
(7月15日に開催された10代の若者たちとの公開座談会で、国外退去を迫られている苦境を流暢なドイツ語で訴えるパレスチナの少女に、メルケル独首相は同情を示しつつも、戦争や貧困から逃れ、より良い暮らしをドイツに求める人々全員を引き受けることはできないとして「政治とは時としてつらいものなのです」と。
その後、少女の涙に気づいた首相は「あなたはよくやったと思う」との言葉をかけ慰めました。
しかし、会の進行役は「よくやったかどうかではなく、非常に困難な状況にあるということが問題なのではないか」と指摘、メルケル首相は「それはわかっている。だからこそ彼女を慰めてあげたいのだ」と強い口調で言い返すやりとりが放映されました。
首相は冷淡ではないか・・・との視聴者の反応に、ドイツ政府当局は17日、少女は今後もドイツ滞在を許可されるとの見方を示しました。写真は【7月17日 AFP】)
【増加するギリシャルート 「恥ずべき環境」に放置】
北アフリカや中東から、安全で豊かな暮らしを求めて命懸けで欧州を目指す難民・不法移民の犠牲者は増え続け、地中海は“巨大な墓場”と化しています。
****地中海の難民死者、2000人超****
国際移住機関(IOM)は4日、欧州を目指して地中海を船で渡ろうとして死亡した難民や移民希望者の数が年初からこれまでに2000人を超えたと発表した。前年同期の犠牲者数は約1600人だった。
犠牲者の大半がリビアからイタリアに向かうルートで命を落としている。IOMは「密航業者が航海に耐えられない船を使っていることで、悲劇が起きる可能性が高まっている」と指摘した。
一方、救助された人の数は18万8000人に上っている。夏の間にさらに多くの難民らが地中海の渡航を試みるとみられている。【8月4日 時事】
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かつては、リビアからイタリアのランペドゥーザ島などを目指すコースが主でしたが、最近はトルコからギリシャのコス島などに渡るルートが増加しています。
****地中海渡る難民が過去最多=22万人超、さらに増加へ―国連****
国連難民高等弁務官事務所の報道官は6日、中東やアフリカから地中海を渡って欧州に到着した難民や移民希望者が年初から7月末までに22万4000人に達し、過去最多だった昨年の総数21万9000人を上回ったことを明らかにした。
ギリシャに12万4000人、イタリアには9万8000人が押し寄せた。報道官は「8月も多くの渡航が予想されており、総数は大幅に増加するだろう」と語った。死者はこれまでに2000人を超えている。【8月7日 時事】
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難民らの流入はこれまで、リビアなどから地中海を渡って対岸のイタリアに向かうケースが最も多かった。だが、欧州連合(EU)による警戒強化などを受け、陸路でトルコまで行き、そこから海を渡る距離の短いギリシャへの経路の比重が高まったとみられ、今年は6月末時点でギリシャが上回った。【8月8日 産経】
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イタリアのランペドゥーザ島がチュニジアから113km離れているのに対し、ギリシャのコス島はトルコからわずか5kmしか離れていません。泳ぎの得意な人なら泳いで渡れるかも。
犠牲者も、約1930人がイタリアに向かう途中で死亡したのに対して、ギリシャへの密航途上で死亡したのは約60人にとどまっています。
TVニュース映像を観ても、イタリアを目指す難民船が悲惨な状態で、まさに“命懸け”の感があるのに比べ、ギリシャの島に渡ってくる人々は簡単なゴムボートみたいなものを使っており、到着時もピースサインを掲げるなどにこやかな表情で、非常に簡単に渡ってきたようにも見えます。(実際のところはよくわかりませんが)
難民・不法移民が押し寄せるギリシャは周知のように極めて厳しい財政事情で、とても難民保護などを行う経済的余裕はありません。
難民・不法移民の方も、ギリシャが目的地ではなく、玄関口ギリシャで登録して、ほかの欧州各国に移動することを希望しているようです。
従って、ギリシャ当局も密航者を防ぐ意思は全くないようで、島に到着した密航者は警察に拘束されるようなこともなく、自発的に警察に出向き登録手続きを行い、通行証みたいなものを入手できるのを待つようです。
しかし、爆発的に増加する難民・不法移民に事務処理が追いつかず、保護もない状態で待たされて苛立つ人々と警察の間で衝突も起きています。
7月31日ブログ「英仏海峡に押し寄せる不法移民 ドイツでは国内割当制で軋轢も 財政難のギリシャでは・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150731)でも取り上げたように、島の住民はIOM(国際移住機関)担当者が驚くほどの寛容な姿勢を示し、助け合いの手を差し伸べているとの報道(8月4日号 Newsweek日本版)もあります。
しかし、ギリシャ政府に難民保護のための財政余力意思もないなかで、国連が7日、移民らが「恥ずべき環境」に放置されているとして、EUに現状の改善を呼びかけるような劣悪な状況にもなっているようです。
ギリシャ政府は「わが国の能力を超えている」と、EUへの支援を求めています。
****財政危機ギリシャに難民殺到、皮肉な現象に首相が悲鳴 「わが国の能力超えている」****
・・・レスボス島などを視察したUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)担当者は7日、現地では衛生面や物資などを含む受け入れ態勢が整っておらず、多くが「屋根がない状況で寝ている」と指摘。「完全な混乱状態にある」としてギリシャ側に対策を強く求めた。
ギリシャのチプラス首相も7日、緊急に対策を協議し、難民らの本土への移送手続きを進めるなど改善を図ると表明。ただ、同国は財政危機下にあり、「わが国の能力を超えている」としてEUに支援も訴えた。
このままでは難民らがEU域内を移動し、英国に向かう不法移民らで混乱する仏北部カレーのようになりかねない。UNHCR担当者は「新たなカレーを生まないことが最優先」と語り、「欧州諸国はギリシャを支援すべきだ」と強調した。【8月8日 産経】
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****<ギリシャ>増え続ける密航者に悲鳴 警官隊と衝突も****
財政危機のギリシャが、中東・南アジアからトルコ経由などで流入する難民・移民への対応に苦慮している。
ギリシャのコス島では11日、収容されている密航者のうち数百人が登録手続きを巡って警官隊と衝突する事件が起きた。地元市長は「人手が足りず、流血の事態になりかねない」として、中央政府に混乱収拾のための支援を要請した。
コス島はエーゲ海南東部に浮かぶ東西約40キロ、南北約8キロの観光を主産業とする島。
現地からの報道によると、警察当局が数百人の密航者を身元確認と登録のためにスポーツ競技場に移送した際に衝突が起きた。
AP通信によると、密航者は「書類をくれ」と叫び、手続きの迅速化を求めて抗議したという。警官隊は消火器や警棒を使って鎮圧した。
地元市長によると、ギリシャ本土よりもトルコに近いコス島には1日当たり数百人の密航者が到着、人口約3万人の島にとどまっている密航者は7000人以上に上っているという。
市長はギリシャのテレビで、警官などの人員不足のため「地元だけでは対応できない」と述べ、密航者を他の場所に移送し、特殊部隊を派遣するよう中央政府に要請した。
コス島では最近、警官がナイフを振りかざし、パキスタン人の密航者を殴る事件が起きたばかり。警官は10日に停職処分になった。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はギリシャの島で密航者が置かれている劣悪な状況に懸念を表明、ギリシャ政府に待遇の改善を求めている。
地中海に面するギリシャはイタリアと並び、政情不安が続く中東などから欧州を目指す難民・移民にとっての「玄関口」になっている。UNHCRによると、ギリシャには今年、シリアやイラク、アフガニスタンなどから約12万4000人が密航したという。
財政危機に苦しむギリシャにとって密航者の殺到は大きな負担になっている。チプラス首相は7日、「(密航者の流入は)新たな人道危機を引き起こしている」「国が処理できる範囲を超えている」と指摘した。ギリシャ政府は欧州諸国に負担の分担を求めている。【8月12日 毎日】
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【ハンガリー 越境防止フェンス建設】
難民・不法移民たちの多くは、ギリシャからバルカン半島を北上するルートをたどります。
EUは7月20日の法相・内相理事会で、イタリアとギリシャに集中する難民のうち、今後2年間で最大4万人をEU各国が分担して受け入れる計画を協議しましたが、受け入れ数を巡って合意できず、結論を先送りしています。
EUとしての合意が得られないなかで、難民がバルカン半島北上ルートで押し寄せるハンガリーは、難民流入に厳しい対応をとっています。
****難民申請を却下、ハンガリー方針 「安全な第三国」経由なら****
中東などから難民申請希望者が殺到するハンガリーの政府が、非紛争地の第三国を経て入国した申請者の認定を拒否できるよう法改正に乗り出した。
国際条約が各国に課す難民保護の義務に反するうえ、受け入れの負担を隣国や紛争地の周辺国に押しつけることになり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が強い懸念を表明している。
改正の対象は難民申請の審査に関する法律や出入国関連法で、審査の迅速化が目的。難民申請者が紛争地出身であっても入国前にあらかじめ指定された「安全な第三国」を通過したことが判明すれば、申請を却下し、その第三国に送還する手続きをとれるとする。
中東、アフリカ方面から欧州を目指す難民申請希望者らの多くは地中海を密航船で越え、イタリアに入国するが、ここ3年間でバルカン半島の陸路を通ってハンガリーを目指す人も急増。今年1~6月に約6万1千人が同国で難民申請した。ほとんどがトルコ、ギリシャから隣国セルビアを経由して入国した。
法改正されれば、ハンガリー政府はセルビアを「安全な第三国」に指定すると見られ、殺到する難民申請の多くを短期間で却下することが可能になる。
ハンガリーはセルビアとの国境沿いに高さ4メートルのフェンスの建設も計画しており、数週間以内に着工する予定。今回の改正案も、与党が過半数を占める議会で週明けにも可決される見通しだ。
UNHCRのモンセラットゥ・フェイシャス中欧代表は3日、ハンガリー議会の全議員あてに異例の公開書簡を発表。
「改正案は、爆撃や銃撃を逃れた人々が公正な難民審査を受ける権利を損ない、結果的に国際的な保護制度を否定するものだ」と批判した。「人道的な基準にあわず、国際条約がハンガリーに課す(難民保護の)義務に反する」と強い調子で訴えた。【7月6日 朝日】
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ハンガリーが越境防止フェンス建設(今月末までに完成する予定)などで今後ますます厳しい対応をとると見られる状況で、「駆け込み」的な不法越境も増えています。
****<難民>中欧へ「駆け込み」・・・・越境防止フェンス設置控え****
豊かな西欧の国々で難民申請することを望み、中東やアフリカから押し寄せる人々の波が、オーストリアやハンガリーなど中欧の国々を揺さぶっている。
地中海を密航船で渡るルートに加え、ギリシャなどからバルカン半島を陸路で北上するルートの利用が最近急増しているためだ。ハンガリー政府が今月末を目指し、セルビア国境(175キロ)で越境防止フェンス(高さ4メートル)の建設を急ぐ中、「駆け込み」と見られる強引な不法越境の摘発も相次いでいる。
◇中東・アフリカから押し寄せる人々
AP通信などによると、オーストリアの警察当局は8日、中部ザンクトペルテン近郊の道路で、アフガニスタン人やイラク人など86人が小型トラックに「すし詰め状態」で乗っているのを発見、保護した。不法入国させた疑いで逃走した運転手の行方を追っている。
欧州は今夏、記録的な猛暑に見舞われており、オーストリアの首都ウィーンの8日の最高気温は36度に達した。難民たちは「トラックに12時間も乗り続けていた。それまでは炎天下、ずっと歩き続けていた」と説明。
子ども16人や妊娠8カ月の女性も含まれ、赤十字関係者から治療を受けている。最終目的地については一様に口を閉ざしているという。
オーストリア警察は7月24日にも、小型トラックのわずか約7平方メートルの荷台に、シリア人ら42人が詰め込まれているのを発見。ルーマニア人の男性運転手(37)を逮捕した。
難民たちがまず目指すのはハンガリー。欧州内を国境審査なしに移動できる「シェンゲン協定」のメンバー国の中で、地理的に「玄関口」とも言える場所に位置するからだ。
今年に入ってから7月までにハンガリーで難民申請した人は約9万3000人で、2012年の40倍以上に達した。ほとんどはその後、オーストリアやドイツなど、経済的により豊かな国を目指している模様だ。
ハンガリーのフェンス建設に連動し、オーストリア政府もハンガリーから到着する国際列車の監視など出入国管理の強化を急いでいる。
しかし、ハンガリーはルーマニアやクロアチアとも国境を接しており、当面は不法越境を手引きするブローカーらと関係当局とのイタチごっこが続きそうだ。【8月10日 毎日】
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【ドイツ 難民増加に国民の不満も】
難民たちが最終的目指す国のひとつがドイツ。
経済も比較的好調で、難民受け入れに積極的に取り組んでいる実績もあります。
ただ、そのドイツでも急増する難民に対する国民の不満も高まっており、難民施設への放火や襲撃も発生していることは、7月31日ブログでも取り上げたところです。
****(難民 世界と私たち)難民、「憧れの独」でも受難 受け入れ施設に放火・襲撃****
戦禍や貧困を逃れ、欧州に渡る難民の「憧れの地」が経済大国ドイツだ。ユダヤ人迫害の反省もあり、政府は受け入れに前向きだ。だが、仕事を奪われるのではないかといった心配から、難民施設への放火や襲撃が最近、相次いでいる。(中略)
独公共放送が7月末に発表した最新世論調査では、難民の受け入れを「少なくするべきだ」は38%で、今年1月時点より17ポイント増。「これまで通り」が34%、「もっと多くすべきだ」は23%にとどまった。
■欧州で申請最多
背景には、シリアなどからの難民申請者の急増がある。昨年は約20万人で欧州内で最多。今年は45万人になる見通しだ。政府は歴代、受け入れに積極的で、紛争地出身なら難民として認められる確率が他国より圧倒的に高い。堅調な経済も難民を引きつけてきたが、国民の不満がくすぶり始めている。
旧東独の田舎町トレーグリッツ。4月4日未明、町はずれの集合住宅に何者かが放火した。認定審査を待つ難民60人を一時的に受け入れる予定の施設だった。(中略)
■「職が奪われる」
反対デモに参加した男性住民(44)は、放火や暴力は支持しないというが、「移民に職を奪われて困っているうえに厄介者の難民まで押しつけられては」と話す。それでも、郡当局は計画を進め、6月中旬に町内の別の集合住宅にアフガニスタンなどからの3家族を住まわせた。最終的に約40人が身を寄せるという。
政府当局によると、難民施設への放火や襲撃は、13年の69件が14年は203件に増え、今年は6月までで約200件を記録。施設周辺に監視カメラをつけたり、警備を強化したりしているが、7月にも南部と東部で放火や銃撃が続いた。
旧西独との経済格差が残る旧東独では、外国人が職を奪うと警戒したり、手厚く処遇され過ぎていると不満を抱いたりする人が多い。旧共産圏で外国人慣れしていないことも、偏見に拍車をかけているという。
難民施設を狙う新興極右の存在も、独検察当局の捜査で明らかになった。極右組織に詳しいNGO「EXIT」(ベルリン)のベルント・ワグナー代表(60)は「奇抜なスローガンや理論を掲げ、インターネットなどを通じて一定の支持を拡大している。カルト集団に近い」と指摘する。【8月12日 朝日】
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【求められるEU内の合意形成】
個人的には、“国境・民族を盾にして、現在手にしている利益を守ろうとするのは現実論として理解はできますが、ただ「ここはお前らの国ではない!出ていけ!」では、これまで大切にしてきた価値観を踏みにじり、異質な世界に踏み込んでいくような不安を感じます。”【前回7月31日ブログより】
具体策は難しいところですが、英仏海峡トンネルの混乱、ハンガリーなどの厳しい対応の一方で、玄関口ギリシャでは殆どノーチェックと、ちぐはぐな対応になっていように見えます。
少なくとも、EUとしての統一的な対応に向けて合意を急ぐべきでしょう。
そのためには、あるべき姿と実現のための費用・施策・努力に関しての各国国民の理解が必要になります。「政治とは時としてつらいものなのです」で終わらせないために。