孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

西アフリカ・マリで虐殺・偽装工作に関与か、ロシアの民間軍事企業「ワグネル」 ウクライナにも派遣

2022-04-23 22:59:49 | アフリカ
(【2021年11月11日 産経】)

【マリ軍事政権 撤退する仏軍に代わってロシアの民間軍事企業「ワグネル」に乗り換え】
あまり直接的な関与をしたがらないアメリカに代わって西アフリカで軍事展開を含む直接的関与を深めてきたのが旧宗主国のフランスですが、その仏軍活動の中心にあったのがマリ。

マリ政府の要請に応じて2013年から部隊を派遣し、介入時は市民からも熱狂的に歓迎され、一時はイスラム過激派討伐で成果を治めましたが、戦いは長期化、マリ国内の軍事政権への政変による政権との関係悪化、犠牲者の増加などもあって、フランス・マクロン大統領は2月に撤収を発表しました。

****対テロ戦のマリ駐留仏軍が撤退へ 軍政との関係悪化で****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は17日、イスラム過激派と10年近く戦ってきたアフリカのマリに駐留している部隊を撤退させると発表した。同国の軍事政権との関係悪化が理由という。

フランスが主導する多国籍部隊は声明で、2020年8月に権力を握った軍事政権による「度重なる妨害」により、マリで活動する条件が損なわれたと指摘した。マリにある3か所の駐屯地は、4〜6か月以内に閉鎖する。

フランスは、対テロ作戦のため、マリ政府の要請に応じて2013年に部隊を派遣した。しかし、過激派の活動は収まらず、ルモンド紙は「熱狂をもって始められた介入は不名誉な終わりを迎えた」と論評した。これに対しマクロン氏は、フランスがマリで失敗したとの見方を否定した。 【2月17日 AFP】
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マクロン大統領は、マリ軍事政権と「戦略も目的も共有できない」と非難しています。仏大統領府によると、仏軍は2400人、欧州部隊は900人がマリに展開していましたが、仏軍は規模を縮小してニジェールなどの近隣国に一部の部隊が残される見通しとされていました。

一方、マリ軍事政権がフランスに代わって頼ったのがロシアの民間軍事会社「ワグネル」でした。

****マリ、ロシア軍事企業に毎月11億円 米軍司令官****
米アフリカ軍のスティーブン・タウンゼンド司令官(陸軍大将)は3日、イスラム過激派の襲撃や貧困に苦しむアフリカ西部マリの軍政が、ロシアの民間軍事企業「ワグネル」に月1000万ドル(約11億円)を支払っていると語った。
 
タウンゼンド氏は電話会議でワグネルについて、傭兵(ようへい)派遣会社だと指摘。マリの安定に寄与しない「あしき存在」であり、「利益目的のためにマリにいる」と述べた。
 
その上で「マリ軍政はワグネルとの取引で毎月1000万ドルを支払っていると考える根拠がある」とし、「支払いには金や宝石の原石など天然資源が充てられているはずだ」と話した。
 
またタウンゼンド氏は「マリはワグネルと取引しているにもかかわらず、公には否定し続けている」と語った。 【2月4日 AFP】
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【プーチン政権にとって“汚い役割”をこなす傭兵集団「ワグネル」】
ロシアの民間軍事企業「ワグネル」はこれまでも、ロシア・プーチン政権が介入する地域、シリアやリビアなどでもその活動が報じられていますが、正規軍とは異なり“汚れ仕事”を厭わないこと、死者が出ても“ロシア軍の犠牲者”にはならないことで、プーチン政権にとっては便利な存在のようです。ロシアは「ワグネル」とのつながりも、その存在自体も否定していますが。

そして、世界が注目するウクライナ東部にも派遣されているということで、正規軍とは異なる非道な戦いぶりで民間人犠牲者の増加などが懸念されています。

****プーチンが動かす傭兵集団「ワグネル」の汚い役割****
<ウクライナの戦場に投入されたエリート傭兵集団の正体と使命は>
イギリス国防省は4月4日に公表した新たな分析の中で、ロシアのウラジーミル・プーチンとつながりのあるエリート傭兵組織「ワグネル・グループ」が、ウクライナ東部に派遣されていると明らかにした。(中略)

エリート傭兵部隊であるワグネル――「リーガ」の名前でも知られる――は2014年に結成され、同年のクリミア侵攻やドンバス地方での戦闘に参加。2014年から2015年にかけて、親ロシア派の分離主義勢力がドンバス内でドネツク人民共和国・ルガンスク人民共和国の創設を一方的に宣言するのを手助けしたことで、注目を集めるようになった。(中略)

創設者にはナチスのタトゥー
ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ワグネルという組織名は、ロシア軍参謀本部情報局(GRU)の元メンバーで同組織を設立したドミトリー・ウトキンのコールサイン(呼出符号)に由来する。

ウトキンは、ナチスの指導者アドルフ・ヒトラーが好んだ作曲家「ワーグナー(ワグネル)」を自らのコールサインに選び、ナチス関連のタトゥーを複数入れているらしい。

ワグネル・グループは単一の企業体ではなく、複数の企業や組織の大規模なネットワークによって構成されている。
アメリカの複数の当局によれば、ワグネル・グループには、プーチンに近い実業家のエフゲニー・プリゴジンが資金提供を行っている。

しかしプリゴジン本人は、ワグネルとの一切のつながりを否定。ロシア政府もワグネルへの関与を否定し、ロシアでは民間軍事会社の設立は違法だとして、その存在自体を否定している。

西側の複数の国の政府や活動家らは、ワグネル・グループがアフリカでの人権侵害や、リビアおよびシリアでの戦闘に関与したと非難してきた。マリやモザンビーク、スーダンに派遣され、代理戦争を戦ってロシアの影響力を行使し、油田などの戦略的利益を奪取したこともあるという。(中略)

英情報機関・政府通信本部(GCHQ)のジェレミー・フレミング長官は、ワグネルは、ロシア軍側の死者数(公式発表数)を少なく抑えるための「捨て駒」として使われている可能性が高いと指摘した。ワグネルをウクライナに派遣することで、人権侵害行為から距離を置くこともできる。

国際行動規範協会のジェイミー・ウィリアムソン事務局長は、ワグネルはロシア軍の元兵士たちを雇い、「軍事請負組織」の機能を果たしていると指摘した。

「冷戦初期のような傭兵集団」
「ワグネルとロシア政府との間には、支配権と資金の出処という点において、明らかなつながりがある」とウィリアムソンは本誌に語った。「ロシア政府はその存在を認めていないが、ワグネルは軍事請負集団と見なされている。冷戦初期にみられたような傭兵集団に等しい存在であり、アフリカの南部、東部や西部の複数の企業がワグネルに関与しているとみられる」(後略)【4月6日 Newsweek】
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【マリでも多数の市民死亡 「ワグネル」関与か ロシアは「でっち上げ」と否定】
話を西アフリカ・マリに戻すと、民間軍事企業「ワグネル」の活動で懸念される民間人犠牲が発生しているとフランスは非難しています。

****アフリカ・マリで多数の市民死亡、ロシア軍事会社「ワグネル」が関与か…仏が重大懸念表明****
フランス外務省は4日、西アフリカのマリで、マリ軍とロシアの民間軍事会社「ワグネル」の合同作戦により多数の市民が死亡した情報があるとし、重大な懸念を表明した。

ワグネルが活動を本格化させた1月以降、人権侵害行為が横行しているとして、マリで平和維持活動を続ける国連主導の調査を求めた。

マリ政府は1日、先月下旬に中部で行ったイスラム過激派に対する掃討作戦で戦闘員203人を殺害したと発表した。だが、仏メディアなどは直後から、死者には相当数の民間人が含まれている可能性を報道している。過激派が主要民族と結びついて土着化し、戦闘員と民間人の区別が困難とも指摘されてきた。

クーデターで親仏政権が倒れたマリでは、新たな軍事政権が親ロシアの立場を取り、プーチン政権に近いワグネルが治安対策名目で活動しているとされる。

仏紙ル・モンドによると、マリ軍関係者に対して拷問など違法な尋問の方法を教えているとの疑惑もある。ワグネルは親露政権を支援するために派遣された中央アフリカでも人権侵害を非難され、露軍が侵攻中のウクライナ東部でも活動していると英国防省が確認している。【3月6日 読売】
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ロシアは、民間人虐殺やロシア民間軍事企業「ワグネル」の関与を「偽情報」、」西側諸国の「でっち上げ」と否定して、同作戦の「成功」を祝しています。

****ロシア、虐殺疑惑のマリ軍事作戦に祝意****
アフリカ西部マリ中部の町ムラで3月末に行われた軍事作戦について、ロシアは8日、テロとの戦いにおける「重要な勝利」と祝意を示した。人権団体は、同作戦で民間人が虐殺されたと主張している。
 
ロシア外務省は「マリ軍が軍事作戦を成功させ、ムラの町でイスラム武装勢力200人以上を殺害した」と発表し、「テロの脅威との戦いで重要な勝利を収めたマリ国民に祝意を伝えたい」と続けた。
 
ロシア外務省は、同作戦が民間人虐殺につながったとする人権団体の主張を「偽情報」と一蹴。
同作戦にロシア人傭兵(ようへい)が関与したとの疑惑も否定し、「ロシアの戦争犯罪への関与を強調するための」西側諸国の「でっち上げ」だと糾弾した。
 
マリ軍は同作戦でイスラム武装勢力203人を「無力化」したと発表。一方、メディアの取材や国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチなどの聞き取り調査に応じた目撃者らの証言によると、マリ兵とロシア人とみられる外国人戦闘員が民間人の虐殺やレイプ、略奪を行ったとされる。 【4月9日 AFP】
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【「集団墓地」偽装工作も】
ロシア民間軍事企業「ワグネル」の戦闘員が民間人の虐殺やレイプ、略奪を行ったかどうか・・・真偽はわかりませんが、一々批判するフランスを「ワグネル」が苛立たしく思っているのは間違いないでしょう。

そんな感情があってのことでしょうか、返還された仏軍基地に「集団墓地」を偽装して、仏軍の責任にする偽情報を流す「ワグネル」とマリ軍の「企て」(フランス側はそのように見ているようです)も報じられています。

****ロシア人傭兵、マリで仏の残虐行為でっち上げか 仏軍****
仏軍は、西アフリカ・マリの仏軍が撤退した基地近くで集団墓地が見つかったとの主張について、ロシア民間軍事企業ワグネルによるでっち上げの可能性が高いとの見方を示し、遺体を埋めるロシア人傭兵の動画もあると主張した。

動画はドローンで撮影されたもので、AFPは21日に確認した。マリ中部ゴシの基地付近で、軍服姿の白人が遺体に土をかけていた。
先に、「元兵士」で「マリの愛国者」を名乗るディア・ディアラというユーザーが埋められた遺体の映像をモザイク付きでツイッターに投稿。「仏軍がゴシの基地を去る時に残したものだ。黙ってはいられない!」として、仏軍が残虐行為を犯したと非難していた。

これに対し仏軍参謀本部は、動画を情報戦の一環と呼び、「ワグネルが開設した偽アカウントである可能性が非常に高い」と指摘した。

さらに「(イスラム過激派掃討を目的とする)バルカン作戦に参加する部隊の信用を落とすための策略であり、組織的なものとみられる。この数か月に何度も仏部隊に仕掛けられてきた情報戦の典型だ」と主張した。

米仏は、マリにワグネルの傭兵が派遣されていると指摘しているが、マリ軍事政権は同国で活動するロシア人について、傭兵ではなく「軍事教官」だと主張している。

仏軍は19日、マリ駐留部隊の撤退の一環として、仏兵300人が駐留していたゴシ基地をマリ軍に正式に引き渡した。 仏軍参謀本部は、同基地返還後に情報戦が展開される恐れがあると警告していた。【4月22日 AFP】
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“マリ軍事政権は同国で活動するロシア人について、傭兵ではなく「軍事教官」だと主張している”・・・拷問方法や残虐行為でっち上げによる情報戦などの教官でしょうか。

もちろん、仏軍に非人道的行為がないとは思いまいませんが、多数を虐殺して集団墓地に埋める・・・というのはさすがに・・・・。

「そんなことするのはロシアの傭兵だろう」と思われてしまうのは“日頃の行い”のせい、不徳の致すところでしょう。

そしてマリで起きたようなことは、ウクライナでも。

【ウクライナではチェチェンの独裁者カディロフ首長配下の「カディロフツィ」も】
なお、ウクライナについて言えば、民間軍事企業「ワグネル」同様にその残虐性が懸念されるのがチェチェンの独裁者カディロフ首長配下の「カディロフツィ」の参戦です。

****プーチン氏に尽くす残虐部隊「カディロフツィ」 ウクライナでも活動****
チェチェン人戦闘員が四方八方に銃を乱射し、ウクライナ兵の捕虜はうつろな目でひざまずき、あるいは遺体の間を引きずられていく──ロシア南部チェチェン共和国の独裁者ラムザン・カディロフ首長(45)は、自身の私兵がウクライナでロシアのために戦う様子をソーシャルメディアで自慢している。

カディロフ氏の部隊「カディロフツィ」は、チェチェンの民兵組織だ。ウクライナの人々は、侵攻してきたロシア軍の中で、カディロフツィが最も残忍だと口をそろえる。
 
カディロフ氏は、チェチェン紛争でロシア側に寝返った元独立派指導者の息子で、ウラジーミル・プーチン大統領の忠実な配下として知られる。イスラム教徒が多数派のチェチェン共和国で、拷問や処刑など深刻な人権侵害を行っていると非難されてきた。
 
カディロフ氏はプーチン氏のウクライナ侵攻を歓迎し、直ちに部隊を送ると表明。ウクライナで戦うカディロフツィの動画を誇らしげにメッセージアプリのテレグラムに投稿し、ロシアの主張をなぞって「ウクライナのナチス(・ドイツ)」と戦っていると主張している。
 
先月には、ロシア軍が包囲するウクライナ南部の港湾都市マリウポリに入ったとして、約30人の戦闘員に囲まれた自身の写真を投稿した。また、ロシア兵を拷問したウクライナ兵を発見し、直々に「罰した」と主張した。
 
カディロフツィは、チェチェンのみならず2014年のウクライナ東部紛争やシリア内戦などでも悪名が高い。
ロシアの政治的暴力に詳しいカナダ・ラバル大学のオーレリー・カンパーナ氏は、「カディロフ部隊の参戦発表とそれをめぐるプロパガンダは、敵を不安定化させる試みの一環」だと指摘する。

■恐怖の種をまく
カンパーナ氏によれば「残酷さで知られるチェチェン部隊の参加は、ウクライナ人の恐怖心をあおる」。
 
侵攻直後、プーチン氏がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権を迅速に打倒するため、チェチェン人暗殺部隊を送り込んだといううわさが広まった。カディロフ氏も、ゼレンスキー氏は間もなく「前大統領」になると宣言した。
 
「ウクライナで何人のチェチェン人が戦っていて、どこに配備されているのか、正確なことは誰にも分からない」と、ロシアの政治専門家アレクセイ・マラシェンコ氏はAFPに語る。
 
カディロフ氏は先月中旬、ウクライナにいる配下は約1000人だと述べたが、真偽を確認するすべはない。カディロフ氏を支持しないチェチェン人はウクライナ政府側に付いてロシア軍と戦っている。
 
カディロフツィの残虐性については疑う余地もないが、戦果はまだ証明されていない。カディロフ氏は、配下の部隊がマリウポリ市庁舎を占拠したと勝ち誇ったように発表したが、その建物は市庁舎ではなかったことが後に公開された動画で明らかになった。
 
政治学者のコンスタンティン・カラチェフ氏は、「ウクライナでの作戦に加わることでカディロフ氏はプーチン氏への全面的な忠誠心を示し、影響力を維持しようとしている」と見ている。「カディロフ氏にとって、今回の作戦は個人的な宣伝になる」

■ロシア兵への懲罰
カディロフ氏は、プーチン氏に批判的だったロシアの野党指導者ボリス・ネムツォフ元第1副首相やジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏をはじめ、数々の要人暗殺の裏で糸を引いていたとされる。
 
2015年のネムツォフ氏暗殺事件の計画を練ったのは、マリウポリでカディロフツィを指揮し、3月下旬にウクライナ軍との戦闘中に負傷したルスラン・ゲレメエフ司令官だったとみられている。
 
ウクライナでのカディロフツィについて、複数の有識者は、2014年の東部紛争で親ロシア派に対して行ったように、ロシア兵を規律に従わせる役割も担っている可能性があると指摘する。カンパーナ氏は「カディロツィの経験はウクライナ各地の抵抗を圧倒するだけでなく、ロシア軍と親ロシア派に対する懲罰として機能し得る」と記している。
 
実際、ロシア軍内にもカディロフツィの味方は少ない。「だが、プーチン氏は全面的に信頼している」「カディロフ氏個人にとって、ウクライナでの軍事作戦への参加は成功と言える」とマラシェンコ氏は述べた。【4月19日 時事】
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“ロシア軍と親ロシア派に対する懲罰として機能”・・・・士気の低さが取り沙汰されるロシア軍ですが、「戦う気のない兵士はカディロフツィが処刑する」という話でしょうか。

15世紀、コンスタンチノープルを攻略したメフメト2世率いるオスマントルコ軍は、総攻撃を命じた兵士の後方に抜刀したスルタン直属の精鋭親衛隊イェニチェリが控え、退却するような自軍兵士を切り捨てたとか・・・・いったいいつの時代の話をしているのか。

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