孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  上海で続く過酷な「ゼロコロナ」政策 制限緩和できない疫学的、政治的事情 

2022-04-25 23:05:55 | 中国
(感染拡大は首都北京にも 上海同様のロックダウンを警戒して、北京中心部のスーパーでは朝の開店直後から食料品買いだめのための行列が【4月25日 FNNプライムオンラインより】)

【理不尽で硬直的なゼロコロナ政策を継続】
中国・上海では、今月14日頃の1日の新規感染者が2万7000人を超えるレベルからすると2万人を切るレベルと改善はしていますが、想像を超えるような厳格な対策を行っているにもかかわらず、22日には6日ぶりに増加するなど依然「高止まり」状態にあります。

素人的には、(その良し悪しは別にして)これだけやっているにも関らず、なぜ収束しないのか・・・不思議な感も。

死者数は急増していますが、これまでの感染者増大の結果として、(今後の感染が収まったにしても)しばらくは高い水準が続くでしょう。

****上海のコロナ感染者50万人突破 封鎖後、死者138人に****
中国の衛生当局は25日、新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が続く上海市の24日の新規感染者(空港検疫などを除く)は1万9455人だったと発表した。都市封鎖が始まった3月28日からの累計は約50万3千人となり、封鎖が長引く一方、新規感染の高止まりが続いている。
 
24日には感染者51人が死亡。1日当たりの死者としては過去最多で、封鎖開始後の死者は計138人に上った。上海市によると、24日の死者の平均年齢は84.2歳で、最高齢は100歳だった。直接の死因はいずれも基礎疾患だとしている。【4月25日 共同】
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“亡くなった人の大半は、ワクチンを接種していなかったとしていて、感染爆発の収束が見えない中、高齢者へのリスクがはっきりと現れた形。”【4月25日 FNNプライムオンライン】

なぜリスクの高い高齢者へのワクチン接種をすすめてこなかったのか?・・・これも不思議。

いずれにしても、長期化するロックダウンで「食べるものがない!」といった弊害が巷に溢れていますが、当局は更に厳格な管理を行う姿勢です。

****上海市、1日の死者数が過去最多に…当局は「硬隔離」で一層の厳しい管理へ****
ロックダウンが続く中国の上海市で、過去最多となる死者が確認された。当局は封鎖エリアに新たにフェンスを設置するなど、感染対策を強化している。

先月末からロックダウンが始まった上海市で撮影された動画には、不満を抱えた市民が道路と住宅を隔てるフェンスを引き倒している様子が収められていた。
 
地元メディアによると、感染者が確認された一部の地域をより厳しく管理する「硬隔離」という通知が当局から出され、住宅の玄関をふさぐフェンスが設置されたという。(後略)【4月25日 ABEMA Times】
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“SNS「微博(ウェイボー)」の利用者は「家畜のように金属製フェンスで囲うのは、中にいる人たちの権利を全く無視している」と批判した。”【4月25日 ロイター】

おそらくこういう批判的な声は、当局によってしらみつぶしに削除されてしまうのでしょう。それでも削除しきれない声が溢れる・・・というのが上海の現状です。

****「何日もご飯食べてなかった」 上海『四月の声』SNS拡散も当局は徹底削除 北京ではロックダウンへの警戒高まる****
先週、中国のSNS上である動画が市民らによって拡散されました。

「四月の声」と題された作品。モノクロの上海の景色だけが映っていますが、新型コロナによる事実上のロックダウンで混乱する市民や医療従事者、政府関係者らが発した「声」がおよそ6分にわたり編集され流されているのです。

市民と病院担当者の会話  「正直にいうと病床が足りていない。隔離施設も空きがないし救急車もない。これが現実です」
抗議する住民  「物資をくれ物資が欲しいんだ」

地区の担当者が住民に対し涙ながらに弁明する声も。
地区担当者と住民の会話  「私も上層部から納得できる政策を出してほしい。住民に顔向けできるように。現実は何もないの。理解してほしい。この仕事は心身ともに疲れた」

登場するのは不満の声だけではありません。
警察  「漬物もたくさん食べてね」
運転手  「警察官がご飯をくれた、上海の警察は素晴らしい。何日もご飯を食べてなかった」

ところが、この「四月の声」今、中国で見られなくなっています。当局に不都合な内容と判断されたとみられ、アップロードされるたびに削除されているのです。(後略)【4月25日 TBS NEWS】
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隔離政策は問答無用」的な硬直的対応で、合理性がなく、住民への配慮もない様子。

****魂がそこにいる」から隔離!?問答無用の中国ゼロコロナ政策 世界経済に影響も****
(中略)
「そこにいた」というだけで…
私が約2週間隔離することになったのは、4月3日の夜に北京市で最大級の商業ビル「望京SOHO」にある飲食店にいたというのが理由だ。

建築家のザハ・ハディド氏がデザインしたことでも知られる望京SOHOは、オフィスと商業店舗を統合した複合施設で、敷地面積115,392平方メートル、総建設面積521,265平方メートルと地域最大級だ。ここには数百もの企業と店舗があり1万人以上の人が働いているが、テナントの一つである洋服販売店のスタッフ1人が新型コロナウイルスに感染したことが確認された。

中国当局はすぐにこのスタッフの行動履歴を確認し、3月27日から4月3日までに望京SOHOに出入りした全ての人を強制的に隔離すると決めた。

しかし、私がいた飲食店のあるビルと洋服販売店のあるビルは別の棟で、さらにその距離は100メートル以上離れている。この感染したスタッフとの接触も一切なかったが、こういった説明を担当者に伝えても「隔離は決まったこと」という一点張りで覆ることはなかった。結局、2週間自宅隔離をし、その間3回のPCR検査を受けて全て陰性であれば隔離が解除されるということになった。

「魂はまだそこで働いているというのか!」
ゼロコロナ政策を巡る余波は予期せぬ場所でも発生していた。当局は、感染者が出た望京SOHOにテナントとして入っている会社の社員の追跡調査を行ったのだが、その結果すでに退職して現在は望京SOHOで働いていない人までも隔離やPCR検査を受ける対象になった。

当局が最新の名簿ではなく2年前の2020年の名簿に基づいて調査を行ったためで「今は働いていない」と訴えても聞き入れてもらえなかったそうだ。中国のSNSにはその対象となった人達から次のような憤りの声が投稿された。

「私は1年前に望京SOHOで働いていたがそれ以来行ってない。それなのにビッグデータに取られ3日間で2回のPCR検査をすることになった。私はもう望京を離れたのに、魂はまだそこで働いているというのか! とんでもない話だ!!!」(後略)【4月24日 FNNプライムオンライン】
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【自殺増加 医療制限での死者も】
硬直的な当局対応が続くなかで、「餓死」以外にも懸念される事態が。

****封鎖の上海、自殺相次ぐ 感染死者数を上回るとの見方も****
新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)が長引く中国上海市で、自殺者が相次いでいる。長期にわたって自宅から出られずに抑うつ状態の人が増えているとみられる。

医療機関に診察を拒否され命を絶った男性も。3月28日の封鎖開始から4月19日までに17人の感染者が死亡したが、これを上回るとの見方もあり、政府への批判は日増しに高まっている。
 
「診察できない。中は全て陽性患者だ」。上海の楽団員、陳順平さん(71)は激しい腹痛に襲われて病院に駆け付けたが、診察を拒否された。帰宅後に嘔吐を繰り返し、14日に自殺した。遺書には「痛みに耐えられなかった」とあった。【4月20日 共同】
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適正な医療を受けられずに死に至るという事態は上海だけでなく中国全土に広がっているようです。

****中国95%強の医療機関休業 ゼロコロナ政策で亡くなる助かるべき命****
新型コロナ対策発動で非病院は強制休業へ
日本では上海の都市封鎖(ロックダウン)の話が盛んに報じられている。実は、中国全土の複数の主要都市で何かしらの新型コロナウイルス対策として行動制限が実施されている。現在、中国では陽性者が1人でも確認されると行動制限が発動するからだ。

実施される新型コロナ対策には、医療機関の強制休業がある。新型コロナ対策が実施されている中国の都市では、全体の95%以上の医療機関が休業している。

休業させる理由は、PCR検査ができないから。万が一、新型コロナの患者が来院すると対応できないからと当局から通達されている。

中国の医療機関は、大きく分けると病院、その他の医療機関の2つに分けることができる(正確には3つ。詳細は要検索)。さらに病院には、3級、2級、1級があり、国や市、人民解放軍などが運営する大型の公立病院が3級や2級を占めており、病床数や医療従事者数、設備など条件を満たした一部の私立病院が1級の許可を得ている。

非病院は、問診所、衛生院など日本語だとクリニックと翻訳される小規模医療機関となる。非病院には、歯科や美容整形外科、中医(中国医療)、海外旅行保険が使える外国人向けの医療機関など専門院を含め医療機関全体の95%以上を占める。

新型コロナ対策が発動されると、診察できるのは病院のみとなる。病床数が多く診療科がそろう3級や2級病院は、都市部に多く、地方には少ない傾向がある。持病等で普段から通院している人は、いわゆる、かかりつけ医ではない大学病院などへ行かなければならない。そのため、治療自体を控える人も多く、持病が悪化して亡くなる人も出ている。

しかし、中国政府は統計として発表しないので、実態は完全に伏せられている。

中国政府は、新型コロナだけを徹底的に封じ込めれば良いとも受け取れるゼロコロナ政策を進めているため、ゼロコロナ政策で亡くなる人も出ている。本来、助かる命が、ゼロコロナ政策で失われている実態は、今後も明らかにされることはないのかもしれない。【4月24日 Korea World Tomes】
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【緩和すれば「死者200万人」 背景に中国製不活化ワクチンの有効性の問題?】
中国政府がここまで「ゼロコロナ」に固執する背景には、疫学的な問題と政治的な問題があります。

疫学的な面で言えば、今の中国で制限を緩和すると、欧米に比べて脆弱な医療体制もあって膨大な犠牲者を出す事態になってしまう・・・との懸念です。

****中国、ゼロコロナ継続を伝達 制限緩和なら「死者200万人」****
中国の王文濤商務相が18日に日米欧などの経済団体代表と北京の商務省で会談し、新型コロナウイルスの感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策の当面の継続を伝えたことが分かった。

「政策を緩めた場合、中国で1年以内に200万人の死者が出る」との試算を示し、理解を求めた。日系企業でつくる中国日本商会の関係者が19日明らかにした。(後略)【4月19日 共同】
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世界最多の死亡者を出しているアメリカが死者約100万人ですから、中国の人口を考えれば「死者200万人」でも少ない方かもしれません。「死者200万人」の根拠ははっきりしませんが、2月段階で下記の論文が報じられていました。この論文の数字でしょうか?

****「ゼロコロナ戦略」地域の制限緩和、死者年200万人の恐れ=研究****
中国のような新型コロナウイルス感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ戦略」を実施している地域で人の移動を通常の水準に戻すと、年間約200万人の死亡者が出る恐れがある。中国の研究者チームが4日発表した。(中略)

しかし、全世界のワクチン接種率が95%でも、人口の流動性が2019年の水準に回復した場合、ゼロコロナの全地域で1年以内に2億3400万人超の感染者が発生し、うち6400万人が症状を訴え、200万人が死亡すると推定した。

中国の研究者チームは中国疾病管理予防センター(CCDC)の週報に掲載された論文で「人類は世界レベルで新型コロナを撲滅するために、ワクチン開発を継続し感染に対するワクチンの防御力を向上させる新たな方法を模索すべきだ」と訴えた。(中略)

研究者チームは、新しいワクチンは有症疾患や死亡に対する効果よりも感染に対する効果が重要として「新型コロナを制御する鍵は、より効果的な感染防止ワクチンの開発とその広範な使用にある」との見方を示した。【2月8日 ロイター】
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上記推論はワクチンの有症疾患や死亡に対する効果、感染に対する効果について、チリと英国での研究をもとに一定の数値を前提にしたものですが、中国製「不活化ワクチン」の有効性に対する疑念が以前からあります。

“「中国製ワクチンがオミクロン株への効果が少ないことは、中国政府も知っているじゃないですかね。だから、物理的に人流を断つロックダウンを継続しているのではないでしょうか?」と語るのは、現在、千葉県の研究所に勤める中国の医師免許を持つ中国人医師。”【4月16日 Korea World Tomes】

****[FT]「中国は外国ワクチンに切り替えを」 専門家が提言***
新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」に対する中国製ワクチンの有効性について懸念が募るなか、科学者らが中国に対し、オミクロン型の感染拡大と闘うため2種類の国産ワクチンに代わるワクチンを探すよう呼びかけている。

中国は新型コロナのパンデミック(感染大流行)下で最悪の感染急拡大に直面し、2つの問題に苦しめられている。1つは追加接種(ブースター接種)のペースの鈍さで、当局は今週、60歳以上の人口のうち3回の接種を完了した人が57%にとどまると明らかにした。もう一つは外国製ワクチンより効果が大幅に劣る国産ワクチンだ。

複数の研究は、中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンは、独ビオンテックや米モデルナが生産している「メッセンジャーRNA(mRNA)」ワクチンなど、より効果が高いワクチンの追加接種で免疫を補強することを推奨している。中国医薬集団(シノファーム)製ワクチンについてはデータがほとんどないため、多くの研究者は同社製ワクチンもオミクロン型にあまり効かないと考えている。

米スクリプス・トランスレーショナル研究所のエリック・トポル所長は、データは「限られている」ものの、ウイルスの死んだ部分を使って生産される「不活化ワクチン」は競合ワクチンより効果が劣り、時間とともに効果がさらに落ちると話す。(後略)(2022年4月20日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版)【4月21日 日経】
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【「ゼロコロナ」成果は中国政治体制の優位性としてきた習近平政権 今更後に引けない政治事情】
効果の劣る中国製ワクチンを外国製ワクチンで補完する・・・科学的には正しくても、政治的には到底受け入れられない提案でしょう。

中国政府が「ゼロコロナ」に固執する政治的側面に関わっていますが、中国はこれまで「ゼロコロナ」の成果を、欧米社会に対する中国政治体制の優位性として位置づけてきました。

それを今更「中国製ワクチンは外国製に比べて劣るので・・・」とは、メンツに拘る習近平主席ならずとも言えないでしょう。国際的にも「ワクチン外交」と称して、さんざん中国製ワクチンを途上国などに供与してきているので、「今更・・・」

中国政府にとって、「ゼロコロナ」放棄は、これまで主張してきた中国政治体制の優位性の否定にもなってしまいます。ましてや、今秋の党大会で3期目を目指す習近平主席としては到底許容できない選択肢です。

****中国習主席、怒り買う「ゼロコロナ」政策に固執する訳****
 国民の怒りが高まり、景気見通しが急激に悪化した場合、多くの国家指導者ならば事態を憂慮して政策を見直すだろう。

しかし、政権3期目にスムーズに移行したいはずの習近平・中国国家主席は今、新型コロナウイルス変異株オミクロンとの闘いで試練にさらされている「ダイナミックゼロコロナ」政策をさらに強めようとしている。

習氏は先週、国営メディアを引き連れて南部の海南島を訪れた際、この政策の重要性を繰り返し強調した。アナリストによると、習氏は今年強い姿を見せる必要があり、方向転換して弱さを見せることは政治的に厳禁だ。海南島での行動にはそうした背景があるという。

習氏の姿勢はまた、集団免疫もなく医療制度が貧弱な中国において、ゼロコロナ政策に代わる魅力的な選択肢が存在しないことも示している。

中国政府がこれまで新型コロナの危険性を非常に重大視してきたという事情もある。今さら方向転換すれば、新型コロナに恐怖心を抱くよう慣らされてきた国民に対して反対のメッセージを送ることになり、格好がつかない。

ナティクシスのアジア太平洋首席エコノミスト、アリシア・ガルシアヘレロ氏は「西側が見つけた回答を輸入するのではなく、ショックに対する中国独自の回答を固守したい、というのが彼の考え方だろう」と話す。「集団免疫を目指す西側のアプローチに対抗する『ダイナミックゼロコロナ』政策がそのひとつだ」という。

国民の怒りが広がっているにも関わらず、習氏がゼロコロナ政策に固執するのは、政権内部に反対勢力がおらず自身の立場が確保されているという自信の現れでもある。今年秋に開かれる5年に一度の中国共産党大会で、習氏は前代未聞の3期目へと向かう。

北京大学の政治科学講師、ヤン・チャオフイ氏は「さまざまなバックグラウンドを持つ多くの人々が声を上げていることと、その表現の強さを考えると、これは習氏が政権を握った2012年以来で最も大規模な国民の怒りの表明だ」と話す。

しかし「国民の不満の声はばらばらで、習氏に影響を及ぼせるほどの勢いには至っていない」【4月19日 ロイター】
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そいて今、世界の注目は首都北京の感染状況に集まっています。感染者が23日以降2桁台に増加、このまま上海同様のロックダウンに至るのか・・・そのあたりは長くなってしまうので、また別機会に。

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