議会で過半数を獲得した。野党は投票のやり直しを求めている。
国内外の監視団は、複数の投票所で「不規則な事態」が見受けられたと報告している。票の水増しや買収があったとの指摘もある。
アレクサンダル・ヴチッチ大統領はこうした疑惑を「くだらないうそ」だと一蹴した。
ベオグラード市議会選挙は特に批判を集め、市民ではない人々がバスで乗り付けたとの報告もあった。
こうした中、「暴力に反対するセルビア」野党連合(SPN)の支持者らが24日、ベオグラードの市庁舎に押し入ろうとした。
SPNのリーダー、サルジャン・ミリヴォイェヴィッチ氏とウラジーミル・オブラドヴィッチ氏は市庁舎の扉を開けようとした。警察はペッパースプレーで抗議者たちを追い払った。
弁護士のソフィヤ・マンディッチ氏は群衆に対し、ヴチッチ大統領は「平和的に権力を引き渡す」べきだと訴えた。また、政府は権力を「不当に奪っている」と付け加えた。
ヴチッチ氏は24日夕、国民向けの緊急演説を行い、この騒乱は外国の干渉によるものだと非難した。「暴力と闘うと誓った者たちは、自分たちこそが本当の悪党であることを再確認したにすぎない」(中略)
ドイツは、欧州連合(EU)加盟を目指すセルビアでの選挙違反疑惑は「容認できない」としている。ヴチッチ氏は不正行為を否定している。【2023年12月25日 BBC】
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このセルビアの混乱は米欧とロシアの「代理戦争」的な様相があるとの指摘も。
****セルビアで議会選挙の不正訴え連日の抗議デモ 米欧と露「代理戦争」の様相も****
旧ユーゴスラビア構成国のセルビアで、17日に投開票された国民議会(一院制、定数250)選挙に不正があったとして選挙無効を訴える抗議デモが激化し、26日までに少なくとも38人が警察当局に拘束された。
米政府が「デモの平和的実施」を支持する一方、ロシア政府は欧米を念頭に、デモはセルビアの政情不安定化を狙った「外国勢力の策動だ」と主張して与党を支援するなど、事態は欧米とロシアの「代理戦争」の様相を呈しつつある。(中略)
ロシアのペスコフ大統領報道官も25日、「外国を含む第三勢力が騒動をあおっている」とした上で、ブルナビッチ首相らが「法治を確保することは疑いない」と述べ、連立与党に寄り添う考えを示した。
セルビアはEU入りを目指し、加盟交渉を開始している。一方でブルナビッチ政権は、ウクライナを侵略したロシアに対する米欧などの制裁に同調せず、ロシアとの関係を尊重する独自の「バランス外交」を展開している。
ロシアは、今回の騒動を利用してセルビアを取り込む動きを活発化させるとみられ、セルビアをめぐる米欧とロシアの綱引きが激しさを増すのは必至だ。【2023年12月27日 産経】
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【「一帯一路」を掲げて割って入る中国】
そうした米欧とロシアの綱引きに割って入ろうとするのが中国。その具体的方法が「一帯一路」
****中国、セルビアと連携拡大=習氏訪欧、親ロシア国に照準****
中国の習近平国家主席は(2024年5月)8日、欧州歴訪2カ国目のセルビアで、ブチッチ大統領と会談し、巨大経済圏構想「一帯一路」を基盤とした連携強化を打ち出した。両首脳は共同声明で「未来を共有する共同体構築」をうたい、経済にとどまらない幅広い分野で協力する考えを示した。
習氏は会談で「セルビアは複雑な外部環境に直面しながら、自主独立を堅持している」と、対中警戒が強まる欧州内での親中姿勢を評価。両国関係を「鋼の友情」と呼び、「より多彩な歴史の幕を開く」と訴えた。
ブチッチ氏はこれに先立つ歓迎式典で「セルビアほど習氏に敬意と称賛を示す国はない」と語り掛け、中国との連携による経済的な恩恵に謝意を表明。また「台湾は中国だ」と述べ、中国の主張を全面的に支持した。
セルビアメディアによると、中国からの使節団は400人規模。両国は経済協力や文化交流など約30件の合意を交わした。直通の航空便開設についても協議した。
習氏は7日夜、セルビア入りした。同日は1999年の北大西洋条約機構(NATO)による当時ユーゴスラビアの首都だったベオグラードに対する空爆で、米軍が中国大使館を誤爆してから25年の節目の日。習氏は現地紙に「決して忘れない。悲劇を繰り返すことは許さない」と寄稿し、米国への対抗心をにじませた。
セルビアはロシアの友好国。ブチッチ氏は昨年10月、北京で開かれた一帯一路関連の国際会議に出席した際、プーチン大統領と会談した。習氏はセルビア訪問後、ハンガリーに向かい、プーチン氏と親密なオルバン首相と会い、訪欧を終える。
習氏は最初にフランスを訪れており、ロシアと緊密な関係を保ちながら、米欧の連携を乱そうとする中国側の思惑がうかがえる。【2024年5月8日 時事】
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【一帯一路事業での事故を契機に与野党対立激化 議会内外で混乱】
しかし、前述のような与野党対立が根底にあるなかで、一帯一路事業の一つとして中国企業が改修した駅の屋根が崩落した事故(昨年11月)が政権の親中国路線批判を名目とする政治問題化しています。
****駅崩落で前建設相拘束=15人死亡、「一帯一路」で改修―セルビア****
セルビアで今月(2024年11月)、駅の屋根が崩落して15人が死亡する事故があり、検察は21日、前建設相ら12人を拘束した。地元メディアが伝えた。事故後に当局の責任を追及する抗議活動が広がっていた。
事故は1日、北部ノビサドの駅で発生。改修直後だったコンクリート屋根の外側にせり出した部分が崩れた。検察は、公共の安全に対する重大犯罪などの容疑で、事故後に辞任したベシッチ前建設・運輸・インフラ相を含む政府高官らを拘束した。
報道によると、改修工事は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」のセルビアとハンガリーをつなぐ高速鉄道計画の一環で行われた。詳しい事故原因は分かっておらず、野党や市民は工事情報の公開を求めている。【2024年11月22日 時事】
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事故以来、議会内外での対立が続いています。
****宙を舞う発煙筒…国会に“ピンクの煙”充満で大混乱 反政府デモ続くセルビアで野党議員が反乱の異例事態 議員2人負傷も****
4日、セルビアの国会は混迷を極めていました。大音量で鳴る音と、立ち込めるピンク色の煙で大混乱です。原因は、野党の議員が発煙筒をたいたことでした。
直前の映像を見ると、議員たちが演説台に押し寄せ、乱闘状態になっています。すると、議員たちの陰から煙が上がり始めます。床に何者かが投げた発煙筒が転がり、あっという間に煙だらけの状況に。(中略)
なぜ、野党の議員はこのような行動に出たのでしょうか。実は、国会の外ではデモが行われていました。横断幕に書かれていたのは、「腐敗は人を殺す」という文章。
セルビアでは、鉄道駅の屋根が崩落して15人が死亡した事故以来、連日のように反政府デモが起きています。時に、デモ隊が道路を封鎖し、強引に通り抜けた車がデモ隊をひく危険な場面も。
今
回の国会内での混乱は、このデモ隊への支持を示すために野党議員が発煙筒をたいたことが原因でした。地元メディアによると、その際、議員同士がもみ合いとなり2人が負傷しています。【3月5日 FNNプライムオンライン】
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****親中国路線のブチッチ政権に不満の声 セルビアで10万人参加の反政府デモ きっかけは中国政府が改修工事した駅の屋根の崩落事故****
東ヨーロッパのセルビアでは反政府デモが続いていて、首都ベオグラードでは15日、10万人以上の市民らが抗議の声をあげました。
ロイター通信によりますと、ベオグラードで15日、大規模な反政府デモが行われ、10万人以上が集まりました。
セルビアでは去年11月、中国企業が改修工事を行った駅の屋根が崩落し、15人が死亡する事故が発生。親中路線のブチッチ政権への不満の声が高まり、政府の腐敗に対する抗議運動に発展しました。
ブチッチ大統領は“今回のデモで22人が逮捕された”と発表。「我々はメッセージをよく理解した。我々自身を変えなければいけない」とする一方、「セルビア国民の大半は暴力を望んでいない」と自制を呼びかけました。【3月17日 TBS NEWS DIG】
ロイター通信によりますと、ベオグラードで15日、大規模な反政府デモが行われ、10万人以上が集まりました。
セルビアでは去年11月、中国企業が改修工事を行った駅の屋根が崩落し、15人が死亡する事故が発生。親中路線のブチッチ政権への不満の声が高まり、政府の腐敗に対する抗議運動に発展しました。
ブチッチ大統領は“今回のデモで22人が逮捕された”と発表。「我々はメッセージをよく理解した。我々自身を変えなければいけない」とする一方、「セルビア国民の大半は暴力を望んでいない」と自制を呼びかけました。【3月17日 TBS NEWS DIG】
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中国企業が改修工事を行った駅の屋根が崩落した事故そのものと言うより、政権の腐敗体質、かねてよりの与野党対立が事故を契機に噴き出している様相ですから、この混乱が収束しても、同様の混乱が何かの契機で再燃するのでしょう。
そうした混乱の背後では、米欧、ロシア、そして中国の外国勢力が自らの影響力を強めようとしてうごめいているのはおそらく事実でしょう。