
(ハーレーダビッドソン社幹部と会った後、記者団に話すトランプ大統領【2017年2月4日 毎日】
「我々の忠誠はハーレーダビッドソンのような米企業と労働者に向けられている」と語っていたトランプ大統領でしたが、そのハーレーダビッドソンがトランプ大統領の関税措置を回避すべくいち早く海外生産へ)
【輸入自動車への高関税には日本政府も反対意見書 米国内自動車業界からも反対の声】
アメリカ・トランプ大統領が中国だけでなく、EU、カナダ、メキシコなど世界を相手に仕掛ける貿易戦争に歯止めがかからず、次第にエスカレートする流れになっていることは、多くの報道が伝えるところです。
鉄鋼・アルミへの追加関税続き、トランプ政権は6月15日、知的財産の侵害を理由に、計約500億ドル(約5.5兆円)分の中国からの輸入品に25%の関税を上乗せする措置を発表。中国も同規模で措置で応戦。
両国とも、このうち340億ドル分への高関税措置を7月6日に発動するとしています。
****米中、6日に追加関税発動 互いに5兆5千億円対象****
貿易を巡って対立する米中両国は6日、互いの製品に25%の追加関税を課す制裁措置を発動する。双方は年間500億ドル(約5兆5千億円)分に相当する製品を対象にすることを決定済みで、6日はそのうち340億ドル分をそれぞれ先行実施する方針を示している。
両国に発動回避に向けた具体的な動きは出ていない。制裁措置が発動されれば貿易が停滞し、世界経済に悪影響を与える恐れがある。
米国が課税対象とするのは自動車や航空機、情報通信技術関連の製品などの818品目。中国は報復として米国産の大豆や牛肉、自動車など545品目に課税する。【7月3日 共同】
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中国が製造する“自動車や航空機、情報通信技術関連の製品”には、日本から輸入した部品も多数使用されており、実際に米中両国の“殴り合い”が始まれば、その影響は日本にも及びます。
鉄鋼・アルミ関税へのEU・カナダからの報復措置を受けて、トランプ大統領の怒りの矛先は、中国だけでなく、EUやカナダなどにも向いています。
****トランプ氏、EUは「中国と同じくらいひどい」 報復関税に反発****
米国のドナルド・トランプ大統領は1日に放送されたインタビューの中で、対米報復関税を発動した欧州連合について「恐らく中国と同じくらいひどい」と評した。
米国はアジアの大国である中国のみならず、長年の同盟国である欧州諸国やカナダとの貿易戦争にも直面している。
こうした中、トランプ氏は米FOXニュースの番組「サンデー・モーニング・フューチャーズ」の中で、「欧州連合は恐らく中国と同じくらいひどい。ほんの少しましなだけだ」と述べた。
さらにトランプ氏は「彼らは(独自動車大手)メルセデスの車を送りつけてくるのに、わが国は米国車を欧州に輸出できない。彼らが米国の農家に対してやっていることも見てくれ。米国の農産物は要らないんだそうだ。公正を期して言えば、欧州には欧州の農家がいるだろう。だが、われわれはわが国の農家を保護していないのに、EUは自分たちの農家を保護している」などと述べた。
トランプ政権が6月1日付でEU・カナダ・メキシコへの鉄鋼・アルミ関税を適用したことを受け、EUは先週、バーボンウイスキーやジーンズ、オートバイなど米国を象徴する製品を対象に報復関税を発動。これに対しトランプ氏は既に、欧州製自動車の輸入に関税を課すと警告している。【7月2日 AFP】
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上記記事最後にある“自動車の輸入に関税”となると、自動車輸出を主力とする日本にとっても影響は甚大です。
“脅し”をかけられたEU側も応戦の構えで、そんなことになったら報復関税対象は32兆円にもなると、アメリカを牽制しています。
****EU「報復関税 対象は32兆円」米をけん制****
アメリカのトランプ政権が輸入車などに高い関税を課すかどうか検討していることについて、EU=ヨーロッパ連合は、実行に移せばEUなどが報復関税を課し、その対象は合わせて32兆円に上るとする試算を公表して、アメリカをけん制しました。
EUの執行機関にあたるヨーロッパ委員会は2日、アメリカ商務省に送った書簡を公表しました。
それによりますとEUは、アメリカが安全保障への脅威を理由に輸入車や関連の部品などに輸入制限措置を発動するかどうか調査を行っていることについて「正当性や根拠となる事実を欠き、国際貿易のルールに違反している」と批判しています。
そのうえで、アメリカが輸入制限措置を発動すればEUをはじめとする貿易相手が報復関税を課し、対象となる総額は去年のアメリカの輸出総額の19%にあたる2940億ドル(32兆円余り)に上るという試算を示しています。
さらに、これによってアメリカのGDP=国内総生産は最大で140億ドル(およそ1兆5000億円)減少し、雇用にも影響が出るとしてアメリカをけん制しました。
また今月19日から開かれる予定のアメリカ商務省の公聴会にEUの当局者を参加させることも求め、EU側の主張を訴えたい考えです。
貿易をめぐってヨーロッパ委員会のユンケル委員長は、今月アメリカを訪問してトランプ大統領と協議する予定ですが、今回の書簡はこれを前にアメリカ側の譲歩を引き出したい狙いがあるとみられます。【7月3日 NHK】
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鉄鋼・アルミではアメリカの措置への報復をいつもどおり控えている日本政府も、さすがに自動車の輸入制限は死活問題にもなりますので、6月29日、米商務省に対して反対の意見書を提出しています。
“同盟関係にある米国の政策に真っ向から反対し、直接伝達するのは異例だ。国際社会が守ってきた自由貿易体制に悪影響を与え「米国経済、ひいては世界経済に破壊的な影響を及ぼし得る」とし、導入を見送るよう厳しい表現で警告した。”【6月29日 共同】
世界的に知られる老舗高級バイクメーカーの米ハーレーダビッドソンが6月25日、EUによる高関税を避けるため、欧州向けの生産を米国外に移すと表明したように、こうした貿易戦争はトランプ大統領が掲げる“アメリカ第一”に反して、アメリカ経済・雇用にも大きなダメージ与えます。
また、中国製品に多くの日本製部品が使用されているように、今や世界経済は自由貿易を前提にして深くつながっており、相手国に向けて投げたブーメランは自国へ戻ってきます。
輸入自動車への高関税は、中間選挙を前にした支持者向けのアピールとも見られていますが、守られずはずのアメリカ産業界からも批判の声が出ています。
****突進トランプ氏、ビッグ3も反対 車関税、調査「3~4週で」****
(中略)
■米国内もリスク
ただ、米政権が検討中の関税は自動車部品も対象で、米国で完成車を組み立てる自動車メーカーにとっても打撃となる。
米最大手のゼネラル・モーターズ(GM)は29日、米商務省に提出した意見書で、高関税は部品などのコスト増となって競争力をそぎ、「米国企業の象徴としてのGMは、米内外で存在感を失う」と指摘。結果的に「米国の雇用を増やすのではなく、減らすリスクがある」と警告した。
GMを含む米大手3社(ビッグスリー)でつくる米自動車政策会議(AAPC)もこの日、新関税で米国製の車でも1台あたり約2千ドル(約22万円)のコスト増になるとの試算を紹介し、反対を表明。鉄鋼・アルミ関税と合わせると約2400ドルの重荷になるという。
すでに日欧メーカーからは「消費者への課税になるだけだ」(トヨタ自動車)などと猛反発が出ていた。米政権が守ろうとしている米国メーカーもそろって反対の立場を明確にしたことで、政策の妥当性に疑問が投げかけられた形だ。【7月1日 朝日】
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【アメリカのWTOの上級委員会メンバー選出拒否でWTOは「窒息死」の危機に 脱退の可能性も示唆】
こうした一連の貿易戦争にとどまらず、トランプ大統領は現在の自由貿易体制の基本的枠組みであるWTOに対する挑戦もあらわにしています。
****WTO判断「米国不利なら従わない」 トランプ政権方針****
トランプ米政権は(3月)1日、年次の通商政策の報告書で、貿易紛争に関する世界貿易機関(WTO)の判断について、米国に不利な場合は従わない姿勢を示した。
1995年の発足以来、WTOは世界の貿易紛争の解決を担ってきたが、トランプ政権の対応次第で貿易秩序に悪影響を及ぼすおそれが出てきた。
報告書では、「全ての米国民にとって、より自由で公平な方法での貿易の拡大」を通商政策の目標に掲げた。「目標は、多国間交渉よりも二国間交渉によって達成できる」と明記した。
オバマ前政権は昨年の報告書で、世界貿易での指導力は「我々の国益を促進する」として、環太平洋経済連携協定(TPP)を中核に掲げていたが、大きく転換させた。(後略)【3月2日 朝日】
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一連の追加関税措置も、本来はまずWTOに申して審判を仰ぐべきもので、相手国に非があると判定され、それでも相手国が改善しない場合に発動できる措置ですが、安全保障を理由として一方的措置を発動するのは(安全保障を拡大解釈した)実質的には「ルール違反」と言えます。
中国・EUの報復も同様です。
トランプ劇場にあって、WTOのルールはアメリカや各国によって無視されるようにもなっています。
さらに、WTOの紛争処理メカニズム自体が、上級委員会メンバーを選出させないアメリカの対応によって機能停止に追い込まれようとしています。
****WTOは「窒息死」の危機に、退任した上級委員が米国を暗に批判****
世界貿易機関(WTO)の上級委員会メンバーを退任したリカルド・ラミレス・ヘルナンデス氏は、退任に伴うスピーチの中で、WTOはゆっくりと窒息死に向かっていると述べた。同氏の後任選出が米国に阻止されていることを念頭に、トランプ米政権を暗に非難した形だ。
ラミレス・ヘルナンデス氏は各国間の貿易紛争を巡る最終審を担当する上級委員会の委員を2期務めた。昨年に退任してから米国が同氏を含む委員の後任選出プロセスを阻止しており、WTOを危機に陥らせている。
同氏は「この機関に窒息死はふさわしくない。廃止を望むのか、存続を望むのかを決めなくてはならない」と述べた。
WTOのカール・ブラウナー事務局次長はラミレス・ヘルナンデス氏を紹介する際のスピーチで、危機の解消は見通せないと指摘。WTOが上級委員なしでもやっていけると考えるのは思い違いだと付け加えた。
上級委員会は通常、7人の委員で構成されるが、トランプ政権が新たな選出に拒否権を行使しているため、現在は4人のみが残っている。1人は9月に再任の期限を迎え、2人は来年に退任する予定となっている。【5月29日 ロイター】
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しかも、残っている4人のうち1人はアメリカ出身で、係争案件に利害関係がある場合は判断に加われません。
トランプ大統領は、こうしたやり方でWTOの首を絞めつつ、脱退の意向もちらつかせています。
****トランプは、WTO脱退かそれに相当する法案を準備している 米紙報道****
<WTO脱退に至る前の手段として、議会の承認なしにトランプが自由に関税を引き上げられる法案の起草を指示していた>
ドナルド・トランプ米大統領が、大統領の裁量で自由に関税を引き上げられる新たな法案を起草するよう指示を出したことが、ニュースサイト「アクシオス」が入手したリーク資料から明らかになった。WTO(世界貿易機関)のルールに違反する内容だ。
アクシオスが草案を入手したと報じたこの法案は、「米国公正互恵関税法(仮)」という名称で、これによると、トランプは議会の承認なく自由に関税を引き上げられることになる。
WTOは加盟国に対し、国別に異なる関税率を設けることを禁じており、トランプの法案はこれに抵触する。
今回の法案をよく知る関係筋はアクシオスに対し、「これではアメリカは通告もなしにWTOから脱退するのに等しい」と語った。ただし、米議会がいくらなんでもこんな「ばかげた」法案を通すはずはない、と付け加えた。
ホワイトハウスの報道官はアクシオスに対し、これは単なる草案に過ぎす、騒ぐことではないと述べた。「実際に法律が成立して米政府が施行しようとしているならニュースだろうが、そうではない」
アメリカを騙すための機関
アクシオスの6月29日付け報道によれば、トランプは側近にWTOから脱退したいと言っていた。そしてWTOは「アメリカを騙すための機関だ」と語ったという。
その後、トランプは大統領専用機エアフォース・ワンで記者団に対し、「現時点では」WTOからの脱退は考えていないとしながらも、「何とかしなければならない。われわれは貿易で不公平な扱いを受けている」と語ったとAP通信は報じている。
WTOは、関税貿易一般協定(GATT)から誕生した組織で、貿易摩擦を解消するために1995年に設立された。加盟国は一連のルールに従うことに同意し、不公平な貿易慣行の排除と市場の開放を目指している。
世界最大の経済国であるアメリカがWTOから脱退すれば、ルールに基づいた貿易制度の終焉になりかねないと、エコノミストは警鐘を鳴らす。
アメリカは先ごろ、EUとカナダに追加関税を発動。EUとカナダもそれに対抗し、報復関税を発動。ますます貿易戦争の様相を呈している。【7月3日 Newsweek】
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“トランプ氏は報道後、記者団に「WTOは米国に何年もひどい扱いをしてきた」と従来の主張を改めて強調。「脱退」という最終手段も辞さない姿勢をほのめかすことで、各国との通商協議で妥協を引き出そうとしている可能性がある。
トランプ氏の発言の真意を問われたサンダース報道官は、「大統領は(WTOの)システムが正されることを望んでおり、その点に注目している」と述べた。”【7月3日 朝日】とも。
EUの行政執行機関である欧州委員会は、6月28、29日に開かれたEU首脳会議を前に各国政府に配布した内部文書で、ルールに基づく国際貿易システムが、強者が弱者に意思を押し付ける環境に逆戻りしつつあり、国際通商戦争が激化しようとしているとの認識を明らかにしています。【6月25日 bloombergより】
【国際協調・民主主義に沿わない大統領の資質 日本は従来どおり摩擦回避】
トランプ大統領の意図・本気度がどこまでのものか、単に脅しをかけて有利な条件を引き出そうとするものなのか・・・そのあたりは例によってよくわかりませんが、温暖化に関するパリ協定やイラン核合意から離脱したことを考えると、WTO脱退の可能性も否定はできません。
仮に“ディール”の一環だとしても、国際貿易体制の根幹を揺さぶる一連の言動が許されるものか・・・?
トランプ大統領は、自分がやりたいと思うことを、国内外の異なる意見によって阻止されることが我慢ならないようです。
「オレの言うとおりにしろ!」ということですが、それでは国際的な協調も、国内の民主主義も形骸化します。
一般的には、世間ではそういう独善的な姿勢を“独裁への道”と呼びます。
輸入自動車への関税では異例の反対意見書を出した日本政府ですが、基本的にはアメリカとの摩擦は回避する姿勢です。
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これまでのところ、上級委員会の裁判官任命に対して米国が発動した拒否権を撤回するよう求める署名には、WTO加盟国の62カ国が賛同している。だが紛争処理の崩壊をどう回避するかについては、何の合意もできていない。
一部の加盟国は、他の調停手段の利用や、米国を除外した紛争解決手続きの導入を議論していると、法律関係者や外交官は話す。
だが、米国の同盟国である日本は、署名には参加しない意向だ。
伊原純一大使は、WTO加盟国は「本来政治的な」紛争からは距離を置くべきだと話す。日本は米国抜きの紛争解決手続きを拒否している。
「私見では、『プランB(代替策)』は存在しない。われわれはプランAしか持たない。解決策を見出すためには、もっと集団的な努力が必要だ」と、伊原大使は話した。【5月18日 ロイター】
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ただ、日本が依って立つ国際貿易の根幹がトランプ大統領の“ディール”によって大きく浸食されつつあります。