孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  カダフィ政権崩壊から5年 IS拠点シルトを“ほぼ”制圧 進まない「統一政府」樹立

2016-08-23 22:20:29 | 中東情勢

(リビア中部シルトでISが拠点を置いていたワガドゥグ会議センターを奪還後、カメラに向かってVサインをする暫定政府部隊の隊員。【8月11日 AFP】)

難航したシルト制圧 未だ「70%」】
北アフリカ・リビアではカダフィ政権崩壊から5年が経過しました。

これまでも取り上げてきたように、カダフィ政権崩壊後、西のイスラム主義主導のトリポリ政府と東の世俗主義主導のトブルク政府が対立、国連仲介で一応は大統領評議会がつくられ、「統一政府」への権限移譲が図られていますが、「統一政府」は東のトブルク政府側の承認を得るにはいたっていません。

その大統領評議会は国内での地位を確立させることも狙って、「イスラム国(IS)}がシリア・イラク後の「第3の拠点」とするために支配を強める中部・シルトの攻略を6月頃から進めてきました。

当初は、港湾部や東部地区を制圧という成果をあげていましたが、IS側の激しい抵抗にあって攻めあぐねる状態にもなったようです。

結局、大統領評議会は最初は拒否していたアメリカの空爆支援をあおぐことに。

****<米軍>リビアIS拠点を空爆 政情安定化は不透明****
米軍が1日、リビアでの過激派組織「イスラム国」(IS)の最大拠点、中部・シルトへの空爆を開始したことで、イラクとシリアに続き、ISへの国際的な圧力がさらに高まった。リビアでも米軍主導の有志国連合と地元武装勢力の連携が実現した形だ。

ただ、ISの勢力拡大を許す原因となったリビア国内の政治対立が解消する見通しは立っておらず、米軍介入がリビアの安定化につながるかどうかは不透明だ。(中略)

ただ、リビアへの空爆は米国や大統領評議会にとってもシナリオ通りだったわけではなさそうだ。
 
2011年のカダフィ独裁政権崩壊後、リビアは反カダフィ派の内紛から東西に二つの政府が分立する混乱に陥った。カダフィ政権が保有していた武器が流出し、独裁下で弾圧されてきたイスラム過激派が活動を活発化した。

また中東・アフリカからの難民や不法移民が地中海を経由して欧州へ渡る出発地にもなった。さらにISも14年ごろからリビアの拠点化を進めた。
 
米欧諸国は国連を通じて、リビアの各勢力に和解を呼びかけ、統一政府の樹立を促す戦略をとった。米欧には軍事介入の計画も浮上したが、「統一政府樹立後」の介入が基本方針だった。ISの勢力拡大を許す原因となった政情不安を解消しなければ、過激派の根絶は難しいとの判断があったからだ。
 
しかし、15年12月に東西の主要勢力が国連仲介の和解案に調印した後も、統一政府樹立は進まなかった。和解案に沿って最高意思決定機関の大統領評議会が設置され、トリポリを拠点とするイスラム勢力の多くは協力に転じたが、東部の世俗派は評議会の人選などを巡って反発した。

結局、米軍は統一政府樹立を待たず、目先のIS掃討を優先せざるを得なかった。今後、東部の世俗派が「不当な外国の介入」と反発し、政治和解に悪影響を及ぼす恐れがある。
 
一方、大統領評議会も当初は独力でシルトを奪還する方針だった。東部の世俗派は、第2の都市ベンガジを拠点とする元軍高官、ハフタル氏傘下の民兵組織の軍事力を頼みにしている。

評議会としてはシルト奪還で軍事力を誇示し、世俗派に妥協を促す機会でもあった。
 
しかし、6月にシルト攻撃に着手し、市街地まで進出したものの、推定約1000人のIS戦闘員が国際会議場や大学を拠点に激しい抵抗を続けた。地元メディアによると、一連の作戦で評議会側は354人が死亡、2000人以上が負傷。死傷者の増大で士気が下がる恐れが高まり、米軍に支援をあおいだとみられる。【8月2日 毎日】
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当初のシナリオからはずれてきましたが、米軍の空爆支援もあって、とにもかくにも「一応」、シルトの70%程度は「制圧」するに至ったようです。随分と苦戦したとも言えますが。

****シルトのIS拠点制圧 リビア暫定政府を支援する部隊****
内戦が続くリビアの暫定政府を支援する部隊は10日、中部シルトで過激派組織「イスラム国」(IS)が拠点としていた国際会議場を制圧した。部隊の報道担当者が明らかにした。シルトの当局者はAP通信に、「シルトの70%が解放された」と述べた。
 
イラク・シリアに次ぐ拠点としてリビアに勢力を伸ばしてきたISにとって、本拠としてきたシルトでの後退は大打撃となる。
 
リビアでは国連の仲介で東西に分かれていた政治勢力が昨年12月、統一政府の樹立に合意。西部ミスラタの民兵組織などが暫定状態の統一政府を支援して、5月からシルト奪還作戦を始めた。暫定政府の要請で米軍が8月に入って対IS空爆を開始し、地上の部隊を支援していた。
 
ただ、シルト郊外はISが押さえており、地雷やスナイパーからの狙撃があるため完全解放にはなお時間がかかる見通しだ。【8月11日 朝日】
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シルト制圧でIS勢力がリビアから消えるわけではなく、トリポリからチュニジア国境にいたる海岸線で新たな拠点をつくることを狙っており、ISによる首相暗殺計画なども発覚しているようです。

欧米は大統領評議会の統一政府樹立を支援する流れへ
リビアでは大統領評議会部隊を支援したアメリカのほか、イタリアも特殊部隊を投入しています。

****イタリア特殊部隊、リビアで活動 IS掃討部隊を訓練****
イタリアの主要紙レプブリカなどは10日、伊特殊部隊がリビア国内で活動していると報じた。過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を進める部隊を訓練するため、数十人が首都トリポリなどに派遣されているという。
 
ISはローマを標的にすると公言している。欧州へ密航する難民らの中に戦闘員が紛れ込む可能性も指摘されており、伊当局は危機感を強めている。沿岸警備隊は11日、伊国内の港の警戒レベルを引き上げ、利用客や発着する車への検査が強化された。ANSA通信などが報じた。
 
伊政府はリビアへの直接軍事介入には慎重だが、IS掃討への協力は惜しまない考えだ。8月初旬に米軍がリビアで対IS空爆を実施した後、ピノッティ伊国防相は「空軍基地使用の要請があれば前向きに検討する」と述べ、安全保障上重要だとの考えを示した。【8月14日 朝日】
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ただ、フランスは、東のトブルク政府を支えるハフタル氏(カダフィ政権古参の軍幹部)との関係も明らかになっています。国際社会が結束して大統領評議会の統一政府づくりを支援・・・という訳でもなかったようです。

****<リビア>統一政府、元右腕が阻む…カダフィ政権崩壊5年****
リビアで42年間続いたカダフィ独裁政権が内戦の末に崩壊してから23日で5年を迎える。

反カダフィ派の内紛によって国情が揺れる中、かつて故カダフィ氏の右腕として活躍し、その後は一転して「米国の協力者」とも言われたハリファ・ハフタル将軍が復権をもくろみ、国連が主導する統一政府樹立の動きを阻んでいる。
 
「CIA(米中央情報局)のリビアでの協力者が、頭痛の種になってしまった」。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は17日、ハフタル氏がリビアの政情安定の足かせになっている現状をそう報じた。
 
ハフタル氏は1943年生まれ。カダフィ政権古参の軍幹部だったが、87年にチャドへの侵攻に失敗して捕虜になった後、米国に亡命。CIAの本部近くに居住し、カダフィ政権打倒のために協力関係にあったと報じられている。2011年の内戦時に帰国して反カダフィ派に参加、米国を含む北大西洋条約機構(NATO)とも連携した。
 
内戦後の14年夏に世俗派とイスラム勢力の対立から東西に政府が分立した際も、米国とハフタル氏は直近の選挙で勝利した世俗派中心の東部トブルク政府を支持。ハフタル氏は傘下の民兵組織「リビア国民軍」を率い、トブルク政府の軍司令官に納まった。
 
しかし、内戦状態が長引く中、ハフタル氏は穏健派のイスラム政党にまで「テロリスト」のレッテルを貼り、15年夏には東部デルナで過激派組織「イスラム国」(IS)を追い出すのに貢献したイスラム武装勢力への攻撃を開始。ISの台頭を背景にイスラム武装勢力も含めた「反IS勢力の結集」を目指すようになった米国と思惑がずれ始めた。
 
15年12月に国連の仲介で東西政府の穏健派が和解し、大統領評議会が公式な新統治機構となったが、ハフタル氏は協力を拒んだ。大統領評議会はハフタル派が押さえる東部に支配権を広げられず、双方の支配が及ばない地域はISなどイスラム過激派の温床となったままだ。
 
双方の対立を複雑にしているのが国際社会の動きだ。かつて協力関係にあった米国は今月、中部シルトでIS掃討作戦を進める評議会の部隊を支援するため、空爆を開始。ワシントン・ポストによると、特殊部隊も現地で作戦を支援しており、評議会支持の立場を強めている。

一方で、7月にフランス軍のヘリコプターがベンガジ郊外で墜落する事件があり、仏軍特殊部隊がハフタル派を秘密裏に支援していることが判明。イスラム勢力の拡大を嫌うエジプトなど一部のアラブ諸国もハフタル氏との接触を保っている。
 
リビア人ジャーナリストのムハンマド・アムベアク氏は「ハフタル氏を取り込まなければ、政治的な和解は実現できない。国際社会が一致して大統領評議会を支援する姿勢を明確にした上で、評議会とハフタル氏の双方に譲歩を促すべきだ」と指摘した。【8月19日 毎日】
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もっとも、さすがにフランスも、国連やアメリカの進める流れと対立するのはまずい・・・と考えたようで、特殊部隊をベンガジから撤収し、今後の軍事協力は大統領評議会の統一政府を通じることとする旨を明らかにしているようです。【8月11日 「中東の窓」より】

国内問題で支持を失う統一政府 トブルク議会の承認も得られず
シルトも何とか攻略し、欧米の後押しもあって、大統領評議会の統一政府づくりが加速するか・・・というと、どうもそういう話でもないようです。

国内の電力・経済事情悪化によって、はやくも国民の統一政府に対する支持は低下しているとか。

****リビア統一政府の支持の低下(国連特別代表の発言****
リビアでは、米軍機がシルト攻略の政府軍を空中支援していますが、ISを追い詰めたとされている政府軍は、なかなか決定的勝利を得るに至っていません。

この新統一政府については、西側諸国が足並みをそろえて支持する等、国際的な立場は強くなっていますが、どうやら国内的には必ずしも順調ではなさそうです。

この点に関し、国連のリビア特別代表が、12日スイス紙とのインタビューで現実的な(かなり悲観的な)見方を示しているところ、記事の要点次の通り。

国連特別代表は、12日スイス紙とのインタビューで、新統一政府は、停電が増えたり、リビア通貨の価値低下等のために、支持が下がっているとの危惧の念を表明した。

特別代表はリビア問題の解決のためには、新統一政府に対する支持以外にないとしつつ、同政府は当初の国民的信頼をかなり失っていると認めた。

特別代表がかって、国民の95%は新統一政府を支持していると語ったが、との質問に対して、それは4月の時点で、当時は国民の間に多くの期待感があったが、その後信頼がかなり下がったと語った。

彼はその背景として、当時トリポリでは一日20時間電気が供給されていたが、現在では12時間となり、当時1ドル3・5ディナールであったリビア通貨は、現在対ドル5ディナールとなり、ほとんどの物資を輸入に頼るリビアの経済を圧迫しているとした由。

またシルトの戦いについて米軍の空爆だけで、ISを倒すことはできずリビア軍による地上での攻撃が必要であるとして、リビアの各派が政府軍を支持することを呼び掛けた。

(これまでも、政府軍がIS戦闘員をシルトの一角に追い詰め完全制圧は時間の問題と伝えられてから、かなり時間が経っており、これに米軍の空爆も加わったことを考えると国、特別代表の目から見ても、政府軍の戦闘能力には問題があるのではないでしょうか?この発言は、かなりのところ、何故ここに来ても政府軍が最後の勝利を得ていないかを説明しているような気がします)【8月12日 野口雅昭氏「中東の窓」】
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「統一政府」も、承認される前から支持が低下するようでは先が思いやられますが、今後のリビアを再建するには「統一政府」樹立しかないでしょう。
ただ、肝心の東のトブルク政府側の承認が未だ得られていません。

****<リビア>東部トブルクの議会は統一政府案を否決****
内戦状態が続くリビアで、東部トブルクが拠点の暫定議会は22日、西部の首都トリポリを拠点とする大統領評議会が提示した統一政府樹立案への賛否を問う投票を実施し、反対多数で否決した。

国連が後押しする統一政府樹立は遠のき、国内で東西に二つの統治機構が分立する状況が当面続くことになった。
 
リビアからの報道によると、統一政府樹立案は賛成1、反対61、棄権39で否決された。暫定議会の定数は200で、賛成派の多くの議員がトブルク入りを制限される中で投票が実施されたことから、賛成派は「議会を乗っ取られた」と抗議しているという。
 
リビアは2011年の内戦でカダフィ政権が崩壊した後、反カダフィ派の内紛が続き、14年夏以降は東西に政府が分立する状態となった。国連の仲介で15年12月に東西の穏健派で作る大統領評議会が設置され、統一政府樹立を目指すことが決まっていた。【8月23日 毎日】
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トブルク政府側というか、ハフタル派は、ハフタル氏の統一政府における国防大臣以上の処遇を求めているとも。

今回採決は、“賛成1、反対61、棄権39”ということで、参加議員は合計101名。
定足数がどうなっているのか知りませんが、もし定数(200)の半数ということであれば、なにやら作為的な数字にも思えます。
これまでトブルク議会は必要議員が集まらない形で、「統一政府」承認問題を先送りにしてきたようです。

少なくとも、トブルク議会にもハフタル派と一線を画する勢力が相当数存在するようで、今後もあくまでも統一政府に反対していくのか、あるいはハフタル氏の処遇で妥協が図られるのか・・・不透明です。

対IS作戦にしても、「統一政府」にしても、簡単には進まないリビアですが、その間にも混乱のリビアから欧州を目指す難民・移民が増え続けます。
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