孤帆の遠影碧空に尽き

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欧州  移民規制強化の一方で、移民を必要としている現実も 伊・右翼政権は合法移民受け入れ拡大

2024-01-13 23:13:06 | 難民・移民

(イタリア・トスカーナ地方初の移民出身バス運転手になったマドウ・コウリバリーさん フィレンツェで2023年11月撮影【12月11日 ロイター】)

【移民規制強化の取り組み】
欧米への大量の移民の流入は、経済的苦境など現状に不満を抱える人々を刺激して、社会・政治の右傾化、ポピュリズムの台頭という大きな変動をもたらす一大要因ともなっています。

そのため、総じて欧米諸国では移民対応の厳格化が進行しています。

****厳格化する欧米の移民政策 大量流入の欧州は悲鳴、米国は大統領選視野に方針転換****
欧米の主要国が移民・難民への対応を厳格化させている。不法移民らが大量に流入する事態に悲鳴を上げる欧州連合(EU)は2023年末、新制度案で大筋合意。移民対策で寛容な姿勢が批判されてきた米民主党政権も今秋の大統領選を控え、流入抑制へと舵を切った。

「衝撃波」耐えられず
「歴史的な日だ」。欧州議会のメツォラ議長は先月20日、EUの主要機関が大筋合意した新案に満足の表情を浮かべた。

同案では、入国者の国境審査が厳格化されるほか、亡命資格がないと確認されれば迅速に強制送還される。EUは6月までの発効を目指す。

新案導入の背景には、地中海を船で渡る人々が23年夏、EU域内に大量に押し寄せたことなどがある。到着地の一つ、イタリア南部の島の市長は「人々が押し寄せる『衝撃波』には耐えられない」と声を上げた。EUの欧州国境・沿岸警備機関(FRONTEX)によると、23年1〜11月の不法入国摘発者は前年1年間を17%も上回る。

仏で「死の口づけ」
欧州各国では、6月までのEU共通制度案成立を待たず、独自案を相次ぎ示しつつある。

フランスでは先月19日、新移民法が成立した。法案は当初、野党の左右両派の反対で棚上げされていたが、極右「国民連合」の賛成を得て修正案が辛うじて成立。仏ルモンド紙が「(極右の)死の口づけ」で可決されたと評すほど厳しい内容だ。

同国では従来、外国人の親のもと生まれた子供は自動的に仏国籍となる出生地主義を採用していたが、今後は16〜18歳時に申請する必要がある。外国人労働者が社会保障を受ける条件も厳しくなる。

ドイツも昨年10月、不法移民の送還を容易にする法案を閣議決定した。国境警備も強化する。

手厚い社会保障が〝ゆりかごから墓場まで〟と評されるスウェーデンも翌11月、移民の強制退去要件の導入を検討すると発表した。薬物乱用▽犯罪組織関与▽国家の価値観を脅かす思想表明ーなどが要件。移民相は「社会統合には品行方正さが必要」と強調した。

隣国フィンランドも同月末、ロシアとの国境(約1300㌔)経由で中東などから流入する事態を警戒し、全8検問所を一時閉鎖した。

米でも一段と逆風
4年前にEUを離脱した英国は、なりふり構わぬ対策を講じている。不法入国者をアフリカ・ルワンダに強制移送する計画を巡り、最高裁は23年11月、欧州人権条約に基づく英国内の人権法に違反すると判断。これに対し英政府は翌月、計画続行のための緊急法案を策定、押し切る構えだ。

米国では、バイデン大統領が23年5月、亡命申請手続きの厳格化を柱とする規制策を発表した。同氏は移民問題で強硬姿勢を見せるトランプ前大統領を批判したが、不法移民急増への危機感が国内で高まる中、大統領選を控え方針転換を余儀なくされた形だ。【1月3日 産経】
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EUが昨年末に大筋合意した新協定では、地中海に面したイタリアやギリシャ、マルタなどの国に、一時的に収容するための「審査センター」を設置し、EU域内に亡命する資格があるか3カ月以内に審査、母国で政治的迫害がなく、亡命資格がないと判断された難民は、EU域内に到着する前に通過してきた「安全な第三国」に強制送還されることになります。

ただ、単に国境審査が厳格化だけでなく、受け入れる場合のEU加盟国間の負担の公平化に力点があります。

****EU、移民・難民受け入れに関する新協定で合意 公平負担狙い****
欧州連合(EU)は20日未明、移民・難民受け入れの負担を加盟国間でより均等に分担し、流入を抑制するための新たな対策で合意した。

欧州議会と各国政府の代表が徹夜の協議の末に新協定について合意に達した。来年発効する予定。

不法移民の審査、亡命申請の処理手続き、申請を受け付ける国を決めるための規則、危機に対処する方法などが一連の法律に含まれる。

現行制度は移民・難民が最初に到着する国が申請を受け付けるためイタリアやギリシャなどの負担が重く、東欧諸国などは受け入れに消極的だった。

新制度では、EUの境界に接していない国は難民を受け入れるか、EU基金に資金を拠出するか選択を迫られることになる。

新たな審査制度では保護が必要な人とそうでない人を区別することを目的としている。インド、チュニジア、トルコ出身者など、難民申請が認められる可能性の低い人や、安全保障を脅かすとみなされた人物はEUへの入国を拒否され、国境で拘束される可能性がある。【12月20日 ロイター】
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EUは年間約3万人の難民を受け入れる方針とのことで、資格が認められると、加盟国の人口や国内総生産、失業率などによって加盟国に振り分けられます。

割り振られた国が受け入れを拒否すれば、難民1人につき2万ユーロ(約310万円)を基金に支払わねばならず、一部の受入国だけに大きな負担がかかる現状を変更して、加盟国全体で負担を共有する内容となっています。

改正案は今後、27加盟国を代表する欧州理事会に加え、欧州議会でも正式に承認される必要があります。受入れに反対するハンガリーなど東欧諸国が、難民1人につき2万ユーロという受け入れ拒否のペナルティーを了承するのでしょうか?

なお“同案をめぐっては、アムネスティ・インターナショナルやオックスファム、カリタス、セーブ・ザ・チルドレンなど数十の慈善・人権団体が、現実には機能しない「残酷なシステム」を生み出すだけだと批判する公開書簡を出している。”【12月20日 AFP】とも。

【フランスでは極右の「死の口づけ」でようやく新移民法が成立】
フランスの独自対応の移民規制強化法案が左右両方からの「厳しすぎる」「甘すぎる」との反対で審議にも入れず却下されたという件は、2023年12月17日ブログ“移民急増が西側諸国共通の政治問題に 各国とも対応に苦慮”でも取り上げましたが、その後前出記事にもあるように、「(極右の)死の口づけ」という形でなんとか修正案が成立しました。

成立はしたものの、マクロン政権・与党には大きな亀裂も。

****仏、移民規制強化へ 法案可決で政権・与党に亀裂****
フランスの上下両院は19日、移民に対する規制を厳格化する新移民法案を可決した。同法案をめぐっては一部閣僚が辞任するなど政権・与党内に亀裂が生じる事態となったが、エマニュエル・マクロン大統領は必要な「盾」だとして擁護した。

新移民法では、外国人への社会保障給付は5年以上の滞在者(就労者の場合は2年半以上)に制限される。移民受け入れ枠の導入や、二重国籍の犯罪者から仏国籍を剥奪するなど、移民規制の強化につながる内容となっている。

法案採決では、与党勢力251人のうち約4分の1が反対もしくは棄権。オレリアン・ルソー保健相は、法案可決を受け辞任した。

マクロン氏は20日、公共放送「フランス5」の番組で、フランスは「移民問題」に直面しており、新移民法は不法移民を減らし、合法移民の統合を促進するため必要だと強調。「必要な盾だ」と述べた。

採決では、極右のマリーヌ・ルペン氏率いる「国民連合(RN)」が賛成に回った。RNの賛成を得て可決にこぎ着けた形で、一部メディアは「死のキス」と形容。極右のジャンフィリップ・タンギー議員は、「マリーヌ・ルペンの主張が完全な勝利を収めた」と語った。

保守系紙フィガロは「移民法は深い傷痕を残すだろう」と指摘。一方、左派系紙リベラシオンは、マクロン氏の与党にとって「道義的な敗北」となったと伝えた。【12月21日 AFP】
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【一方で「移民を必要としている」実態も 移民受入れ拡大方針のイタリア・メローニ政権】
上記のような移民規制強化という面の一方で、労働力不足に直面している欧州は(アメリカも同じですが)移民を必要としている側面もあり、EUは合法移民を年間100万人増やす必要があるとも。

このため、話が複雑になってもきます。

****EUへの合法移民、年100万人増やす必要=欧州委員****
欧州連合(EU)欧州委員会のヨハンソン欧州委員(内務担当)は8日、高齢化で減少する域内の労働力を補うには合法的な移民を年間100万人増やす必要があるとの見解を示した。

EUの統計によると、昨年の域内への移民は約350万人で、このうち30万人超が不法移民だった。

ヨハンソン氏は講演で「合法移民は極めてよく働いているが、数が足りない」と指摘。EUの労働者は年間100万人減少しており、「これは年間100万人以上の移民増が必要なことを意味している」と述べた。

ただ、それは「秩序を持って」実現すべきとし、不法移民の規制を各国に要請した。

欧州への不法移民は100万人を超えた2015年のピークから大きく減少しているが、20年に底を打ち、昨年は26万人超に増加。半分以上がアフリカから地中海を渡り、イタリア、ギリシャ、スペイン、キプロス、マルタを経て到着している。【1月9日 ロイター】
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「移民を必要としている」のは、移民対応に厳しいというイメージがある極右とも評されるイタリア・メローニ政権にあっても同じです。

一昨年10月に政権を獲得したメローニ首相は、規制強化という点では、昨年7月には北アフリカ諸国と不法移民の摘発強化で合意。11月には強制送還を進めるため、海上で救助した移民・難民の一時収容施設をアルバニアに建設する計画を発表しています。

しかしその一方で、高齢化で人手不足が深刻化するなか、外国人労働者なしには社会が立ちゆかない現実があります。イタリアの高齢化率は2022年の数字で見ると24・1%で、世界で最も高い日本の29・1%に次いでいます。

****伊メローニ首相、移民規制の一方で外国人労働者の受け入れ拡大****
マドウ・コウリバリーさん(24)は、歴史あるイタリアに来てまだ日の浅い新顔だ。
ギニア出身のコウリバリーさんがこの国に来たのは2018年。人手不足を外国人労働者で埋める取り組みの一環として、トスカーナ地方初の移民出身バス運転手になった。

誰よりも驚いたのはコウリバリーさん自身だった。
「バスの運転手なんてとんでもない、できるわけがないと言った」とコウリバリーさんは回想する。「アフリカ人がイタリアでバスを運転するなんて。しかも、船で渡ってきたアフリカ人がね」

コウリバリーさんが経験したのは、メローニ伊首相による移民政策の対照的な2つの側面のうち、「歓迎」サイドだ。

メローニ氏は昨年10月、国家主義的な政策を掲げて政権の座についた。移民規制の強化による北アフリカからの不法入国の摘発、海難事故に遭う移民を救助する慈善団体への規制、アルバニアでの移民収容所の建設計画といった公約により、国際的な注目を集めた。

だがその一方でメローニ首相は、イタリア国内で深刻化している人手不足を埋めるため、数十万人の移民に門戸を開き、合法的な就労を認めようとしている。イタリアは世界で最も高齢化が進み、人口減少に直面している国の1つだ。

イタリア統計局の予測では、2050年までにイタリアの人口は約500万人減少し、人口の3分の1以上が65歳以上になる。建設や観光、農業に至るまで、多くの産業が若い力を切実に必要としている。

タヤーニ外相は10月、チュニジアと3年間の協定を結び、年間最大4000人のチュニジア人を対象にビザ発給と在留許可手続きを簡素化した。同外相は、メローニ政権は移民そのものには特に反対していないと語る。

タヤーニ外相は11月21日、国会で「イタリア、そして欧州に誰が入ってくるかは我々が選びたい。人選を密入国斡旋業者に任せておくわけにはいかない」と発言した。

労働市場の専門家で元保守派議員のジュリアーノ・カッツォーラ氏は、経済と人口動態の現実が政府の反移民姿勢を弱めているとの考えを示した。【12月11日 ロイター】
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イタリア・メローニ政権の2023年から25年までの3年間の移民受け入れ計画は45万人に上り、22年までの3年間の2倍以上になっています。

メローニ首相は「私の目標は、アフリカからの出国を阻止し、欧州に来る権利を持つ人と持たない人を選ぶ仕組みを確立することだ」と不法移民と合法移民の違いを強調していますが、その線引きは曖昧です。

イタリア政府が3年ごとに発行数を決める非EU圏向け外国人の就労ビザの多くは、イタリアに不法入国してすでに就労している移民が合法的な立場を得るために使われてきたという実態があります。

“建設や観光、農業に至るまで、多くの産業が若い力を切実に必要としている”・・・・イタリア商工会議所によると、昨年の求人の半分は採用者が見つからなかったとのことで、経済界からは「100万人を超える外国人労働者が必要」との声も上がっているそうです。

なお、首相就任時には「極右」として危惧されたメローニ首相ですが、今までのところEU・米とも協調的な政権運営を行っています。

****極右首相に安心感 メローニ氏就任1年―イタリア****
イタリアのメローニ首相(46)が就任して(23年10月)22日で1年。ファシスト党の流れをくむ極右「イタリアの同胞」の党首だけに、当初は「欧州で最も危険な女性」(ドイツ誌)と警戒された。

しかし、ロシアの侵攻に直面したウクライナへの支援で米国や他の欧州諸国と足並みをそろえる手堅い外交を展開。西側諸国に安心感を与えたほか、国内世論の支持も厚く、安定した政権運営を続けている。

「われわれは火星人ではない。生身の人間だ」。イタリアで最初の女性首相となったメローニ氏は昨年11月、初外遊で訪れたベルギー・ブリュッセルの欧州連合(EU)本部で記者団にこう語った。政治信条が異なっても、会って話せば分かり合えるという趣旨だ。

かつて「反ユーロ」などの極端な主張を唱えた欧州の極右政党の多くは穏健化し、一部が政権参画するまでになった。メローニ氏も暴力・専制のファシズムに「郷愁はない」と強調しつつ、野党時代のEU批判を控えて各国との協調をアピールする。(後略)【2023年10月22日 時事】
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