孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  ロヒンギャ難民「戻ったら殺される」 軍に沈黙し、批判に苛立つスー・チー氏

2018-01-31 22:35:51 | ミャンマー

(イスラム教徒ロヒンギャの村人と話す、河野太郎外相(右端)=13日午前、ミャンマー西部ラカイン州【1月13日 朝日】「ミャンマー政府にしっかり寄り添って支えたい」「不安なく昔通りに住める状況をつくるため、しっかり支援したい」とも)

帰還合意はしたものの、帰還作業開始は延期
ミャンマー西部ラカイン州におけるイスラム系少数民族ロヒンギャに対する弾圧、その結果としてのロヒンギャのバングラデシュへの逃避・難民化は、現在問題となっている2016年8月以降の約65万人だけでなく、それ以前からの問題であり、バングラデシュの難民キャンプでの登録者数は100万人を超えています。

登録作業を率いるバングラデシュ軍幹部によれば、登録者には生体認証カードが与えられているそうです。【1月17日 AFPより】

バングラデシュ側は、財政的な問題もあるでしょうし、急激な大量の難民流入は地元民との軋轢を惹起し、治安悪化にもつながりますので、早期のミャンマーへの帰還を望んでいます。

また、難民キャンプでは衛生状態悪化による伝染病の流行も問題となっています。

ミャンマー・バングラデシュ両国は2年以内に帰還を完了させることで合意しています。(帰還合意の対象は2016年10月以降にバングラデシュに入国したロヒンギャのみ)

しかし、ミャンマーの帰還受け入れは延期されており、今後の予定は不透明です。

****ロヒンギャ帰還開始延期=施設整備など遅れか―バングラデシュ****
ミャンマー西部ラカイン州で迫害を受けたイスラム系少数民族ロヒンギャが、隣国バングラデシュに大量に避難している問題で、バングラデシュ政府当局者は22日、23日から予定されていたロヒンギャの帰還が延期になったことを明らかにした。開始時期は未定という。
 
バングラデシュは、ロヒンギャの帰還に際し、対ミャンマー国境に一時宿泊施設を設置する計画だが、作業が遅れているとみられる。

同当局者は「施設建設や人道支援の準備が整い次第、帰還を開始できる。開始時期は未定だ」と述べた。(後略)【1月22日 時事】 
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【「戻ったら殺される」】
ミャンマー側の受け入れ態勢も問題ですが、そもそも難民らが、自分たちを殺害・追放したミャンマーへの恐怖感を強く抱いており、そんな危険な状態への帰還を望んでいないことが、今後の大きな問題となるでしょう。

****ロヒンギャ避難民「安全の保障ない」ミャンマー帰還に反対デモ****
(中略)ミャンマーとバングラデシュの両政府が避難民の帰還に向けた準備を進める中、バングラデシュにある避難民キャンプでは26日、100人近い避難民らが早期の帰還に反対するデモを行いました。

参加者は「安全が約束されない限り、戻らない」とか「帰還は時期尚早だ」などとシュプレヒコールをあげていました。

多くのロヒンギャの人たちはミャンマーの治安部隊に迫害されたと訴えて帰還をためらっており、去年9月に逃れてきた男性は「ミャンマー政府は信用できず自分たちの権利が守られない限り帰るつもりはない」と話していました。

ミャンマー政府は避難民が住んでいた村の再建を約束するなどして早期の帰還を促していますが、避難民のキャンプでは同じようなデモがたびたび起こっていて、ミャンマー政府への不信感が浮き彫りとなっています。【1月27日 NHK】
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帰還どころか、今もバングラデシュへの避難が止まっていない状況です。

****ロヒンギャ、帰還合意後も迫害=「戻ったら殺される」―バングラへの避難続く****
ミャンマー西部のラカイン州で迫害を受け、隣国バングラデシュに避難するイスラム系少数民族ロヒンギャが後を絶たない。

両国はロヒンギャを近く帰還させる方針で合意している。しかし、バングラデシュには29日も、船でロヒンギャが到着。口々に「戻ったら殺される」と帰還への恐怖を口にした。【1月30日 時事】 
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ミャンマーへの帰還を恐れるロヒンギャの中で、帰還推進派の指導者が殺害される事件も起きており、バングラデシュ政府も対応に苦慮しています。

****ロヒンギャ、帰還に募る不安=バングラ側、対応に苦慮―ミャンマーに安全確保要請****
ミャンマー西部ラカイン州で迫害を受け、バングラデシュに逃れた68万人超のイスラム系少数民族ロヒンギャに関し、両政府は近く帰還させる方針で合意している。しかし、ロヒンギャは「今のまま戻っても同じことの繰り返しだ」と不安を募らせる。「帰還推進派」の指導者が殺害される事件も発生、バングラデシュ当局は対応に頭を悩ませている。(中略)
 
別のキャンプでは、1月に入り、帰還推進派の指導者が殺害される事件が発生した。このキャンプに住むシャリフ・フセインさん(27)は「推進派は(ラカイン州で多数派の仏教徒)ラカイン族と連絡を取り合っている」と不信感を隠さない。
 
フセインさんは「一緒に逃げた500人のうち、200人は殺された。安全が確保されなければ、同じことの繰り返しだ」と訴える。
 
キャンプの警備に当たる地元警察当局者は「殺害事件以降、ロヒンギャの間に『帰還推進』と表立って口にできない雰囲気があるようだ」と語る。対立激化を避けるため警備を強化するぐらいしか打つ手がない。
 
バングラデシュは国連機関などと共に支援を続けてきたが、短期間に大量のロヒンギャが流入したため、すでに「限界」(地元住民)状態。できる限り早く帰還を実現させたいのが本音だ。

だが、人道上、ロヒンギャの安全は軽視できない。アリ外相は30日、ミャンマー政府に対し、ロヒンギャを安全に受け入れる環境整備など「有効な対応」を取るよう求めた。【1月31日 時事】 
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「有効な対応」とは言っても、物的な環境整備はともかく、難民の恐怖・不安を払拭するにはどうすればいいか・・・となると、なかなか難しいところです。

(物的な環境整備については、河野外相が、外国要人としては初めて混乱が起きた現場地域の視察が認められたように、ミャンマー側には日本への大きな期待があるようです。)

混乱の責任追求を明確にし、事態改善・帰還受け入れに向けたスー・チー氏の積極的な発言でもあれば、事態も少しは変わるのでしょうが。

事態改善への姿勢が見えないミャンマー
そもそも、ミャンマー政府・国軍に、帰還したロヒンギャの安全を保障する気があるのかも怪しいところです。
民族浄化を実現したミャンマーとしては、おびえる難民がこのまま帰ってこないことを望んでいるでしょう。

ミャンマー国軍は1月10日、ロヒンギャ10人が法的手続きを経ずに虐殺された事件への関与を認め、これについてアウン・サン・スー・チー国家顧問は「最終的には、国内における法の支配(を実現すること)は、その国の責任である。われわれが責任を果たすため歩んでいることは、前向きな兆候だ」として、「わが国が踏み出した新たな一歩」と評価しています。

しかし、その中身を見ると・・・・違法に殺害はしたが、村民を脅した「テロリスト」への報復だったという内容であり、その他の膨大な虐殺・放火・レイプ等を認めるものでもありません。

****ロヒンギャ殺害を認めても懲りないミャンマー****
<殺害は認めても国軍の責任は認めていないし、事件現場近くで取材していた記者2人は起訴された>

ミャンマー南西部のラカイン州の集団墓地で昨年12月にイスラム系少数民族ロヒンギャ10人の遺体が見つかった事件で、ミャンマー軍は1月10日、殺害への関与を認めた。軍がロヒンギャ殺害を認めるのは初めてだが、10人を民間人だとは認めなかった。

ミャンマー軍司令部はフェイスブックへの投稿で、ロヒンギャの「テロリスト」10人が仏教徒の村人を脅したため、報復として殺害したと主張した。

「村人と治安部隊がベンガリ(ロヒンギャの蔑称)テロリスト10人の殺害を認めたのは事実だ」と、ミャンマー軍は発表した。「交戦規定を破って殺人を犯した治安部隊員は処分する。事件は、テロリストが仏教徒の村人を脅して挑発したために起こった」(中略)

責任追及の意思も能力もない
ミャンマーのロヒンギャ迫害は「民族浄化の典型例」だと、国連は9月に糾弾した。レックス・ティラーソン米国務長官も11月のミャンマー訪問後、「民族浄化に等しい」と非難した。(中略)

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの東南アジア・太平洋部代表のジェームズ・ゴメックスは、ラカイン州で発覚したロヒンギャ10人の殺害について、独立した調査の必要だと言う。

「国軍が10人の殺害を認めたのは、ロヒンギャ迫害を全面否定してきた従来の方針からすれば大きな進歩だ。だがこの事件は氷山の一角に過ぎない。ロヒンギャを標的にした民族浄化の過程で他にどんな残虐行為が行われたのか、本格的な独立調査が必要だ」

ロヒンギャ虐殺の全容解明は、国連の調査団や独立した監視団体による現地調査をミャンマー政府が受け入れない限り不可能だ。

12月に集団墓地が見つかったラカイン州マウンドー近くにあるインディン村は、同州で最も弾圧が激しかった地域の1つだ。同月上旬、ロヒンギャ問題を取材していたロイター通信のミャンマー人記者2人がミャンマー当局に身柄を拘束されたのもこの地域だった。(中略)

国家機密法違反で記者逮捕
事実、ミャンマーの司法当局は1月10日、ロイター通信のワ・ロー記者(31)とチョー・ソー・ウー記者(27)の2人を国家機密法違反の罪で起訴した。有罪になれば、最高で禁固14年が科される可能性がある。

「私たちに真実を明らかにさせないための不当逮捕だ」と、ワ・ローは初公判後にロイター通信を通じて声明を発表。アメリカ、国連、EU、国際機関やその関係者らは相次いで、ミャンマー政府に対して2人の即時釈放を求めた。

(中略)米国務省も、無条件の即時釈放を訴えた。「2人の記者が起訴されたことに、アメリカは深い失望を表明する」【1月12日 Newsweek】
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これまで国軍の虐殺を否定してきたスー・チー氏ですが、そのことの責任への言及もありません。国際的な介入も拒否する姿勢です。

****スー・チー氏 ロヒンギャ問題でみずからの責任言及せず
(中略)(国軍によるロヒンギャへの暴力という)この問題をめぐっては、ロヒンギャの人たちが、多くの無抵抗の住民が殺害されたと訴えているほか、国際社会からも「迫害や虐殺があった」と非難が強まっていますが、スー・チー氏は、不法な暴力は確認されていないと主張してきました。

会見では、こうした点でのみずからの責任についてスー・チー氏から言及はありませんでした。

またスー・チー氏は「さまざまな批判を受け止めているが、最もよい対策が何かを決められるのは私たちだけだ」と述べ、あくまでミャンマー政府の責任で解決する問題だと強調しました。【1月12日 NHK】
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国際批判に苛立つスー・チー氏
スー・チー氏のロヒンギャ問題への消極的対応については、国際社会において失望も大きくなっています。

****ミャンマー、ロヒンギャ危機の諮問機関メンバーを解任 前米知事****
ミャンマー政府は25日、イスラム系少数民族ロヒンギャへの弾圧に関する諮問機関のメンバーを務める前米ニューメキシコ州知事のビル・リチャードソン氏を解任したと明らかにした。同氏によるアウン・サン・スー・チー国家顧問への「個人攻撃」を非難している。
 
ロヒンギャ弾圧を示す証拠が相次で明らかになる中、ロヒンギャの側に立った発言をしていないスー・チー氏は人権を守るスター政治家としての評価が急激に下がっていた。
 
ミャンマー政府は、22日に首都ネピドーで諮問会議が行われたが、ロヒンギャ問題で助言することにリチャードソン氏が関心を持っていないことが「明らかになった」としている。

隣国バングラデシュには69万人近くのロヒンギャが逃れており、リチャードソン氏は国際諮問機関のメンバー5人のうちの一人だった。
 
フェイスブックに投稿された英語の声明で政府は「異なる意見が表面化してきたことを考慮し、彼が今後も諮問機関のメンバーを務めることは、全ての関係者にとって最善ではないと判断した」と述べている。ビルマ語の声明では「解任」という言葉を使っている。
 
一方、リチャードソン氏の広報担当者は、ミャンマー政府の主張は「事実ではない」と批判している。
リチャードソン氏はミャンマー政府が設置した諮問機関がロヒンギャ危機の原因を「ごまかしてしまう」ことを危惧しているとして、そのような機関に居続けることは良心に反すると表明する声明を出していた。
 
またリチャードソン氏はスー・チー氏には「道徳的なリーダーシップが欠如」していると激しく非難。ロイター通信の記者2人の釈放を求めたリチャードソン氏に対し「怒り狂った反応」をしたと指摘した。【1月26日 AFP】
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“リチャードソン氏はロヒンギャ問題を取材していたロイター通信記者2人が国家機密法違反の罪で起訴されたことに関し、「報道の自由は民主主義の根幹」と強調。この問題でミャンマーの内相と会談する予定だったが、急に中止になったことを明らかにした。難民流出に対する国軍の責任問題でも、追及しないスー・チー氏に不満を示した。
”【1月26日 時事】とも。

スー・チー氏が他人の助言を聞き入れない“唯我独尊”的な傾向があることは以前から指摘されていたことですが、事態は悪い方向へ流れているように思われます。

軍の力の前で沈黙か
いつも言及しているように、スー・チー氏には国軍を動かす権限がない、国民世論もロヒンギャを嫌悪しているという大きな制約があるのは事実です。ただ、そうであっても・・・・

****盟友の死、スーチー氏沈黙 ミャンマー与党法律顧問、銃撃死1年****
ミャンマー最大都市ヤンゴンの空港で起きたある弁護士の殺害事件から29日で1年がたつ。殺されたのはアウンサンスーチー国家顧問の盟友で与党の法律顧問だったコーニー氏(当時63)。

軍の関与を疑う見方もある中、真相解明が進まない事件はスーチー氏の苦しい立場を象徴している。
 
■軍の影、進まぬ解明
「警察や裁判所が本気で真相を明らかにしようとしているとは思えない」。コーニー氏の遺族側代理人のロバート・サンアウン弁護士は取材に語気を強めた。
 
コーニー氏は昨年1月29日午後5時ごろ、インドネシアから帰国してヤンゴン空港で車を待っていたところ、拳銃で後頭部を撃たれ、即死した。

実行役の男(54)がタクシー運転手らに取り押さえられ、殺人の疑いで逮捕・起訴された。2月中旬、殺害を指示したとして軍の元中佐(47)が指名手配されたことで、軍の影がちらつき始めた。
 
実行役の男らの裁判は昨年3月から今月までに40回を数えた。だが、裁判や捜査には不可解な点がある。
 
事件に使われた拳銃について、警察は「我々の仕事ではない」と、いまだに鑑定を行っていない。今月26日の公判では、付着した指紋すら調べていないことが明らかになった。また、手配された元中佐は首都ネピドーでの足取りを最後に逃亡を続けている。

裁判所は「事実が判然としない」との理由で、法律で決められた指名手配犯の財産差し押さえ命令を出していない。

■政権不安定化、懸念?
コーニー氏は与党・国民民主連盟(NLD)で重要な役割を果たしてきた。英国籍の息子がいるため、軍事政権下でつくられた憲法の規定で大統領になれないスーチー氏を実質的な政権トップの国家顧問にする法案作成を担った。スーチー氏が掲げる憲法改正でも推進役の一人だった。
 
スーチー氏は昨年2月にあった追悼集会で、「大きな損失だ」とその死を悼んだものの、その後は一切発言をしていない。

NLDの国会議員は、「軍の関与が疑われても、下手な追及はできない」と説明する。決定的な証拠もなしに事を荒立てれば、政権の不安定化にもつながる。
 
また、コーニー氏がイスラム教徒であることも影響しているとの指摘もある。仏教徒が約9割を占めるミャンマーではイスラム教徒への視線は冷たい。

イスラム教徒ロヒンギャの問題で国際社会の批判を浴びる中、コーニー氏の殺害直前のインドネシア訪問は、ロヒンギャ問題解決の方策を探るためだったという。
 
ロヒンギャを支援するビルマ人権ネットワークのチョーウィン代表は、「殺害事件の解明にはミャンマーの民主国家としての力量が問われている。これができなければ、さらに複雑なロヒンギャ問題の解決は無理だろう」と話した。【1月28日 朝日】
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スー・チー氏が就任して以来、国軍に抵抗して民主化・人権のために奮闘している・・・という話はほとんど聞きません。報じられるのは国軍の影響に配慮して迎合するような発言ばかりです。

軍の影響力を恐れ、何もできないということであれば、民主化に一定の理解を示し、実際に民主化に大きな力を発揮し、軍への影響力も有していたテイン・セイン前大統領のほうがまだよかったかも・・・ということにもなります。「そんなことはない・・・」というところを見せてほしいのですが。

なお、「超法規的殺人」で国際的には悪評高い、フィリピンのドゥテルテ大統領は1月26日、スー・チー氏との最近の会話で、ミャンマーの問題に対する人権活動家の反発を無視するよう助言したことを明らかにしたそうです。

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