孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン メディア営業停止や反テロ法など強権政治を進めるドゥテルテ政権

2020-07-17 22:08:03 | 東南アジア

(フィリピン・マニラの大学で、「反テロ法」に抗議する人々(2020年6月4日撮影)【7月4日 AFP】

ただ、多くの国民は、反テロ法やメディアの問題は自分とは関係ないと感じているというのが実情のようです)

 

【高い国民支持(あるいは無関心)背景に強権政治を進めるドゥテルテ政権】

フィリピン・ドゥテルテ大統領の国民的人気は相変わらずのようですが、麻薬犯罪関係者の組織的・超法規的大量殺人に代表される強権支配ぶりも相変わらずと言うか、その度合いを強めています。

 

****ドゥテルテ大統領、続く強権 「反テロ法」制定推進/批判的メディアに圧力 比、高い支持背景に5年目へ****

フィリピンドゥテルテ大統領が(6月)30日、就任から5年目に入る。

 

強権的な姿勢は変わらず、最近では治安当局の権限を拡大する「反テロ法」の制定を推進し、人権団体などから改めて批判を浴びた。それでもなお高い支持率を誇るが、感染拡大がやまない新型コロナウイルスの状況が、今後の政権運営に影響を及ぼす可能性もある。

 

26日朝、反テロ法の制定反対を掲げてマニラでデモをしていた約20人が逮捕された。反テロ法は2007年に制定された「安全保障法」に代わるもので、摘発の対象を大幅に拡大。令状なしに容疑者を逮捕、拘束できる期間を従来の最長3日から最長24日にするなど、治安機関の権限を強化する内容になっている。

 

ドゥテルテ氏は1日に下院議長あてに書簡を送り、「テロ行為を十分かつ効果的に抑え込むため」として、早期制定の必要性を強調。下院はその2日後に法案を承認した。近く発効する見通しだ。

 

政権側は、南部ミンダナオ島で17年に起きたイスラム武装勢力との大規模な戦闘や、今も続く共産党系の武装組織の活動などを挙げて法案の必要性を訴えてきた。だが、人権団体などは「テロの定義が広すぎる」とし、政権に批判的な勢力に対して恣意(しい)的に使われる恐れがあると指摘する。

 

懸念の背景には、ドゥテルテ氏の一貫した強権ぶりがある。強硬な麻薬犯罪の取り締まりで多数の死者が出ていることに批判が集まり、国際刑事裁判所が予備調査を始めると、反発して同裁判所から脱退。国連人権高等弁務官事務所は今月4日、「超法規的殺人」が組織的に行われているとして是正を勧告した。

 

メディアへの圧力も続いている。フィリピンの国家通信委員会は先月、民放最大手のABS―CBNに対し、免許の期限切れを理由に放送停止を命令。今月15日にはマニラの裁判所が、ネットメディア「ラップラー」の最高経営責任者マリア・レッサ氏らに対し、掲載記事で男性実業家の名誉を毀損(きそん)したとして有罪判決を言い渡した。

 

いずれも、政権に批判的な報道で知られており、人権団体などからは「政治的な動機に基づくもの」「報道の自由への攻撃」といった批判が出ている。

 

それでも、政権側は強気だ。背景には高い支持率があり、昨年12月の調査では約8割に上った。人権NGOのメンバーは「ドゥテルテ氏は庶民的な語り口と本音で人気を得てきた。多くの国民は、反テロ法やメディアの問題は自分とは関係ないと感じている。残念ながら支持率には大きく影響しないだろう」と語る。

 

ただ、新型コロナの感染拡大が続き、経済は大きな打撃を受けている。任期6年の大統領は再選が禁止されており、政権の残りは2年。現地のジャーナリストは「コロナの状況は今後の変数になりうる。経済の悪化が続けば、人気に陰りが出ることもあるだろう」とみる。【6月29日 朝日】

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総括的には上記のような話になりますが、もう少し詳しく見ると、政権に批判的なメディアに対する放送停止命令はその後も続いています。

 

****政権に批判的な民放最大手、フィリピンで放送停止命令****

フィリピンの国家通信委員会が、民放最大手ABS―CBN系列のケーブルテレビ「スカイ」などに対し、放送の停止を6月30日に命じた。

 

ABS―CBNのテレビ、ラジオも5月に放送停止を命じられている。いずれも免許の期限切れを理由としているが、ABS―CBNはドゥテルテ政権への批判的な報道で知られており、「政治的な報復」との指摘が出ている。

 

停止を命じられたのはスカイの全国での放送と、ABS―CBNの地上波デジタル放送サービス「TVプラス」のマニラ首都圏での放送。スカイは声明で「150万人の視聴者が、ニュースやエンターテインメントなどへのアクセスを奪われることになる」とした。

 

ABS―CBNはアキノ前大統領に近いロペス家が経営。ドゥテルテ氏は自身が勝った2016年の大統領選に際しての同局の対応や、強硬な麻薬犯罪取り締まりへの批判的な報道に不満を抱いてきたとされる。

 

同局の免許更新は国会での審議が遅れ、5月4日に期限切れを迎えたが、暫定的な免許を交付する方向で話が進んでいた。これに対し、ドゥテルテ氏の側近らが強く異議を唱えた。

 

国家通信委員会は5月5日に無料のテレビ、ラジオの放送停止を命令。今回の停止命令も免許の期限切れに伴う措置としている。ABS―CBN側は免許の更新を求めており、国会で審議が続いている。【7月2日 朝日】

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【恣意的運用が懸念される「反テロ法」】

政権批判を力で封じ込めようとする政権の体質をよく反映しているのが6月3日に成立した「反テロ法」です。

 

****比、反テロ法で暗黒時代に回帰****

フィリピンのドゥテルテ大統領は6月3日、「反テロ法」に署名した。同法はすでに上院、下院議会をそれぞれ通過していたため、大統領のこの日の署名をもって成立となった。

 

テロとの戦いをより積極的に進め、国民をテロの脅威から守ることを目的とする「反テロ法」と政府側は説明するが、治安当局などに大幅な権限拡大を与えるその内容から、恣意的運用でテロ組織やテロリストだけでなく反政府運動や人権活動の団体や個人にも厳しく臨む道を開き、ひいてはドゥテルテ政権の“独裁的強権政治”につながりかねないとの批判が渦巻いている。

 

「反テロ法」は5月以降、下院、上院で賛成多数で可決し、あとは大統領の署名を待つだけの状態だった。この間、マニラ市内では人権団体や学生組織などによる「反テロ法反対」のデモや集会が続き、国連人権高等弁務官など国際社会からもドゥテルテ大統領に同法案への署名を思いとどまるよう求める声が高まっていた。

 

大統領府のハリー・ロケ報道官はこうした反対の声に配慮、地元紙に対して「ドゥテルテ大統領は時間をかけてこの法案をあらゆる角度から検討した上で署名した。この法案は長年フィリピン国民を苦しめ、悲しみと恐怖を与えているテロへの政府の強い意志の表れである」と述べ、改めて国民各層に対して新法への支持と理解を求めた。

 

■ 令状なしの拘束、監視、盗聴が可能に

3日に成立した「反テロ法」は、大統領が任命した閣僚などで構成される反テロ組織がテロリスト、テロ組織と認定した団体や個人を「令状なしで最長24日間拘束することができるほか、90日間監視、盗聴が可能」になる。

 

これはフィリピン憲法の「令状なしの拘束は最大3日まで」というこれまでの規定を大幅に延長したものであるとともに「憲法の規定との整合性」も問題となる可能性がある。

 

さらに同法では「スピーチ、文章表現、シンボル、看板や垂れ幕などでテロを主張、支持、擁護、扇動した場合も反テロ法違反容疑に問われる可能性」があることから、表現の自由や報道の自由が侵害される危険性が潜んでいると反対派は主張している。

 

同法違反で逮捕、起訴そして有罪が確定すれば最高で仮釈放なしの終身刑が科される可能性があるという。

 

■ 恣意的運用の懸念で暗黒時代へ回帰

ドゥテルテ大統領の同法への署名、成立を受けてフィリピンの主要マスコミは連日政府側の思惑と反対勢力の主張を大きく取り上げて報じている。

 

報道では政府側が「反テロ法は反政府勢力であるテロ活動を取り締まるための法であり、テロの脅威を封じ込めるための包括的手段」という主張を繰り返しているのに対して、国際的人権組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「政治的な反対勢力の制度的取り締まりに悪用されかねない」と反対を表明。

 

さらにフィリピンの人権団体「カラパタン」も「ドゥテルテ大統領が目指すのはマルコス独裁政治である」としたうえで「忌まわしい法の成立でマルコスの妄想を描いたパズルの最後の1ピースが埋まった」との比喩でドゥテルテ大統領がマルコス独裁政治の暗黒時代を再び招来しようとしていると手厳しく非難している。

 

■ あいまいな「テロ」の定義

「反テロ法」に反対する組織や団体は「テロの定義があいまいなことが法の恣意的運用を招く」と指摘している。これに対し政府側は「死傷者を伴う国有・私有財産の破損、恐怖のメッセージの拡散、政府に対する威嚇を目的とする大量破壊兵器の使用を意図すること」などと「テロ」を定義している。

 

しかし反対派などはたとえば「恐怖のメッセージ」とある政府の「テロ定義」について「恐怖とは誰が恐怖と感じることでどういう内容なのか」と具体性の欠如が「幅広い解釈を可能にして恣意的に運用される危険性につながる」などとしているのだ。

 

同様に「大量破壊兵器」が具体的にどのような兵器を想定しているのかも「不明であり、どうとでも解釈できる余地が残されている」と指摘する。

 

■ 国会でも渦巻く賛否両論

主要紙「インクワイアラー」は7月4日、「強い反対を押し切って大統領が署名」との見出しで「反テロ法はフィリピン憲法が保障する国民の基本的人権や政治的権利を侵害する恐れがある」との人権活動家の声を伝えた。

 

また上院では反テロ法に反対票を投じたフランシス・パンギリナン議員は「ドゥテルテ政権は発足のその日から過酷で権威主義的な指導力を発揮している。超法規的殺人を含めた麻薬対策、ミンダナオ島での長期の戒厳令、そして今回は反テロ法だ」とドゥテルテ大統領を批判する声明を発表した。

 

これに対し「反テロ法」の提案者の一人でもあるビンセンテ・ソトⅢ上院議員は「ドゥテルテ大統領が法の重要性を理解してくれたことを歓迎する」と述べ、元国家警察長官のパンフィロ・ラクソン上院議員も「他の政権では成立しなかった法案だろう。今後法の執行には細心の注意と努力が求められる」として大統領の署名を歓迎している。

 

このようにフィリピン社会だけでなく議会の中にも賛否がある「反テロ法」だけに、今回の大統領による署名で最終的に成立したこと受けて、法執行機関や警察・軍といった治安当局が今後テロ対策でどこまで国民や議員の間に残る不安や反対を解消、説得することができるかが問われることになる。【7月5日 大塚智彦氏 Japan In-depth】

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こうしたドゥテルテ政権の動きを可能にしているのが“多くの国民は、反テロ法やメディアの問題は自分とは関係ないと感じている。”という国民の無関心です。

 

ただ、自分の身に及んだときはすでに手遅れになっているというのが強権支配政治の怖さだと思うのですが・・・。

 

【東南アジア最悪の新型コロナ 当局と警察が全戸訪問も】

新型コロナの方は、東南アジア諸国の中でも過去最多の死者数を記録するという芳しくない状況です。

 

****フィリピン、新型コロナの新規の死者が過去最多に****

フィリピン保健省は13日、新型コロナウイルス感染症による1日当たりの死者数が162人と、過去最多を記録したことを明らかにした。1日当たりの死者数としては、東南アジア諸国の中でも過去最多となった。

新規の感染者は2124人。政府が厳格なロックダウン(都市封鎖)の緩和を開始した6月1日以降、感染者は3倍以上に増えており、累計5万6259人となっている。

同国では経済活動を再開するため、公共交通機関、レストラン、ショッピングモールの営業が制限付きで認められている。

保健省によると、累計の死者数は1534人。感染疑い例が1万2000人近く報告されており、死者は今後さらに増える見通し。

大統領府の報道官は定例会見で「状況が厳しさを増している」と指摘。マニラの病院の稼働率が11日時点で70%と、5日前の48%から上昇していることを明らかにした。【7月13日 ロイター】

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マニラ首都圏は6月1日にそれまでの規制が一部緩和され、7月からはさらに緩和を進める計画でしたが、感染状況悪化のため、そのまま据え置かれています。

 

こうした厳しい状況を受けて、当局と警察が各戸を訪問して感染者を探すという対応も発表されています。

 

****フィリピン、新型コロナ感染者発見へ警察が全戸訪問****

フィリピンのアニョ内務・自治相は14日、新型コロナウイルス感染拡大抑制のため、当局と警察が各戸を訪問して感染者を探すと発表した。同国では感染者と死者数が増加しており、一部地域はより厳しいロックダウン(都市封鎖)を再開している。

アニョ内務・自治相は、国民に近所の感染者を報告するよう求めるとともに、当局への協力を拒否した感染者は禁固刑を受ける可能性があると警告した。

フィリピンでは今週、1日の死者数が東南アジア最大を記録、病床使用率が大幅に上昇している。6月1日に厳格な封鎖が緩和され、より多くの移動や商業活動が可能となって以降、感染者は3倍に増加していた。

同相は記者会見で、「特に自宅に十分な広さがない場合、われわれは感染者による自宅での自主隔離を望まない。そこで、各戸を訪問して陽性患者を隔離施設に収容することにした」と語った。

これまでは軽症の陽性患者に自主隔離を求める政策を取っており、今回の措置は方針転換となる。【7月15日 ロイター】

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警察が同行するというのは、治安のよくないフィリピンの状況や住民側の反発・抵抗を考慮したものでしょうが、いかにもドゥテルテ政権らしい対応というようにも思えます。

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