孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ大統領選挙  白人低所得層の不満・不安を煽り逆転を狙うトランプ氏

2016-08-03 22:22:27 | アメリカ

(まだまだ逆転の可能性を残すトランプ氏 【8月2日 毎日】)

共和党内部からの批判も改めて強まるものの・・・
アメリカ大統領選挙の共和党候補トランプ氏の場合、度重なる暴言やスキャンダルも型破りな「持ち味」のひとつとして、あまりダメージにもならないようです。

ただ、イラクで戦死したイスラム教徒の米兵の両親に対する侮蔑的な言動は、“国家のために戦死した英雄”という、アメリカ社会の聖なるものを汚す言動として、やや大きな反響を呼んでいます。

“英雄”を侮辱云々ということだけでなく、大統領候補が一般市民を攻撃するという点でも、異例の事態のようです。

****戦没者遺族に「手を出した」トランプは、アメリカ政治の崩壊を招く****
トランプが戦没者遺族の両親をまともに批判し、再反論までしたことは、アメリカでこれまでにもますセンセーションになっている。いずれにしろトランプが、問題をアメリカ政治の規範にも関わる大きなものにしてしまったことは間違いない。

現代において、大統領候補あるいは現職の大統領が一般市民を侮辱することはまずありえない。イラク戦争で息子を亡くした遺族に対して、ドナルド・トランプが不適切で自己破壊的な侮辱を向けたことが極めて異様に見える理由のひとつはそこにある。(後略)【8月2日 Newsweek】
*************

民主党側や外部世論だけでなく、もともとトランプ氏に不信感・嫌悪感を持っている者も少なくない共和党内部からも批判が噴出しています。

****共和党内からも非難集中****
米政界では戦死者の遺族批判はタブーとされており、カーン夫妻に対し敵意を示し続けているトランプ氏の肩を持つ共和党の重鎮はほとんどいない。
 
過去にベトナム戦争で捕虜になった経験をトランプ氏にやゆされていたジョン・マケイン(John McCain)上院議員は長文の声明を出し、「私がトランプ氏の発言にどれほど強い反感を抱いているかは、どれだけ強調しても足りない」と憤りを示した。
 
またオバマ大統領も、障害を負った退役軍人らとの会合で、米国の軍や兵士を「こき下ろす」一部の人々にはうんざりしており、「戦没者の遺族ほどわれわれの自由と安全のため犠牲を払ったものはいない」と述べ、トランプ氏を暗に非難した。【8月2日 AFP】
******************

米共和党のリチャード・ハンナ下院議員や、共和党員でもある米ヒューレット・パッカード・エンタープライズのメグ・ホイットマン最高経営責任者(CEO)などは、クリントン候補支持を明らかにしています。

もっとも、トランプ氏も、改選を迎えるライアン下院議長とマケイン上院議員を支持しないと、一歩も引かない構えです。

****共和有力者への支持拒否=月内に予備選控え―トランプ氏*****
米大統領選の共和党候補の実業家ドナルド・トランプ氏(70)は2日、ワシントン・ポスト紙とのインタビューで、11月の上下両院選で改選を迎えるライアン下院議長とマケイン上院議員の共和党有力者2人について、現時点では支持できないという考えを明らかにした。
 
2人はトランプ氏支持を表明しているものの、トランプ氏を批判することも多い。ただ、月内に予備選を控えた2人への支持拒否は「尋常でない政治儀礼違反」(ポスト紙)で、発言は波紋を広げそうだ。【8月3日 時事】 
*******************

戦死したイスラム系米兵遺族の問題のほか、著名投資家のウォーレン・バフェット氏も1日に取り上げた、トランプ氏が「納税申告書」を公表していないこと(「納税額ゼロ」の可能性があり、税金に敏感なアメリカ世論の反発を恐れているのでは・・・とも推測されます)や、ロシアのクリミア半島併合を容認するような発言やプーチン称賛発言などに垣間見えるロシアとの関係(自身もロシアとビジネスを行ってきていますし、陣営中枢にもロシアとの関係が深い人物が多いとも言われています)なども今後の“地雷”になる可能性があります。

クリントン氏リードとはいうものの・・・】
そうした問題点をあげていくときりがないのですが、民主党が党大会を終えた時点ではクリントン氏が数ポイントのリードを奪っている報じられています。

****クリントン氏、再びリード=党大会効果大きく―米大統領選****
米CBSテレビが1日発表した世論調査によると、大統領選に向けた支持率で共和党候補の実業家ドナルド・トランプ氏(70)と並んでいたヒラリー・クリントン前国務長官(68)が、7月25〜28日の民主党全国大会を挟んで再びリードを広げた。
 
同14日発表の調査は両候補とも40%で横一線。同18〜21日の共和党大会後も42%で並んでいたが、民主党大会後はクリントン氏46%、トランプ氏39%と、クリントン氏が一歩先行した。トランプ氏よりクリントン氏の方が党大会の効果が大きかったことがうかがえる。
 
民主党大会をきっかけにクリントン氏の大きな課題である好感度も改善。クリントン氏を「好ましい」とみる人は5ポイント増の36%、「好ましくない」は6ポイント減の50%だった。
 
1日発表のCNNテレビの調査でも、クリントン氏は民主党大会の前後で支持率を45%から52%に伸ばし、トランプ氏は48%から43%に減らした。【8月2日 時事】
*************

逆に言えば、これまでも、現在も多くの問題を抱えたトランプ氏相手に数ポイントのリードしか奪えないクリントン氏の“嫌われぶり”も半端ないものがあります。

ただ、アメリカ大統領選挙の場合は、州ごとの勝敗・代議員獲得競争の積み上げですから、全国ベースの支持率での判断は限界があります。

伝統的に民主党あるいは共和党が勝利することが確実視されている州が多く、そうした勝利確実州でいくら支持を伸ばしても、あるいは敗北確実州でいくら嫌われても、大勢には影響ありません。

支持が拮抗しており、どちらに転ぶか確定していないいくつかの州の動向が全体の勝負を決めると言う点は、アメリカ大統領選挙に関していつも指摘される点です。

クリントン氏優勢の現時点では、トランプ氏勝利の可能性は2割程度とも言われていますが、「まだ2割も可能性がある」とも言えます。

【「人種カード」で「ラスト・ベルト(錆びついた地帯)」の白人不満層を狙うトランプ氏
そうしたなかで、州単位の勝負というアメリカ大統領選挙の特性を踏まえて、トランプ氏が逆転勝利を懸けているのが白人低所得層の支持拡大です。

黒人・ヒスパニック系の影響力拡大、中間層の経済的没落、拡大する格差・・・という社会情勢にあって、“取り残されている”という不満・不安を抱える白人層、特に白人低所得層にアピールして支持を拡大する戦略です。

それによって重要州を攻略できると言う点で、戦略的には間違っていませんが、分断が問題となっているアメリカ社会にの溝を更に深くえぐることにもなります。

****白人至上主義」で危険な大勝負へ トランプに「大逆転」はあるか****
米大統領選のドナルド・トランプ共和党候補が、ホワイトハウス奪還のため危険な賭けに出た。民主党地盤の東部・中西部で、「人種カード」を使って白人票を掘り起こそうという戦術だ。黒人による警察官殺害事件が相次ぐ中で、白人層の不安を煽るキャンペーンには、米国社会の亀裂をさらに深める懸念がつきまとう。
 
トランプは指名獲得後の最初の遊説先にペンシルベニア州を選んだ。民主党全国大会がフィラデルフィアで開かれているさなかに、同じ州内にある小都市スクラントンに乗り込んだ。人口七万人あまりのこの街は、ジョー・バイデン副大統領が生まれ、民主党候補のヒラリー・クリントンの父親も生まれ育ったことで知られる。

「巧妙な戦術ですね。スクラントンは白人労働者階級の町で、トランプが一番食い込みたいところ。人口は最盛時から半減して、失業率も高いので、『白人不満層』が住む典型的な地域です」と、在ワシントンの米国人政治記者は言う。

中西部戦略は「人種カード」で
ペンシルベニア州は人口約一千三百万人(全米六位)の大州で、民主党が六連勝中の同党地盤。ただ、レーガン、ブッシュ(父)が三連勝したこともあり、白人保守層も多い。白人比率が八割近くで、全米平均(七二・四%)より高い。地理的には「東部」だが、農村部は保守的で中西部に気質が近い。
 
トランプが中西部を最重点に位置付けたのは、副大統領候補にインディアナ州のマイク・ペンス知事を選んだことでも分かる。ペンス知事の全国的知名度はゼロに近いが、地元中西部での保守票、白人票の掘り起こしが期待されている。

中西部やペンシルベニア州は、二十世紀には自動車産業や鉄鋼産業で栄えたものの、その後は低迷。「ラスト・ベルト(錆びついた地帯)」という、ありがたくない呼称がつく。白人層の不満・困窮の度合は強く、トランプ陣営が劣勢を挽回するための最大の標的だ。
 
七月末時点で全米各種選挙予測を見ると、各予測とも「クリントン勝利」の確率を六〇~七〇%台とし、「トランプ勝利」の確率は二〇~三〇%だ。
 
ただ、ニューヨーク・タイムズ紙の選挙担当記者が、「本紙の予測モデルでは、トランプ勝利の確率は二四%だが、これはNBAのプロバスケットボールの選手が、フリースローに失敗する確率と同じくらい。つまり『結構ありうる』ということ」と言うように、逆転不可能な数字ではない。
 
大統領選は五十州と首都ワシントンに振り分けられた「選挙人(計五百三十八票)」を、州ごとに取り合う陣取り合戦である。CNN「選挙人調査」の最新集計では、民主党が十六州とワシントンDC(二百一票)、共和党が二十州(百五十八票)を固めたものの、その他の十四州(百七十九票)はまだ、いかようにも転びうる。
 
トランプ陣営は、ペンシルベニア(二十票)のほか、中西部のオハイオ(十八票)、ミシガン(十六票)両州と、フロリダ州(二十九票)の四つが最重点。いずれも前回、前々回とオバマが取って、勝利を決定付けた。フロリダ以外は、白人比率が全米平均より高い。
 
フロリダは当初、「ヒスパニック(約二二%)が多すぎて、トランプは勝てない」と見られていたが、七月の世論調査平均では「クリントン三九%対トランプ四二%」で、事実上の同率だった。他の三州も僅差だ。
 
トランプの中西部戦略は、ずばり「人種カード」である。
民主党議会筋によると、共和党大会の指名受諾演説は、露骨な表現を避けながら巧みに白人層へのメッセージで埋めていた。「トランプは『法と秩序』を前面に掲げたが、これは『白人社会を守るため犯罪に立ち向かう』という意味で、呼びかけ対象は明白だ」と、同筋は言う。
 
トランプは「街中の平和を脅かす者(=黒人のデモ)」「警察への攻撃(=ダラス、バトンルージュでの警察官殺害事件)」「街中でのテロ(オーランドでの乱射事件)」などをあげて、白人中産階級の暮らしに深刻な脅威が迫っていると、繰り返し説いた。

「我が国には忘れられた男性、女性がいる。私がその声になろう」という言葉は、リチャード・ニクソンが使った「サイレント・マジョリティー(声なき多数派)」という言葉を言い換えたものだ。黒人やヒスパニックが声高に「権利」を主張する中で、戸惑う白人層に手を差し伸べた。

黒人から突き上げられるヒラリー
下部組織はもっと露骨だ。トランプ陣営のバージニア州支部は、ダラスの警察官殺害事件が起こった後の声明で、「悪いのは、ヒラリー・クリントンのようなリベラル政治家だ。彼らは司法・警察を批判して、(黒人の行動を)煽り立てている」と、一連の警察官襲撃事件と民主党を結びつけて批判した。
 
さすがに、この声明は後にネットから削除された。一方で、「黒人をのさばらせるクリントン」という攻撃は、今後も繰り返し登場するのは間違いない。(中略)
 
黒人は早々に立場を決めており、クリントン支持が八割。トランプを「好ましくない」と思う黒人は九割以上だから、トランプ陣営は何の遠慮もなく白人有権者に絞った選挙戦ができる。
 
クリントン陣営の頭痛のタネは、黒人の権利擁護団体からの要求が強まっていること。その一つ「ブラック・ライブズ・マター」(黒人の命も大切だ)は、クリントン候補に「立場をもっと明確にせよ」と迫っており、最近も夫のクリントン元大統領と、激しい口論になった。(後略)【8月号 選択】
******************

「ラスト・ベルト(錆びついた地帯)」の白人低所得層の動向は前回選挙でも注目されたところですが、今回は前回以上に重要となっています。

****分断大国 米大統領選)揺れる人種:上 白人の不満層、トランプ氏に熱****
トラック運転手のディーン・シェルボンディーさん(50)はバーでグラスを傾け、店の近くを流れる川を指した。
「今では想像もできないが、20年ほど前までは川沿いに工場や製鉄所が並び、にぎやかだったんだ」
 
かつて製鉄業が栄えたペンシルベニア州ピッツバーグ近郊にある地元グリーンビルは、貨車製造などで知られた街だったが、今や見る影もない。
 
メキシコや中国との貿易交渉をやり直し、雇用を取り戻す――。シェルボンディーさんは、米共和党の大統領候補となったドナルド・トランプ氏のそんな訴えに強くひかれている。(中略)

白人の「悲観」は世論にも表れている。ピュー・リサーチ・センターが今年3月に実施した調査で「あなたのような人にとって、50年前と比べて米国での生活はどう変わったか」と聞いたところ、白人の54%が「悪くなった」と答え、「良くなった」は28%に過ぎなかった。
 
黒人の58%とヒスパニックの41%が「良くなった」と答え、「悪くなった」はそれぞれ17%と37%だったのとは対照的だ。
 
「生活が悪くなった」と答えている人の政治的傾向もはっきりしている。トランプ氏の支持者のうち、「悪くなった」は75%に上り、「良くなった」(13%)の5倍以上だった。クリントン氏の支持者は53%が「良くなった」と答え、「悪くなった」の22%の2倍以上だった。
 
共和党の予備選で、トランプ氏が特に強かったのは北東部のニューヨーク州やペンシルベニア州など、製造業の不振で地域経済が落ち込んでいる通称「ラストベルト(さびついた地帯)」から、アパラチア山脈を伝ってミシシッピ州など南部にまたがる地域だ。中年白人の死亡率が上がっているエリアとほぼ重なる。
 
11月の本選で勝利演説をするのは、初の女性大統領か、それとも政界のアウトサイダーか。これらの州の白人たちの一票が、大きな鍵を握っている。【8月1日 朝日】
*****************

最近のアメリカが、警官による黒人に対する「過剰行動」問題で大きく揺れていることは、これまでも何回か取り上げてきました。各種世論調査では、「人種間関係は悪い」と思う人は60~70%にのぼり、「前より悪化している」と思う人も半数以上を占めるとも言われています。

トランプ氏の戦略は、この人種間の分断・溝という傷口に手を突っ込んで、さらにこれを広げようとするものでもあります。

前出【選択】にもあるように、クリントン氏側は黒人支持者からの突き上げという問題を抱えています。

****奴隷制の賠償」を要求=米国の反黒人差別グループが綱領****
「黒人の命も大切だ」をスローガンに、米各地で黒人差別への抗議行動を展開するグループ連合「黒人の命のための運動」は1日、結成後初めての綱領を発表した。綱領で、連邦や州に対し、かつての奴隷制の影響が今も続いていることを公式に認め、黒人社会から搾取した富について賠償を行うよう要求した。
 
綱領には黒人の若者に対する差別的な刑事摘発の即時停止など、38項目の要求が掲げられた。賠償に関しては、政府や関係する企業、機関に対し、奴隷制などにより黒人に強いた「過去および今に続く損害」を補償するよう求めている。
 
綱領は、奴隷制の非人道性や残虐さを認め、救済のための委員会設置を可能にする法案を直ちに可決するよう訴えている。法案は2013年に連邦議会に上程された。【8月2日時事】
***************

この動きが現実政治においてどれだけの意味を持つものかは知りませんが、こうした黒人側から要求が拡大すれば、それだけだ白人層を刺激し、トランプ氏側に更に追いやることにもなります。
奴隷制の問題はともかく、時期的にはあまり賢明でないようにも見えます。

また、投票日までの間に、白人警官が黒人に襲撃されるといった事件が再発すれば、トランプ氏の戦略は強い追い風を受けることにもなります。

多くの調査・予測はトランプ氏の指名獲得を予測できませんでした。
それだけ、トランプ氏の支離滅裂ともとれる既成政治批判への共感が国民、特に白人層に根深く存在するということでしょう。

まだまだ、トランプ氏逆転の可能性も消えていない・・・・という話です。
外交的には、「アメリカ第1」で、国際関係とか、他国の人権問題などには関心をもっていないトランプ大統領実現に、ロシア・中国は大いに期待しているようです。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする