孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ総選挙 過激な難民政策を掲げるAfDが躍進 

2017-09-25 22:34:59 | 欧州情勢

(AfDのポスター “ドイツの伝統的な衣装に身を包んだ3人の白人女性がワイングラスを手にした写真には「ブルカ? 我々にはブルグントの血が流れています」というコピーが添えられていた。ブルグントとは2~3世紀にかけてスカンジナビア半島から現在のドイツ移り住んだゲルマン人を意味する言葉で、ブルカにかけてブルグンドという言葉を使ったように思われるが、ドイツ人とイスラム教徒を同一視すべきではないというメッセージがポスターからは伝わってくる”【9月21日 仲野博文氏 THE PAGE】 アーリア人を優越民族としたナチスの雰囲気も・・・・)

過激な難民政策を掲げるAfDが13%もの得票率で3位に躍進
注目されていたドイツ総選挙が24日に行われ、周知のようにメルケル首相率いる中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第1党の座を守り、メルケル首相は4期目の長期政権を担うことになりました。

もっとも、ライバル政党中道左派・社会民主党の「シュルツ旋風」が早くから失速し、警戒されていた過激な難民政策を掲げる新興右派「ドイツのための選択肢」(AfD)も党内の路線をめぐる対立から支持率を一桁に落とすなどの状況から、“安定を目指すドイツ国民はメルケルを選択する”というのは確実視されていたところで、注目されていたのはその“勝ち方”、CDU・CSUだけでは過半数は獲得できないので、連立の相手に影響する第3位以下の少数政党の順位がどうなるのか・・・という点でした。

その意味では、「ドイツのための選択肢」(AfD)が13%もの得票率で3位に躍進したという結果は、衝撃でもあります。

また“民主・社会同盟は2013年の前回選挙時と比べ、得票率を9ポイント近く下げる見通しで、12年間も首相を務めるメルケル氏への国民の飽きも浮き彫りになった。”【9月25日 時事】とも。

*****<独総選挙>新興右派AfDが第3会派に****
24日投票のドイツ連邦議会(下院、基本定数598)総選挙は即日開票された。公共放送ARDの得票率予測によると、メルケル首相の中道右派キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が最大会派になり首相は4選を確実にした。

過激な難民政策を掲げる新興右派「ドイツのための選択肢」(AfD)が第3会派として国政に初進出する。

与党の中道左派・社会民主党はAfDが野党第1党となり、議会の主要ポストを得る事態を防ぐため、下野するとみられる。
 
ARDの予測では、CDU・CSU32.8%(前回2013年選挙結果41.5%)、社民党20.4%(同25.7%)、AfD13%(同4.7%)。10.7%を獲得し国政復帰する自由民主党(FDP=同4.8%)が第4会派になり、左派党9.1%(同8.6%)と緑の党9%(同8.4%)が続いた。
 
CDU・CSUは戦後2番目に低い得票率で、社民党は戦後最低だった。2大会派が軒並み議席を減らす一方で、会派数は4から6になり小党が乱立。メルケル氏の連立交渉は難航することになりそうだ。独メディアはCDU・CSUとFDP、緑の党による3党連立の可能性を報じる。
 
メルケル氏は24日夜、支持者を前に「より良い結果を望んでいたが、最大勢力になるという目的は達した」と成果を強調。連立の可能性については、社民党との大連立も視野に入れる考えを示したが、社民党のシュルツ党首は「最大野党として、議会制民主主義への責任を担う」とし、下野する決意を表明している。
 
AfDは選挙戦で、過激な発言やイスラム批判で注目を集め、既成政党への不満票を吸収した。ナチス擁護と取れる発言をしたAfD筆頭候補のガウラント副党首は「我々はメルケル氏を追い詰める。我々の国家と国民を取り戻す」と述べた。AfDは連邦議会に難民政策検証委員会の設置を求める考えだ。
 
新議会招集は総選挙から30日以内と定められている。前回は連立協議が長引き、第3次メルケル政権発足まで約3カ月を要した。メルケル氏は4期目を全うすれば、コール元首相の戦後最長在任16年に並ぶ。【9月25日 毎日】
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難航が予想される連立交渉
連立について言えば、CDU・CSUと社会民主党の二大政党がこれまで同様に連立継続で合意した場合、AfDが最大野党となる・・・・というパターンも懸念されていました。

“最大野党は下院の討議で、首相に続いて代表者が演壇に立ち、政権の姿勢を問いただす立場。主要委員会の委員長ポストも手にする。「反イスラム」も掲げるAfDは、既存の国政政党とは完全に異質な存在。過激な排外主義思想を持つ候補者も複数当選するとみられ、議会審議が混乱する恐れもある。”【9月22日 時事】

社会民主党は選挙前から、これまでのような大連立は組まないことを明らかにしていましたが、その方針どおり、惨敗の今回結果を受けて“AfDが野党第1党となり、議会の主要ポストを得る事態を防ぐため、下野する”見通しです。

もっとも、下野理由の本音は、与党としてCDU・CSUと大連立を組んでいては独自色を出せず、選挙で今回のような結果に終わってしまう、最大野党として政府批判を行った方が有権者受けがいい・・・ということではないかと思われます。

AfDは連立の選択肢に入っていませんので、中道・自由民主党(FDP)と環境政党、緑の党との3党連立が取り沙汰されていますが・・・なかなか困難な選択でもあります。

“「ジャマイカ連立」とよばれるこの連立は移民や税制、欧州政策などの分野での根本的な違いから不安定なものになる可能性がある。特にFDPとの連立は、マクロン仏大統領が提案するユーロ圏の統合深化にとって障害となる可能性がある。”

これからメルケル首相の難しい連立交渉が始まります。

格差が残る旧東独では20%超 男性のブルーカラー労働者、失業者から多くの支持
一方、躍進したAfDは、“AfDのワイデル筆頭候補は「われわれは政策の中身で選ばれた」と述べ、「反難民」「反イスラム」は国民の意思だという認識を示した”と意気盛んです。

全国ベースでは13%ですが、ドイツ統一以来の経済格差が残る旧東ドイツ地域に限れば20%を超える得票率で、第2勢力にもなっています。

****極右AfDが初議席、第3党に躍進 ドイツ議会選 ****
24日に投開票されたドイツ連邦議会(下院)選挙で、反イスラムを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が初めて議席を獲得し、第3党に躍り出た。

民族主義政党が連邦議会に席を占めるのは戦後の混乱期以来、ほぼ60年ぶり。AfDは難民やイスラムの排斥を訴える選挙戦術を展開。旧東独に限ると第2勢力になった。難民への不満や不安がドイツ社会に根強く存在することが浮き彫りになった。

AfDの得票率は選挙管理委員会の暫定結果によると12.6%に達した。「選挙の顔」として選挙戦を率いたアレクサンダー・ガウラント氏はベルリンで「我々はメルケル氏を追い詰める。国家を取り戻す」と気炎を上げた。

メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)はAfDとの連立協議を否定しており政策への影響は限られるが、第3党になるまで支持を集めたことは衝撃だ。
 
AfDの得票率は途中経過ながら旧西独地域では10%強だったのに対し、旧東独地域では20%を超え、社会民主党(SPD)を上回る第2勢力に立った。
 
AfDはメルケル氏の難民受け入れ政策が社会を不安定にしていると主張。難民の強制送還やイスラム教の受け入れ拒否を訴えた。旧東独は難民受け入れへの経験が乏しく、反発も強い。経済成長の恩恵に取り残されたと感じる白人労働者層の支持を取り込んだ。
 
前回2013年の選挙の投票政党からの有権者の変化では全ての主要政党から票を奪った。CDU・CSUからの乗り換えと、前回投票しなかった有権者からの得票が多かった。
 
SPDの支持者の公務員の女性はAfDの躍進に「民主主義の危機だ。既存政党が難民問題への解答を示せなかったことがこの結果につながった」と嘆いた。
 
AfDは13年に単一通貨ユーロへの反対を旗印に結成された。次第に民族主義色を強め、15年に経済政策を重視する党員が離党。反移民や反イスラムの主張が目立つようになった。
 
15年の大みそかにケルンで起きた難民による暴行事件などをきっかけに支持を拡大し、16年の2つの州議会選挙では第2勢力にまで躍進。支持率は一時16%まで高まった。

その後、党員のナチス擁護発言などで10%を割り込んでいたが、選挙戦終盤にインターネットを使った選挙活動などで再び浮上した。
 
ドイツの連邦議会選挙には小政党が乱立するのを防ぐため「阻止条項」と呼ばれるルールが存在する。比例代表で5%以上得票できなかった政党は議席を得られない。これまで極右政党はこの5%の壁に阻まれてきたが、今回AfDは初めてその壁を越えた。【9月25日 日経】
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【“隠れAfD支持者”】
少なくとも今月初め頃までは、世論調査ではAfDの支持率は8~9%の一桁でした。
その後の短期間に支持が伸びたと言うよりは、アメリカ大統領選挙での“隠れトランプ支持者”同様に、AfD筋を公言することは憚れれるが、選挙の際はAfDに投票するという“隠れAfD支持者”が多いのでしょう。

もちろんそうした“民意”への配慮は必要でしょうが、“あまり公言しずらい主張”に問題はないのか、慎重に議論・吟味する必要があります。そうでないと単なるポピュリズムに堕してしまいます。

****ドイツ政治が未知の領域に、極右政党が議席獲得****
24日に投開票されたドイツの連邦議会(下院)選挙で、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が初めて議席を獲得する見通しとなった。これは既成の政治勢力にとって戦後最大規模の衝撃で、ドイツの政治は未知の領域に入る。(中略)
 
AfDが貸し切りにしたベルリンのナイトクラブでは支持者らが歓声を上げた。祝賀会を取り仕切るアレクサンダー・ガウラント氏は24日夜、「われわれはメルケル氏を追い落とし、わが国を国民の手に取り戻す」と述べた。
 
一方で、ナイトクラブの外では反AfDの人々が集まり、「ゼノフォビア(外国人排斥)は選択肢の1つではない」「歴史を繰り返すな」といった横断幕を掲げて抗議デモを行った。
 
AfDの躍進は欧州各地の右派政党の台頭に続くものだ。ドイツ政界の主流派は、「今後もAfDを孤立させようとする、無視しようとする」か、あるいは「反体制的なメッセージを抑えることを狙ってAfDを取り込もうとする」かの決断を迫られることになる。
 
一部のアナリストは、AfDにとっては他党が選挙運動で同党に貼った「のけ者」のレッテルが有利に働き、「ベルリンのエリート層に挑む政党」というイメージを植え付けることができたと指摘する。
 
出口調査によれば、AfDは特に旧東ドイツ地域や男性のブルーカラー労働者、失業者から多くの支持を集めた。ドイツ公共放送連盟ARDが発表した出口調査の結果によると、AfD支持者の3分の2近くが同党に投票した理由に他党への失望感を挙げた。
 
ガウラント氏と同じくAfD共同筆頭候補のアリス・バイデル氏は、議会ではまず、メルケル氏が犯したとされる「あらゆる違法行為」を調べる調査委員会の立ち上げを目指すと述べた。AfDは、メルケル氏は2015年に中東とアフリカからの難民の入国を許可し、法律に違反したと主張しているが、政府は違法ではないと反論している。
 
ただ、AfDが政策に及ぼす直接的な影響は限られるとみられる。メルケル氏の調査を行うには下院議員の4分の1の賛成が必要だが、他党はいずれもAfDには協力しない方針を表明している。
 
しかし、連邦議会での議席獲得でAfDの存在感は高まりそうだ。全国放送のテレビ番組に呼ばれる回数が増えるとみられるほか、同党の各議員にはスタッフの雇用と事務所開設のための資金が提供される。また、ドイツ復興金融公庫(KfW)の理事会などさまざまな団体・機関の役職に就く見通しだ。
 
欧州の観点から見ると、AfDの躍進、そして中道左派の社会民主党(SPD)の選挙結果が戦後最悪となったことは、主流派の力が弱まれば非主流派の力が強まるというパターンに合致している。
 
ナチス時代に根深い嫌悪感が右派ポピュリズムを生んだドイツにとって、AfDの台頭は新たな政治情勢を作り出すものだ。同党は国内で少数派のイスラム教徒を「大きな危険」と呼び、ホロコースト(ナチス時代のユダヤ人大量虐殺)に対する贖罪(しょくざい)意識が強すぎると考えている。
 
ドイツのユダヤ人中央評議会のシュスター会長は「残念ながら、われわれの懸念が現実になった。極右思想を容認し、反少数派運動を扇動する政党がほぼ全ての州議会だけでなく、連邦議会にも進出した」と述べた。【9月25日 WSJ】
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【“ユーロ圏からの離脱”から露骨な排外主義へ変質
設立当時のAfDは“メルケル政権によるギリシャほか欧州連合諸国への救済措置に不満を抱く勢力が中心となって結成された。欧州連合からの脱退を目標とし、ユーロ圏からの離脱とドイツ・マルクの復活を当面の最優先課題に挙げている。党の政策は全体的に右派色が強いが、国粋主義や移民排斥は掲げていないとされる”【ウィキペディア】というものでしたが、支持者の多くが旧東独ザクセン州の州都ドレスデンに登場したペギーダ(Pegida)の略称を持つ西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者運動を支持する勢力と重複する部分があり、大量の難民受入れなどもあって、次第にペギーダ的な排外主義がAfD内部においても力を持つようになっています。

それに伴って党内の路線対立も絶えず、分裂騒ぎもありましたが、その結果、ますます右傾化・排外主義を強めているように見えます。

****新興右派、対立激化 党大会、戦略方針採択できず****
ドイツの新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の党大会が(4月)22日、ドイツ西部ケルンで2日間の日程で始まった。

9月の総選挙で国政初進出を目指すAfDだが、「現実路線」を取ろうとするペトリ共同党首と、右傾化を強める保守派の対立が激化。

党大会初日は、ペトリ氏提案の戦略方針の動議が採択されず、保守派による党支配を印象付けた。支持者離れを招き、党勢失速につながる可能性も出ている。
 
(中略)極右色を抑制する(フランス)ルペン氏同様、ペトリ氏も将来の与党入りを視野に入れて現実路線を目指してきた。
 
一方、党最右翼のビヨルン・ヘッケ・テューリンゲン州議会AfD会派代表の発言をきっかけに党内の路線対立が浮き彫りになった。

ヘッケ氏は1月、ベルリンにあるナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑を「恥辱の記念碑」と呼び、歴史教育の転換を主張。ペトリ氏はヘッケ氏を「ナチの同類」として除名を要求したが、保守派のガウラント副党首らが擁護に回った。
 
総選挙に向けペトリ氏は当初、「党の顔」となる単独の筆頭候補になることを目指した。だが、複数の筆頭候補の選出を訴える保守派に押し切られ断念。22日の党大会でも提案した動議が採択されず、ペトリ氏は「党は間違いを犯した」と落胆した。今後はガウラント氏を中心とした保守陣営が選対を率いていくとみられている。
 
ヘッケ氏を除名できないAfDに有権者の間では極右化への懸念が拡大。世論調査では、昨年末12%あった支持率が4月、8%に下落した。政治学者のハーヨー・フンケ氏は「強力な保守派に反対する勢力も依然強く、党分裂の様相を見せている」と指摘している。【4月23日 毎日】
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今回勝利後も、ペトリ共同党首は内部対立の存在を公にして不満を明らかにしています。

****独極右政党AfD、共同党首が党内対立の存在を会見で明かす****
ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のペトリ共同党首は25日、同党会派の一員にはならないと述べ、質問に答えることなく記者会見場を後にした。

24日の総選挙ではAfDが躍進。12.6%の票を獲得したことが国内エスタブリッシュメント層に衝撃を与えた。極右政党が国政に進出するのは過去50年以上で初めてとなる。

ペトリ共同党首は他政党のリーダーとの共同記者会見で「AfDの中身を巡り意見の相違があることをきょうオープンにすべきだと私は考える。社会はオープンな議論を求めており、このことを秘密にすべきではない」と述べた。

ユーロに反対する学者グループによって2013年に設立されたAfDは内輪もめで長らく分裂しており、評論家は国政への進出によって対立が深刻化する可能性があると予測していた。【9月25日 ロイター】
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“このことを秘密にすべきではない”と言うものの、すでに公になっていることで、ペトリ共同党首らの穏健・現実路線の敗北を示すもののようにも思えます。難民対策を中心に議会における過激な政権批判を強めていくことが予想されます。

欧米での極右・ポピュリズム勢力の台頭が意味するものは?】
なお、3月のオランダ総選挙でウィルダース党首率いる極右・自由党が第1党を獲得できなかったこと、5月のフランス大統領選挙でルペン氏が大差で敗北したことで、欧州における極右・ポピュリズム勢力の台頭に歯止めがかかったとされてはいますが、今回ドイツ総選挙でのAfDの躍進を見ると、なかなか楽観できないものも感じます。

ここ数年の得票率で見ると、この三か国だけでなく多くの欧州諸国で極右・ポピュリズム勢力が右肩上がりに数字を伸ばしています。

既成政治から疎外された人々の“不満の受け皿”になっていると指摘されますが、どうあるべきかといった“理想”とか“正義”とかいったものはもはや冷笑の対象にしかならず、わかりやすい身近な“敵”を叩くことで不満を解消しようとする、人々の心にあるダークな部分を政治世界にストレートに煽り出す極右・ポピュリズム勢力の台頭が今後も強く懸念されます。

昨今はインターネットの普及で多くの人々が自由に意見を発信・受信できる環境ができており、その意味では“民主主義”にとってこれまでになく民意が反映しやすい環境にもなっていますが、それに伴って極右・ポピュリズム勢力が台頭するという現象は、民主主義というものが内在する大きな問題・限界を示しているような感もあります。
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