孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU 西バルカン諸国への拡大路線 マクロン仏大統領のEU改革、メルケル独首相の対応は?

2018-04-20 23:23:38 | 欧州情勢

(ギリシャ首都アテネのシンタグマ広場で、マケドニアの国名問題で政府の妥協に反対する抗議集会に参加した人々(2018年2月4日撮影)【2月5日 AFP】)

アルバニアとマケドニアの加盟交渉開始を勧告
東方拡大したEUが深刻な東西対立を抱えながらも、バルカン諸国を新たに取り込む拡大方針であることは、2月8日ブログ「EU 深刻な“東西分裂” さらに民族対立を抱えるバルカン諸国への拡大を目指す」でも取り上げました。

その拡大路線に、今のところ変更はないようです。
前回ブログでも紹介したように、この拡大路線の背景にあるのが、バルカン諸国におけるロシアと中国の影響拡大であり、EUとしてはロシア・中国の影響がこれ以上強まる前に自陣に取り込んでしまおう・・・という発想のようです。

****欧州委が交渉開始を勧告 西バルカン2国のEU加盟めぐり****
欧州連合(EU)欧州委員会は17日、加盟候補国である東欧のアルバニアとマケドニアの加盟交渉開始を勧告したと発表した。両国など西バルカン諸国ではロシアなどの影響力拡大が懸念されており、加盟の展望を示すことでEUにつなぎとめる狙いだ。
 
欧州委は発表で、両国が必要な国内改革などで「進展した」と評価した。決定には全加盟国の承認が必要で、認められた場合、交渉が凍結状態にあるトルコを含め、交渉開始国は計5カ国となる。西バルカンではセルビアとモンテネグロがすでに交渉入りしている。
 
地政学的に重要な西バルカンでは近年、ロシアがセルビアなどと一段の関係強化を図り、モンテネグロでは議会選をめぐるクーデター計画への関与も浮上。広域経済圏構想「一帯一路」を通じた中国の進出も目立ち、EUは両国の存在感増大に危機感を強めている。
 
このためEUは2月に拡大に向けた新戦略を発表。セルビアとモンテネグロには2025年までの加盟の見通しも示し、西バルカンの取り込みを図る。

ユンケル欧州委員長は17日、「展望を示さねば、(旧ユーゴスラビア紛争が起きた)1990年代のような状態が地域に戻る」と懸念を示した。
 
ただ、加盟国では英国の離脱問題や東欧との摩擦などで「拡大疲れ」が顕著。イタリアや東欧諸国が西バルカン加盟を支持する一方、フランスやドイツなどは早期の加盟国拡大に慎重で、意見が割れている。【4月19日 産経】
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マケドニア国名をめぐるギリシャとの対立
マケドニアは国名をめぐってギリシャと激しい対立があるのは周知のところですが、そのギリシャの了解が得られるのでしょうか?

****ギリシャで大規模デモ、マケドニア国名問題で政府の妥協に反対****
ギリシャの首都アテネで4日、隣国マケドニアの国名問題について妥協すべきでないと政府に抗議する大規模な集会が行われた。デモの主催者らは約150万人が参加したと発表したが、警察当局は参加者数は約14万人と推定している。
 
議会前のシンタグマ広場では、映画『その男ゾルバ』の音楽を担当したことでも知られる同国の有名作曲家で、抵抗の象徴ともされるミキス・テオドラキス氏が演説を行い、政府に対し決定を下す前に国民投票を行うよう訴えた。
 
テオドラキス氏は拍手喝さいするデモ参加者らを前に、「マケドニアは過去も現在も未来も、永久にギリシャだ」と呼び掛けた。
 
一方、アレクシス・チプラス首相は声明を発表し、「ギリシャ国民の圧倒的多数は、外交政策の問題は狂信的に扱われるべきでないと考えている」とけん制した。【2月5日 AFP】
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****アレクサンダー大王空港、看板外す 隣国ギリシャに配慮****
旧ユーゴスラビアの小国マケドニアの首都スコピエ郊外にある「アレクサンダー大王空港」で24日、名称を変えるための看板の取り外しが行われた。隣国ギリシャとの関係改善に向けた第一歩。新名称は「スコピエ国際空港」となる。
 
マケドニアは1991年に独立したが、隣国ギリシャから国名を反対されてきた。古代ギリシャのマケドニア王国に由来するマケドニア地域はギリシャにもまたがる。マケドニア王国を率いたアレクサンダー大王はギリシャ人の誇りでもある。
 
マケドニアとギリシャは国連の仲介で、マケドニアの新国名を含む和解について交渉中。マケドニア側はギリシャ国民の感情を害してきた空港の名前を変えると表明していた。
 
マケドニアは、ギリシャに阻止されてきた北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)への加盟を目指し、交渉を今年前半に決着させたい意向だ。今月13日にウィーンで両国の外相が会談するなど、交渉は本格化している。【2月26日 朝日】
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****ギリシャと論争、マケドニア国名夏までに変更へ****
バルカン半島の内陸国マケドニアのザエフ首相は27日、ロイター通信とのインタビューで、隣国ギリシャと論争となっているマケドニアの国名について、今夏までに変更したい考えを明らかにした。
 
3月にギリシャのチプラス首相と会談し、新国名案で合意すれば、国民投票を実施して最終決定する意向で、新国名として「北マケドニア」など4案が挙がっているという。
 
マケドニアの国名を巡っては、ギリシャが国内に同じ地名があることなどから使用を認めず20年以上争ってきた。欧州連合(EU)は、マケドニアのEU加盟交渉に向け両国に協議を促し、両国は今年1月、国連の仲介で協議を再開した。
 
ザエフ氏は、6月のEU首脳会議や7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議までに国名論争を決着させたい考えを示した。【3月1日 読売】
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マケドニアの憲法上の正式な名称は「マケドニア共和国」ですが、隣国ギリシャの反発を受けて、国連などでは「マケドニア旧ユーゴスラビア共和国」という名称が使われています。

“マケドニアは1991年に旧ユーゴスラビアから独立した際、アレキサンダー大王ゆかりの古代王国から国名を取った。だが元々「マケドニア」は現在のマケドニア、ブルガリア、ギリシャを含む地域の名称で、ギリシャは「マケドニアの国名は領土拡大の野心を示している」と反発、対立が激化した。”【1月19日 毎日】

まあ、現在のマケドニアに“領土拡大の野心”はないでしょうから、ギリシャ側としては、由緒ある名前を勝手に使われて民族的プライド・国民感情が許さない・・・というところでしょう。

昨年5月、マケドニアで左派政権が誕生したことで、対立を収束させようとする動きがでてきました。
マケドニア新政権は経済や安全保障の観点からNATOとEU加盟に意欲を燃やしています。

もっとも、国名を変えるということに関しては、マケドニアでも、どのような名称であっても変更には反対だとする国民が少なくありません。

一方のギリシャでも、どんな形であれ「マケドニア」の表記が使われることに反対する世論が7割近くを占めえいるとか。【1月16日 産経】

6月や7月までに決着するのは難しいようにも思えますが・・・。

【“謎の国”アルバニアは“普通の国”になったようでもありますが・・・
もうひとつのEU加盟交渉開始のアルバニア・・・・非常に情報が少ない国で、現在の状態はよくわかりません。
アルバニアは、世俗的ながら「ヨーロッパ唯一のイスラム国家」で、社会主義時代は“鎖国状態”にもあった国です。

「欧州の北朝鮮」とも呼ばれていた“謎の国”でした。頑丈なトーチカが全土に築かれているとも。
体制変更後も、ネズミ講が全土に拡大した結果、1997年には経済が破綻して暴動が発生するといった事態にも。

今は、かつての“謎の国”の面影はあまり残っていないとも。

****藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」
元鎖国国家アルバニア 首都ティラナは明るい街だった
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アルバニア。欧州で最も知られざる国。

冷戦時代当初はスターリン、次いで毛沢東を範として、世界中に背を向け鎖国政策を取っていた。しかし激しく敵対していたソ連の崩壊後、日本のニュースをにぎわすこともないままに、いつの間にか民主化されたという。

そしてその後、どうなっているのか、行って安全なのか、とんと情報がない。若い人にはホワイトニングクリームの名前の方が有名か。この国の唯一の友邦ともいえるコソボからアルバニアの首都ティラナへ5時間のバス乗車で乗り込んでみる。(中略)

(コソボからアルバニアに入る国境ゲートでは)欧州最貧国同士のはずだが真新しい自家用車が列を作っていた かつて「欧州の北朝鮮」と呼ばれた国の国境管理が、そこまで緩んだというのは、軍国日本が平和国家化したのに匹敵する変化といえよう。

国境を越えると、乾燥した大山岳地帯に突入した。引き続き片側2車線のハイウエーが、雄大なスパイラルを描いて続く。冷戦期の独裁者だったエンヴェル・ホッジャの時代に、全土に設けられていたというトーチカを探したが、ときどき沿道に現れる集落には、それらしきものはまったく見えなかった。

冷戦当時からすでにそうだったと思うのだが、この何もない小国を侵略し支配することにメリットを見いだす勢力は、21世紀には存在しない。(中略)

(首都ティラナで)沿道を見るにつけ、20年前まで北朝鮮の同類だった国が、ここまで変わるものだろうか?と感慨を禁じ得ない。

餓死者もいたという鎖国体制の陰はみじんもなく、明るく広い街路にはオープンカフェが並び、南イタリアのような陽気な空気が流れている。(後略)【4月16日 藻谷浩介氏 毎日】
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結構“普通の明るい国”にはなっているようです。

ただ、前回ブログの最後に書いたことは、今回も同じです。
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EUとしては、もめ事を内部に持ち込ませたくないので、加盟にあたっては、関係諸国との関係改善を前提としていますが、なかなか難しそうな国ばかりです。

仮に実現しても、先述のように異質な側面も強い国々を取り込むことは、EU一体化にとって大きな負担ともなります。

もちろん、異質な国を“排除”せず、ひろく協調・協力体制を築き上げていく・・・・というのは、りっぱなことではありますが、単にロシア・中国の影響が強まる前に自陣に取り込もうといった話であれば、どうでしょうか?

今後は、今以上に異質さを前提にした共同体づくりが必要になってきます。【2月8日 ブログから再録】
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マクロン大統領主導のEU改革 求心力が低下したドイツ・メルケル首相が同調できるか?】
そうした中にあって、フランス・マクロン大統領はEU統合を強化する方向での改革に乗り出していますが、ようやく連立を終えたドイツ・メルケル政権が同調するのか・・・。

****独政権発足でEU改革やっと本腰? 「共通予算」「財務相」で方向性出せるか****
ドイツのメルケル首相がようやく政権を発足させ、停滞していた欧州連合(EU)改革の議論進展が期待される。“本丸”はユーロ圏の統合深化。野心的な改革を示しながら待ちぼうけにされたフランスのマクロン大統領に「欧州の盟主」はどんな返事を出すのか。独仏両輪がそろい、統合深化は進むのか−。
 
独政権発足後初となった3月22〜23日のEU首脳会議の閉幕後、独仏首脳は一緒に報道陣に姿を見せた。 
「再任おめでとう」。そう述べたマクロン氏に、メルケル氏は直前に起きた仏南部スーパー襲撃テロを受け、「できる支援を行う」と表明した。今や恒例の共同会見は両首脳の“蜜月”を物語る。
 
英国のEU離脱や英在住の露元情報機関員への神経剤襲撃、対米貿易問題など喫緊の課題がめじろ押しだった首脳会議はユーロ圏改革も重要な議題だった。EUは6月の首脳会議で改革の方向性をまとめる方針だ。
 
マクロン氏は昨年9月の独総選挙直後、改革議論の加速のため、具体的な改革案を打ち出したが、独側の政権樹立難航という誤算のため、「3月まで」とした両国の改革方針のとりまとめもずれ込んだ。会見では「6月までに独仏共通の工程表を提示する」と意気込みを示した。

銀行同盟と欧州版IMF
改革はユーロ圏の弱点の克服と強化が狙いだ。債務危機では「通貨は同じでも財政はバラバラ」との欠陥や危機対応の準備不足が露呈。EUが支援の条件として危機国に求めた財政緊縮策は「反EU」感情が広がるきっかけともなった。
 
ポピュリズム(大衆迎合主義)勢力はなお根強いが、経済情勢は改善した。「再度の困難に備えなければならない」とメルケル氏も改革を急ぐ考えだ。
 
優先は「銀行同盟」の完成と「欧州通貨基金」(EMF)創設。

銀行同盟は金融行政の統合が目的で、3本柱のうち銀行の監督一元化と破綻処理の共通化は実現したが、預金保険制度の共通化が残る。EMFは債務危機でつくられた「欧州安定メカニズム」(ESM)を拡充し、欧州版国際通貨基金(IMF)に発展させる構想だ。
 
預金保険制度ではドイツなどが自国預金者が負担をかぶる形となるのを懸念して議論が難航してきた。ただ、銀行同盟も通貨基金も方向は定まっている。ユーロ圏改革でより大きな課題となるのは、その「先」だ。

レッドラインはない
焦点はマクロンが提唱するユーロ圏共通の予算と財務相の新設だ。欧州委員会はこれに対し、ユーロ圏予算をEU予算の枠内に置いて、欧州委副委員長が財務相を兼ねる案を提示。欧州委には非ユーロ導入国への配慮があるが、権限をめぐる仏側との駆け引きもうかがえる。
 
独側ではメルケル政権は連立協定で「限定的な予算手段」を支持し、将来的な予算創設に含みを残す。他国の財政を支える形に反対で、使途で仏側とズレも指摘される上、非ユーロ国への配慮も強い。

課題は多いが、独外交政策評議会(DGAP)のシュワルツァー所長は「レッドライン(越えられない一線)は敷いていない」と柔軟さをみる。
 
独政権では連立相手の社会民主党がマクロン氏の提案に積極的な一方、メルケル氏の与党には慎重論も強く、今後、マクロン氏とどう折り合いをつけるかが注視される。
 
議論を受け、他国も動きだした。オランダやフィンランドなどユーロ非導入国を含む欧州北部8カ国は3月上旬、「健全財政が最善の危機予防」と共同声明を出し、統合深化を牽制。

念頭にあるのは共通予算などの新設で、オランダのルッテ首相は独メディアで「私らは独仏の合意にうなずくだけでない」と独仏主導に横やりを入れた。
 
これらはドイツ同様に財政規律を重視する国々。統合深化に対するドイツの姿勢がなお不明な中、「これまでは陰に隠れていたが、今、ドイツが仲間か、相手側かを見定めている」とDGAPの仏独関係専門家、デメスマイ氏は指摘。「ドイツは立場を明確にせねばならないときだ」との見方を示した。【4月17日 産経】
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ドイツでは負担増を懸念する声が強く、求心力の低下したメルケル首相がマクロン大統領に同調できるのかは不透明です。

****<仏独首脳会談>EU改革案を主課題に 支出増巡り温度差****
マクロン仏大統領が19日、ベルリンを訪問しメルケル独首相と会談した。

仏独両首脳は6月までに欧州連合(EU)改革案を取りまとめ、EU首脳会議で提案したい考えだが、「目に見える成果」を実現するため支出増を求めるマクロン氏と、慎重な姿勢のメルケル氏の間で温度差が生じている。期限までに改革案をまとめられるのか、方向性を占う会談になりそうだ。
 
マクロン氏は昨年9月、パリで演説し、統一通貨・ユーロ圏の財政基盤強化や防衛協力、難民問題など多岐にわたるEU改革案を発表した。

メルケル氏は「独仏は共通の道を見つけるべきだ」と述べて改革の必要性では一致する。だが戦後最長の連立交渉を経て発足した第4次政権で、求心力が低下したことが影を落とす。
 
とりわけ独世論の反発が強いのがユーロ圏共通予算策定と財務相ポストの設置だ。マクロン氏は共通予算によって、金融危機対策強化や若者の失業対策などを目指す。

だが、財源が明確でないことから、ドイツの負担増につながるとして与野党に警戒感が広がる。メルケル会派のドブリント連邦議会議員は「EU財務相は不要」と明言している。【4月19日 毎日】
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