孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  国連特使訪問も国軍支配正統化に利用される懸念 強まる弾圧のなかで“スーチーカード”も

2022-08-23 22:55:48 | ミャンマー
(ミャンマーのミンアウンフライン国軍最高司令官(右)と握手する国連のヘイザー事務総長特使=ネピドーで2022年8月17日、国軍提供・AP【8月18日 毎日】)

【無策の国軍支配のもとで物価上昇に苦しむ市民】
コロナ禍やウクライナ情勢の影響もあって、食料・燃料などの物価高騰や貧困に苦しんでいるのはミャンマーだけでなく、世界の多くの国で見られることです。

ただ、ミャンマー軍事政権にそうした市民生活困窮に対応する統治能力がないことも事実であり、市民生活はその苦しみの中に放置されたままになっています。

****ミャンマー、主食米価格4割上昇 政変後の生活直撃****
国軍がクーデターで全権を掌握したミャンマーで物価上昇が加速している。

ミャンマー人の主食であるコメの市場価格は平時より4割高い水準に達した。外貨不足で現地通貨チャットの価値が下落し、日用品や他の食品の値上がり率も大半の品目で2桁以上だ。物価上昇で人々は消費を抑え、景気がさらに悪化する悪循環に陥っている。

店は「掛け売り」対応も
8月上旬、最大都市ヤンゴンの公設市場。「政変を期に状況は完全に変わった。モノは全然売れないのに物価は上がるばかりで、一体どうすればいいのか」。雨季特有の激しい雨が降るなか店番の女性(50)はこう話した。

この店の収入で学齢期の子ども7人を含む13人の世帯を養っているという。「普段の食事から肉を減らして何とかやりくりしている」と明かした。

店の売り上げは政変以前の半分以下に落ち込んだ。買い物客も物価高で困窮しているため、掛け売りにして顧客の給料日まで支払いを待つ。「売上高を確保するには仕方がない」と話す。

ミャンマー中央銀行は公定為替レートを1ドル=2100チャットとしているが、実勢を反映する市中両替商のレートは同3000チャット近くまで一時下落した。チャットの価値は政変前に比べて約半分となり、輸入品の価格を押し上げている。

ミャンマー当局によると消費者物価指数(CPI)は4月に前年同月比17.8%上昇した。世界銀行は2022年度(21年10月~22年9月)のCPI上昇率が15%に達すると予測している。だが直近の生活実感はこれよりも格段に厳しい。

通貨安で物価高、一般世帯向けパーム油は3倍
物価上昇は主食米に広がっている。ヤンゴン市内の米屋によると、主要品種の価格は8月中旬時点で1ビス(ビスはミャンマーの伝統単位で約1.6キログラム)あたり3900チャット(約250円)と、政変前に比べ44%も上昇した。

国内で生産するコメの価格は政変後も比較的安定していたが、6月から7月にかけ急速に値上がりしたという。店主は「こちらが希望する量のコメを仕入れられない」と話す。物流事情の悪化や生産減少による供給停滞のほか、肥料や燃油の高騰が価格を押し上げている可能性がある。

国外からの輸入に頼る食用油の値上がりも顕著だ。一般世帯が料理に使うパーム油の卸売価格は1ビス9400チャットと政変前の約3倍になった。価格統制を試みる当局が8月初旬に設定したパーム油の卸値の「参照価格」は3525チャットだが、ほとんど機能していない。ある小売商は「参照価格で調達できるのは政権に近い人々だけだ」とこぼした。

政変前に750チャット前後だったガソリン(オクタン価95)の価格は8月15日時点で2445チャットまで上昇し、タクシーや物流事業者の営業に影響が出ている。

人口の4割が貧困線以下の生活
零細店舗向けに流通事業を手掛ける日系スタートアップが取り扱う商品の価格をみると、物価上昇が幅広い品目に及んでいる。21年1月から22年8月初旬にかけて食用油は3.2倍、粉末飲料は2倍に値上がりした。非食品では蚊取り線香やろうそくなどの家庭雑貨が2.4倍、洗面用品は2.2倍になった。

現地大手スーパーでの小売価格も一部商品で価格の変動を調べた。21年3月と22年8月では、同一ブランドの食用油が2.5倍、インスタント麺は2.3倍の価格になった。ツナ缶詰は60%、ビールは25%値上がりしている。

今のところスーパーの商品が途切れる事態にはなっていないが、一部の商品は欠品していた。国軍当局が外貨不足で民間企業による輸入量の制限を強めており、その影響が出ているとみられる。

世界銀行が7月に公表した最新の推計では、ミャンマーの人口の4割が貧困線以下の生活を強いられている。物価上昇で人々は生活費を切りつめ、さらなる所得低下を招く。この悪循環をどう断ち切るか、見通しは立っていない。【8月22日 日経】
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【活動家処刑に批判を強めるASEAN】
そうした状況にあっても国軍は民主活動家死刑執行など、民主派への厳しい弾圧姿勢を変えようとはせず、通常は加盟国の内政は問題視しないASEANにあっても、ミャンマー国軍幹部が会議に出席することを禁じるなど、ミャンマー国軍の頑なな姿勢に批判が強まっています。国軍はこれに反発。

****ミャンマー軍、会合締め出しでASEAN非難 「外圧に屈した」****
ミャンマー軍事政権の報道官は17日、東南アジア諸国連合(ASEAN)が同国軍の幹部を地域会合から排除したことについて「外圧」に屈したと非難した。

ゾー・ミン・トゥン報道官は定例会見で「一国の代表が空席であるならば、ASEANサミットと銘打つべきではない」と述べた。

ASEANはミャンマーに対し、昨年合意した5項目の和平計画を順守するよう求めており、軍事政権が民主活動家4人の死刑を執行したことを非難している。

ASEANは、ミャンマー軍幹部が会議に出席することを禁じる一方、軍事政権は政治家ではない代表を派遣する案を拒否している。

軍事政権報道官は、ミャンマーは和平計画の実施に取り組んでいると説明。ASEANは「外圧」に屈し、国家の主権問題に不干渉であるという独自の方針に違反していると述べたが、詳しくは語らなかった。【8月18日 ロイター】
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【初の国連特使も国軍支配正統化に利用される懸念も】
民主派への対応で中心となるのは拘束中のスー・チー氏の処遇です。

****スーチー氏、汚職罪で禁錮6年 ミャンマー裁判所が判決=関係筋****
軍事政権下のミャンマーの裁判所は15日、民主化指導者アウンサンスーチー氏(77)を4件の汚職の罪で禁錮6年の判決を言い渡した。事情に詳しい関係筋が明らかにした。

スーチー氏は、汚職や選挙違反など少なくとも18件の罪で起訴されており、刑期は最長190年近くに及ぶ。スーチー氏はいずれの罪も否認している。

関係筋によるとスーチー氏は15日、保健と教育を促進するために設立した「ドーキンチー財団」の資金を住宅建設のために不正使用し、政府所有地を割引価格で賃貸したことで有罪となった。

首都ネピドーの刑務所の独房で拘束されているスーチー氏は、他の罪で既に11年の禁錮刑を言い渡されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソン氏は、スーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)にも言及して「これはスーチー氏の権利に対する大規模な攻撃であり、スーチー氏とNLDを永遠に葬り去ろうとする作戦の一部だ」と述べた。(後略)。【8月15日 ロイター】
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16日は国連特使が初めてミャンマーを訪問し、民主活動家の処刑停止やスー・チー氏釈放などを求めています。

****国連特使、ミャンマー国軍トップと会談 死刑執行の一時停止要請****
ミャンマー問題を担当する国連のヘイザー事務総長特使は17日、首都ネピドーで行ったミンアウンフライン国軍最高司令官との会談で、暴力停止のほか今後の死刑執行の一時停止などを要請した。国連特使がミンアウンフライン氏と会談したのは昨年2月のクーデター後初めて。

国連によると、ヘイザー氏は会談で今回の訪問目的を、国連の懸念を伝え、紛争と人々の苦しみを軽減するために必要な具体的措置を提案するものだと説明。「国連の関与は(国軍の統治に)正当性を与えるものではない」と強調した。

刑事裁判中のアウンサンスーチー氏との面会や、スーチー氏を含む収監中の全ての政治犯の釈放も求めた。国連は、ヘイザー氏と国軍幹部が今後も率直な話し合いをすることに同意したとしているが、ミンアウンフライン氏がどう応じたかには言及していない。

一方、ミャンマー国軍側は、国連と「いかに信頼を深め協力を進めるか意見交換した」と発表した。ヘイザー氏は17日に国軍側が外相に任命したワナマウンルウィン氏とも会談。ミャンマー外務省はワナマウンルウィン氏が「国連がミャンマーと協力する際は建設的で実際的な検討が必要だ」と強調したとしている。【8月18日 毎日】
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特使は「国連の関与は(国軍の統治に)正当性を与えるものではない」とはしていますが、国軍側は国連特使ヘイザー氏との会談によって統治の正当性をアピールしたい考えです。

民主派勢力の国民統一政府(NUG)の副外相は「今は適切な時期ではない。国軍を(政権として)認識しないよう細心の注意をすべき時だ」と懸念を示しています。

【再び“スーチーカード”か】
これまで頑なな姿勢を貫いてきた国軍側が、ここにきてスー・チー氏処遇について、やや柔軟対応もにおわすような発言を。

****スー・チー氏、判決後に自宅軟禁に移行も 国軍トップが表明****
ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官は19日、国家顧問兼外相だったアウン・サン・スー・チー氏(77)の処遇について、訴追中の容疑の全てに判決が出た後に刑務所から自宅軟禁に移すことを検討する考えを示した。(中略)

スー・チー氏は昨年、国軍によるクーデターを受け拘束された。その後、収賄や選挙違反など少なくとも18の罪状で訴追され、うち数件ですでに計数年の禁固刑などの判決が出ている。国軍によると、同氏の身柄は今年6月に首都ネピドーの刑務所の独房に移された。同氏は訴追された容疑の全てを否認している。

国営テレビで読み上げられたミンアウンフライン氏の声明は、「この件は全ての判決が出た後で検討する。(スー・チー氏には)強力な容疑を立件していない。もっと強い対応を取ることもできたが、寛大な処分にした」としている。【8月21日 ロイター】
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国連特使との会談が影響しているのかどうかはわかりませんが、あまり大きな期待はしない方がいいかも。
“あいまいな態度で譲歩の姿勢を見せることで、国際社会に対する交渉カードに使う狙いがあるとみられる。”【日系メディア】との指摘も。

スー・チー氏の処遇は、民主化以前の軍事政権時代、スー・チー氏が長年にわたり自宅軟禁されていた時代から、つねに対外交渉用の「カード」として利用されてきました。

国際批判が高まるとスー・チー氏処遇を緩め、国際社会からの批判を軟化させ、しばらくしたら再び軟禁を強めるといったことを繰り返してきました。

仮に、今回スー・チー氏の処遇がやや緩められたとしても、そうした国際交渉の一環であり、弾圧姿勢自体を変えるつもりはないように思われます。

【強まる国軍の弾圧姿勢】
国軍の弾圧姿勢はむしろ強まるようにも見えます。

複数の現地メディアによれば、国軍の統制下にある選挙管理委員会が、国内の全ての政党に対し、外国人と許可なく接触した政党は抹消するとの命令を出したとのこと。この命令によれば、今後は外国人と政治家の面会は許可制となり、面会自体が禁じられたり、当局が政治家の動向を監視下に置いたりする懸念が高まっています。

また、民主派による抵抗運動にとって不可欠なSNSへの統制・制限も強化されています。

****ミャンマー軍政、フェイスブックを制限 自前のSNS設立などで情報戦対策へ****
<民主派の情報があふれるネットを遮断させるためにはSIMカードの課税強化まで>

軍事政権による民主派への強権弾圧が続くミャンマーで、軍政が国内のインターネットの接続制限に乗り出したことが明らかになった。

特にターゲットとしているのがSNSのFacebookで、「しばしば民主派に利用されている」として今後制限を強化するとともにFacebookに代わる自前のSNSを創設する考えを示すなど締め付けを強化する方針だ。

これはゾー・ミン・トゥン国軍報道官が8月17日に明らかにしたもので、反軍政の民主派は「表現の自由」に反する行為だとして反発している。独立系メディア「イラワジ」が伝えた。

ミャンマーでは2021年2月1日のクーデター発生以降、軍政によるメディアやSNSの制限や遮断で民主派の活動、情報発信を警戒する弾圧が続いている。

軍政による人権侵害や市民への拷問、虐殺などの情報、ニュースは独立系メディアによって国内外に伝えられているが、こうしたメディアで働くミャンマー人記者らはタイなどの隣国に逃れて報道を続けるか、国内の国境周辺で軍と戦う少数民族武装勢力の支配地区などに潜伏して活動を続けており、インターネットは「命綱」となっている。

SNSは反軍政の牙城と批判
ゾー・ミン・トゥン国軍報道官はSNS、特にFacebookはクーデター以降、軍政トップのミン・アウン・フライン国軍司令官のアカウントを閉鎖し、国軍の公式ページや軍幹部の個人アカウントも次々と閉鎖するだけでなく、軍が所有する企業の広告掲載も拒否している、と批判。

そして「反軍政の勢力が暴力を扇動する重要なチャンネルとなっている」と反軍政の牙城となっていることが明確でこのまま放置しておくのは問題だと指摘している。

「Facebookの掲載基準は一体どこにあるのか、なぜ個人のアカウントや広告掲載を消去するのか」とゾー・ミン・トゥン国軍報道官は疑問を口にして怒りを露わにした。

自前のSNSを設ける方針
そのうえで同報道官は今後Facebookに代わる軍政自前のSNSを創設する方針を示した。しかしいつどのような形で創設するのか詳細には言及せず、早期の実現は難しいとの見方も出ている。

軍政はクーデター以降、インターネットや携帯電話を頻繁に遮断、制限してきた。特に武装市民組織「国民防衛隊(PDF)」や少数民族武装勢力と軍による激しい戦闘が繰り広げられている地域や地方でこうした通信網の妨害を行って反軍勢力の情報交換や連絡を遮断してきた。

さらにFacebookやインスタグラムなどのSNSの監視も強化して、反軍政活動の動画や写真、コメントをアップした人物を特定、電子情報法違反や扇動罪などで逮捕している。

加えて軍政はSNSに接続するために必要な携帯電話などのSIMカードの税金も値上げして市民の購入を難しくするという苦肉の策も講じており、なんとかしてSNSにあふれる反軍政の情報発信を抑え込もうとしている。

情報戦で劣勢の軍の焦り
中心都市ヤンゴンではインターネット接続がしばしば遮断されるが、これが軍政による意図的な妨害の一環なのか、単なる接続会社などの技術的問題なのか判然としない、とヤンゴン在住の日本人は話す。

独立系メディアもインターネット上で軍による無抵抗、無実、非武装の一般市民の拷問や虐殺の惨い写真や映像で実態を暴露するために積極的に情報をアップしている。

さらにドローンを使った軍への攻撃の様子もアップして攻勢をアピールするなど、インターネット上の「情報戦」は民主派が圧倒しているのが実態だ。

このように反軍政の民主派による抵抗運動には携帯電話とインターネットが必要不可欠となっており、今回の措置は、その制限や遮断に本格的に軍政側が乗り出そうとしていることを示している。

クーデターから1年半を経過しても国内の治安安定達成には程遠い状況で、各地で軍とPDFや少数民族武装勢力による戦闘が毎日のように続いていることに対するミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍幹部の焦燥感が表れているのではないかとの見方が有力だ。【8月23日 大塚智彦氏 Newsweek】
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ウクライナ問題のように世界の関心を集めることはありませんが、ミャンマーなど多くの国で圧制・弾圧に苦しむ市民が多く存在します。

****軍政批判のミャンマー国連大使「ウクライナもミャンマーも苦しんでいるのは市民だ」****
ミャンマーのチョー・モー・トゥン国連大使は19日、読売新聞のオンライン取材に応じ、ノエリーン・ヘイザー国連事務総長特使が初めてミャンマーを訪問したことについて「国軍に(統治を存続させるために)利用されかねない」と懸念を示した。

国軍による昨年2月のクーデター以前に着任した大使は、軍政への批判を続けている。大使は「国軍は国際社会と向き合っているように見せかける一方、市民を殺害している。特使を受け入れたのは国軍の戦術だ」と指摘。弾圧を止めるには「圧力が必要だ」と述べた。

特使と国軍トップの会談を巡り、国軍側が統治の正統性を示すものだと主張していることには「国際社会はミャンマー国民の声を聞いてほしい」と述べ、軍政を認めないよう訴えた。

大使は、ロシアのウクライナ侵略に関心が集まりがちだが、「ウクライナもミャンマーも苦しんでいるのは市民だ。国際社会はミャンマーのことも忘れないでほしい」と求めた。【8月20日 読売】
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