孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル・ハマス双方の戦争犯罪が国連に報告されるも、事態打開への期待は難しい情勢

2015-06-23 22:37:47 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ地区のガザ市で、イスラエル軍の攻撃で立ち上る煙(2014年7月29日撮影)【6月23日 AFP】)

国際世論から遠ざかるイスラエル
アメリカの仲介による和平交渉が昨年4月に頓挫して以来、目立った動きがない中東・パレスチナ問題ですが、フランス・ファビウス外相による新たな提案が報じられています。

****仏外相 中東和平交渉再開へ新たな枠組み示す****
中東を訪問しているフランスのファビウス外相は、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長と、イスラエルのネタニヤフ首相と相次いで会談し、和平交渉を再開させるため、交渉の方法や期限を盛り込んだ国連決議に基づく新たな枠組みを作り、両者が話し合いを進めるよう提案したものとみられます。

イスラエルとパレスチナ暫定自治政府による和平交渉はアメリカの仲介による協議が去年4月に決裂して以降、途絶えたままになっています。

フランスのファビウス外相は21日、アッバス議長とネタニヤフ首相と相次いで会談し、和平交渉を再開するよう双方に促しました。具体的には、交渉の方法や期限を盛り込んだ決議を国連安全保障理事会で採択し、その枠組みの中で、両者が話し合いを進めることを提案したとみられます。

これについて、パレスチナ暫定自治政府側はフランスの取り組みを支持する考えを示しましたが、イスラエルのネタニヤフ首相は、交渉の枠組みを国連決議で決めることに不快感を示しました。

記者会見で、ファビウス外相は会談の詳しい内容には触れませんでしたが、「交渉なくしては、中東の緊張は燃え上がり、爆発するおそれがある」としたうえで、「難しいが、双方とも交渉を再開すべきだという認識だった」と述べ、交渉再開に向けて外交努力を続ける考えを示しました。【6月22日 NHK】
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イスラエルは国際社会においてアメリカ以外に支持国が殆どなく、そのアメリカ・オバマ政権もパレスチナ問題ではネタニヤフ首相と立場を異にしており、また、欧州各国がパレスチナ国家を承認する流れにあるなかにあって、更に言えば、パレスチナ自治政府が国際刑事裁判所に正式に加盟するなど外交攻勢をかけるなかにあっては、“交渉の方法や期限を盛り込んだ国連決議に基づく新たな枠組み”というのは、イスラエル・ネタニヤフ首相からすれば、パレスチナに偏った枠組みがつくられることを意味し、到底受け入れられるものではないでしょう。

国連総会ではなく安保理ですからアメリカの拒否権はあります。

昨年12月30日にも、イスラエルとパレスチナが1年以内に包括和平合意を実現し、イスラエルに2017年末までの占領地からの完全撤退を求めるパレスチナ主導の決議案が安保理で採決に付されましたが、アメリカなどの反対があって採択に必要な9カ国の支持が得られず、否決されています。

ただ、6月2日の「国際社会はすでに、イスラエルが真剣に二国家共存による解決をしようとしているとは信じていない」という、イスラエル・ネタニヤフ首相への不信感を隠そうとしないオバマ大統領の発言からして、今後パレスチナ問題が安保理で論議された場合、イスラエルはアメリカから譲歩を強く迫られることも予想されます。

なお、フランスも昨年12月、法的拘束力はないものの上下両院ともパレスチナを国家として承認することを可決しており、ファビウス仏外相は、この先2年間イスラエル・パレスチナ間で和平交渉に解決をみない場合は、フランス政府はパレスチナを国家として承認することを辞さない、と示唆したと報じられています。【2014年12月10日 NewSphereより】

イスラエルが国連主導の枠組みを嫌うということは、別な言い方をすれば、イスラエルが国際世論から遠ざかっているとも言えます。

イスラエル・ハマス双方が戦争犯罪
昨年7月に起きたイスラエルのガザ侵攻に関しても、イスラエルは国連報告へ激しく反発しています。

****イスラエルとパレスチナ 子どもの死巡り国連で非難の応酬****
国連の安全保障理事会で紛争地域での子どもの権利の保護を巡る公開の討論が行われ、去年のイスラエル軍によるパレスチナのガザ地区への攻撃で540人以上の子どもが死亡したことについて、イスラエルとパレスチナの間で非難の応酬となりました。

国連の安保理で18日に行われた公開の討論会では、国連のゼルーギ特別代表が、世界では2億3000万人の子どもが紛争地域に暮らし、イスラム過激派組織などによって殺害されたり虐待されたりするケースが急増しているとする、報告書を提出しました。

報告書はまた、去年夏にイスラエル軍がパレスチナ暫定自治区のガザ地区を攻撃した際、国連が運営する学校が破壊されるなどして、540人以上の子どもが死亡したことを取り上げ、国際人道法に基づいた強い懸念を表明しています。

これについて、パレスチナのマンスール国連大使は「イスラエルは明らかに子どもの権利を侵害しているにもかかわらず、国連に政治的な圧力がかかり、報告書では責任が明確にされていない」と述べ、イスラエルを改めて非難したうえで、報告書の内容は不十分だと不満を表明しました。

これに対してイスラエルのロエト国連次席大使は、イスラエル軍が市民の犠牲を避ける措置を講じているとしたうえで「子どもを意図的に標的にしている国家や武装勢力と同列にイスラエルが扱われるのは、ばかげている」と述べ、報告書がイスラエルを取り上げていること自体に強く反発しました。【6月19日 NHK】
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上記、ゼルーギ特別代表の報告書との関係は知りませんが、国連人権理事会ではイスラエル・ハマス双方の「戦争犯罪」が取り上げられており、イスラエルは当然ながら反発しています。

****<国連>イスラエルとハマスの昨年の戦闘 戦争犯罪の可能性****
◇人権理事会の独立調査委員会が報告書を発表
国連人権理事会の独立調査委員会は22日、昨年7月から約50日間続いたイスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘について、双方が戦争犯罪を犯した可能性があるとする報告書を発表した。

調査委員会は、イスラエル軍の攻撃の多くはピンポイント攻撃だったとしながらも、2251人のパレスチナ人が死亡し、うち1462人が子供551人を含む市民だったと指摘。ハマスはイスラエルへの「無差別攻撃」で、イスラエル人73人を殺害、うち6人が市民だったとした。

また、昨年8月初め、南部ラファでイスラエル軍兵士が行方不明になり、同軍が大規模な攻撃を実施して多数の市民が死亡した問題などについて、「(イスラエルは)兵士の身に危険が及ぶと、すべての(国際法などの)法規制を無視するようだ」と批判した。

報告書と共に公表された報道資料は、イスラエルが2009年以降の計3回に及ぶハマスとの戦闘で、ガザの市民生活に大きな影響をもたらしながらも空爆などの攻撃を見直さないのは「政府の最高レベル(の幹部)により少なくとも戦略的に許可された方針ではないかとの疑問が生じる」と記し、政権幹部の攻撃方針を暗に批判した。

イスラエル外務省はこれに先立ち会見し、「ガザ市民の人命に配慮し、国際法を順守した攻撃だった」と述べ、正当性を主張した。

調査委員会は昨年秋、国連人権理事会の任命を受けて調査を開始。280人以上の聞き取り調査を実施した。【6月22日 毎日】
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【「市民の犠牲は正当な軍事行動のなかでの不幸ではあるものの、適法な出来事の結果でもある」】
報告書は、イスラエルに対して辛辣な批判を含んでいるようです。
イスラエルはこうした報告書を予想して、ガザ地区戦闘に関する独自の報告書を事前に発表しています。

***イスラエル ガザ地区戦闘で独自の報告書****
イスラエル政府は、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を巡る去年夏の戦闘について、独自の調査報告書を発表し、イスラエル軍の攻撃は市民の犠牲を避けるため、検討を重ねたものだと強調しました。

近く国連人権理事会の報告書が発表されるのに先立って、イスラエルへの批判をかわすねらいがあるとみられます。

イスラエル政府は14日、去年夏のガザ地区でのイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘について、軍や司法省などの法務部門が作成した277ページの報告書を発表しました。

報告書では、ハマスがイスラエルの市民を無差別に狙ってロケット弾による攻撃を行ったことや、ガザ地区の人口密集地を拠点に攻撃を行い、パレスチナ人をいわば「人間の盾」とする戦術をとったことが国際法違反に当たるとして批判しています。

一方、イスラエル軍は空爆などの攻撃目標について、市民の犠牲を避けるため、事前の情報に基づいて検討を重ねたとして、多数の根拠となる資料を示しながらイスラエル側の立場を正当化しています。

ガザ地区の戦闘を巡っては、国連人権理事会の調査団も近く人権侵害の状況などについての報告書を発表する見通しですが、この調査について、イスラエル政府は「結論ありきだ」として協力を拒否しています。

イスラエル政府としては、国連人権理事会の報告書が発表されるのに先立ち、公になっていない多数の資料を示すことで批判をかわすねらいがあるとみられます。

ネタニヤフ首相は14日に開かれた閣議で、「真実を知りたければこの報告書を読んでほしい。イスラエルに対する根拠のない批判を続けたければ、国連の報告書で時間をむだにすればよい」と述べ、警戒感をあらわにしました。

調査報告書の内容は
イスラエル政府が発表した報告書は277ページにおよび、一貫してイスラエル政府や軍の判断が国際法に基づいて行われたことを立証する立場からまとめられています。

このなかで、ハマス側の攻撃については、戦闘の期間中にハマスなどが発射した4500発のロケット弾のうち4000発がイスラエルの市民を狙ったもので、このうち550発前後がモスクや学校、それに国連施設などの中や近くから発射したことが確認されたとしています。

さらに、人口が密集した市街地に攻撃や活動の拠点を置き、イスラエル軍が空爆に先立って住民に避難を呼びかけても、その場にとどまるよう促して、住民の犠牲を拡大させたことなどが、国際法違反に当たるとしています。

一方、イスラエル軍の軍事作戦については、空爆が6000回に上ったとしたうえで、事前に電話やチラシなどを使って住民に通告し、さらに警告弾を落としたあとに空爆を行うなど、市民の犠牲を避けるためにできるかぎりの措置は取ったとしています。

イスラエル軍はこうした主張を裏付けるものとして、命令書や攻撃目標についての検討資料など、これまで公開されていなかった資料を報告書のなかで多数示しています。そのうえで、イスラエル政府は「市民の犠牲は正当な軍事行動のなかでの不幸ではあるものの、適法な出来事の結果でもある」としています。

報告書の発表に当たり、イスラエル外務省は外国メディア向けにブリーフィングを開く異例の対応を取りました。【6月15日 NHK】
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2251人のパレスチナ人が死亡し、うち1462人が子供551人を含む市民だった。一方、イスラエル人73人を殺害、うち6人が市民だった・・・・という現実の数字を前にしては、「市民の犠牲は正当な軍事行動のなかでの不幸ではあるものの、適法な出来事の結果でもある」というイスラエル側主張には受け入れ難いものがあります。

ハマスとのパレスチナ暫定統一内閣は総辞職へ
前述のように、パレスチナ自治政府は国際刑事裁判所に正式に加盟していますので、ヨルダン川西岸などでイスラエルが行っているユダヤ人の入植活動と併せて、ガザ地区戦闘におけるイスラエルの戦争犯罪を国際刑事裁判所に提訴することもあり得ます。

ただ、その場合、ハマス側の戦争犯罪をどうするのか・・・という問題があります。

ガザ地区を実効支配するハマスと、自治政府を主導するファタハは暫定統一内閣をつくってきましたが、それも暗礁に乗り上げているようです。

****パレスチナ暫定内閣が総辞職、ガザ統治めぐり亀裂深まる****
パレスチナ解放機構(PLO)とイスラム原理主義組織ハマスの合意に基づき昨年発足したパレスチナ暫定統一内閣が17日、総辞職した。

ガザ地区を実効支配するハマスがイスラエルと個別に間接協議を行っていることをめぐり、暫定内閣の内部で亀裂が深まっていた。

パレスチナ自治政府のマハムード・アッバス議長の側近で、暫定統一内閣を率いてきたラミ・ハムダラ首相は、アッバス議長に辞表を提出した。

ただ、暫定内閣がいつ解散するかは不明で、パレスチナの政治情勢は混迷を深めている。次期内閣についても不透明な状況だ。

ニムル・ハマド自治政府議長補佐官は、新内閣の組閣にあたってはパレスチナの各派と協議する方針で、それにはハマスも含まれるとの見方を示した。【6月18日 AFP】
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****新政権発足へ委員会=機能不全でハマスを非難―パレスチナ****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は23日、幹部会合を開き、機能不全に陥っている統一暫定政権に代わる新政権を近く発足させる方針を決めた。委員会を立ち上げ、組閣に向けて全政治勢力と協議する。

長年対立関係にあったアッバス議長率いるパレスチナ主流派ファタハとガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは昨年6月、暫定政権を発足させた。しかし、1年たった今も双方の溝は埋まっていない。

会合では、ハマスが暫定政権のガザでの活動を妨害しているとの非難の声が上がった。【6月23日 時事】
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ハマスの犯罪を問うことにもなる国際刑事裁判所への提訴は、ハマスとの溝をいよいよ深くすることも想像されます。

和平より戦闘を望む勢力
上記のような国際社会における動きとは別に、現地では新たな火種も起きています。

****<パレスチナ>ユダヤ人1人射殺…「ハマスが犯行声明****
イスラエル治安当局などによると、ヨルダン川西岸パレスチナ自治区ラマラ近郊のドレブ入植地付近で19日午後、ユダヤ人の男性2人がパレスチナ人の男に銃撃され、1人が死亡、もう1人が足に軽傷を負った。男は逃走中でイスラエル軍が行方を追っている。

軍によると、男はユダヤ人男性らの乗用車を呼び止め、至近距離から発砲した。死亡した男性(25)はイスラエル中部ロッド出身で、友人の男性(25)とハイキングに来ていた。

パレスチナメディアによると、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの関連組織が19日夜、犯行声明を出した。

ヨルダン川西岸では昨年6月、入植地に住むユダヤ人の少年3人をパレスチナ人の男2人が誘拐して殺害。その後、ハマスが犯行を認め、7月から50日におよぶイスラエルとハマスの戦闘に発展した。【6月21日 毎日】
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“ハマスの関連組織”というこですが、ハマスの狙いは知りません。
ただ、イスラエル保守派にしても、ハマスにしても、和平協議よりは戦闘状態の方が存在意義をアピールできるという点で、利害は共通しています。

和平より戦闘を望む勢力が存在するなかで、和平交渉を進めるのは・・・難しいでしょう。

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