孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  超高層タワー建設計画と国内人権問題

2011-08-03 22:03:01 | 中東情勢

(世界金融危機前に発表された計画では、“マイル=ハイ・タワー”とも呼ばれ、完成時の高さは1,610mとのことでした。写真中央の鉛筆のように細長い建物です。
“世界金融危機の影響で計画の実現を危ぶむ声をキングダム・ホールディング・カンパニー側は一蹴し、予定通り進行すると発表した。 しかし、建設予定地の土壌調査の結果から、高さを1,600mではなく最大で500mほど下げた1,100m程度に変更する可能性があるとされている”【ウィキペディア】とも。
“flickr”より By SG-SSC http://www.flickr.com/photos/15965666@N00/2937133785/ )

【「政治的にも経済的にも安定しているサウジアラビアという国の強さを、このビルは象徴することになる」】
ドバイの「ブルジュ・ハリファ」(828メートル)に対抗して、サウジアラビアの富豪王子が1000メートルを超える世界一高いビルを建設する計画を明らかにしています。

****サウジに高さ1キロ超えるビルの建設計画****
サウジアラビアのアルワリード・ビン・タラール王子は2日、紅海沿岸のジッダに高さ1000メートルを超える世界一高いビルを建設する計画を明らかにした。
同氏が所有する投資会社キングダムホールディングと同国の建設業財閥ビン・ラディン・グループの間で、近々12億ドル(約930億円)規模の建設契約が締結されるという。

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにある「ブルジュ・ハリファ」(828メートル)から「世界一高いビル」の称号を奪うことになるこのビルは、完成までに36か月を要し、ホテルのほかマンションやオフィスのゾーンも設けられる。着工時期は明らかにされなかった。

アルワリード王子は、石油輸出国機構(OPEC)で中心的な役割を果たし、政治的にも経済的にも安定しているサウジアラビアという国の強さを、このビルは象徴することになると話した。王子はアブドラ・ビン・アブドルアジズ国王のおいで、同国で最も裕福と言っていいビジネスマンだ。【8月3日 AFP】
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アルワリード・ビン・タラール王子は、2008年の総資産が133億ドルで、世界で8番目の資産家、アラブ世界では一番の資産家だそうです。
1000mを越える山より高い建造物とは、想像を絶するものがありますが、「好きにすれば・・・」と、いささかあきれる感もあります。

なお、“建設業財閥ビン・ラディン・グループ”は、名前からわかるように、あのアルカイダのウサマ・ビン・ラディンの父が興した財閥で、ウサマ・ビン・ラディンの活動の資金源にもなった会社です。
グループは巨大財閥であるだけでなく、“マッカおよびマディーナのモスクの修理を任されるほど、サウード家(サウジアラビア王家)と深く結びついている。”【ウィキペディア】とのことです。

サウジの外国人労働者は「奴隷同然の場合もある」】
この記事にややひっかかるのは、“政治的にも経済的にも安定しているサウジアラビアという国の強さを、このビルは象徴することになる”というアルワリード王子の発言です。
中東の地域大国であるサウジアラビア社会には、重要な問題が内在しているように思われるからです。

最近、サウジアラビアをこのブログで取り上げたのは、
7月4日ブログ「サウジアラビア  インドネシアからの出稼ぎ家政婦への処遇が問題化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110704
6月22日ブログ「サウジアラビア  女性の自動車運転解禁を求める動き クリントン米国務長官も支援」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110622
ですが、いずれも社会の最も重要な価値観である人権への意識が希薄なこと(日本や欧米の常識からすればの話ですが)が窺えます。

なお、インドネシアからサウジアラビアへは2010年、約23万人が渡航し、現在約100万人が働いていますが、上記ブログのインドネシア人家政婦処刑問題を受けて、インドネシア政府は8月1日、サウジアラビアへの労働者派遣を停止しました。
問題はインドネシア人家政婦の処遇だけにとどまりません。

****外国人労働者差別:サウジいまだ改善できず…人権団体報告****
サウジアラビアなどペルシャ湾岸諸国は、アジアやアフリカからの労働者に対する虐待問題で長年国際的に非難されてきたが、状況は遅々として改善していない。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(本部・ニューヨーク)は今年の報告書で、サウジの外国人労働者は「奴隷同然の場合もある」と指弾している。

米国務省の国際人権報告書(10年版)によると、サウジアラビアの人口約2900万人のうち、推定約600万人が外国人。民間部門の労働力の9割近くを外国人が占める。特にひどい扱いを受けているとされるのが家内労働者で、ほとんどが女性だ。
外国人労働者はサウジ国籍を持つ「後見人」が必要で、悪質な後見人はパスポートを取り上げ、無賃金での長時間労働を強いる。暴力や性的暴行を加える事例も少なくない。

中東和平や石油問題でサウジとは長年緊密な協力関係にある米国の国務省ですら、人権報告書で被害国の大使館関係者の話を引用し「(外国人労働者は)隷属に等しい(雇用)状況から逃げ出している」と断罪している。同省は年次人身売買報告書(10年)でも、「アジア、アフリカから、売春や物ごいのために連れてこられた女性や子供がいる」と指摘。サウジを状況改善が見られない「第三類国」に指定している。【6月25日 毎日】
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対テロ法案が民主化運動の抑圧に悪用されかねない
社会的弱者である外国人労働者や女性の権利問題は、宗教的少数派のシーア派住民の権利問題にもつながります。
中東・北アフリカの“民主化”の動きを警戒するサウジアラビアは、隣国バーレーンの民主化運動には特には強く反応、自国への波及を防止するためバーレーンの運動鎮圧に協力する軍を派兵し、現在も駐留を続けています。

国内民主化運動への締め付けも厳しいものがあるようです。
****サウジアラビア:アムネスティへのネット接続を遮断か****
サウジアラビア国内から、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(本部ロンドン)のウェブサイトへの接続が不可能になっている。アムネスティは先月22日、ウェブサイトでサウジについての報告書を発表。対テロ法案が民主化運動の抑圧に悪用されかねないと指摘し、サウジ側が「根拠のない批判だ」と反発していた。その後間もなく、サウジ国内からの接続ができなくなり、同団体は、政府当局による示威的な情報遮断だとして反発を強めている。
アムネスティによると、サウジ国内の記者や人権活動家が先月25日、サイトへの接続ができないと連絡してきたという。

アムネスティの報告書は、サウジの対テロ法案が令状なしの長期拘束を可能にし、平和的な民主化運動に対しても厳しい刑罰を設定していると主張。サウジ政府に改善を求めていた。
在英サウジ大使は24日、声明を出し、アムネスティが事前連絡なしに報告書を公表したことに強い不快感を表明。同法案がテロリストでなく反体制派の摘発を目指しているとのアムネスティの指摘は「根拠がない」と断言。中東の騒乱でテロ拡大の環境が広がっており、国際テロ組織アルカイダへの対抗策が必要だと主張した。【8月1日 毎日】
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サウジアラビアにおける人権問題は、先月明らかにされたドイツからの最新型戦車輸出でも問題になりました。
****ドイツ:サウジに戦車売却計画 メルケル首相は正当性主張****
ドイツ政府がサウジアラビアに対し、戦車200台の売却を計画していることが発覚し、波紋を呼んでいる。ドイツは人権弾圧国家への武器輸出を禁じているが、サウジは民主化デモを鎮圧するバーレーン政府を支援するなど「人権を弾圧する側」との指摘があるためだ。メルケル首相は売却についてノーコメントを通す一方、「サウジは人権分野では問題があるが、イランの核武装に対抗するため、戦略上重要な国」とテレビで語り、事実上、売却の正当性を主張している。

輸出計画は7月上旬、シュピーゲル誌の報道で発覚。同誌などによると、サウジが購入するのは独クラウス・マッファイ社製の最新型戦車「レオパルト2」で、既に数十台は納入済みとの情報もある。野党や人権団体は「ドイツ製戦車が、民主化運動の弾圧に使われる」と批判を強めるが、ドイツ国防筋は毎日新聞に「サウジ支援は、中東地域の安定化に必要」と話す。

ドイツは6月下旬に輸出を決定した際、事前にイスラエルと米国の了承を得たとされる。ドイツと関係の深いイスラエルにとって、サウジは国交を持たない潜在的な敵国だが、核開発疑惑が消えないイランという「共通の敵」を前に、サウジの戦車購入を黙認した格好だ。(中略)ドイツでは、首相や国防相で構成する連邦安全保障会議が武器輸出の可否を決定。イラン、北朝鮮、リビア、ミャンマーなどには輸出禁止だが、サウジは許可されている。【7月13日 毎日】
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最新型戦車が“民主化運動の弾圧”に直接使用されるとは思えませんが、「人権を弾圧する側」への武器輸出は問題なしとは言えません。人権問題より国家利益が優先された結果でもあります。

砂上の楼閣
冒頭、超高層タワー建設計画について「好きにすれば・・・」との感想を述べましたが、そんなしろものを誇らしげに建設する前に、取り組むべき課題が国内にあるように思えます。
そうしないと、いずれ超高層タワーも“砂上の楼閣”になってしまう危険もあります。
コメント
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