
(モスクワ 為替レート電光掲示板の前を歩く女性 【12月7日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3034474?ref=jbpress)
【崖っぷちのロシア経済】
ウクライナ情勢に伴う欧米の制裁や国家財政を支える原油の価格下落によって厳しい状況に陥っているロシア経済については、12月17日ブログ「原油価格下落で悪化するロシア経済 ウクライナ東部は沈静化? 破綻寸前のウクライナ財政を抱え込むEU」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141217)でも取り上げました。
前回ブログ当時、通貨ルーブルの下落に対し、ロシア中銀は12日に続き、16日にも6.5%幅の大幅利上げに追い込まれました。
金利が高くなれば投資家がルーブルを売らず、ロシア国内の債券や預金で資金を運用してもらえるだろうという狙いでした。
しかし、ロシア中銀の思惑は外れ、政策金利が17%の高水準になったにもかかわらず16日はルーブルが投げ売り状態になり、モスクワ市場では一時、6月時点と比べると、6割近くも低い1ドル=80ルーブルまで下落しました。【12月17日 朝日より】
通貨安が続くと、輸入品価格が上昇し、国民生活に直結するインフレが加速します。
また、銀行・企業の有するドル建て債務の負担も大きくなります。
さすがにその後は行き過ぎ調整するように、1ドル=54ルーブル付近へ戻してはいますが、それでも6月時点(1ドルルーブル前後)と比べると、4割近くも低い水準です。
今後の見通しについては、原因となっている制裁措置については、オバマ米大統領が18日、対ロシア経済制裁の強化を可能にする法案に署名したように、改善の様子はありません。(実際の制裁強化発動は留保されています)
また、原油価格もWTI原油先物でみると1バレル=56ドル付近で推移しており、こちらも上昇の様子は見えません。
制裁措置、原油価格動向が改善しない以上、ロシア経済の苦境も続くことが予想されます。
プーチン大統領は18日、モスクワで内外メディアを集めた大規模な年次記者会見でロシア経済について、「(現在の経済状況を脱するのに)最悪の場合、2年かかる」との見通しを示しています。
しかし、次第にロシア経済悪化の影響は拡大しています。
****「ルーブルお断り」続出 欧州各地の両替所取引停止****
ロシアの通貨ルーブルの取引を停止する両替所が、欧州各地で続出している。為替相場が激しく乱高下し、大きな損失が出てしまうリスクがあるためだ。(後略)【12月22日 産経】
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****ロシア国債に格下げの可能性 S&P 弱含みに指定****
米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は23日、ロシア国債の外貨建て長期信用格付けの見通しを格下げの可能性を示す「ネガティブ(弱含み)」に指定した。現在の格付けは「トリプルBマイナス」で、1段階でも格下げになると「投機的水準(ジャンク債)」とみなされる。
S&Pは指定の理由について、ロシアの金融取引の柔軟性が急速に失われていることや経済悪化の影響が金融システムに及ぶ懸念を挙げた。来年1月中旬までに格付けを見直す可能性があるとしている。【12月24日 産経】
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【ロシアの旧ソ連圏内での求心力は低下】
影響は欧米だけでなく、これまでロシアと強い関係を維持してきた国々にも及んでいます。
****<ロシア>ルーブル暴落 旧ソ連経済再統合の求心力が激減****
ロシア通貨ルーブルの暴落で、プーチン大統領が推進する旧ソ連諸国の再統合路線に影響が出ている。
ロシアはカザフスタンやベラルーシ、アルメニアと来年1月に経済統合の深化に向け「ユーラシア経済同盟」を発足させるが、直前に起きたルーブル危機を懸念する国々との間で不協和音が表面化し、出はなをくじかれた形だ。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は18日、最大の貿易相手国であるロシアとの取引を従来のルーブルからドルかユーロに切り替えるよう求めた。ルーブル暴落が自国経済に波及するのを防ぐためだ。
ユーラシア経済同盟は将来的に欧州連合(EU)のような通貨統合を視野に入れているが、軸となるルーブルの信頼感が揺らげば実現は遠のく。
また、キルギスのアタムバエフ大統領は今年10月、ユーラシア経済同盟に加わる意向を示していたが、現地からの報道によると、ルーブルの暴落を受けてキルギス政府が加盟の先送りを決定したという。(中略)
プーチン大統領は23日、モスクワでユーラシア経済同盟に参加する4カ国の首脳会議を開催し、来月の同盟発足を国際社会にアピールしたい考え。しかし、ロシアの旧ソ連圏内での求心力は低下しており、厳しい船出となることが予想される。【12月21日 毎日】
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現在のロシア経済・ルーブルの状況では、「ユーラシア経済同盟」どころではないでしょう。
こうしたなか、ベラルーシのルカシェンコ大統領が21日、カザフスタンのナザルバエフ大統領が22日に相次いでウクライナを訪問。ウクライナ危機の打開に向けた独自外交に乗り出しています。
ウクライナ問題への対応についても、ロシアの求心力低下が窺えます。
****進む“プーチン離れ” ベラルーシ、カザフがウクライナ支援表明****
■「ユーラシア経済連合」に揺らぎ
旧ソ連に属したベラルーシとカザフスタンの首脳がウクライナの首都キエフを相次いで訪れ、経済関係の強化や、同国東部でのロシアの関与する紛争の終結に向けた支援を表明した。
ベラルーシとカザフは、ロシアの主導で来年1月に発足する「ユーラシア経済連合」の参加国。3月のクリミア併合以降のロシアの対ウクライナ政策に旧ソ連諸国は懸念を強めており、始動が目前に迫った「連合」がきしんでいる。
カザフのナザルバエフ大統領は22日、ウクライナのポロシェンコ大統領と会談し、冬季の燃料不足にあえぐ同国への石炭供給や、「軍事技術協力の再開」で合意。ロシアとの軍事協力を絶ったウクライナから、カザフへの装甲車両や航空部品の輸出も想定されている可能性がある。
ナザルバエフ氏は、ウクライナ東部の紛争を「国内問題」とするロシアの立場に反し、両国と欧州連合(EU)が和平交渉の当事者だと強調。
ベラルーシで独裁体制を敷くルカシェンコ大統領も21日、紛争をめぐる「心労」を共にするとポロシェンコ氏に述べ、最大限の支援を約束した。
露、ベラルーシ、カザフは来年1月、現行の「関税同盟」を発展させ、単一の市場形成を目指す「連合」を始動させることで合意している。プーチン露政権は旧ソ連諸国の経済統合を最重要課題とし、他国にも参加を呼びかけてきた。
しかし、「ロシア系住民の保護」を口実にしたクリミア併合やウクライナ東部への介入が周辺国の警戒感を高めた。ベラルーシもカザフも、ロシアが米欧の制裁に対抗して発動した農水産品の輸入禁止に同調していない。
欧州産品がベラルーシ経由で流入している-と主張するロシアが対抗措置を取るなど、両国は“通商戦”を展開している。
ロシア経済が通貨ルーブルの暴落で危機的局面に入ったことも、周辺国に経済関係の多角化を迫っている。「周辺国の利益とロシアの野望が一致せず、ロシアはますます孤立していく」(専門家)という流れができつつある。【12月24日 産経】
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もっとも、ロシア・プーチン大統領としても、なかなか自分からはウクライナ問題で譲歩するような行動はとれないので、ベラルーシやカザフスタンが先導してくれれば動きやすい・・・という側面もあるのではないでしょうか。
24日と26日にベラルーシの首都ミンスクで、ウクライナ政府と親ロシア派のウクライナ東部での停戦合意履行のための協議が行われることになっています。
****親ロ派ときょう協議 ウクライナ、停戦順守巡り****
ウクライナ大統領府は22日、ポロシェンコ大統領がドイツ、フランス、ロシアの各首脳と4者電話会談を行い、開催できないままになっている東部での停戦合意履行のための親ロシア派との協議を、24日と26日に隣国ベラルーシの首都ミンスクで開くことで一致したと発表した。
ベラルーシ外務省は23日、24日の協議開催を確認した。開かれれば、9月の停戦合意に定められた緩衝地帯の設置や大型武器撤去の実現に向け、ロシアや欧州安保協力機構(OSCE)の代表を交えて話し合うことになる。
ウクライナは12月初旬から2度にわたって協議の開催予定を発表したが、いずれも実現しなかった。
東部では停戦合意後も局地的に激しい戦闘が続き、国連人権高等弁務官事務所によると、今月12日までの約3カ月で1357人の市民、兵士が死亡した。
一方で、政府軍が9日から「沈黙の日」を宣言して以来、大規模な戦闘は沈静化し、11日以降は死者数が減っている。【12月24日 朝日】
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【クリミアは得たものの・・・】
一方、ウクライナ政府は北大西洋条約機構(NATO)加盟へ向けた動きを強めており、ロシアは「緊張をエスカレートさせる」(ラブロフ外相)と強く反発しています。
****<ウクライナ>非同盟中立を取りやめ NATO加盟へ第一歩****
ウクライナ最高会議(国会)は23日、同国外交の基軸として規定されていた非同盟中立路線を取りやめる法案を賛成多数で可決した。ロシア通信が伝えた。
ポロシェンコ大統領が「非同盟では国家の安全を保障できない」として撤廃を提案していた。親欧米の現政権が追求する北大西洋条約機構(NATO)加盟への第一歩となり、ロシアは強く反発している。
非同盟路線は2010年から法律で規定されていた。ウクライナ東部で続く親露派武装勢力との紛争やロシアによるクリミア編入を背景に、ポロシェンコ氏は今後、NATO加盟の可否について国民投票を実施する方針だ。
ロシアのケリン全欧安保協力機構(OSCE)常駐代表は「非友好的な措置であり、関係を緊張させるだけだ」と批判した。【12月23日 毎日】
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ただ、欧米側は、ロシアと緊張状態にあるウクライナをNATOにすんなり入れて、ロシアと事を構えるような事態となることは望んでいないでしょう。
ロシアは、「ウクライナがNATOに入らない100%の保証が必要だ」(ペスコフ大統領報道官)としており、今後の欧米・ロシアの交渉が注目されます。
プーチン大統領のウクライナ編入、更にウクライナ東部への介入は、ロシアの国際的孤立を招き、ウクライナ政府を欧米側に追いやり、ロシア周辺国の警戒心を刺激して旧ソ連経済再統合も難しくするなど、その代償は大きなものがあります。
力任せに好き勝手にふるまっているようにも見えるロシア・プーチン大統領ですが、大きくみると、その戦略はあまりうまくいったようには見えません。