
(ロシア中部キーロフの裁判所で、釈放された直後に妻と抱き合うアレクセイ・ナワリヌイ被告(2013年7月19日撮影)【7月20日 AFP】)
【誰がボスであるかを明らかにする】
権力者が政敵をいろんな罪状で拘束し、その影響力をそぐというのは世界の多くの国でみられることであり、特に珍しい話ではありません。
ただ、国際社会で重きをなそうという国であれば、その資格が問われる話にもなります。
ロシア・プーチン大統領の政敵排除の強権手法は今に始まったことではありませんが、大統領に復帰した最近は特にそうした傾向が強まっているようにも見えます。
****プーチン露大統領の政敵、次々裁判に****
ロシアではウラジーミル・プーチン大統領の政敵が次々に裁判にかけられ、長期の禁錮刑に処される可能性に直面している──18日には、反政権運動の指導者アレクセイ・ナバルニー被告が、横領の罪に問われた裁判で評決を下される。
ロシア西部キーロフの裁判所は18日、材木取引をめぐり横領の罪に問われている反政治腐敗運動のカリスマ的な指導者、ナバルニー被告に対する評決を言い渡す。検察側は禁錮6年を求刑。ナバルニー被告側は、クレムリンの命令で「白い糸で縫われた(あからさまにでっち上げられた、の意味)」罪状だと主張している。
だが、活動家らが旧ソ連時代の弾圧の再来だと非難の声を上げる対象は、ナバルニー被告の裁判に限ったことではない。プーチン大統領の政敵らは、任意の口実で次々と投獄されている。
2012年5月のプーチン氏の3回目の大統領就任の前に起きた反政権デモで暴動を起こしたとされている人物らに対しても、犯罪捜査や刑事裁判はすでに始まっている。
またこれまでにも、反プーチン派の実業家で富豪のミハイル・ホドルコフスキー氏や過激なアート集団プッシー・ライオットのメンバーらに実刑判決が言い渡され、大きな注目を集めた。反プーチン派は、これらが「政府の高いレベル」から命令されたものだと主張する。
「これら一連の裁判の目的は、誰がボスであるかを明らかにすること…社会の中の行動的な人々を怖がらせ、反対運動が時間の無駄でしかないことをはっきりさせることだ」と、反対運動を支持する政治アナリストのドミトリー・オレシュキン氏はAFPに語った。
7月初頭には、モスクワの北東約300キロメートルにあるヤロスラブリの野党系の市長が、ある実業家から42万ドル(約4200億円)を奪い取ったとして部下らとともに逮捕された。
ヤロスラブリ市長のエフゲニー・ウラショフ氏は、与党の統一ロシアを離党して野党勢力に加わった人物。ウラショフ氏は容疑を否認し、立候補を計画していた地元での選挙を前に、圧力をかけられたと非難している。
「どのような手段かを問わず、私のことを排除するつもりだと警告された」と、ウラショフ市長はテレビ番組で語った。市長によると、金を奪い取られたと訴えた実業家は統一ロシアの党員だったという。【7月16日 AFP】
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【「今起きていることは、ロシア司法制度の全くユニークな現象だ」】
ここ数日注目を集めているのは、上記記事にもある反政権運動の指導者アレクセイ・ナバルニー氏に関する動きです。
****反プーチン・ブロガーに禁錮5年=モスクワ市長選候補、上訴方針****
ロシアのプーチン政権を批判する著名ブロガーのアレクセイ・ナワリヌイ氏(37)が横領罪に問われた事件で、中部キーロフ州の裁判所は18日、禁錮5年(求刑禁錮6年)の実刑判決を言い渡した。同氏は「プーチン大統領が指示した政治裁判」だと無罪を主張。弁護士は上訴する方針を示した。
ナワリヌイ氏は一連の大規模な反政権デモの火付け役。統一地方選に合わせて9月8日に前倒し実施されるモスクワ市長選に出馬表明し、今月17日に立候補が認められたばかり。有罪が確定すれば、立候補は取り消される見通し。
判決によると、同氏はキーロフ州知事の顧問だった2009年、木材加工品を横領し、州当局に1600万ルーブル(約5000万円)の損害を与えたとされた。
ナワリヌイ氏はプーチン政権与党・統一ロシアを「詐欺師と泥棒の党」とやゆし、汚職や政権長期化に反発する都市中間層から支持を得た。ただ、プーチン大統領復帰後の野党勢力締め付けの中、12年7月に起訴。今月10日にはモスクワ市長選立候補に必要な署名を選管に提出後、一時拘束される騒動もあった。【7月18日 時事】
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露骨な政敵排除とみられるこの判決を受けて、このところ沈静化していた反プーチン勢力の抗議行動が活発化しています。
****ロシア:各地で抗議行動 反プーチンブロガー有罪判決で****
ロシアの野党勢力指導者、ナバリヌイ氏への実刑判決に抗議する支持者らが18日夜、ロシア各地で集会を開き、多数が警察に拘束される事態となった。ロシア国内でプーチン政権に反対するデモは最近沈静化していたが、今回の判決を契機に再燃する可能性もある。
首都モスクワでは中心部のクレムリン近くに約3000人が参加。ナバリヌイ氏の写真を掲げて支持を表明した。集会は無許可で行われ、警察発表によると約50人が拘束された。野党勢力側によると拘束者は170人近くに達したという。
北西部のサンクトペテルブルクでの抗議集会には少なくとも1000人が参加、約40人が拘束された。ナバリヌイ氏の裁判が行われた中部キーロフ市でもデモがあった。【7月19日 毎日】
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ゴルバチョフ元ソ連大統領も、「ロシアに独立した司法制度がないことを裏付けた」「政敵との争いのために司法を利用するのは容認できない」と批判しています。【7月19日 毎日より】
欧米諸国も今回の判決に相次いで懸念を表明していますが、ロシアの強権支配に対して沈黙しているとの国内批判もあるアメリカ・オバマ政権も、国務省ハーフ副報道官が「非常に失望している」と表明し、ロシア当局が市民による政府批判を抑圧している「最新の例」だと批判しています。【7月19日 時事より】
更に、オバマ米大統領が予定されている9月のモスクワ訪問を「再考している」とも報じられました。
こうした国内外の批判を受けて、裁判所は19日、横領罪で18日に禁錮5年の実刑判決を受け収監された野党勢力指導者のアレクセイ・ナバリヌイ氏(37)に対し、判決が確定するまで居住先のモスクワを離れないという条件付きで釈放するという異例の措置をとっています。
****露裁判所、ナワリヌイ被告を予想外の釈放 モスクワ市長選出馬認める****
ロシア中部キーロフの裁判所は19日、横領罪で18日に禁錮5年の実刑判決を下した反体制運動の指導者アレクセイ・ナワリヌイ被告(37)について、上訴ができる間は収監しない決定を下した。 この予想外の決定を受け、ナワリヌイ被告は直ちに釈放された。
判事は、ウラジーミル・プーチン)大統領の最大の政敵の1人であるナワリヌイ被告を収監することは、9月8日のモスクワ市長選への立候補の権利を同被告から奪うことになるとの判断を下した。
ナワリヌイ被告に対する実刑判決は多方面からの非難を呼んでおり、バラク・オバマ米大統領が予定されている9月のモスクワ訪問を「再考している」とも報じられていた。
ガラスで仕切られた被告席から即時釈放されたナワリヌイ被告は、「今起きていることは、ロシア司法制度の全くユニークな現象だ」と述べた。
法律の専門家らによると、同被告釈放の決定は前例のないもので、政治的動機に基づいていることは明らかだという。
一方のドミトリー・ペスコフ大統領報道官は19日、この件に関して不正が行われた事実はないと強調。実刑判決と釈放の決定はともに「法律にのっとって下された」のであり、「順守されなければならない」と述べた。
今回の有罪判決はナワリヌイ被告が政界入りするための資格を剥奪するものだが、この規制は刑が確定して初めて適用される。よって、同被告にとっては、モスクワ市長という強力な地位を目指す選挙運動のための時間が確保されたことになる。
同被告は、市長選へ出馬するか否かは、モスクワに戻ってから決めたいと話している。【7月20日 AFP】
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ナバリヌイ氏は20日、9月8日に行われるモスクワ市長選への立候補を継続する考えを示したており、“市長選には6人が立候補しており、最新の世論調査によると支持率はプーチン大統領に近い現職のソビャーニン氏が34%と優勢で、2位のナバリヌイ氏は4%にとどまる。だが、有罪判決への批判票がナバリヌイ氏に流れるとの観測もある”【7月20日 毎日】との情勢です。
【「政敵排除」との批判をかわし、反政権派の動向を注視する構え】
政権側にすれば、どうせプーチン系列の現職が勝利するのだから、あえてナバリヌイ氏を立候補させて、選挙結果の正当性をアピールした方が得策との判断のようです。
****露反政権ブロガーに実刑判決→抗議デモで保釈 「政敵排除」の批判回避****
ロシア西部キーロフの地方裁判所は19日、横領罪で禁錮5年の1審判決を言い渡された反プーチン政権の有力ブロガー、ナワリヌイ弁護士(37)を判決確定まで保釈する異例の決定を下した。
ナワリヌイ弁護士の実刑判決に抗議する無許可デモが18日夜、首都モスクワなどで行われ、約260人が一時拘束される事態となったのを受けた措置。当局側は「政敵排除」との批判をかわし、反政権派の動向を注視する構えとみられる。(中略)
◆指導部内で意見対立
ナワリヌイ弁護士は9月8日のモスクワ市長選に立候補しているため、同弁護士の保釈によって出馬を可能にし、当選の予想される政権派候補の正統性を強調しようとの政権側の思惑が指摘されている。
また、同弁護士の処遇をめぐり、露指導部内で意見が対立しているとの見方も出ている。
通算3期目のプーチン政権は反政権派や非政府組織(NGO)を標的とした抑圧路線を推し進めており、今回の裁判もその延長線上に位置づけられている。実刑判決によって反政権派が勢いを得る可能性もあるが、地方部ではプーチン政権への支持がなお厚い。【7月20日 産経】
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“露指導部内で意見が対立”というのがどのようなものなのかわかりませんが、最近影響力を失い、解任の話すらあるメドベージェフ首相の意向もわかりません。
モスクワ市長選でのナバリヌイ氏の得票がどうなるか注目されます。