孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

レニングラード解放から75年、アウシュビッツ解放から74年 歴史の記憶への様々な思い

2019-01-28 23:15:31 | 欧州情勢

(1月27日にオープンしたレニングラード包囲戦を再現した3D博物館を視察するプーチン大統領【1月28日 RUSSIA BEYOND】)

【プーチン大統領:レニングラード住民を「すさまじい苦痛」にさらしたナチスは、決して許されない】
安倍政権が進展を期待する北方領土問題については、周知のようにロシア側の要求するハードルは、日本にとっては受け入れづらいものになっています。

“ロシア側は、北方領土は、第二次大戦の結果、ロシア(当時のソ連)が獲得したものであり、不法な占拠ではないと主張している。ラブロフ外相は、「北方領土」という呼称も批判しているし、16日の記者会見では、国連憲章107条(旧敵国条項)に言及し、「日本は第二次世界大戦の結果を認めない唯一の国」と批判した。そして、日露関係は「国際関係でパートナーと呼ぶにはほど遠い」と厳しい見方をした。”【1月19日 舛添要一氏 JB Press】

ロシアが頑なに第二次大戦の結果にこだわる背景には、いろんな政治事情のほかに、大戦の勝利はロシア(ソ連)が甚大な(死者数で言えば日本をはるかに上回る)犠牲者を出して勝ち得たもの・・・という認識があると推察されます。

戦争の犠牲者数というのは正確な数字は把握しがたいものですが、【ウィキペディア】ではソ連については“21,800,000〜 28,000,000人”という数字があげられています。日本は“2,620,000 〜 3,120,000人”ということで、一桁違います。(もちろん数字の多寡で犠牲の大きさが決まる話ではありませんが)

大戦の勝利は、文字どおりロシアの大地を国民の血で赤く染めて勝ち取った結果・・・という訳です。
このソ連の苦しい戦いを象徴するのが、ドイツによる約900日に及ぶ「レニングラード包囲戦」です。

****レニングラード包囲戦****
・・・・ドイツ軍はソビエト連邦第2の大都市レニングラード(現・サンクトペテルブルク)を900日近くにわたって包囲したが、レニングラードは包囲に耐え抜き、後にスターリンによって英雄都市の称号が与えられた。

飢餓や砲爆撃によって、ソ連政府の発表によれば67万人、一説によれば100万人以上の市民が死亡した。これは日本本土における民間人の戦災死者数の合計(東京大空襲、沖縄戦、広島・長崎を含む全て)を上回る。(中略)

飢餓の発生
(中略)冬が近づく頃、飢餓による死が襲ってきた。植物学者のニコライ・ヴァヴィロフの研究スタッフの1人は、食用にすることもできた20万種の植物種子コレクションを守ろうとして餓死した。

ターニャ・サヴィチェワという当時12歳の少女は、12月から翌年5月にかけてレニングラードにいた肉親全員が次々と死んでいったことを書き残している(ターニャの日記)。

レニングラードの街角は死体で溢れた。やがて食料が切れた市内には飢餓地獄が訪れ、死体から人肉を食らう凄惨な状況が常態化し、人肉を含む食品を売る店まで現れた。【ウィキペディア】
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1月27日はレニングラードの解放を祝う記念日でした。

****レニングラード解放75周年、プーチン氏「不屈の精神」たたえる****
ロシアのサンクトペテルブルクは27日、第2次世界大戦中に80万人以上が犠牲となったドイツ軍による872日間に及ぶ包囲戦からの解放75周年を迎えた。ウラジーミル・プーチン大統領は、同市の「不屈の精神」をたたえた。
 
ロシア第2の同市は、旧ソ連時代にはレニングラードと呼ばれ、1941〜44年に872日間にわたってナチス・ドイツ軍に包囲された。当時の人口は約300万人。

市内への物資の供給が絶たれ、パンの配給は肉体労働者で1日250グラム、一般市民では同125グラムにまで減らされた。飢えや病気、砲撃などで80万人以上が命を落としたとされるが、実際の犠牲者数はもっと多いと歴史家は指摘している。
 
サンクトペテルブルク中心部の宮殿広場では27日、戦車や防空ミサイルシステムによる軍事パレードが行われた。最新鋭兵器のほか第2次世界大戦中に名をはせたT34戦車も登場し、氷点下11度と冷え込む降雪の中、大勢の人々がパレードを見守った。
 
プーチン大統領はパレードには姿を見せず、市郊外にあるレニングラード包囲の記念施設と犠牲者が眠るピスカリョフ記念墓地を訪問。

その後出席した追悼コンサートで、「難攻不落の街」を餓死させようと試みレニングラード住民を「すさまじい苦痛」にさらしたナチスは、決して許されないと述べた。
 
同地出身のプーチン大統領は戦後生まれだが、レニングラード包囲の際にまだ幼かった兄を亡くし、母親も餓死寸前まで追い込まれた。兄はピスカリョフ墓地に埋葬されている。 【1月28日 AFP】
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【ロシア政府:生存者全員に、ドイツ政府が個別に賠償をしなければならない】
これだけの犠牲者を出した戦闘ですので、いまもロシア・ドイツ両国の心情に大きな傷跡を残しており、生存者への賠償といった政治的な課題も残存しているようです。

****ドイツ政府、レニングラード包囲戦の生存者支援に約15億円拠出****
ドイツとロシアは27日、第2次世界大戦に従軍した旧ソ連軍の退役兵と、戦時中にナチス・ドイツ軍による872日間に及ぶレニングラード包囲戦の生存者らを支援するため、ドイツ政府が1200万ユーロ(約15億円)を拠出すると発表した。
 
この日、ロシアはレニングラードの解放から75年を迎えた。包囲戦では80万人以上が死亡したとされる。現在サンクトペテルブルクと改名した同市には、今も約8万6000人の生存者が暮らす。
 
今回のドイツ政府の資金拠出は「包囲戦の生存者に対する自発的な人道的行動」とされている。

ドイツのハイコ・マース外相とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、「この自発的な行動が包囲戦生存者たちの生活の質を向上させ、今後の両国関係の発展の基盤となる両国民の歴史的和解に寄与すると信じている」と述べた。
 
一方、ロシア政府はこれとは別に声明を発表。包囲戦の生存者支援の取り組みは「重要」だが不十分だとした上で、1941年から44年まで続いた包囲戦の生存者全員に、ドイツ政府が個別に賠償をしなければならないと主張した。 【1月28日 AFP】
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ロシア・ドイツの関係は、天然ガス輸出などで比較的強固なものがありますが、そうであってもやはり過去の清算となる話は簡単ではありません。

【ポーランド首相:ホロコーストの責任は、ナチス・ドイツにあるのではなく、ヒトラー支配下のドイツという国家そのものに】
プーチン大統領は、“レニングラード住民を「すさまじい苦痛」にさらしたナチスは、決して許されない”と、「ドイツ」ではなく「ナチス」を非難の対象としています。

日中関係でも、以前は“悪いのは当時の日本軍国主義・軍部であり、日本国民を責めるものではない”という類の発言がよく聞かれました。(最近はどうでしょうか?)

ドイツ国内外にあっても、極悪非道な行為をなしたのは「ナチス」であり、ドイツ国民全体ではない・・・という認識もあるようです。

しかし、そういう責任の“使い分け”を認めない国もあります。

1月27日は、レニングラード解放の記念日であると同時に、アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所が解放された日であります。

****ホロコーストの責任、ナチスではなく「ヒトラーのドイツに」 ポーランド首相****
ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相は27日、第2次世界大戦中のホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の責任は、ナチス・ドイツにあるのではなく、アドルフ・ヒトラー支配下のドイツという国家そのものにあったと発言した。
 
ポーランドは同日、戦時中にユダヤ人が大量に虐殺されたアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所の解放から74年を迎えた。
 
南部オシフィエンチムで行われたホロコースト記念日の式典で、モラウィエツキ首相は「ヒトラーのドイツは、ファシズムの思想に支えられた」と指摘した上で、「だが、あらゆる悪はこの国(ドイツ)からやってきた。われわれは、それを忘れることはできない。でなければ悪を相対化することになってしまうからだ」と述べた。
 
首相はさらに、「ポーランドは真実の守護者として行動する国だ。真実は、どんな形であっても相対化されてはならない」と主張。「私はここで、あの時代に関する完全な真実を(保存すると)約束する」と付け加えた。
 
ポーランドでは昨年、ナチスの犯罪にポーランド国民や国家が加担したと主張した者に刑事罰を科す法律が成立。イスラエルや米国の反発を受け、罰金や禁錮刑を科すとの条項を削除する改正を行っている。
 
ナチスが占領下のポーランドに作ったアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所では、1940〜45年に100万人ものユダヤ人のほか、10万人に上る非ユダヤ系ポーランド人、ロマ人、旧ソ連の戦争捕虜、反ナチスのレジスタンス闘士たちが虐殺された。【1月28日 AFP】
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上記記事にもあるように、ポーランドの右派政権はホロコーストはドイツ・ナチスの犯罪である、ポーランドは一切加担していない、犠牲者であるとの立場をとっています。

歴史家からは批判も多い考えですが、第二次大戦で“5,620,000〜 5,820,000人”(国民の16.1 〜 16.7% 日本は4%前後)【ウィキペディア】という犠牲を強いられた過去が、こうした認識の背景にあると推察されます。

【ゆがめられる記憶 「あらゆる階層の人が、また悪意を持ち始めている」】
そのホロコーストも、時間の経過とともに人々の記憶から薄れていくのはいたしかたない面もありますが、その事実そのもを否定しようという考えが頭をもたげているようにも見えます。

****ナチスのホロコースト、イギリスの5%が「信じていない」=調査****
第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人などの大虐殺(ホロコースト)について、イギリスの成人の20人に1人が「起きなかった」と考え、12人に1人が「誇張されている」と考えていることが明らかになった。

イギリスのホロコースト・メモリアル・デー・トラスト(HMDT)が2000人以上を対象に行った調査に調査した結果。

27日は国連が定める「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」に当たる。イギリスではロンドンでの追悼式典に加え、国内で1万1000件以上の関連イベントが行われた。

HMDTの調査では、回答者の45%がホロコーストの犠牲者数を知らないと述べたほか、ホロコーストで殺されたユダヤ人は200万人以下と答えた人が19%いた。実際の推計は600万人とされる。

「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」では、1994年にルワンダで起きた虐殺や、1970年代のカンボジアのポル・ポト政権による虐殺の犠牲者も追悼する。

テリーザ・メイ英首相はツイッターで手書きのメッセージを公表し、「ホロコーストで無残に殺された600万の魂を正しく表せる言葉などない。しかし我々は、今日の行いを通じてふさわしい追悼を捧げることができる」と、ホロコーストに思いを馳せてほしいと訴えた。

ロンドン・ウェストミンスターのエリザベス2世センターで開かれた追悼式典に参加した最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、「ホロコーストで犠牲となった数百万のユダヤ人や、その他の人々を追悼する。反ユダヤ主義やあらゆる人種差別が我々の社会を歪めることを許してはならない」と書いた。

この式典には200人のホロコースト生存者も参加した。生存者により、600万人のユダヤ人犠牲者を模した6本のろうそくがともされた。

10代にアウシュヴィッツ強制収容所から生還し、その後イギリスに移り住んだレイチェル・リーヴァイさん(87)は、今のイギリスに見られる反ユダヤ主義を怖れていると話した。「あらゆる階層の人が、また悪意を持ち始めている。どうしてなのか理解できない」

ナチス・ドイツの主な標的はユダヤ教の人々だったが、他にも同性愛者や少数民族、共産主義や労働組合推進者といった政敵、キリスト教の一派であるエホヴァの証人などもホロコーストの犠牲となった。
心の病を抱える人や身体障害者は計25万人、ロマは50万人が殺害された。(後略)【1月28日 BBC】
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記事はイギリスを取り上げていますが、話はその他の国でも同じようなものでしょう。
「過去を無視すれば、歴史は繰り返されてしまう」・・・ということです。

【“知らなかった”ではすまないことも】
“無視する”というより、単に“知らない”という若者も増えていきます。

****ナチスTシャツを着用、タイのAKB姉妹グループメンバーが謝罪****
タイで人気のポップグループの1つで、日本のAKB48の姉妹グループ、BNK48メンバーのナムサイ(本名、ピチャヤーパー・ナーター)さん(19)が25日、テレビリハーサルでナチス・ドイツのかぎ十字がデザインされたTシャツを着用し、非難の声が上がっている。

ナムサイさんとBNK48の劇場支配人は26日、在バンコク・イスラエル大使館のメイヤー・シュロモ大使と面会し、騒動について謝罪した。

ナムサイさんが問題のTシャツを着ている写真は瞬く間に拡散された。
27日は、ホロコースト(ナチスによるユダヤ人大量虐殺)犠牲者を悼む「国際ホロコースト記念日」で、その直前に起きたこの騒動について、イスラエル大使館は「衝撃と失望」を表明していた。

一方、多くのタイ国民の間では、ナムサイさんらは第2次世界大戦でのナチス・ドイツの歴史について無知だったのではとの意見が上がっている。 

(中略)インターネット上でもBNK48を非難する声がある一方、一部のファンは、BNK48はナチスのかぎ十字の意味を知らなかったのではないかと擁護した。

BNK48は声明で「不適切なデザインの衣装」が「世界中の人道に反する過去の悪行から影響を受けた人々に動揺と苦痛を与えた」と謝罪した。  

今後については「同様のことが2度と起きないことを保証するため、あらゆる努力を払う」と表明した。

一方、ナムサイさんは26日に開かれたコンサートでファンに謝罪した。BNK48の声明の中でも、より正しい知識を深めるよう努力をしていくとしている。 

ナムサイさんはインスタグラムにも謝罪コメントを投稿し、「この状況について、本当に謝りたい。私がしたことは全て、私自身のミスですと。この世の中には、私が知っているべきことがたくさんあります。私がもっと良い人になれるよう、良いアドバイスをお願いします。今後同じ間違いはしないと約束します」と書いた。

(イスラエル大使館の)シャピラ副大使はツイッターで、「BNK48の劇場支配人は、ホロコーストという重要テーマに真面目に取り組むため、メンバーがホロコーストについて教育ワークショップに参加することを提案した」と明らかにした。

アジアでのナチスをめぐる騒動
ナチス・ドイツ関連のシンボルなどがタイで大きな騒ぎになるのは、今回が初めてではない。

2013年には、バンコクのチュラーロンコーン大学の学生が、ナチスを率いたアドルフ・ヒトラーを、バットマンなどのスーパーヒーローと一緒に壁画に描いた。2016年には、同じくバンコクにあるシラパコーン大学の複数の学生がナチス式の敬礼をしたほか、学生1人がコスプレイベントでヒトラーに扮した。

同様の論争はアジアの他の地域でも起きている。
台湾の高校では、生徒たちが学校の開校記念祭でナチス・ドイツの集会を真似たほか、インドでは国会議員がヒトラーに扮して議会に出席し、騒動に発展した。

一部の若者がヒトラーを称賛し、ヒトラーの自伝的マニフェスト「我が闘争」が人気のインドでは、ナチスをイメージする画像は珍しいものではない。【1月28日 BBC】
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“ホロコーストについて教育ワークショップ”というほど、目くじらをたてることもないかと思いますが、ただ、かぎ十字が何を意味するのか知らないというのも困ります。

個人レベルのささいな出来事で言えば、嫌なこと、苦しかったこと、失敗は「忘れてしまう」「記憶から消してしまう」というのが、現実的な対処法であることはしばしばあります。

ただ国家間の不幸については、「忘れてしまう」「なかったことにしてしまう」では、「過去を無視すれば、歴史は繰り返されてしまう」ということにもなりますし、被害を受けた側からは許されない話にもなります。


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