孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロンビア  左翼ゲリラFARC、政党へ 第2の組織ELNとも停戦合意 平和と和解に向けて

2017-09-07 23:06:59 | ラテンアメリカ

(コロンビアの首都ボゴタで1日、新党設立を発表するFARCのイバン・マルケス元司令官(中央)ら【9月2日 朝日】)

サントス大統領「重大事項を決める手段として国民投票は適切ではない」】
内戦・紛争・対立などが世界各地で日常的に起きているなかで、平和的手段で内戦を終結させ、国民統合に歩みだしている(あるいは、歩みだすことが期待されている)稀有な事例が南米・コロンビアにおける左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)との和平合意です。

****コロンビア内戦と和平合意****
1964年に結成されたコロンビア革命軍(FARC)は中南米最大の左翼ゲリラに成長。

政府軍や右派の民兵組織との半世紀にわたる内戦で、25万人以上が死亡し、多くの国内避難民を生むなど800万人以上が被害を受けたとされる。

サントス政権下の2012年、キューバなどの仲介で和平交渉が始まり、昨年に和平合意が成立した。今年6月に武装解除が終了し、FARCは政党へと移行する。【9月1日 朝日】
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似たような武装勢力との和平合意としては、ネパールで2006年に実現した政府とネパール共産党毛沢東主義派(いわゆる毛派)の無期限停戦を誓う包括和平協定があります。

稀有な事例だけに、国民投票で合意が否決され頓挫しかかった際に、国際社会もサントス大統領へのノーベル平和賞授与という援護射撃を行い、なんとか実現にこぎつけてほしいとの思いを託しました。

国民投票という方法については、サントス大統領は適切さを欠いたとの思いもあるようです。

****戦争は対話で解決できる ポピュリズムは差別生む コロンビア・サントス大統領****
南米コロンビアの内戦終結を主導し、昨年のノーベル平和賞を受賞した同国のフアン・マヌエル・サントス大統領が30日、首都ボゴタの大統領官邸で朝日新聞の単独会見に応じ、「どんなに複雑な状況であっても、戦争は対話で解決できる」と平和への思いを語った。

和平合意が昨年の国民投票でいったん否決された経緯を踏まえ、「重大事項を決める手段として国民投票は適切ではない」との考えも示した。(中略)

同国では半世紀以上にわたり、政府と左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)の内戦が続いた。サントス氏が主導した両者の交渉で昨年、和平合意が実現。FARCは今年6月に武装解除を終了した。
一連のプロセスは、長期の内戦を対話で終わらせた成功例として高く評価された。
 
サントス氏は今もテロや内戦が絶えない世界へのメッセージとして、「双方の意志で対話し、明確な目標を持てば、武力紛争や戦争は終わらせることができる」と語った。
 
ただ同国の和平合意は昨年10月の国民投票で、「ゲリラに譲歩し過ぎている」などとの反発を背景に、小差でいったん否決された。

昨年は英国でも、国民投票で欧州連合(EU)からの離脱派が小差で勝利するなど、賛否が分かれる重要なテーマについて、国民に直接、是非を問う国民投票の在り方が問われた。
 
サントス氏は国民投票について「国民投票は簡単に操作される。問われたテーマではなく他の理由による投票が行われ、目的が損なわれてしまう」と述べた。
 
サントス氏は、「自国第一」を掲げるトランプ米大統領のようなポピュリズム政治が世界中で台頭していることについても懸念を示した。「ポピュリズムは過激な人々の温床となる。恐怖や差別を生み、協力を難しくする」と厳しく指摘した。【同上】
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サントス大統領は国民投票での否決後は、議会承認の形で和平合意を進めています。

FARC「私たちは“政治”というフィールドで戦いを続けていく」】
一連の合意実現の過程として、コロンビア革命軍(FARC)は「政党」に転身しています。

****コロンビア 内戦終結で反政府ゲリラ組織が政党へ****
南米コロンビアで半世紀にわたって続いた政府とゲリラ組織との内戦を終結させるため、去年結ばれた和平合意に基づいてゲリラ組織の武装解除が終わり、1日、このゲリラ組織は政治活動を行う「政党」への移行を宣言しました。

南米コロンビアでは、政府と反政府ゲリラ組織FARC=コロンビア革命軍が、半世紀以上にわたって内戦を続け20万人以上が犠牲になりましたが、去年、双方の間で和平合意が結ばれました。

そして先月、FARCが所持していたすべての武器の放棄が終わったことが国連によって確認され1日、FARCは、ゲリラ組織から政党へ移行したことを宣言しました。

首都のボゴタで会見したFARCの幹部は、「私たちは「政治」というフィールドで戦いを続けていく」と述べて、今後は、ゲリラ活動ではなく政治の舞台で主義主張を訴え続けることに意欲を示しました。

FARCの政党への移行が完了すれば来年3月に行われる議会選挙などの選挙への参加が可能になりFARCは今後、左派政党として、貧困層や農民などあらゆる層からの声に耳を傾けて汚職の撲滅などを目指して政治活動を行っていくとしています。

ただ、先月下旬に行われた世論調査では、依然として国民の7割以上が和平プロセスに反対しているという調査もあり、FARCがスムーズに政治参加できるのか注目されます。【9月2日 NHK】
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“依然として国民の7割以上が和平プロセスに反対しているいう調査も”ということで、FARCに対する国民の憎悪は解消されていません。合意はFARCに譲りすぎているとの批判があります。

ただ、憎しみにとらわれていても前進はできませんので、合意を具体的に進めるなかで、FARCに対する見方・感情も変化していくのではないでしょうか。

FARC側からすれば、政治参加が認められたことは非常に大きな意味があります。
国民の多くが反感を持っている一方で、コアな支持層も一定にありますので、政党化することでこの支持層を基盤にして議会内に強い発言権を持つことが可能になります。

****FARC、政党へ移行 コロンビア、和平合意受け宣言****
南米コロンビアで半世紀以上に及ぶ内戦に終止符を打った左翼ゲリラ組織・コロンビア革命軍(FARC)が1日、政府との和平合意に基づいて、政党への移行を宣言した。今後はFARCが政党として合法的に政治参加することで、和平合意が維持されることが内外から期待されている。
 
政党名の略称はこれまでと同じ「FARC」。「市民の新たな革命勢力」を意味するスペイン語の頭文字を取った。首都ボゴタの広場では1日、同政党の設立集会が開かれ、市民ら数千人が集まった。

元FARC最高司令官のロンドニョ氏は「民主的で平和な国をつくるために団結しよう。今日生まれたこの党は、将来、新たなコロンビアで多くの支持者を得るだろう」と強調した。
 
FARCは1964年の結成以来、武力で政権獲得を目指してきた。武装解除に応じたのは政府が政治参加を保障したためだ。

世論調査によると、FARCに好意的なイメージを持つ国民は12%で、他の既成政党の10%を上回った。地元メディアは、相次ぐ汚職などを背景に既成政党への不信感が広がっていると分析。

ゲリラ戦を続けたFARCへ反感を持つ国民も多いが、今後の政治活動次第で支持を広げる可能性もありそうだ。【9月3日 朝日】
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“FARCは和平合意に従い、今後2度の国会議員選挙で、自動的に上下院に5議席ずつを割り振られる。しかし、政権参加を果たすには、来年3月の選挙で大幅な票の積み増しが必要。今後はソフト路線を演出し、貧困層やリベラル勢力への浸透を図るとみられる。”【9月2日 時事】

“積み増し”はともかく、“政権参加”となると、国民に強い拒否感が残る現状ではハードルが高そうです。
(ネパールの毛派は、やはり国民の拒否感が強いと言われていましたが、王制廃止の混乱もあって、2008年総選挙では想定外の“第1党”に躍進し、政権も獲得しています)

政党名「市民の新たな革命勢力」は「FARC」という略称を残すためにとってつけたような感もあります。
「FARC」への強い愛着・思い入れがあるようです。党首には、ロドリゴ・ロンドニョ最高司令官が就くことが決まっています。

“政党名には「新コロンビア」などの別の案もあったが、全国からFARC幹部ら1200人が集まった会議で行われた投票の結果、FARCの名称が628票で最多だった。”【9月1日 AFP】

しかし、内戦の被害者らを中心に強い拒否感があることを考えると、「FARC」の略称を残したことは今後の融和・支持基盤拡大にとってはマイナスになりそうです。

“ソフト路線”の一つとして、プロサッカー参入も検討されているようです。

****プロサッカー参入か=左翼ゲリラ、社会復帰の一環―コロンビア****
南米コロンビア最大の左翼ゲリラ組織、コロンビア革命軍(FARC)が、プロのサッカーチームをつくろうとしている。コロンビアのプロサッカーリーグのペルドモ会長が11日、地元ラジオ局ブルに語った。
 
会長は「10日前にFARCから、プロサッカーに参加するための問い合わせを文書で受け取った。2部リーグと女性リーグを考えているようだ」と明らかにした。

「FARCは、社会に溶け込むため、サッカーが非常に重要な要素だと主張していた」とも語った。実現した場合、チーム名は「ラ・パス(平和)FC」が有力視されている。(中略)
 
会長によると、リーグ参加には政府との調整などが必要となる。【8月12日 時事】
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和平合意への根強い批判も
ウリベ前大統領などFARCとの合意に批判的な勢力からは、“隠し武器庫”の存在が指摘されており、武装解除も疑問視されています。

****武装解除「完了」も前途多難=隠し武器庫問題残る―コロンビア和平****
コロンビア最大の左翼ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)が政府との和平合意に基づき、7132丁の銃を国連監視団に引き渡した。

ただ、回収されたのは自己申告に基づく個人所有の銃器だけで、約950カ所に分散しているとされる「隠し武器庫」は手付かずのまま。恩赦や内戦犠牲者への補償問題なども含め、和平実現にはまだ高いハードルが横たわっている。
 
「武器よさらば、ようこそ平和」。6月27日に中部メセタスで行われた武装解除式典で、ロンドニョFARC最高司令官はサントス大統領を傍らに、高らかに宣言した。

両者は昨年11月、戦闘員の社会復帰支援、FARCの合法政党化などで合意。和平プロセスが具体的に動きだした。その中でも、武装解除の「完了」を国連、政府、FARC3者が宣言したことが特に注目され、内外メディアは沸き立った。
 
しかし、和平合意反対派のウリベ前大統領は「サントス大統領は、FARCの武器は1万4000丁と言っていたはずだが、実際(に引き渡されたの)は7132丁にすぎなかった」とした上で、「FARCは和平交渉中も麻薬と引き換えに武器を手に入れており、完全武装解除には程遠い」と指摘。

FARCから大量の武器が他の左翼ゲリラや麻薬組織に流れれば、治安悪化は避けられないだけに、懐疑的な姿勢を変えていない。
 
外交筋も「FARC側の武器の総数を確かめるすべはない。一つのイベントが終わったにすぎない」と強調。楽観を戒めた上で、FARC側が期限の9月1日までに隠し武器庫の明け渡しに応じるか否かが次の重要局面になると指摘する。【7月1日 時事】 
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FARC側にも、戦闘員の社会復帰が進展するのかという大きな問題があります。

問題は多々ありますが、後退するのではなく、前進するなかで徐々に解消していくしかないでしょう。

FARCに続き、ELNも さらには最大麻薬組織も投降
流れ的には、和平合意推進の方向にあるようです。FARCに次いで同国で第2の勢力を持ってきた左翼ゲリラ・民族解放軍(ELN)との停戦合意も成立しています。

****コロンビア、最後の左翼ゲリラも停戦に合意 来月発効****
南米コロンビアで、最後まで活動を続けてきた反政府勢力の左翼ゲリラ「民族解放軍(ELN)」と政府が停戦に合意した。双方が4日、発表した。中南米で最も長く続いてきた内戦の完全な終結に向けて、大きな一歩となった。
 
コロンビアは翌5日にローマ・カトリック教会の法王フランシスコの訪問を控えている。
 
フアン・マヌエル・サントス大統領はテレビ放送された演説で、停戦は10月1日に発効すると発表。最初の停戦期間は102日間で、その後は細かい未決事項に関する協議の進展に応じて延長されるとしている。
 
コロンビアでは先月、半世紀以上に及んだ内戦の終結に向けて政府と和平協定を結んだ国内最大の左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」が武装解除を完了。サントス大統領はELNとの停戦で「完全な平和」を実現したい考えだ。【9月5日 AFP】
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「ELN]の現在の勢力は2千人弱とされています。和平の試みはこれまで何度か頓挫しており、両者が停戦合意に至ったのは初めてです。

政府との交渉において、「ELN」は誘拐戦術を停止し、今現在拘束している人質の解放を進めると約束していると発表されています。【9月6日 「音の谷ラテンアメリカニュース」】

こういう和平合意の流れに便乗しようという思惑か、最大の麻薬組織も当局への投降を表明しています。

****コロンビア、最大の麻薬組織が投降へ 「全員裁き受ける****
コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領は5日、国内最大の麻薬密売組織が当局に投降する意向だと発表した。
 
サントス大統領は大統領府で行った演説で、政府側と麻薬密売組織「ガルフ・クラン(Gulf Clan)」のトップが3日に会合を行ったと説明。このトップはこれに先立ち、「部下全員とともに裁きを受ける」用意があると明言していたという。
 
投降の提案はエンリケ・ヒル法相とネストル・マルティネス検事総長が今後検討し、「適切な対応」をとるとしている。
 
コロンビアには6日から、ローマ法王フランシスコが5日間の日程で訪問することになっている。政府は4日、国内で活動する最後の左翼ゲリラ「民族解放軍(ELN)」との停戦で合意したことも明らかにしている。
 
コロンビア国防省によると、ガルフ・クランの構成員は約1800人。サントス政権による大規模な取り締まりで当初の半分以下に減っている。【9月6日 AFP】
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麻薬組織側にはそれなりの計算・思惑があってのことでしょうが、投降するというのであれば悪い話ではないでしょう。

ローマ法王 和平合意を後押し
ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は6日、コロンビアの首都ボゴタに到着し、サントス大統領や国民の歓待を受けています。法王はコロンビア和平を後押しすることを今回訪問の目的としています

****ローマ法王がコロンビア訪問、内戦終結で和解と一致を呼びかけ****
ローマ法王フランシスコは6日、コロンビアに到着した。海外訪問は就任後20回目、中南米訪問は5回目となる。50年にわたる内戦の終結にあたり、和解と一致を呼びかけるメッセージを携えての訪問となった。

法王は、アリタリア航空機でボゴタに到着。サントス大統領夫妻とコロンビアの子供たちに出迎えられた。今後はビリャビセンシオ、メデジン、カルタヘナを訪れる。

ボゴタに向かう機内で、法王は記者団に「(今回の訪問は)コロンビアが平和への道を歩めるよう助けの手を差し伸べる目的があり、やや特別だ」と語った。

コロンビアでは、内戦により22万人以上が死亡、数百万人が自宅を追われた。2016年の和平合意により、武装解除した同国最大の左翼ゲリラ組織、コロンビア革命軍(FARC)の構成員7000人を社会に受け入れるため、準備が進められている。

ただ、合意は戦闘員に恩赦を与え、議会で議席を提供する内容だとして不満の声も大きく、政治家やカトリック聖職者の間にも、一部にゲリラに寛大すぎるとの指摘があるなど意見が分かれている。【9月7日 ロイター】
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