孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン・ドゥテルテ大統領 中国への共感 「一度にすごい成果作戦」で無抵抗高校生射殺 抗議デモも

2017-09-08 21:37:41 | 東南アジア

(無抵抗で射殺された高校生直治 キアンさんの死を悼み、正義を求める高校生ら【8月30日 柴田直治氏 Huffington Post】)

【「侵略ではない。彼らはただそこにいるだけ」】
フィリピン・ドゥテルテ大統領の中国への傾斜ぶりは相当なものがあります。

****ドゥテルテ比大統領、「中国による侵略」主張の最高裁判事に反論****
2017年8月22日、中国メディアの環球網によると、フィリピンのドゥテルテ大統領は21日、中国が南シナ海のスプラトリー(中国名:南沙)諸島で新たな埋め立てに向けた動きを見せているとして「中国による侵略だ」と批判したフィリピン最高裁のカルピオ判事の主張に反論した。

フィリピンメディアによると、カルピオ判事は19日、同国が実効支配するパグアサ島の周辺で、中国のフリゲート艦2隻、海警局船2隻、大型漁船2隻が確認されたことを受け、「中国による侵略だ」と批判する声明を発表していた。

これを受け、ドゥテルテ大統領は21日の記者会見で、「侵略ではない。彼らはただそこにいるだけであり、何も主張していない」と述べた。【8月22日 Record china】
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中国も頼りになるお友達をもったものです。
日本は、そのフィリピン・中国関係の深化を阻止しようと躍起ですが・・・。

****自衛隊装備、初の無償供与 フィリピンにヘリ部品と航空機=関係者****
日本政府がフィリピン軍に対し、自衛隊のヘリコプター部品と、中古の航空機を今年度中に無償で引き渡す調整に入った。自衛隊の中古装備を外国軍に無償供与する初の案件になる見通し。

中国がフィリピン軍に武器を供与するなどし、影響力を強めつつあることをけん制したい考え。

日本とフィリピンの複数の関係者が明らかにした。(後略)【8月10日 ロイター】
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中国はフィリピンに対し、14億円相当の武器の無償供与のほか、武器調達のため500億円の低利融資を提案しているとのことで、圧倒的なチャイナ・マネーの対し、日本政府の努力はどこまで効果をあげるのか?

ドゥテルテ大統領の中国への心酔ぶりは、こうしたチャイナ・マネーの問題だけでなく、オバマ前米大統領的な人権・民主主義への価値観を重視する姿勢よりは、中国的な政治姿勢への共感もあってのことでしょう。

ドゥテルテ大統領のそうした政治姿勢が端的に表れているのは、言うまでもなく、麻薬撲滅のためなら警察だろうが、正体不明の組織だろうが、法律によらず容疑者を殺しまくっても構わない、“構わない”と言うより、殺すことを奨励する・・・・という麻薬撲滅作戦です。

大統領長男 麻薬密輸に関与?】
先ほど下記のニュースタイトルを見て、“大統領、息子 公聴会”ということで、「また、アメリカ・トランプ一家の話か・・・」と思ったのですが、よく見るとフィリピン・ドゥテルテ一家の話のようですか。

まあ、「またか・・・」という“うんざり”感は、トランプ大統領もドゥテルテ大統領も同じですが。

****比大統領の息子、上院の公聴会に出席 麻薬組織との関係を否定****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が容赦ない麻薬取り締まりを推し進める中、同氏の実の息子および義理の息子が麻薬密売組織に属しているとの疑惑が浮上し、7日に開催された上院の公聴会で、渦中の2人がこの疑惑を否定した。
 
ドゥテルテ氏は昨年、容赦のない「麻薬撲滅戦争」を推し進めると公約して大統領に就任。以来、警察による麻薬取り締まり作戦で容疑者約3800人が殺害されたほか、不明の状況下で多数の人々が殺害されている。

ドゥテルテ氏の実の息子であるパオロ氏(42)と義理の息子に当たるマナセス・カルピオ氏は7日、上院で行われた公聴会に出席し、2人が報酬と引き替えに64億ペソ(約136億円)相当の結晶メタンフェタミンが入った積み荷を中国からフィリピンへ容易に持ち込ませる手助けを行った疑いについて抗弁した。
 
今回の疑惑は先月、通関業者が結晶メタンフェタミンの問題の積み荷を処理しようとした際に、パオロ氏とカルピオ氏の名前を耳にしたと上院の委員会に証言したことで明るみに出た。
だがこの通関業者は後に、2人の関与はなかったとする声明を出している。
 
しかし野党のアントニオ・トリリャネス上院議員は公聴会で、パオロ氏が麻薬密売に携わるギャング団に所属していると非難。パオロ氏は背中に竜の入れ墨を彫っており、それこそがギャング団のメンバーである証拠だと主張した。
 
南部ダバオの副市長を務めるパオロ氏は上院委員会に対し、入れ墨を彫っていることを認めた上で、うわさに基づく主張に答えることはできないと述べた。
 
パオロ氏は「因果応報の法則はとりわけ悪意を持つ者に対して作用する」と述べ、父ドゥテルテ大統領の政敵トリリャネス氏に対する当てつけとみられる発言を行った。
 
一方、ドゥテルテ大統領の娘サラ・ドゥテルテ氏の夫であり、ダバオ市長を務めるカルピオ氏も、ドゥテルテ一家に向けられた疑惑を否定。
 
弁護士だったカルピオ氏は「私と義理の兄弟は、うわさや風評に基づき公然と責められてきた」「私は違法な麻薬の積み荷の件について一切知らないし、一切関与もしていない」と述べた。【9月8日 AFP】
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この件に関しては上記記事以外には目にしていませんが、“名前を耳にした”とか“入れ墨を彫っている”といった類では、犯罪関与の証拠としては薄弱に思われます。

公聴会に呼び出したということは、報じられていない情報もあるのでしょうか?それとも、大統領に批判的な勢力の政治的思惑が先行した動きでしょうか?

1日に麻薬関連容疑者32人殺害が「いいこと」なら、天安門事件も「いいこと」】
ドゥテルテ大統領の“超法規的殺人”の方は、相変わらずの全開状態です。
麻薬撲滅作戦では、6月半ばまでの就任から約1年で警察が3千人以上を殺害。このほか5月末までに約2千人が何者かに殺害された。原因調査中の殺人事件も約8千件に上る・・・・とのことです。

7月24日には就任2年目の施政方針演説を行い、「国際社会や国内の批判があろうと戦いはやめない」との揺るぎない決意を表明しています。【7月24日 朝日より】

****麻薬捜査殺害、計96人に 比「一度にすごい成果作戦*****
フィリピンのドゥテルテ大統領が推し進める麻薬犯罪捜査が激しさを増している。首都マニラ近郊で、18日までの4日間に少なくとも計96人が警察に殺害された。

ドゥテルテ氏は17日の演説で「麻薬で国を滅ぼす者は殺す」と述べ、欧米などの懸念を押しのけて捜査を続ける構えだ。
 
15日にマニラに近いブラカン州で容疑者32人が殺害されたのに続き、マニラ首都圏で16〜18日に57人、カビテ州で7人が殺害された。いずれも、各地の警察が実施した「ワンタイム、ビッグタイム(一度にすごい成果)」と名づけられた一斉摘発作戦の結果だ。
 
殺害した理由について、国家警察のデラローサ長官は17日、「抵抗してきたからだ」と説明。だがいずれの現場でもけがを負った警官はいない模様で、銃撃戦があったのかは不明だ。

16日に殺害された17歳の少年は、遺族らの証言や監視カメラの映像から、無抵抗だった可能性が浮上し、警官3人が職務を解かれた。

容疑者殺害を奨励するようなドゥテルテ氏のやり方には、欧米などが強い懸念を示しているが、本人は意に介してしない。

17日には、麻薬密売に関わったとされる市長夫婦らが7月に警察に殺害されたミンダナオ島オザミス市を訪れ、「知事や市長にも言ったはずだ。麻薬でこの国を滅ぼすなら殺すと」と発言。

「(違法薬物取引に関わる)警官の首に200万ペソ(約430万円)を(懸賞金として)払う。誰が殺したかは問わない。ただ死んでもらいたい」などと述べた。
 
16日にも、演説でブラカン州の32人の殺害に触れ、「いいことだ。毎日32人殺せたらこの国の苦しみの要因を減らせるだろう」と評価する発言をした。
 
現地報道によると、ドゥテルテ氏が大統領に就任した昨年6月末から今年7月までに、全国で計3451人が警察に殺害された。麻薬問題の根本的な解決につながるのか疑問視する声も上がっている。【8月18日 朝日】
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フィリピンの麻薬に関する状態を考えると、ドゥテルテ的な方法が正当化される・・・との指摘もありますが、「ただ死んでもらいたい」「「いいことだ。毎日32人殺せたら・・・」という感覚が正常なものとはどうしても思えません。

この感覚からすれば、中国において社会秩序を守るために、“国を滅ぼす”何千人もの若者を射殺し、戦車で踏みつぶしたのも「いいことだ」という話になるのでしょう。

【「悪いのは3人の警官。大統領を恨んではいない。今でも支持している」】
フィリピン国内では大統領を支持する声が圧倒的だとは言われていますが、上記記事にもある無抵抗の高校生までもが射殺されるような事態に対する批判はあるようです。

****混迷するフィリピン麻薬撲滅戦争 無抵抗の高校生射殺に過去最大のデモ**** 
死者増え、麻薬汚染防止ならずの最悪のシナリオも

■最大の「反戦」デモ
「警察官になりたいと言っていた息子がよりによって警官に殺されるなんて」
白い棺に収まった17歳の息子キアンさんに目をやりながら、サルディ・デロスサントスさん(49)は肩を落とした。(中略)

マニラ首都圏カロオカン市リビス・バエサ。トタン屋根、ブロックづくりのデロスサントス家を訪ねたのは8月25日。フィリピンでは葬儀が1週間ほど続くが、その最終日だった。

傘が役に立たないほどの土砂降りのなか、テントの張られた路地に多くの高校生や隣人らが集まり、ろうそくやプラカードを掲げて亡き友の冥福を祈っていた。

「Stop the Killings」「キアンに正義を」「貧者を殺すな」「処刑ではなく、リハビリを」

貧しい人たちが多く住むこの一帯には麻薬汚染が広がり、警察の手入れがたびたび行われていた。キアンさんを殺害した警察官3人は、キアンさんが銃を持って抵抗した、麻薬の運び屋だった、などと証言した。

しかしサルディさんは「近所の人に聞いてもらえばわかる」と反論した。確かに麻薬との関連をうかがわせる話はなく、「優しい子」と評判だった。同級生の一人は「とてもいいやつだった。友人が病気になったときは着ていたTシャツを売って金を持ってきてくれた」と話した。

検視の結果から、無抵抗のキアンさんが後頭部や耳を撃ち抜かれた可能性が高いとみられている。服から硝煙反応も出ていない。さらに監視カメラには、少年が複数の警官らに引きずられていく様子が映っていた。

8月26日、棺を取り囲んで1000人以上が教会、そして墓地へ向けて行進した。政権の進める麻薬撲滅戦争による超法規的殺人に抗議するプラカードやバナーがたくさん掲げられていた。葬列は、政権発足以来最大の「反戦」デモと化していた。

■一日で32人を殺害
昨年6月にロドリゴ・ドゥテルテ氏がフィリピンの第16代大統領に就任して以来、最重要課題として取り組む麻薬撲滅戦争で多くの死者が出ている。

人権団体は12000人と数え、政権でさえ千人単位が死亡していることを認めている。死刑制度がないフィリピンでは、すべてが警察官か自警団、麻薬組織などによる殺人である。

警察は「取り締まりや逮捕を妨害し、抵抗した場合のみ射殺している」と弁明するが、額面通りに受け取る人はまずいない。そうした事例があるにしても、多くは口封じのための殺人とみられる。

警察は麻薬取引を摘発しても、わいろを受け取って容疑者を釈放したり、押収した覚せい剤を横流ししたりしてきた。麻薬撲滅を掲げる政権下でそうした悪事が発覚することを恐れて関係者を殺している例が多いのだ。子供や女性らが巻き添えで死亡した事件も報道されてきた。

欧米諸国や人権団体、外国メディアは「超法規的殺人」を強く非難してきたが、フィリピン国内では大きな扱いにはならなかった。

支持率8割を誇るドゥテルテ氏の人気に加え、麻薬汚染の深刻さを身近に知る国民が、この間の一定の治安改善を感じてきたことが批判をかき消してきた。

それでもキアンさんの事件をきっかけに「戦争反対」がかつてなく盛り上がっているのは、少年が無抵抗で連行される映像や、出稼ぎ先のサウジアラビアから急遽帰国した母ロレンサさん(43)が「家族のために働いてきたのになんでこんな目に」と泣き叫ぶ様子が繰り返しテレビで放映されたためだろう。

主要放送局は中継車を張り付けて連日トップニュースとして扱った。野党を中心に多くの議員が弔問に訪れ、議会で政府の姿勢や警察の対応を追及した。

キアンさんが死亡した前日の8月15日、警察は首都圏に隣接するブラカン州で「戦争」の一環として「one time big time」(一度にたくさんやっつけろ)と称する作戦を展開し、32人を殺害した。

これを受けてドゥテルテ大統領は「素晴らしい。この調子でやればこの国の問題は減るだろう」と発言した。これに促されたように、警察は翌日から連日10人単位で「容疑者」を殺害し、数日で100人近くに達した。こんなかの一人がキアンさんだった。

麻薬戦争にからみ、容疑者を撃ち殺した警官らを一貫して擁護してきたドゥテルテ大統領だが、キアンさんの死亡が世間の耳目を集めると一転、実行犯の3警官については「犯罪が証明されたら、刑罰を受けさせる」と姿勢を変えた。

■永遠に続く戦争
キアンさんの事件を受けてメディアに登場する識者らは、「戦争」のあり方を見直し、超法規的殺人を取り締まるべきだと主張した。(中略)

しかし大統領は「戦争」はやめないと言明している。「半年でけりをつける」と公約して当選したが、それを1年に延ばし、ついで任期いっぱい、さらに最近では「この国は麻薬と永遠に戦いつづけることになる」と言い出す始末だ。

確かにそうだろうと感じる。このまま末端の使用者や売人を殺し続けても、根絶への道は見えない。大統領は、麻薬取引にかかわる自治体の長や政治家、裁判官らが多数存在すると、思わせぶりにリストを掲げたりするが、摘発された例はほとんどない。

汚染防止のカギは、麻薬取引と密接にかかわる警察の腐敗と、密輸を見逃す関税当局をいかに浄化するかにあると私は思う。

ところが大統領は警察だけではなく、中国からの大量の覚せい剤密輸を阻止できなかった関税局長の更迭を渋り続けた。それどころが地元ダバオの副市長を務める長男が麻薬の密輸に関与していると議員に追及されている(大統領らは強く否定)。

それでも大統領への支持が衰える兆しは感じられない。ひいては最大の公約である「戦争」の継続を支持する勢力も依然多い。

大家族が多いフィリピンでは、庶民層の一家に一人や二人、覚せい剤使用者がいてもそう驚くことではない。だいたいは定職をもたない男たちだ。家族の足を引っ張る彼らの存在は家計を支える女たちの大迷惑だが、捨てるわけにもいかない。そうした輩が殺されると、母や恋人こそ悲しんでいても、周りは正直ほっとしている。そうした心情が戦争を支えている。

■理屈を超えた支持は続くか?
デロスサントス夫妻は昨年の大統領選でドゥテルテ氏に一票を投じたという。あらためて大統領への思いを聞いてみた。彼こそが息子を死に追いやった「戦争」の最高責任者ではないのか。

サルディさんは「悪いのは3人の警官。大統領を恨んではいない。今でも支持している」。ロレンサさんは「大統領に助けてもらいたい」。それは息子を殺した警官らの処罰と、サウジから帰国して苦しくなった暮らしの手助けだという。

埋葬から2日後の28日、夫妻はマラカニアン宮殿にドゥテルテ大統領を訪ねた。こぶしを突き出す大統領得意のポーズをとって一緒に写真に納まった。

政府はいち早くこの様子を配信し、DDS(ダイハード・ドゥテルテ・サポータズ)と呼ばれる支持者らはSNSを通じて「(これまでキアン事件で政府を批判した)メディアが偏向していた証」などと書き込んだ。

ドゥテルテ氏が醸しだす反エスタブリシュメントの雰囲気、その家父長的な態度に理屈を超えた共感が国民から寄せられていると私は感じる。

このまま「戦死者」の数は増える一方、麻薬汚染が根絶されることはなく、政権交代後、状況は元に戻る・・・・・・
外れてほしい私の予想である。【8月30日 柴田直治氏 Huffington Post】
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ドゥテルテ流の麻薬撲滅戦争は更に拡大して、インドネシア・ジョコ大統領も採用するようになっている・・・・という話をするつもりでしたが、長くなるのでまた別機会に。
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