孤帆の遠影碧空に尽き

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イギリスのEU離脱  北アイルランド問題対応で関税同盟残留を1年延長 玉虫色表現で先行き不透明

2018-06-09 22:21:09 | 欧州情勢

(ブレグジット反対の活動家。ロンドンの議事堂前で5月に撮影【6月6日 ロイター】)

【“期限に合わせるよりも正しい合意を得ることに注力”・・・・要するに“板挟み”で動けない
イギリスのEU離脱に関して、来年2019年3月の離脱(激変緩和の移行期間が2020年12月まで)を控えて、4月・5月はあまり大きな動きがなく、EU側からも交渉を急ぐようにとの要請がなされていました。

****EU、ブレグジット巡り英に警告 3月以降の交渉「顕著な進展なし****
欧州連合(EU)は(5月)14日、英国のEU離脱(ブレグジット)を巡り、今秋の最終合意までに時間がないと英国に警告した。

EUのバルニエ首席交渉官はブリュッセルで開かれたEU27カ国閣僚会合で、3月以降は英国との交渉で「顕著な進展がない」と語った。EU議長国のブルガリアが明らかにした。

外交官やEU当局者はこれまで、6月28─29日のEU首脳会議においてEUと英国が大幅に交渉を進展させることができるかについて懐疑的な見方を示している。

バルニエ氏は「英国の秩序ある離脱に向けた準備にはさらなる作業が必要だ。われわれは、まだたどり着くべきところに来ていない」と指摘。アイルランド国境問題などで交渉が難航していると付け加えた。

現在のスケジュールでは10月の最終合意に向け、6月に交渉が進展することが重要とみなされている。(中略)

一方、英国でメイ首相は、強硬なEU離脱派と、EUとの密接な関税協力を維持するよう求める穏健派の間で板挟みとなっている。

メイ首相の報道官は期限に合わせるよりも正しい合意を得ることに注力していると述べた。【5月15日 ロイター】
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この間、イギリス関連で大きな話題となっていたのはロシアの元スパイの暗殺未遂事件ですが、そんなことで騒いでいる状況ではないようにも思えるのですが。

まあ、“動きがない”というより、“離脱強硬派と穏健派との板挟み”で、メイ首相としても動くに動けなかった・・・というところでしょう。

北アイルランド問題への対応に時間が必要 延長するにしても期限明示を求める離脱強硬派
当面の障害となっているのが、北アイルランドの扱い。
現在、アイルランドとの間で国境を意識しない形で物流・人の移動が一体化していますが、イギリスがEUを離脱した場合、EU域内のアイルランドとEU外の北アイルランドの間の国境管理をどうするのか?という問題です。

今更、ハードな国境線を設けて検問や関税徴収を行うことはできない・・・さりとて、関税同盟からも離脱する以上、何かしないと・・・というところですが、この問題を理由に関税同盟に“ズルズルと”残り続けることになればEU離脱そのものが有名無実になってしまうと離脱強硬派は警戒しています。

また、もともと北アイルランドは海を隔てたイギリス本土と陸続きのアイルランドのどちらとの関係を重視するかで、プロテスタント系とカトリック系の間で“北アイルランド紛争”が火を噴いた地域です。

今はテロこそなくなったものの、両者の確執は未だに解消されておらず、アイルランドあるいはイギリス本土との関係をどのようにするかは、紛争再燃にもつながりかねない非常に微妙な問題でもあります。

北アイルランドだけ本土から切り離す形でことを進めれば、上記のような事情から地域が一気に不安定化しますし、イギリスの国家としての一体性からものめないところです。

****英、EU完全離脱に遅れも=北アイルランド問題で―新聞報道****
(5月)17日付の英紙デーリー・テレグラフは、メイ英政権の主要閣僚が、欧州連合(EU)離脱交渉で焦点となっている英領北アイルランドの国境管理問題の解決までEUの関税同盟のルールなどを受け継ぐ方針で合意したと伝えた。事実なら、英国が完全離脱を果たす時期は現計画から数年遅れる可能性が出てくる。
 
同紙によると、閣僚らは北アイルランド国境での通関手続き簡素化に不可欠なハイテク技術を整備できなければ、英国全体が離脱後も関税同盟と足並みをそろえていく必要性で一致。離脱強硬派のジョンソン外相らは異議を唱えたが、最終的に受け入れたという。
 
英国は経済・社会制度の急変を回避する「移行期間」を2020年末まで導入した上、21年に完全離脱することでEUと合意している。【5月17日 時事】
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イギリス全体としてEU離脱移行期間の終わる2021年以降もEU関税同盟に残留する用意があるということですが、先述のように、ズルズルと”残り続けることになればEU離脱そのものが有名無実になってしまうと離脱強硬派は警戒しており、残るにしても“期限”を明確にするように迫っています。

で、国境管理をどうするつもりなのか・・・については以下のように報じられています。

****英EU離脱相、北アイルランドを共通地域とする案を検討=英紙****
英国のデービス欧州連合(EU)離脱担当相は、EU離脱後の英領北アイルランドについて、英・EUの双方との自由貿易が可能になる共通地域とする提案を準備している。英紙サンが報じた。

報道によると、同相はまた、アイルランドとの国境沿いに16キロにわたる貿易中立地帯を設置し、現地の酪農業者などの取引を対象に、税関などチェックの必要をなくす案も検討している。

EU関税同盟離脱の方針を堅持してきたメイ首相はこれまで、2つの選択肢を提示。ハイテクを駆使して離脱後も円滑な貿易が行われるようにする「最大限の円滑化」と呼ばれる案がそのうちの1つだ。

報道によると、デービス氏が検討しているのはこの案の改定版だという。

もう1つの選択肢として浮上しているのは、離脱後にEUと関税パートナーシップを結ぶ案で、より緊密な協力が必要になる。【6月1日 ロイター】
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“英・EUの双方との自由貿易が可能になる共通地域”“16キロにわたる貿易中立地帯”・・・・この案がどういう意味をもつのか、正直なところよく理解できませんが、北アイルランド現地でも、本土重視派、アイルランド重視派双方に不満があるようです。

****英政府、北アイルランドをEUとの共通地域とする案検討=当局者****
(中略)メイ政権に閣外協力する北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)のサミー・ウィルソン議員はこの案について、英政府から提示されていないとした上で、政府の方針と矛盾すると一蹴。

こうした複雑な枠組みが浮上するのは、英国が関税同盟と単一市場から離脱するという意思をEU側に明確にできていないためだと批判した。

シン・フェイン党のマーティーナ・アンダーソン欧州議会議員も、この案では国境の問題は解決できないと指摘。「貿易中立地帯の設置は問題を国境から遠ざけ、中立地帯内に物理的な国境を隠すだけだ」と述べた。

EU関係者も懐疑的な見方を示し、ある当局者は「英政府から(提案について)聞いていないが、EUにとってうまく機能するようには見えない」と語った。【6月4日 ロイター】
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うまく機能するかどうかはともかく、実施するためには“ハイテクを駆使して離脱後も円滑な貿易が行われるようにする”準備が必要で、そのための時間が必要になるとのこと。

実用化は早くて2022年から23年ごろとも見られており、20年12月の移行期間終了には間に合いません。

そのために移行期間終了後も・・・という話については、離脱強硬派が期限の明示を求めており、デービスEU離脱担当相は、期限が明示されなければ辞任するとメイ首相に迫ったようです。

****メイ政権、7日に補完措置公表-EU離脱担当相が辞意も?****
メイ首相は7日、欧州連合(EU)離脱交渉で英領北アイルランドの国境管理問題を解決できなかった場合の補完措置について、主要閣僚らと協議を行う。

BBC放送によると、首相は補完措置を「一時的なもの」だと説明する見込みだが、デービスEU離脱担当相らは具体的な廃止期限を明示すべきだと主張しており、どういう決着になるか不透明だ。

英民放局ITVは、期限を設定しない補完措置が公表された場合、デービス氏が辞意を表明する可能性があると報じた。一方、BBCはメイ政権が7日に補完措置を公表する予定だと伝えており、事態が緊迫する可能性もある。(中略)

メイ政権が国境問題の解決策として検討しているEUとの関税協定案は、その中核を担うハイテク技術の実用化が早くて2022年から23年ごろになるとみられている。英国は離脱のショックを緩和する「移行期間」を経て21年に完全離脱を果たす方針だが、国境問題の行方次第では、この計画に遅れが生じるとみられる。

デービス氏ら、EUからの独立を重視する「ハード・ブレグジット(強硬な離脱)」派には、補完措置に期限が盛り込まれなければ、EU離脱を実現できないとの焦燥感がある。

ITVによれば、メイ政権が無期限の補完措置を提案すれば、EUにとってそれ以上説得力を持つ国境問題の解決策はなく、代替案について交渉する動機がなくなる上、英国も交渉力を失うため、デービス氏はかたくなに拒否しているという。

これに対し、仮に期限を設けてしまえば、補完措置は不完全なものとなる。期限までに国境問題を解決できなかった場合の安全網がないからだ。このため、期限を明示した補完措置を対案としてEUに提示すれば、EUが難色を示すのは必至とみられる。【6月7日 英国ニュースダイジェスト】
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【“21年12月まで”と期限明示するも、「期待している」と再延長含みの表現も
結局、デービスEU離脱担当相らの主張を容れて、メイ首相はEUと関税なしの貿易を21年12月まで続けるという“期限を切った”方針を発表することになりましたが、さらなる延長もありえる表現で“玉虫色”にする形にもなっています。

****<英国>EU離脱1年先延ばしも 国境管理交渉先見えず****
英国のメイ首相は7日、欧州連合(EU)からの離脱移行期間が終了する2020年12月までにEU加盟国のアイルランドと英領北アイルランド間の国境管理の問題を解決できない場合は、交渉を1年延ばし、EUと関税なしの貿易を21年12月まで続ける方針を発表した。

交渉期限に関する表現は玉虫色で、EUとの貿易が現状のまま数年続く可能性が出てきた。
 
英国とEUは「厳しい国境管理は設けない」ことで一致しているが、具体的な調整は難航している。
 
英政府の新方針は、期限について「(国境問題での合意は)21年12月までと期待している」との表現で移行期間終了後、1年間をメドとした。しかし、「期待している」との表現は、合意に達しない場合は、さらなる延長の可能性があることを示唆したものだ。
 
英国は19年3月29日に正式にEUを離脱するが、20年12月まではこれまで通りの貿易を続けることができる移行期間を設け、この間に自由貿易協定を結ぶことで合意している。
 
国境管理の問題は、自由貿易協定とも密接に絡み合うが、協定の合意までは数年かかるとも指摘される。国境管理で合意できないことを理由に、英国が自由貿易協定の交渉の時間稼ぎを狙っているとの見方も出ている。
 
EUのバルニエ首席交渉官は7日、英国の提案を歓迎するとツイッターで述べた。その上で、今回の英国の提案が厳しい国境管理にならないよう検討していく必要があるとした。【6月8日 毎日】
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この“玉虫色”の方針がどのように英国内で評価されているのかは知りませんが、離脱強硬派のジョンソン外相は以下のようにも。

****英外相、EU離脱で「メルトダウン」の可能性示唆=バズフィード****
ジョンソン英外相は、英国は欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)でメルトダウンに直面する恐れがあるが「最終的にはうまくいく」と述べた。ニュースサイトのバズフィードが報じた。6日の夕食の際の発言をひそかに録音したもので、7日に公表された。

外相は、メイ首相はより強硬な路線を取り始めているが、今後数カ月の協議はより困難になっており、より冷静になる必要があるだろうと述べた。

メイ首相のアプローチについて「われわれとEUのやりとりがより激しくなる段階に向かっている」と発言。さらに「メルトダウンがあるかもという事実に向き合わなければならない。メルトダウンで誰かがパニックになることは望まない。公共の利益のために、ひどいパニックはなし。最終的にはうまくいくだろう」と述べた。【6月8日 ロイター】
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上記発言も「メルトダウン」の可能性に言及しながら、「最終的にはうまくいく」とも。どちらに重点があるのかよくわかりません。

かみ合わない議論 離脱派は「バカ」「完全に頭がおかしい」 残留派は「愛国心がない」「売国者」】
北アイルランドの問題は“入り口”の問題のひとつにすぎず、その後には関税同盟を抜けて自由貿易協定をどのように結ぶのか・・・、その結果、イギリス経済はどうなるのか・・・という厄介な問題が控えています。

そんな厄介なEU離脱を、どうしてイギリスは選択しているのか・・・という“そもそもの疑問”について、離脱を支持する立場のイギリス・ジャーナリストは改めて以下のように。

****イギリスはなぜEU離脱を決めたか?英国人ジャーナリストに聞く****
Q1.ブレグジットの“きっかけ”は?
(中略)
■根本にあるのはEU拡大がもたらす様々な不安
(ブレグジットに賛成する)離脱派の人は、大きな“きっかけ”は1992年のマーストリヒト条約だったと言うかもしれない。この条約はEEC(欧州経済共同体)の発展に伴って結ばれ、現在のEU(欧州連合)につながるものとなった。この時点では、イギリスの人たちはEECに加入することができて、とても喜んでいた。

しかしその後EUの主権は強くなり、ブリュッセルが成長し存在感を増していった。さらに“人の移動の自由”という大きな問題。これらが出てきたのだ。

いまの状況は欧州司法裁判所(ルクセンブルクにあるEUの機関)がロンドンの最高裁判所の上に位置しているようなものだ。それぐらいの劇的な変化がおきた。

一般的なブリトン人は、自分の国に来て住みたいと思うEU市民の入国を拒むことは一切できないということに気づいて、率直に驚いた。わたしたちは主権の大部分を失い、国境の管理を諦め、ほとんどコントロールできない組織の支配下に置かれている感覚だった。

もうひとつ大きかったのは、1980年代にEUの加盟国が12カ国から28カ国まで拡大したこと。これはそれまでの加盟国よりはるかに貧しい東ヨーロッパの国々の加入が認められてのことだ。

かつてEECは、“富裕層クラブ”と言われ、豊かな国々がお互いの利益でつながるような組織で、常に批判の的だった。

しかしEUの拡大はまた違う問題を生み出した。ラトビア、ポーランド、ルーマニアといった国からの労働者が、大挙してイギリスをはじめとする豊かな国々へと押し寄せ、それらの国の人達と仕事を奪い合うようになったのだ。

こうした最低賃金でよく働く労働者の出現は経営者にとっては素晴らしい恵みだ。しかし、イギリス人労働者にとってはそうではない。(中略)自分たちがさらに低賃金に追いやられてしまうことを意味するからだ。

今回、イギリスがブレグジットに動いた背景には、こうしたEUの拡大に対する国民の不信感があった。【6月9日 BEST T!MES】
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「ブレグジットは経済的には悪い結果をもたらす。ブレグジットは“全ては経済のため”といった類のものではない。より、主権の問題なのだ。」とも。

上記のような事情はありますが、いろんな現実的問題・損得勘定はあるにせよ、“不戦の誓い”を実現する欧州統合の理念を“是”とする独仏と、歴史的に常に大陸の外に身を置いて自国利益をうかがってきたイギリスとの、理念に対する基本的温度差が根底にあるように思えます。

英国人ジャーナリストのコリン・ジョイス氏は、国内の“分断”については以下のように。

****Q5.人々はどれくらいブレグジットについて話す****
■よく話題になる。しかしそれは“口論”になりがちだ
確かにイギリスの人たちはブレグジットについてよく話す(もちろんニュースでもいつもやっている)。しかしえてしてそれは、“議論”ではなく“口論”になりがちだ。お互いに、激しい憎悪のような感情をぶつける。

こんなわけなので、まともな分別がある人は議論を避けようとするし、もし話し合うにしても、相手が自分と同じ意見であるとあらかじめわかっている場合か、耳を貸すに値する意見の持ち主か。この場合に限られる。

よくあるやりとりは、残留派がブレグジット支持者に対して、単に「バカ」とか「完全に頭がおかしい」と言ってしまうことだ。

反対に私はブレグジット支持者が、残留派のことを「愛国心がない」とか「売国者」と言ったり、暗にほのめかすのも聞いたことがある。

こうした両サイドの誹謗中傷合戦は危険だ。そして生産的ではない。到底あってはならないことだが、残念ながらよく起こっているのが現実だ。国中あげての論争にもなるが、結局まとまらない。(中略)

そして先に書いたような、残留派のブレグジット支持者に対する態度こそが2度目の国民投票を求める動きを引き起こしたといえる。

つまり「間違った結果になったのは、何百万もの馬鹿な人たちがその議題をロクに理解せずに離脱へ票を入れた。我々のような賢い人が賛成する“正しい結果”を得るために、もう一度投票をやり直す必要がある」と。(後略)【同上】
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残留派が求める2度目の国民投票については、離脱派からは「民主主義って、自分たちがほしい結果になるまで投票することなのか?」との批判がありますが、このような複雑で大きな問題を1回の投票で決めていいのか?という疑問があります。

問題点が明らかになり、方向性が示された時点で、改めて国民の決断を問うべきではないかとも考えます。
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