孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  「ムバラク以前」への回帰が目立つシシ政権 権力者を生む“国民のありよう”

2014-12-08 20:43:28 | 北アフリカ

(ムバラク元大統領は無罪に、ジャーナリストは獄中に拘束されたまま・・・なお、ムバラク元大統領は別の公金横領の罪で3年の禁錮刑を受けており、引き続き拘束されるようです。
“flickr”より By Hasan Hüseyin Çakıcı https://www.flickr.com/photos/36618957@N06/15910810052/in/photolist-qfwqki-qfqu1k-pXtz8o-pXCq9c-qeZ5TL-qeZ4vf-piSUWu-qfR5Vt)

【「ムバラク時代より国民への締め付けが強まった」】
エジプトでは、3年前の民主化運動「アラブの春」によって退陣したムバラク元大統領が反政府デモの参加者の殺害を指示した罪などに問われた裁判で事実上の無罪判決が出されました。

モルシ前政権を支えたイスラム主義組織「ムスリム同胞団」や、市民デモなどを力で封じ込め、一応の治安回復を実現した軍出身のシシ政権ですが、「アラブの春」以前の強権支配体制への回帰の側面を示す形になっています。

****アラブの春、冷めた熱気 エジプト、ムバラク元大統領無罪 市民「締め付け強まった****
中東の民主化運動「アラブの春」から間もなく4年。退陣に追い込まれたムバラク元エジプト大統領に事実上の無罪が言い渡された。治安部隊との衝突で800人以上が死亡したが、その責任は誰も問われなかった。

「ムバラク氏に対する審理を却下する」。ラシディ裁判長が宣言すると、ムバラク氏は笑顔を見せ、他の被告らは抱き合って喜んだ。法廷が設けられた警察施設の外では、100人余りのムバラク氏支持者らが「ムバラクは我々のリーダーだ」と連呼。同氏の写真にキスをする人々もいた。

刑事裁判所はこの日、同じ罪に問われたアドリ元内相と治安機関幹部6人についても無罪を言い渡した。

エジプトでは革命後、総選挙で穏健派イスラム組織「ムスリム同胞団」系の政党が躍進。2012年の大統領選では同胞団系のムルシ大統領が選出された。

だが、利権を同胞団が独占しようとしているとして世俗派やリベラル派が反発。結果的に軍の介入を招き、ムルシ政権は崩壊した。実権を握った軍は同胞団を弾圧し、幹部らを大量に逮捕。司法は死刑判決を多発した。

今年6月に選出されたシーシ大統領の政権下でも市民のデモは厳しく規制されている。国内メディアも政府批判はほとんどしない。「ムバラク時代より国民への締め付けが強まった」と言う市民もいる。

民主化デモの中心地だったタハリール広場には、裁判所の決定後、民主派の約10人が集まっていたが、それ以上の数の治安警察とみられる私服の男たちの姿が目立った。

広場で座り込んでいた大学生ハッサン・サレムさん(21)は、民主化デモに毎日のように参加した。弾圧で死亡した多くの友人たちを弔うために来た。

「『アラブの春』は何の結果もなかった。血塗られた花が咲いただけだった」と話した。「我々には正義が必要だ。今、黙っていてはいけない。もう一回、革命が必要だ」と静かに語った。

一方で、シリア、イラクでイスラム過激派や「イスラム国」が台頭して混乱が続く状況から、自由や民主主義よりも国内の治安が守られている方がいいと考える国民もいる。

カイロ市内の主婦エスラ・マフムードさん(36)は「正義が示されたのが非常にうれしい。国がおかしくなった。ムルシ(前大統領)の政権のことは言葉に出したくないほど悪かった。『アラブの秋』だった」と語った。【11月30日 朝日】
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検察当局は上訴の方針ですが、流れは“守旧派の復権”に向かっているようです。
検察もどこまで本気なのか・・・・。

****<エジプト>ムバラク元大統領「無罪判決」検察が上訴の方針****
2011年のエジプト革命における反政府デモ隊の殺害を巡り、当時のムバラク大統領(86)の起訴を無効とした1審判決に対して、検察当局は2日、「判決には法的な間違いがある」として破棄院(最高裁に相当)に上訴する方針を明らかにした。

無罪となったアドリ元内相ら当時の治安当局幹部についても上訴する。ムバラク氏の弁護人によると、上訴審が最終判断の場となる見通しだ。

革命に参加した市民はムバラク氏らへの厳罰を求めているが、昨年7月のクーデター後は軍や警察などムバラク政権の中核を担った守旧派の復権が進んでいる。このため、1審判決には政治的意図が働いたとの見方もある。【12月4日 毎日】
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当然、ムスリム同胞団や市民グループからは批判の動きは出ていますが、その後メディアで大きく扱われていないところを見ると、そうした動きは大きなものにはなっていないようです。

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・・・・同胞団は声明で「革命に命をささげた人たちがないがしろにされた」と判決を批判。

11年にデモ隊が集結したカイロ中心部のタハリール広場近くでデモを実施するよう呼びかけた。革命の推進役となった若者グループ「4月6日運動」もデモを呼びかけているが、治安当局は強硬に取り締まる構えだ。

地元メディアによるとカイロ、アズハル両大学など主要大学では30日に数十人規模のデモが相次ぎ、一部で治安部隊と衝突。治安部隊は催涙ガスなどでデモを鎮圧した。【12月1日 毎日】
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まとめて188人死刑判決
一方で、ムスリム同胞団への厳しい対応が続いています。

****新たに188人死刑判決=昨年8月の警察署襲撃―エジプト****
エジプト・カイロ近郊ギザの裁判所は2日、2013年8月のイスラム組織ムスリム同胞団支持者らによるギザの警察署襲撃に加わり、警官ら13人を殺害したとして、188人に死刑判決を言い渡した。地元メディアが伝えた。

エジプトでは、同胞団出身のモルシ元大統領が13年7月に事実上の軍事クーデターで解任され、同胞団支持者らがカイロの路上で座り込みによる抗議行動を展開。8月、治安部隊による座り込み強制排除で少なくとも632人が死亡し、これに反発する人々が各地で暴動を起こした。

各地での暴動参加者に対しては、後に減刑されるケースも多いものの、既に1000人以上に死刑判決が出ている。こうした対応は、国際社会からは「常識外れ」(ケリー米国務長官)などと厳しく批判されている。【12月3日 時事】 
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一人一人に関する事実関係の検討などは全くなされていないのでしょう。
全員が処刑されるものではないにしても、百人単位でまとめて死刑判決・・・というのは「常識外れ」に思えますが、それがまかり通るのが今のエジプトの現実です。

権力者を生む“国民のありよう”】
ちょっと首をかしげるような話も報じられています。

****エジプトで検事138人が更迭、理由は「両親が大卒でない」?*****
エジプト法曹界で最近、話題の出来事がある。若手検事138人が、不当な更迭処分を受けたとして、処分撤回を求めているのだ。

この若手らは昨年6月に正式採用されたものの、同年9月に「両親が大卒でない」ことを理由に任を解かれた-と主張している。

事実ならば、本人の能力や人格を無視した差別だ。人権問題に敏感な欧米からも関心を集めている。

実はエジプトでは、以前から親族の学歴や地位が本人の資質以上に力を持つケースが少なくない。友人によると、大学では卒業が近づくと、親族にどんなコネがあるかが学生の間で大きな話題になるという。

「努力しても報われない」との不満を抱く若者はあまりにも多く、閉塞(へいそく)感は強い。

ところで、更迭処分の撤回を求める若手検事らは先日、記者会見で、事態収拾には「シーシー大統領の介入が必要だ」と訴えた。権力者の“大岡裁き”に期待してのことで、同様の心理は多くの人にみられる。

軍を背景とするシーシー政権は、その強権体質や、対立するイスラム原理主義組織ムスリム同胞団や民主化勢力への強引な取り締まりを海外メディアから非難されることが多い。

もっともな批判だが、同時に、権力者にさらなる権力が集まるのは、国民のありようにも理由があることを忘れてはならない。【12月8日 産経】
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話の詳細はわかりませんが、重要なのは記事後半部でしょう。

権力者が代われば、それだけで自分たちの暮らしが向上すると思い、目に見える成果をすぐに求める。
何か事あれば、権力者に解決を求める・・・・。

厳しい言い方をすれば、自分たちの地道な努力の積み重ねで社会を少しづつでも変えていこうという、民主主義の基本的な理解からは遠いところにあるよに見えます。

そうした権力者への過度の期待や丸投げの姿勢が、強権支配体制を生む背景にあるように思えます。

まあ、エジプトだけの話ではありませんが。どこかの国も似たり寄ったりかも。
コメント
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