孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  デフォルトは回避したものの、政治機能の硬直化が露呈

2011-08-02 21:33:41 | アメリカ

(共和党を引っ張る保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」の集会 “”より By westchesterbuzz  http://www.flickr.com/photos/52095034@N02/5975220031/ )

欧米政治指導者の「日本化」現象
債務上限引き上げによるデフォルト回避で迷走したアメリカ、ギリシャなどの財政悪化国の救済で足並みがそろわない欧州・・・欧米指導者が財政再建など痛みを伴う決断を避け続けていることで、「日本化している」との指摘があります。

****英誌、欧米「日本化」をやゆ…決断嫌がる政治家****
英誌エコノミスト最新号は、オバマ米大統領やメルケル独首相ら米欧の指導者が、財政再建など痛みを伴う決断を避け続けていることで、「日本化している」と批判する巻頭記事を掲載した。
表紙には、米ドルを象徴する緑色の着物姿のオバマ氏、「ユーロ」と書いたかんざしを付けたメルケル氏を描いた風刺画。記事は、「債務、デフォルト(債務不履行)、麻痺する政治」で「日本化」が進んでいる、との見出しで、「決断をいやがる政治家が問題の根元と化し、景気後退の要因となるような行動をとっている」とやゆした。

記事は、現在欧米で進行中の経済危機は「(バブルが崩壊した)20年前の日本で起きたことの再現だ」と警鐘を鳴らした。その上で、「待てば待つほど方向転換が難しくなるのは、日本の政治家が身を以て示した教訓だ」と指摘して、欧米指導者に決断と行動を促した。【8月1日 読売】
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デフォルト、直前で回避
世界経済を人質にとった大統領・民主党と共和党のチキンレースが繰り広げられたアメリカの債務引き上げ問題が、制限時間ぎりぎりで一応の決着がついたことは各紙が伝えているとおりです。

****米債務上限引き上げで合意 デフォルト回避****
オバマ米大統領は7月31日(日本時間1日)、与野党との間で、米政府の「債務上限引き上げ」と「10年で2.4兆ドル(約185兆円)の財政赤字削減」で合意したと発表した。米上院と下院で8月1日にも法案を可決する見込み。
2日までに上限を引き上げなければ、米政府の借金である米国債が史上初めて、利払いが滞る「債務不履行」(デフォルト)に陥る恐れがあったが、直前で回避される見通しになった。オバマ大統領は「デフォルトを回避でき、米国に与えていた危機を終えることができる」と語った。

合意ではまず0.9兆ドルの財政赤字を削減する。さらに米議会で超党派委員会を設け、税制や社会保障制度の改革などで1.5兆ドル分の追加削減を検討する。
債務上限は第1段階で0.9兆ドル幅、第2段階で1.2兆ドル幅を大統領権限で引き上げられるようにする。これで2012年末までは必要資金を政府が借り入れできるようになる。(後略)【8月1日 朝日】
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下院採決には、今年1月のアリゾナ銃乱射事件の被害者ギフォーズ議員も出席して、同僚議員の祝福を受けたそうです。
****米国:不屈、再び議場に 銃乱射被害の議員****
米西部アリゾナ州で今年1月に発生した銃乱射事件で、銃弾が頭部を貫通する大けがをしたガブリエル・ギフォーズ下院議員(41)=民主=が1日、政府債務上限引き上げ法案の採決のため、事件後、初めて下院本会議に姿をみせた。
ギフォーズ氏が議場に入ると、議員らは立ち上がって拍手。ギフォーズ氏は笑顔を見せながら、何度も左手を振り、時折同僚議員らと抱き合った。右半身にはまひが残っている様子だったが、知り合いの議員らとしっかり言葉を交わす回復ぶりを見せた。【8月2日 毎日】
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【「これが私の望んだ合意かというと、ノーだ」】
しかし、ここに至るまでの迷走で、すでに円高が進行するなど大きな影響が出ています。
決定がもつれた背景には、この問題を2012年の大統領選と上下両院選にリンクさせたい共和党が、本格的引き上げを来年に持ち越す2段階引き上げ方式にこだわったこと、共和党内に、昨年の中間選挙で大幅な赤字削減を主張する保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を受けて当選した議員が多く、民主党との妥協を拒否し続けたことなどがあげられています。

決定内容は、共和党が目論む「2段階方式」の形で、また、民主党が主張していた増税は盛り込まれなかったことなど、大統領・民主党側が譲歩した形にも見えます。

****大統領選「前哨戦」 オバマ氏譲歩****
2012年の大統領選と上下両院選を見据えた“夏の陣”となった米連邦債務の上限引き上げ協議は、9・2%の高い失業率と巨額の財政赤字で手詰まり感の漂うオバマ政権が、下院で多数派の共和党に追い込まれる形で決着した。

「これが私の望んだ合意かというと、ノーだ」。合意を発表した会見でオバマ大統領はこう述べた。
米ギャラップ社が7月29日に発表した世論調査結果で、オバマ政権の支持率は40%と過去最低を記録し、債務上限引き上げ交渉の長期化に国民の不満はピークに達していた。米国が史上初の債務不履行となれば、その責任を問われ、再選戦略が崩壊するのはオバマ氏の側だった。
それだけに交渉の主導権は共和党が握り、合意した赤字削減の枠組みには、共和党が反対した増税は盛り込まれず、大統領が譲歩する形となった。

そもそも、米国が債務不履行の瀬戸際まで追い込まれたのは、「小さな政府」を掲げる共和党と「大きな政府」を志向する民主党がそれぞれの政治理念に固執し、互いの支持層を財政支出削減の標的にした選挙戦術を展開したからだ。
5月に始まった協議で、共和党は赤字削減の財源として、民主党支持層が多い高齢者向け医療費補助の支出の切り込みを求めてきた。民主党はこれを拒否する一方で、共和党支持層の多い富裕層への増税を主張。互いの票田に手を突っ込む交渉は、法案の採決や、先送りされた具体的な赤字削減の協議に大きな禍根を残す結果となった。

共和党は、昨年の中間選挙で大幅な赤字削減を主張する保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を受けて当選した議員たちが、民主党との妥協を拒否し、民主党は同じ選挙を経て左派色を一段と強めている。今後、民主党が死守する社会保障費の削減を共和党が迫るのは必至だ。
「3年以内に(景気)状況を改善できなければ2期目はやらなくてもいい」。就任直後の09年2月に自ら言い放った言葉が今、大統領に重くのしかかっている。【8月2日 産経】
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【「(共和党は)過激な右翼に突き動かされている」】
しかし、共和党側も、保守系草の根運動「ティーパーティー」の支持を受ける議員が、その主張に固執し一切の妥協に応じないことで、政治機能が実質的にマヒする。ひいては誰も望んでいないデフォルトの危機が現実のものとなる・・・という形で、その危うさを露呈することにもなりました。
商工会議所など経済界には「ティーパーティー」への批判が広がっているとも伝えられています。

****増税しようとするホワイトハウスの動きを封じ込めた ****
共和党下院のリーダー、ベイナー下院議長は31日、同僚議員にこう成果を強調した。が、今回の交渉で、ベイナー氏は、いったんはオバマ政権側と抜本税制改革を通じた0.8兆ドルの増収策で合意しながら、茶会勢力の強い反対を前に後退せざるを得なかった経緯がある。一致結束した茶会の強硬さは、いまや共和党指導部を揺るがすほどだ。
民主党のリード上院院内総務は、そうした共和党の現状に「過激な右翼に突き動かされている」と批判を強める。米社会の亀裂は深刻だ。民主党幹部は「約40年議員をやってきたが、ここまで強硬な勢力に対処するのは初めてだ」と語る。【8月2日 朝日】
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今後は、与党と野党からそれぞれ6人ずつの議員が参加して設立される超党派委員会で、追加的な1.5兆ドル分の財政赤字削減策を打ち出すことになっています。
“超党派委では税制の抜本改革を通じた増税と、高齢者や低所得者向け医療制度などの社会保障制度の効率化が議論される。増収策と歳出削減策の両輪の改革で、「バランスのとれた」財政再建策を達成するのが政権側の狙いだ。”【同上】とのことですが、「ティーパーティー」は一切の増税を拒否し大規模な歳出カットを要求しており、今回の対立・迷走は大統領選挙に向けて更に深まりそうな感があります。

ただ、共和党が過激な「ティーパーティー」に引っ張られるほど、大統領選挙はオバマ再選に有利に働くのではないでしょうか。

【「この10年間、われわれは歳入以上に支出してきた」】
なお、問題の本質である「なぜアメリカ財政がここまで悪化したのか?」という点については、オバマ大統領が「この10年間、われわれは歳入以上に支出してきた」と語った言葉に表されています。

****超大国に迫るデフォルト危機、米国の10年間に何があったのか****
世界一裕福な超大国のはずの米国がいま、世界経済を混乱に陥れかねないデフォルト(債務不履行)の瀬戸際まで追い詰められてしまったのは、なぜか。

1930年代の大恐慌以来となる不況、大幅減税、イラクとアフガニスタンの戦費、高齢者向け医療保険(メディケア)の導入――これら全てが、米財政計画を狂わせた。バラク・オバマ大統領が25日の演説で述べた表現を借りれば、「この10年間、われわれは歳入以上に支出してきた」のだ。

■潤沢な財政黒字、10年で天文学的赤字に
米議会予算局(CBO)によると、2000年10月1日時点での米連邦予算は2362億ドル(約18兆円)の黒字で、10年後の2010年には7100億ドル(約55兆億円)の黒字が見込まれていた。
しかし「10年間に制定された法律に経済情勢の変化が相まって、連邦予算の長期的展望は劇的に変わった」と、CBOは10年3月の報告書で指摘している。オバマ大統領が2月の予算教書で示した11年度の財政赤字見通しは、過去最高の1兆6500億ドル(約130兆円)。CBOが下方修正した直近の見通しでも、1兆3000億ドル(約100兆円)に上っている。

■重くのしかかる2つの戦争
与党・民主党の主張はこうだ。01年1月に民主党のビル・クリントン大統領(当時)が退任した際、米財政はまだ黒字だった。その後、共和党のジョージ・W・ブッシュ大統領の政権下で財政状況が悪化し、天文学的な財政赤字に転落したのだ――。
ただ、クリントン政権は前任のジョージ・H・W・ブッシュ大統領(パパ・ブッシュ)の共和党政権による増税策や、インターネットバブル(ITバブル)などの恩恵を受けていた。

01年1月に就任した息子のジョージ・W・ブッシュ大統領は、黒字見通しを理由に、民主党の反対を押しのけて歴史的な大幅減税を断行した。だが、この時すでにITバブルははじけ、同年3月に米経済は景気後退に陥る。そこへ9.11米同時多発テロが起き、米国はアフガニスタンとイラクの戦争に相次いで突入した。

共和党は戦費調達を最優先した。民主党は増税を求めたが、結局は共和党の戦費調達政策に同意した。超党派の米議会調査局(CRS)が今年3月に発表した報告書によれば、11年までに2つの戦争に投入された予算は1兆2830億ドル(約99兆5000億円)にも上る。

08年の世界金融危機の影響で米景気が急激に悪化したことも手伝って、ブッシュ前大統領の在任1期目の終わりに5兆7000億ドル(約442兆円)まで膨らんでいた財政赤字は、09年1月のブッシュ氏退任時にはさらに4兆9000億ドル(約380兆円)が積み上がっていた。(後略)【7月29日 AFP】
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何と言ってもイラク・アフガニスタンでの戦費が重くのしかかっています。
アメリカ財政・ドル基軸体制はベトナム戦争でも大きく揺らぎましたが、超大国アメリカといえども戦争に踏み込むと深手をおうことになります。

近づく「日本売り」へのタイムリミット
一方、「日本化」現象の本家本元である日本は、国債発行などによる国と地方を合わせた借金残高は900兆円に達し、毎年数十兆円ずつ増えています。
しかし、不人気政策の「増税」というハードルを政治が越えられず、この十数年、本格的な財政再建は一向に進んでいません。“刻々と「日本売り」へのタイムリミットは近づいている”【8月2日 朝日】状況です。
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